End Cycle Story

島地 雷夢

第58話

甦ってくる、俺の記憶。 それはつい最近のものから徐々に徐々に、湧き上がる泉のように浸透してく。 この『End Cycle Story』に似た世界に来た事。震災の事。家族との事。記憶があるだけで、胸の中が温かくなっていく。俺の本当の名前も、今では言える。 俺はソウマ=カチカで、加藤正樹。こことは違う世界から来た世界人。『エンプサ・ブラッド』の御蔭で夢魔の力が使え、石英剣リャストルクの新たな薙ぎ手。 自分が何者なのか、すらすらと紡げる。 ――そして、キルリの事も。俺は、愛した人の名前も、笑顔もきっちりと思い起こせる。 記憶を失っていた時、俺に語り掛けていたのは――助けを求めていたのはキルリだった。 俺は、それに応える事が出来なかった。キルリは、どう言う訳か死んでしまっていても意識があり、俺に助けを求める事が出来た。でも、今日墓の下からいなくなってしまった。自分の意思とは関係なしに。 記憶を失っていた事は、かなり悔やまれる。ただ、それでも俺は諦めない。 キルリが俺に助けを求めたんだ。絶対に、俺はキルリを助け出す。 あの時は間に合わなかった。だけど、今度は必ず助け出す。『記憶を取り戻すのに手間取って、すまんかったのぅ』「いや、そんな事無いよ。ありがとう」 右手に持つリャストルクに俺はまた礼を言う。リャストルクの御蔭で、変な爆弾を抱えずに記憶が戻ったんだ。俺には感謝しかない。「にしても、どうやって記憶を奪い返したんだ?」『簡単な事じゃよ。文字通りに力付くで奪い返したのじゃ』 力付く。もしかして、さっきの光がそうだったのか?『左様。今の妾とノディマッドでは力関係が明白になっておる。下位の輩に後れを取る道理はない』 成程。『ただ、こやつが直接触れなければ不可能だったのじゃよ。故に、こやつが現れ、妾に触れる瞬間を待つ為に敢えて休眠のふりをしていた訳じゃ』 そう言えば、スーネルがリャストルクは力を使い過ぎたからとノディマッドとの戦闘直後に休眠にしたと言ってたっけ。『妾に意識のある状態ではこやつは主に近付かんと思ってな。下手をすれば、童が触れそうになると直ぐ様記憶を壊す暴挙に出るかもしれんと思っての。好機を窺っていたのじゃよ』「そっか」 つまり、敵を欺くにはまず味方からと言う事か。リャストルクはひたすら声を出さず、俺に語り掛けずに耐え忍んでいたのか。『意識を表に出さぬようにするのは苦労したぞぃ』「御苦労様。……本当に、ありがとう」『気にするでない。主は妾の薙ぎ手なのじゃから』 リャストルクはからからと笑う。『ぬ、ぬぅ……糞が……』 で、リャストルクと一体化している左手で持っているノディマッドが呻き声を上げる。こいつの所為で、とんだ迷惑を掛けられたよな、俺。あ、いや。俺だけじゃなく他の皆も。「さて、と」 俺はノディマッドを掴む力を強くする。ひび割れたノディマッドからピシピシと小気味のいい音が響く。『ぐぅ!』「よくもまぁ、やってくれたよな? 迷惑野郎はここで天に召されとけ」 リャストルクを装備している御蔭で物理攻撃力もかなり上昇しているから、ひび割れたノディマッドを握力だけで砕く事は造作もない筈だ。『まぁ、待て薙ぎ手よ。こやつを砕くのはもう少し後にせんか』 しかし、砕こうとする俺をリャストルクが制止してくる。「どうしてだ? リャストルクにとって、こいつは敵なんだろ?」 そう、ノディマッドはリャストルクの前の薙ぎ手を殺したんだ。憎くない筈がない。『無論、こやつには腸が煮えくり返る程の憎悪を抱いとるよ』「だったら」『じゃが、事を成すにはこやつの力を活用した方が円滑に進むのじゃ』 こいつの力?『こやつは空間魔法に長けておっての、それの応用で転移も可能じゃ。お主も実際転移を経験したじゃろ。故に、こやつに転移をさせて助けに行った方が時間が掛からずに済む』 大変癪に障るがの、とリャストルクは鼻を鳴らす。『……ふん、誰が裏切り者なぞに力を貸すか』 ノディマッドは言葉を吐き捨てるが、リャストルクは余裕を持って語り掛ける。『お前とて、あれをそのままには出来んじゃろう? なら、早急に事を収めるには薙ぎ手と妾が必要じゃろうて。……あぁ、先に言っておくがな。薙ぎ手の記憶を奪い返す際にお前に封印を施した。これ以上厄介毎を持ち込ませない為にの、妾の許可なくして魔法は発動出来ない。無論、他者を操る事も、助けを呼ぶ事も出来ぬぞ』『……ちっ』 ノディマッドは忌々しげに舌打ちをする。 つまり、今のこいつはただの喋る銃に成り下がった訳か。危険度はかなり下がったな。『さて、そう言う訳での。二人共こやつを壊すのは後回しにしてくれぬか?』 二人? と首を傾げてふと顔を上げればレガンロイドのマネキン顔がすぐ近くにあった。 そうだった、こいつがいたのすっかり忘れてた。俺は立ち上がって埃を払い、レガンロイドに視線を向ける。 そう言えば、何でレガンロイドはノディマッドを壊そうとしてたのだろう?『それはじゃな』 俺が心の中で呟いた疑問に、リャストルクが答えてくれる。





『妾の薙ぎ手じゃったからな。こやつには恨みしかあるまい』




「…………はい?」 今、何と言った? レガンロイドが、リャストルクの薙ぎ手だったとな? つまり、俺の前の薙ぎ手がこのレガンロイド?『以前、妖精娘が亀裂をこじ開けた際、お主は危機を感じて撤退した。故にほんの一瞬の会合じゃったよ。お主は気付いていなかったようだがの』 妾も気付かなかったが、とリャストルクは懐かしむような、それでいて憐れむような声でレガンロイドに語り掛ける。『まさか、レガンとなったお主とこうして合間見えるとは思わなんだ』 …………今、何て言った? レガンとなった?「な、なぁリャストルク。このレガンロイドってもしかして」『あぁ。元は人間じゃよ』 リャストルクの言葉に、俺は息を呑んだ。 このレガンロイドが、元は人間? 有り得ないと思う反面、そうだったのかと納得する自分もいる。 あの時、俺がこの世界に来て直ぐの晩に遭遇した時。レガンロイドは俺が魔法で攻撃しても反撃せず、虚脱状態になった俺に攻撃を加える事も無く介抱してくれた。 あまりにもレガン――ゲームの敵としては異質で、何処となく人間臭く感じられた。だから、元が人間だったと言われても何処か納得してしまう。『貴様っ! その事を我々以外にばらすなどどうかしているぞ!』 ノディマッドが息を荒げながらリャストルクに食って掛かる。『何じゃ? 裏切り者が何をほざこうが、お前の知った事ではないじゃろ』『ふざけるな! もしこの異端者経由でこの世の者どもに知られてもみろ! 混乱が生じるぞ!』『今更何を、三種族の長は既に周知じゃろう』『それとこれとは別問題だ! 貴様は完全に我らの裏切り者となったぞ!』『何じゃ? まだ裏切り者とは認識されておらなかったのか?』『我らが長は慈悲深いからな! 貴様が掟を守り、黙秘している限りは連れ戻すようにと仰せつかっていたが……これで晴れて、我らが総出で消す事が出来る!』『ふっ。何をぬかすか。助けを呼ぶ事が出来ぬお前に何が出来る? 文でも出して呼び寄せるのかの? 一体何時になる事やら。いや、そもそも届くのかすら怪しいものだがのぅ』『貴様っ! 我を愚弄するのも』『のぅ、薙ぎ手達よ』 ノディマッドとの言い争いをリャストルクが無理矢理断ち、俺とレガンロイドに『お主らには、もう知ってもいいと妾は思っている。じゃが、知ってしまうと更なる困難が待ち受けるじゃろう。故に尋ねる』 リャストルクは一泊置き、俺とレガンロイドに確認を取る。『お主らは、この世界の真実について知りたいか?』 この世界。つまりは『End Cycle Story』に酷似した世界の事。 そう言えば、以前夢魔が俺に言ってたっけ。この世界の真実に辿り着いていない、と。真実に辿り着いていないから、俺が夢魔の力を使える理由を話せない、と。 どうして夢魔の力が使えるのか、それを知り得る為に必要なものが、こうしてリャストルクから語られる。 それを訊くかどうかは、俺達次第。訊いてしまえば、この先は困難が降り注いでくる。 それでも、俺の答えは決まっている。「あぁ、俺は知りたい」 俺は言葉で、レガンロイドは首肯で答える。『……そうか』 リャストルクは深く息を吐く。まるで、自身の気持ちを落ち着かせるかのように。『……では、語るとしよう』 そうして、リャストルクは語り始める。『この世界は妾達、オグドの作り出した…………虚構の箱庭じゃ』 この世界の、真実を。

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