End Cycle Story

島地 雷夢

第55話

 俺が寝ていた部屋の前まで辿り着き、扉を開けて中に入る。「よっと」 リルをゆっくりとベッドの上に寝かせ、一息吐く。リルはすやすやと寝ている。朝から俺を捜してくれていたから、疲れたんだよな。 寝ているリルの頭を優しく撫でて、ベッドの脇に腰掛けて腕を組む。「さて、これからどうするかな?」 先程のファイネ達との会話で、俺の記憶を奪ったノディマッドと言う奴が何処かに行ってしまったと分かると、そいつを捜し出さないといけないと思う。 でも、そいつが何処に消えたのかも分からないし、俺がどうにか出来るのかも怪しい。大会に出るから強い事は強いと思うが、変身というのも使えないし、魔法ってのも使えないから一人では探さない方がいい。いや、まぁ。そもそも独りで捜そうとは思ってないけどさ。無謀過ぎるし。 探すとしたら、リルに手伝って貰うか? 鼻が利くらしいし、あとそこらの奴等よりも強いとかなんとか。にわかには信じられないけどね。あとはファイネ……は騎士団の副団長をやってるからあまり無理強いは出来ないか。上の役職だし、ノディマッドが何処か消えた事後処理ってのもありそうだ。スーネルは……どうなんだろう? と、色々考えていると目の前が少し明るくなった。「何だ?」 やや、目を凝らして見ると、何かが浮かび上がっているかのように淡い光が浮いている。何だろうと思い顔を近付けると、その光が爆ぜた。「うわっ⁉」 爆ぜた後には、何て言うか亀裂が走っていて、俺の体はその亀裂の中へと吸い込まれて行った。「いてっ!」 吸い込まれた先で俺は顔面から着地をしてしまった。鼻っ柱が痛い……。 鼻を擦りながら上体を起こし、辺りを見渡す。「……ここは?」 リルを寝かせていたベッドはなく、地面が透明な石で出来ている。所々に同様の石が突起していて聳え立つ。地面の下には何もなく、ただただ暗闇が広がっているだけだ。空は灰色一色で、太陽も月も星も、そして雲もない。 そして、俺の目の前に銃が突き立てられている。 所々にひびが入り、今にも崩れそうなそれはゴツゴツしていて、ぼろぼろの布が巻きつけられている。『久しぶりだな。異端者』 その銃が明滅すると、そこから俺の鼓膜へと声が響いた。「……喋った」 音源はまさにこの銃からで、スピーカーは見当たらない。異常な現象だが、もう色々と体験したからいちいち驚いていられない。それよりも、銃が喋ったとなると、今の俺で考えられるのは一つだ。それを確かめる為に問い掛ける。「お前が、ノディマッドか?」『そうだ。……成程、その様子を見るときちんと記憶は奪取出来ているな。我の事を覚えていないのだからな。ただ、全てを忘れ去った訳ではないか。もしそうならばこうして会話も出来ぬしな』 嘲笑するように、銃は――ノディマッドは肯定した。「……お前が、俺の記憶を奪ったんだよな?」『左様。我が貴様の記憶を奪った』 更なる問いかけにも肯定するノディマッド。こいつが、俺の記憶を奪った奴。『無論、返しはしないがな』 くつくつと笑うノディマッド。この野郎。適当に蹴りでもすれば砕けそうな程ボロボロだから、今すぐにでも壊してやろうか? いや、でも確か壊したりすると俺の記憶は一生戻ってこないんだよな? そしたら、どうやってこいつから記憶を取り戻すべきか?『……まぁ、条件次第では返してやらんでもないがな』「は?」 と策を講じていた俺は予想だにしなかった言葉に目をパチクリさせてしまう。 こいつ、今のは冗談か、俺をからかう為にわざと言ったのか?『聞こえなかったのか? 条件次第では、貴様の記憶を、返してやらんでもない、と言ったのだ』 ノディマッドはわざわざ区切りながらリピートしてきた。「奪っておいて、勝手な事を言うな」 ただ、あまりにも虫がよ過ぎて、上手い話過ぎるので警戒は強まる。 どうしてこいつは折角自分が壊されないようにと奪った俺の記憶を返すとか言うのか? その条件って言うのも気になるけど。取り敢えず、こちらは強気に出て相手に主導権を握られないように努力する。『勝手、か。それは果たして我にだけ言える事か?』「どういう意味だ?」『言葉通りの意味だ。だが、それを貴様が知るかどうかは分からぬがな』 俺を翻弄しようとしてるのだろうか? それともからかってるだけか? 折角強気に出たが、今の一言でちょっと主導権が逃げてしまった気がする。『くっくっく……哀れだな。知らぬと言うものは』 明らかに俺を蔑むように笑うノディマッド。そもそも知らないってのはお前が記憶を抜き取ったのが影響大だろうが。『さぁ、どうする? 貴様は記憶を取り戻したいか? それとも奪われたままでいいのか?』 苛々と眉間に皺を寄せてノディマッドを親の敵のように睨みつけていると、ノディマッドは笑ったまま更に問い掛けてくる。「……そりゃ、取り戻したいに決まってるだろ」 俺は苦々しくノディマッドに言う。 結局の所、この場において優勢に立つってのは無理だったんじゃないか? 俺は記憶を奪われて、所謂人質のような状態だ。こっちとしてはどうしても取り戻したいのでノディマッドに危害を加える事が出来ない。……あぁ、なんかムカつくな。『なら、決まりだな』 事が上手くいったとばかりにノディマッドの声には愉悦が混じっているように感じる。本当、ムカつくな。「で、条件ってのは?」 口にしないように心の言葉を呑み込みながら、俺は先を進めるように促す。『条件は三つだ。一つ、我を壊さないと誓う事。まぁ、これに関しては貴様の記憶を戻した後の話だがな。一つ、この事は他言無用だ。もし誰かに告げた場合は貴様の記憶を永遠に返す事はない。また、記憶を戻した後も以上の二つを破れば自動で記憶が壊れるように魔法を掛ける。記憶を奪うのではなく壊すので、もう二度と戻る事はない』 こいつは……記憶を取り戻した後の事もきちんと考えてやがる。 記憶を取り戻せば、最早口約束。戻ってしまえばもうこいつを壊すなり砕くなり好きに出来ると思ったのだが、そう上手くいかないものか。 それにしても、また魔法か。魔法ってのはいやに便利な物だな。 いやいや、それは置いておいて、残る最後の条件を訊くとしよう。「最後は?」『最後の一つは、あるレガンを仕留めて貰う事だ』「レガン?」『人形のように奴だ。我は裏切り者とそのレガンの始末をつける為にわざわざこちらまで出向いたのだ。裏切り者に関しては今の我では手に負えないのでな。レガンを優先させる』 裏切り者――つまりは俺の左腕になっているリャストルクの事だよな?「何で手に負えないんだ?」『貴様と融合してしまったからに決まっておろう』 忌々しい、とばかりに語気を荒げ始めるノディマッド。『普通の人間ならいざ知らず、こんな異端者と融合してしまうとは思わなんだ。半端な力しか行使出来ぬ我ではもう到底敵わぬ。力の使い過ぎで休眠しているのが我にとって僥倖。裏切り者が休眠している間に我の力を最大に扱える場を作る時間が稼げれば儲けものだ……ふん』 話を戻すぞ、とノディマッドは軽く咳をする。……と言うか、お前って咳するのか? と言うか、関するって事は呼吸するって事だよな? って、今はそんな事に疑問を覚えてる場合じゃないか。俺はノディマッドの言葉に耳を傾ける。『あるレガンはレガンロイドと言う、レガンらしからぬ行動をとるレガンだ』「そのレガンってのがそもそも分からないんだが」『今の貴様が気にしても仕方のない事だ。実際に出逢えば否が応でも分かる』 ヤバい。説明になってない。唯一の情報は人形のようなのってくらいだ。出逢えば分かるって、そりゃ当たり前だろうが。 ……まぁ、それでもやらなければ俺の記憶は戻ってこない。もうちゃちゃっと片付けてさっさと俺の記憶を戻して貰うとしよう。 にしても、と俺は首を回して辺りを見渡す。どうやったら、ここから出られるんだ?『では、行くぞ』 とか思っていると、ノディマッドがそんな事を言ってきた。「行くって、お前も行くのか?」『不本意極まりないがな。致し方ない。我だけでは動く事すらままならず、今の貴様では満足に戦う事も出来ないだろう。故に、我が貴様を手助けする。虫唾が走るがな』 舌打ちをせんばかりにノディマッドがそんな事をのたまってくる。いや、俺としても物凄く不本意なんだが。まさかノディマッドを携帯しながらだとは思わなかった。まぁ、目的のレガンロイドがどんなのか全く分からないからこいつが一緒にいれば直ぐに見当がつく、か。 にしても、俺がノディマッドを運ぶ、というか持つのか。「俺を操るのか?」『その心配はない。裏切り者と同化してる貴様を操る事は不可能だ。操ろうとしても妨害されるのが目に見えている』 俺の疑問は忌々しそうにノディマッドがあっさりと否定する。どうやらこの左腕になっているリャストルクの御蔭で俺がノディマッドに操られずに済むようだ。あ、だから条件を提示して記憶を返すから手伝えって言ってきたのか。納得。『と言う訳だ。さぁ、異端者よ。我を手に取れ。無論、裏切り者と同化していない方でな』 ノディマッドは上から目線で俺の方へと傾いてくる。 本当に、本っ当に仕方なく俺はノディマッドを右手で持つ。
『偽金剛銃ノディマッドを手に入れた』
 すると、また目の前に半透明の箱とその中に文字が浮かんできた。本当、これって何なんだよ?『では、行くぞ』 俺の疑問を余所に、ノディマッドの言葉と同時に目の前に亀裂が出現した。またしても俺はそれに呑まれていく。 今度は顔面から着地、と言う無様な事にはならず、少しばかり危なかったが両足で地面を踏み締める事に成功する。「……ここは?」 ファイネの家に戻されたのではなく、また別の場所に飛ばされたようだ。左の方には倒壊した建物があって、近くには苗木が三つ植えられている。あとは木が疎らに生えていて、半壊した井戸、獣道を広くしたような道もある。『レガンロイドの反応が近くにある場所へと移動した。だが、正確な位置までは分からぬのでな、貴様にはこの近辺を隈なく捜して貰う』「……分かったよ」 ノディマッドの答えは俺の求めるものではなかったけど、そもそも記憶がないから地名を言われてもピンと来ないか。 なら、癪だけど言われた通りにここらを隈なく捜して早いところ俺の記憶を取り戻すとしよう。あと、どうしてか脳内に直接ノディマッドの声が響くようになった。物凄く違和感がある。「おいおい、ソウマの坊主じゃねぇか!」 適当に進もうとしたら背後から声を掛けられた。しかも、俺の名前を知っている人に。 ……誰だ? このおっちゃん?


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