異世界仙人譚

島地 雷夢

第19話

 現在、俺達は雲の中にいる。 うん、何故雲の中にいるのかと言えば、そこに隠れている浮遊島が次の目的地だからだ。 流石は異世界。浮いてる島が存在するのか……。因みにこの浮遊島、常に雲の中に隠れているそうだ。なので、地上からでは絶対に見付からないそうだ。常に雲の中にいられるのは浮遊島自体が力場を発生させて回りの雲を集めて纏っているから、だとか。 まぁ、それでも島の真上には雲は全く無いので、雲より高度を上げて探せば見付ける事は出来る。 ただ、俺達はそのような方法で浮遊島を見付けて来た訳じゃない。キントウが持ってた標石しるべいしを頼りに雲の中を突き進んだ。 標石の形は太い針のような形で、浮遊島の力場に反応して先の方が浮遊島に向くようになっている。で、近付くにつれてぶるぶると震え出す。かなり近付くとそれはもう船の上に乗っかってしまった鯖の如く震えまくる。 キントウの手に持っている標石が今までにないくらいに震え出すと、視界が一気に晴れる。「おっ、雲抜けたぞ」 雲の先には、確かに島が浮いていた。形としては平らな面を上にした半球状で、宮殿……と言うか神殿っぽいのが所々に建立されてる。あと、結構木々も生い茂っていて、全体の六割くらいが緑色だ。下の半球部分は岩が露出していて、所々に穴が開いていたり、木の根が露出してたりする。 大きさは蓬莱よりも小さいかな。見た感じ、蓬莱の三分の一から四分の一くらいだな。「よーし、行くぞー」 キントウは軽く筋斗雲を叩き、浮遊島へ向かうよう促す。 で、浮遊島まで来たはいいけど、ここで何を取るのかを俺はまだ知らない。体力と仙気の回復に努めていたから訊く暇なかったし、キントウもそんな俺に声を掛けて来なかったからな。 因みに、最初の日に全ての材料教えて下さいと言ったけど笑顔で顔を横に振られた。 ホウロウ曰く「まぁ、お楽しみと言う事で」だと。 コウライ曰く「別に現地で知ってもいいだろ」だと。 キントウ曰く「予め知っちまうとわくわくが減るだろ」だと。 シンヨウ曰く「ま、いいじゃん」だと。 シンヨウだけ全く持って理由になっていなかったけど、そんな事を言われて全く教えて貰っていない。現地に赴いた時に漸く訊かされるのだ。わくわく? 確かにあるよ? でもビクビクもしてるさ。何せ、一番初めがモルンボの樹液だったんだ。警戒もするよ。 さて、わくわく四割、警戒五割、その他一割でキントウに尋ねるとしよう。「あそこで取る材料は何ですか?」「天使の羽」「はぁ、天使です……か?」「おぅ」 この世界に、天使って実在するんだ。……まぁ、神様だって普通にいるんだから、そりゃ天の御使いである天使が存在するのも当然と言えば当然か。「で、その天使の羽は普通に譲り受けて貰えるんですか?」「いや、ちょっとした試練を課せられてな。それを突破してようやく手に入るんだ」「試練、ですか?」 天使の試練か。一体どういうのだろうか? と試練内容を考えているうちに筋斗雲は浮遊島にある中でも一番デカい神殿の前に降りる。えっと……外観はパルテノン神殿みたいだ。「サンキュー」「じゃあ、筋斗雲はここで待っててくれ」 筋斗雲に礼を述べ、俺達はパルテノン風な神殿の中へと向かう。「って、勝手に入っていいんですか?」 半ばまで来た所で、漸くその事に気付いた俺はやっぱりまだ疲れているのかもしれない。これって普通に考えれば不法侵入に当たるよね? しかも天使の住処に。何時天罰が下っても可笑しくない状況に膝がちょっとがくがくと震え出す。「あぁ、んな心配はしなくていいぜ。あいつら別に勝手に入って来ても咎めねぇから」 と、キントウはあっけらかんと答えながらずんずんと奥へと進んで行く。「えっと、そうなんですか?」「おぅ。害意があって来たんならまず雲の中から抜け出せねぇ仕組みになってっからな。これは魔法とか仙術じゃなくて天の御力みちからって奴だ」「天の御力?」「天使特有の力の事だ。まぁ、基本的に魔力を持つ者の魔法や俺達の仙術と然程変わんねぇって事だけ覚えとけ」「分かりました」「で、だ。雲の中はその天の御力で害意ある奴は抜けれねぇし、真上から来たらけたたましい警報が鳴り響いて厳戒態勢になるんだ」「あ、だから真上から行かなかったんですか」「あぁ。真上から来た場合は害意ある無しは関係ねぇからな」 唯一の抜け道が最大の罠じゃないですか。防犯意識はしっかりと持っているようですけど、神殿内は実に警備が雑ではないですか。……それでいいのか?「雲ん中突っ切って来たし、害意ないって判断されてるから安心してんだよ」「そんなもんですか?」「そんなもんだ。あと、この標石は天使に認められた奴にだけ渡されてな。これ持ってれば変な事しねぇ限りは勝手に入っていっても文句の一つも言わねぇよ」「その石にはそんな秘密があったとは」 にしても、その標石を無くして誰かの手に渡った場合はどうなるんだろう? と疑問に思ったのでキントウに尋ねると、どうやら失くした時点で標石は砕け散ってしまうらしい。あと、他の誰かに貸したり譲渡したりしても砕けるとか。「因みに、ここに来た理由は材料集め以外にも、雅に標石を手に入れて貰うってのもある」「俺もですか?」「何時になるか分かんねぇけど、一人でここに来る事になるかもしんねぇからな。そん時に必要だろ?」「そう、ですね。でも、天使に認められるってどうやれば?」「それは、試練を突破すればいいだけだよ」「試練を?」「あぁ。初回の試練を突破すれば必ず標石は貰えるんだ。それだけ、試練は天使にとって重要なものってこった」「はぁ」 つまり、それだけ高難度って事ですかね? まだ仙人見習いになって三ヶ月ちょっとしか経ってないんですけど? 俺でも大丈夫なんでしょうかね? ちょっと自信ないですよ?「んな身構えんなって! 気楽にやりゃいいんだよ。それで簡単に突破出来んだ」「は、はぁ」 緊張が表に出ていたらしく、キントウが豪快に笑いながら俺の背中をバシバシと叩いてくる。そんなんで大丈夫なんですか……本当に? とか思っていると中庭に出た。何か中央に葡萄の木が生えてて、実もなってる。「すぅ、すぅ……」 で、その葡萄の木に背中を預けて眠ってる女性が一人。見た目的な年齢は俺と同程度かな? 少し白っぽい金髪に、色白の肌。服の生地は真っ白で、施されてる装飾はキンキラキンだ。そんな女性の背中には三対の純白の翼が生えている。今は力無く垂れてるけど、本来ならピンと伸びているのかもしれない。「すぅ、すぅ…………………………すんっ」 健やかな寝息を立てていた女性は突如、僅かに鼻をひくつかせた。「すんすん…………何か、仙気の匂いがする」 ゆっくりと目を開け、女性は俺とキントウの方へと顔を向ける。その金色の双眸でキントウの姿を確認すると、寝惚け眼を擦りながら立ち上がる。「あれぇ……キントウじゃん。どしたの? 何か用?」 女性はあくびをかみ殺しながら俺達の方へと向かってくる。「おぅ。ちょいとドラゴン用の仙薬を作る為にな、お前さんの羽を一枚貰おうかと思ってな。試練を受けにきた」「あぁ、成程成程」「あと、こいつにも試練を受けさせにな。新しく仙人になった雅だ」 と、キントウは俺の背中を押して一歩前に出される。女性は視線をキントウから俺へと移し、まじまじと俺の顔を見てくる。ちょっと気恥ずかしくなるけど、まずは自己紹介を使用。「初めまして。蓮杖雅です」「ん。私はルシル。見ての通り天使……ふぁふ」 女性――ルシルは我慢出来なかったのか、口元に手を当ててあくびをする。「じゃあ、早速試練開始で」 涙が滲んだ目元を擦りながら、ルシルは指を鳴らす。「は?」 すると、俺は何故か空中に投げ出されてた。キントウも同様にフライハイ状態だ。「まず、一つ目の試練。地面に激突する前に私に触れれば合格」 と、俺達の回りをルシルが六枚の翼をはばたかせてそんな事を告げてくる。 地面に激突する前に、自由に空を飛べる天使にタッチ出来れば合格? 無理に決まってんだろ。

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