End Cycle Story

島地 雷夢

第57話

今のは、一体何だったんだ?『予定変更だ。追うぞ』 ノディマッドはやや焦りながら俺に先程の翼が生えた奴を追えと促してくる。「追う?」『そうだ。このままでは面倒な事になる』「レガンロイドってのは?」『そんなのものは後回しだ』 後回しって……折角そのレガンロイドってのがいる近くまで来たのにか? だけど、優先順位を変えなければならない程面倒な事になったみたいだし、正直こちらの方が俺にとっても他人事ではないので異は唱えない。『今の奴が向かった場所へと先回りをする』「出来るのか?」『我がお前をこの付近まで転移させただろう』 そう言えば、何時の間にかあの場所に移動させられてたよな。魔法ってのは本当に便利だな。『ただ、ここでは転移が出来ない。一旦門の外へと出る必要がある』 ここでは出来ない? どうしてだ? と問えば『魔封晶が邪魔をしているので不可能だ』との返答が。魔封晶って何だよ?『分かったら、さっさとしろ』 と言う疑問を口に出来ずに外へと行くように促される。 今の俺に出来るのは忌々しいけどノディマッドに従う事。俺は一気に駆けだして門へと目指す。「おい、ソウマの坊主! 何処行く⁉」 セデンが俺を呼び止めてくる。けど、俺はその声を振り切って全力で走る。『急げ。お前にとってもこれは他人事ではない』「だと思うけど」 何せ、俺の知人が眠っていた墓で起きた事なんだから。いくら記憶がないからと言って他人面で無視する、なんて真似は出来ないかな。『少なくとも、記憶が戻った時に後悔はしないだろう。ここで躊躇えば、貴様は絶対に後悔する。それだけは断言しておこう』「……分かった」 そして、このノディマッドの発言でより一層速く走るように努める。記憶が戻ったら後悔するような事になってるのかよ。それは勘弁願いたいな『ただし、当初の約定通り、記憶はレガンロイドを倒した後に返却する事に変わりないがな』「はいよ」 流石に条件は変えないか。手間が増えるけど、記憶の為だ。 俺は一気に駆け抜けて門の外へと出る。その際に門番の人が俺を制止しようとしたけど、フェイントを織り交ぜて避けて、難なく突破した。 門を抜けたから、これで転移が出来る筈だ。『よし、では移動を』 ノディマッドが転移を始めようとした時、目の前に亀裂が入る。そして、その亀裂に俺は為す術もなく吸い込まれていく。 亀裂の奥は円形に木に囲まれた空間。 そして、中央には僅かに筋肉質のマネキンが佇んでいる。『ちっ! こんな時に出て来なくともよかろう』 ノディマッドが悪態を吐く。
『レガンロイド』
 マネキンの頭の上に、そんな文字が表示されている。「これが、レガンロイド?」『あぁ。今は時間が惜しいと言うのに』 こいつを倒せば、俺の記憶が戻ってくる。けど、今はそれよりも優先するべきものがあるそうだ。記憶を戻すよりも、後悔をしない為にも。 それでも、これはチャンスなんじゃないか? 向こうから姿を見せたと言う事は、探す手間が省け、一気に倒せば万事解決だ。「なら、即行で倒せばいいんじゃないか?」『言ってくれる。どの口がほざくか』 と、提案してみたが一蹴された。『一つ言っておく。今の我と貴様が力を合わせたとて、レガンロイドを直ぐに仕留める事は不可能だ。時間を掛ければ倒す事は出来るが、何度も言うが今は時間が惜しい』「そうなのか?」『そうだ。なので、この場は口惜しいが撤退をするぞ』 そこまで事態は深刻になっているみたいだ。『一分間、時間を稼げ。そうすればこの空間から脱出出来る』「稼ぐって、どうやってだよ?」『攻撃を避けるなり防ぐなりをすればいいだろう』 言ってくれるよ、こいつ。『そら、来たぞ』 と、ノディマッドの言葉を受けて前を向けば、レガンロイドが走ってこちらに来たではないか。そして、拳を振り被って俺の右側を攻撃をしてくる。「っと」 俺はバックステップで避け、そのまま横を避けようとする。 しかし、レガンロイドはそれを読んでいたらしく、一旦回転して遠心力による援助を受けた拳を振るってくる。「のわっ⁉」 すかさず横に大きく飛び退く事で、攻撃を喰らわずに済んだ。レガンロイドの拳は標的を見失って、そのまま地面へと叩き付けられる。 ドゴォッ‼ 拳は轟音を立てながら地面を陥没させた。「……マジかよ」 あんなの直で喰らったらひとたまりもないぞ⁉ と言うか、即死確定じゃないか! レガンロイドはゆっくりと首を回して、俺の方を向き、再び走ってくる。「ちょっ⁉」 俺は背を向けて一気に走る。でも、直ぐに回り込まれて退路を断たれる。「早過ぎるだろっ!」 俺の右手を掴もうとレガンロイドは腕を伸ばしてきたが、半身を引いて避ける。更に一歩踏み出して回転しながらレガンロイドの横を抜けて少しばかり距離が開く。 と思ったのもつかの間だった。「のわっ⁉」 俺の左手を掴まれ、そのまま地面に伏せられてしまう。 ただ、どう言う訳かレガンロイドは俺の腕関節を決めて身動きを取れなくする。なんて行動はしなかった。 思わず顔を上げた先には、またもや右手を掴もうとするレガンロイドの姿が。 咄嗟に右手を胸に当てながら地面を転がる。そして立ち上がってレガンロイドをねめつける。 そして、ここで一つ疑問に思う。 こいつ、どうして俺の右手ばっかり狙って来るのか? 俺を地面に伏した以外は全て右手に集中している。レガンロイドは、俺の右手に何か恨みでもあるのだろうか? と思って一つの可能性が浮上した。 もしかして、ノディマッドを狙っているのではないか? と。 レガンロイドの目的がノディマッドなら、俺への肉体的被害はない。俺だけ助かりたければノディマッドを手放せばそれだけで済む。 でも、俺はノディマッドに記憶を握られているので、手放す選択肢はない。 つまり、俺の立ち回りはノディマッドを庇うように回避していけばいい。「っと」 俺の右手――もとい、ノディマッドへと手を伸ばしたレガンロイドの手を半身を引きながら左手で軽く受け流し、後ろ走りで少し距離を取る。 それでもレガンロイドはしつこくノディマッドを掴もうと、もしくは破壊しようと攻撃してくる。 拳で、肘で、足で。踵で。それらの攻撃を何とか潜り抜けられているのは攻撃箇所が限定されているからだ。もし、俺狙いだったら身体の何処を狙われるか分からないので避けきれないだろうな。地面に当たると、それだけ窪みが増えていく。「わたっ⁉」 避けて避けて、躱して避けてを繰り返していたら、俺は足を踏み外して唐突に転んでしまった。 レガンロイドの攻撃で幾つも地面に穿たれた穴の一つに足を取られてしまった。「まずっ」 顔を上げればもうレガンロイドがノディマッド目掛けて足を振り下ろしている姿が視界に入った。直ぐに立ち上がる事が出来ないし、上手い具合に別の窪みが右手の動きを阻害している。 このままではノディマッドが壊されてしまう。 そう思って素早くノディマッドをそっちで触れてはいけないと言われていた左手で掴んで、レガンロイドの攻撃の軌道から逸らす事に成功する。『ばっ!』 ノディマッドが声を上げる。それと同時に、俺の左手から光が漏れ出す。その光はノディマッドをも包み込み、徐々に俺も包んで行く。 な、何だこれ? ただ、不思議と不快感はない。それよりも心地よく、安心するような温もりを感じる。


『――――――ようやく、じゃのぅ』


 声が頭の中に直接響く。ただし、それはノディマッドのではなく、別の誰かの声。 俺は、この声を訊いた事がある。 何処で?  …………確か、この世界に来て直ぐに訊いた。 この世界に来て? ちょっと、待て。どうしてそう思った?「――あぁ」 俺は思わず、綻ぶ。『待たせたのぅ、薙ぎ手よ』 ノディマッドではない声の主――リャストルクが俺の右手に剣となって出現する。『主の記憶、全て奪い返したぞ』「ありがとう、リャストルク」 思い出した。 全部。思い出せた。

「End Cycle Story」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く