異世界仙人譚

島地 雷夢

第14話

 結婚式当日。式は正午に行われる予定だ。 俺達は充分に間に合う時間に蓬莱を出て、エルフ達の住まう森へと向かっている。「にしても、エルフかぁ。初めて会うな」「だな。殆ど森から出ないって言うし」「それに俺等、城で訓練にばっか明け暮れてたからな」「逢う方が稀だってもんだ」 その俺達の中には、同級生達も含まれる。 今朝がた、【転移】を持つ子と琴音が蓬莱に来た。琴音は何時も通りに鍛錬の手伝いに来たんだけど、そう言えば琴音にドラゴン関係の事をすっかりいうのを忘れていた事をその時気付いた。 慌てて説明して、暫くは手伝いはいらないと告げると琴音は「あ、そう」と淡泊に返事して王都に戻ろうとした。 けど、その際にホウロウが「よかったら、君達もエルフの結婚式に来る? 生きてるうちにそうそうない事だし」と提案。勝手にそんな事を言ってもいいのかと尋ねたが、言質は取ってあると返してきた。 そこで、昨日ホウロウが「仙人+エトセトラも呼んでいいですか?」とエルフの長に尋ねていた事を思い出した。俺はてっきりエトセトラはドラングルドの事だけを指していたと思っていた。 いや、正確にはホウロウもドラングルドだけの事を指していたらしい。けど、何かしらで人数が増えるかもしれないと思い、ああいう言い回しにしたのだとか。 琴音は少しだけ考えて、折角の機会なので結婚式に乱入――もとい御呼ばれする事にした。【転移】の子も興奮気味に何度も頷きまくっていた。 で、自分達だけじゃなくて同級生達も誘ってみていいか? とホウロウに尋ね、大丈夫じゃないかなという返答を訊き、二人は王都に戻って同級生達に声をかけまくった。 結果、同級生は全員来る事になった。最初から今日休みだった奴は問題ないけど、他の奴は何度も額を地面にぶつける土下座をしまくって無理矢理休みを獲得した。今日の分の仕事は倍にして後日に回される事になったらしいが、別に構わないとの事。 大人三人は残念ながらどうしても仕事を抜け出せないので泣く泣く断念した。特に、会田さんは血の涙を流していたな。どれだけエルフに逢いたかったんだろうか? そんなこんなで総勢三十五人の大移動となった。悠長に船なんかで行った日には結婚式は既に終了してしまう。なので、ドラングルドと筋斗雲での空を行く旅となった次第だ。 ドラングルドの背中に女子三人が乗り、手に持った特製の大きな駕籠に男子一同が乗り込み、仙人と俺は筋斗雲に乗っている。 大体、一時間半くらいの移動時間となっているので、必然的に雑談が開始されたり、平気でUNOを始めたり、酔ってリバースしそうになったりしている。 こういうのを見ると、あの召喚された日みたいだなと少し懐かしむ。「あ、俺は一度エルフに逢った事あるよ。店に来てケーキ頼んでった」「「「「「何だと⁉ どうして来た時に俺達を呼ばなかったんだ⁉」」」」」 雑談している中で、藤林が皆に爆弾発言を投下した。「いや、仕事中に抜け出せないだろ」「「「「「そう言う時こそスキルの出番だろうが‼ と言うか、何故今まで黙っていた⁉」」」」」「黙ってるも何も、昨日の出来事だし」「「「「「ま、マジかよ……」」」」」 園崎を含め、膝と手を付いて土下座のような格好になって打ちひしがれる。何か、背景にどんよりした縦線が出て来たんだけど。「昨日、俺休みだったんだぜ……」「俺は、城下の巡回に行ってた……」「藤林の働いてる喫茶店は俺が働いてる所と目の鼻の先にあるのに……っ」「くそっ、何で俺は昨日あの喫茶店で昼飯を食べなかったんだっ……」 嘆き悲しむ同級生の皆さん。でもさ、今からエルフが沢山いる集落に行くんだから、そこまで落胆しなくてもいいんじゃないかな?「あ、でも店に来たエルフは男だったよ」「「「「「あ、ならどうでもいいか」」」」」 藤林の一言で、即座に平常に戻る皆様方。 来店が男だったと知るや否やこの手の平返しの具合よ。流石は皆と言うべきか。どうやらエルフ=絶世の美女と脳内変換していたらしく、何で昨日喫茶店に赴いてお近づきにならなかったんだっ! と嘆いていたみたいだな。 成程、それならあの打ちひしがれ具合には納得だ。皆飢えてるからね。でも女性に無理強いする事も襲い掛かる事もしない。断られれば素直に引き下がる。皆真摯な紳士だからね。裏切り者は即制裁だけど。「何か、楽しそうだね」 と、ホウロウが同級生達を見ながら呟く。「そうですね。一緒にいて飽きない連中ですよ」「だろうね」 ホウロウは笑みを浮かべる。「ねぇ、みやみや」「はい?」 俺の頭に手を置くと急に撫で始めるホウロウ。どうしたんだ?「楽しめる時に楽しんでおきなよ」「え? あ、はい。って、何当たり前の事言ってるんですか?」「うん、そうだね。当たり前の事だね」 なにやら独りでに納得してうんうんと頷くホウロウ。本当、どうしたんだ?「と言う訳で、キントウ」 ホウロウはキントウに目配せをする。すると、キントウは重い腰を上げて俺の傍らに来る。そして、何の前触れもなく俺の身体を持ち上げたではないか。「えっと、キントウ?」「任せろ」 えっと、何が? 何が任せろなの?「あっち行って楽しんできな」「へ?」 コウライが俺の背中をバシッと叩く。「多分、向こうの連中がキャッチしてくれるだろうぜぃ」「へ?」 シンヨウが何やら物騒な事を言ってくる。「じゃあ、行ってらっしゃい」「へ?」 そして、ホウロウの合図でキントウが俺を同級生達のいる方へとぶん投げた。「ああぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼⁉」「おい、何か蓮杖がこっちに飛んで来たぞ!」「何でだ⁉ ってかあいつフライハイ出来る能力持ってんのか⁉」「いや、あれは単に投げ飛ばされただけだね」「まるで人間砲弾だな」「って篠宮に藤林! 冷静に分析してる場合じゃねぇだろ!」 多少パニックに陥ったものの、俺は難とかキャッチされて落下死する未来は防がれた。「さ、サンキュ……」「いや、いいって事よ」「つか、何でお前投げ飛ばされたん?」「例の大鷲がついて来ててぶん投げ出されたか?」「違うよ、キントウ……あのマッチョな仙人にここに投げ飛ばされたんだよ」「「「「「何で?」」」」」「理由はこっちが訊きたいよ……」 軽く恐怖体験を味わった俺は深く息を吐く。「あ、いや。理由なら言ってたな。楽しめるうちに楽しんでおけよって」「「「「「ふーん、そっか」」」」」 同級生達はどうでもいい……と言う訳ではなく何だそんな理由で投げられたのかと納得してこくこくと頷く。そんな理由で大空の上で人がぶん投げられても動じないし突っ込まない。異世界で一年以上も過ごした所為か変な耐性でも出来たみたいだ。「じゃあ、蓮杖もUNOやっか?」「出せるのが引けるまで延々と引くルールで」「最後の一枚は数字じゃないと駄目な」「まぁ、つまり。何時も皆で遊んでるルールだ」 と、UNOをやっていた同級生達が俺を誘ってくれる。「あ、なら久しぶりにUNO八つ使った奴やんね?」 と、園崎が提案してくる。 あれか。確か新学期早々放課後に男子が集まって親睦を深める為に大人数でやれるようにカード枚数をかなり増やしたUNO。あの時は串岡がドロー2とドロー4の連打を喰らって三十枚くらい引いてたっけ。あのまま串岡の負けで決定かと思ったら溜めた御蔭で十五枚出しして一位になったな。最下位は園崎だった。提案者だったのに。「いいね。久々にやっか」「ちっと待ってろ。今UNO七セット出すから」「で、罰ゲームどうする?」「結婚式の二次会で一発芸ってのはどうよ?」「向こうに迷惑かかかんないならそれで」「かかる場合は俺達の前だけでって事でいいか」「でも、それだと物足りねぇな」「だったら一発芸やりながら最大級の黒歴史発表でよくね?」「「「「「よし、採用」」」」」 やんややんやと準備は進み、参加表明を出した男子二十七人全員に札が行き渡る。「と、言う訳で。まずは誰から始めるかジャンケンすっぞー! 取り敢えず三つに分かれて、そこでの勝者同士でまたジャンケンして、勝った奴から時計回りな!」「「「「「おーっ!」」」」」 こうして、空の旅は笑いあり、涙あり、大どんでん返しありで楽しく過ごす事が出来た。 因みに、今回の最下位も園崎だった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品