End Cycle Story

島地 雷夢

第54話

 ファイネの家に戻ったら、問答無用で頬を叩かれました。 誰にって? ファイネとスーネルに。心配させんな、と片方は顔を怒らせ、片方はやや涙ぐんでいた。 ヤッバい、と思っても後の祭りで、今後は行先と帰る時間を言う事を約束させられた。一人歩き禁止にされなかったのは僥倖だろうな。くそっ、シスターナリアに捕まらなければこんな事にはならなかったのに。 とか思って俺の方も当然の質問をしました。しましたとも。スーネルとファイネの二人は家にずっといたのだ。俺を捜しに来たのはリル一人。日は昇ったとは言えこんな十歳くらいの女の子一人で捜しに行かせてもいいのか? と。 俺の心からの疑問に答えたのはスーネルだった。「リルさんが出て行った時には既に何処に行ったのか分からなかったので」 どうして分からなかったのか? と訊くと今度はファイネが口を開いた。「だって、リルちゃん足かなり速いんだもの。目を離したらもう見えなくて」 多分、私より早いよ、としみじみと言葉にする。「あと、リルさんは鼻が利くので時間も掛からずにソウマさんを連れてくるだろう、と思いましたので捜しに行きませんでした。下手をすると入れ違いで戻ってくる可能性もありましたので」 だとしても、一人は危ないだろう、と聞き返すとファイネがこう返して来た。「それは大丈夫だと思うよ? リルちゃん強いし。そこらのゴロツキ程度なら蹴散らすんじゃないかな?」 マジか? と俺は素っ頓狂な声を上げながら抱っこしていたリルに視線を向けた。当の本人は目を細めて得意気ににかっと笑うだけだったけど。「兎にも角にも、無事で戻ってきて何よりだね。と言う訳で」 ファイネが柏手を打つとスーネルと共に台所の方へと向かって行った。「御飯食べよう」 俺から降りたリルに連れられて俺も台所へと行き、そこで四人揃って朝食を食べた。メニューは冷えた牛乳にパン、目玉焼きにベーコン、レタスにトマト、それとバナナとシンプルだけど朝食べるには充分な献立となっていた。 食べ始めると俺は止まらずに一気に胃の腑へと押し込んだ。固形物を摂取した事により、今まで食べていなかった分の衝動を抑え込んでいたダムが決壊し、抑え切れなかったからだ。でもちゃんと味わいました。美味しかったです。「は? いなくなった?」 朝食を食べ終えてからの第一声はそれだった。「うん」 テーブルを境に対面して座っているファイネが神妙な顔をしながら頷く。 何がいなくなったかと言えばノディマッドと言う物言う物体がらしい。「え? それって生物じゃないんだろ?」「多分そうだけど」 多分ってのが引っ掛かる。まぁ、喋るんだもんな。そりゃ多分ってつけたくなるよ。 それは置いておくとして、だ。「独りでにいなくなるなんてありえるのか?」「それは有り得ないと思います」 と、俺の横に座っていたスーネルが割って入ってくる。因みにリルはファイネの隣に座ってるけど、朝食を食べ終えると舟をこぎ始めて今現在はお眠の時間となっている。「何で?」「リャストルクと同様に自力では動けないしね。あと魔法を封じる結界内に拘束していたから不可能だよ」 スーネルに尋ねたけど、代わりにファイネが答えた。魔法を封じる結界ってのも気になるけど、それよりも分からないのが一つ。「リャストルクって?」「喋る剣です」 今度はスーネルが答える。嘘吐け。とか思っても言わない。だってマジな顔で言ってくるんですもん。まぁ、喋るボウガン? ってのがいるらしい発言をファイネがしているし、喋る剣がいても可笑しくはない……かねぇ?「そのリャストルクってのは今何処にあるんだよ? ノディマッドって奴と一緒に封印されてんのか?」「いいえ」 スーネルは首を横に振ると右手を真っ直ぐ前に伸ばし、人差し指だけを向けてくる。「そこにいますよ」「そこ?」 俺は指の指示された方へと視線を向ける。けど、そこには大破された壁しかない。今更だけど壊れた壁を背に良く俺は飯を食えたもんだよ。御茶の間の風景を通行人にだだ見えの状態だよ? プライバシーなんてあったもんじゃないよ。 じゃなくて、だ。「何もないじゃん」 そう。後ろには何もない。壊れた壁とその瓦礫はあるけど剣なんて一つもない。瓦礫に埋もれてる可能性も無きにしも非ずだろうけど、それでもわざわざ埋もれたままにしておくのも納得のいく理由が見当たらないのでその考えを除外しておく。故に、後には何もないと言っておくのが正しいだろう。「いえ、後ろではなく」 スーネルは指を突き出していた右手で俺の白くて無機質な左腕を掴んでくる。「ソウマさんの左腕です」「……………………はい?」 俺の左腕が剣? 嘘吐けや。「冗談は寝てから言って欲しいんだけど」「冗談じゃないよ」 とファイネが横やりを入れてくる。「いやいや、だってこの左手の何処が剣だっての? 白くて明らかに義手だけど剣って形状じゃないし」「それは、今はその状態になってるからじゃない?」「何で?」「ソウマが困らないようにって奴?」「疑問を疑問で返さないで欲しいんだけど……」 訊きたいのは俺なのに。記憶無くしてるから余計にさ。もしかしたら記憶があったらその理由は知ってたのかもしれないけど、今は記憶喪失中。知ってたとしても知らないんだよ。だから疑問で返さないで欲しいよ。「じゃあ、どうやって剣のリャストルクって奴を出すんだよ」「分からないよ」「分からないのかよ」「だって、喋る剣が腕になるなんて聞いた事無いし」 あ、剣が喋るのってやっぱり普通じゃないんだ。ちょっと自分の常識が非常識なんじゃないかって揺らいでたけど、そうでないと証明された(?)のでちょっとばかし心に乗った重荷が降りた気がする。「それ以前に、リャストルクさんは今呼び掛けても答えてくれないと思いますよ」「何故に?」 と、スーネルが口を開く。俺はどうしてそんな事を知っているのか疑問に思って彼女に尋ね返す。「現在、力を使い過ぎたとかで休眠すると言っていましたので」「剣が休眠するのかよ……」「意思がありますからね。取っても可笑しくはないですよ」 可笑しくない……のか? そもそも無機物って寝れるのか? …………駄目だ、考えれば考えるだけ頭が混乱してきた。これは記憶あるなし関係ないんじゃないかな。 取り敢えず、剣が寝る事に関しての疑問は頭の中の引き出しにそっと仕舞い込む事にして別の質問をする事にしよう。「因みに、それって何時の事?」「大会での一騒動の後直ぐくらいですね」 と言うと、大体三日くらい前なんだ。「それ以降ずっと沈黙したままです。リャストルクさんはあの日色々としてくれましたから」「そうなのか」「はい。もしリャストルクさんがいなければ、この場にいる全員が死んでいた事でしょう」「えっ⁉ そこまで?」 洒落にならないスーネルの発言にファイネも同乗してくる。「その通り、だね」 マジですか。二人して神妙過ぎる表情でうんうんと頷き合っているよ。俺ってどんな死地を歩いてたんだよ。 俺は自身の左手を見る。これが本当に剣なんて実感はないけど、これの御蔭で俺は生きてるらしい。だったら、礼の一つは言わなければいけないな。「ありがとうな」 今は休眠中らしいから聞こえてないかもしれないけど。起きたら改めて言うとしよう。「で、これからの予定なんだけど」 と、ファイネが椅子の背もたれによっかかり、天井を仰ぐ。「本当ならノディマッドの所に行こうって話してたけどさ、そいつが何処か行っちゃったからその話は無しの方向になったから」「まぁ、そりゃそうだよな」 何処か行った奴? に会おうとするのは無謀というものだろう。「一応監視してた人達とかが怪しいから尋問とかしてるらしいけど、どうも忽然といなくなったらしくて、自分達は関与していないの一点張りなんだって」 忽然といなくなったのか。それは俺でなくても監視してた奴が怪しいって思うわな。「監視は五人で行ってて、ノディマッドに操られている訳でも無いってのは分かってるんだけど」「何で操られてないって分かるんだ?」「直接触れてないからね。ノディマッドは直接触れてる人だけを意のままに操る卑劣な奴だよ」 ファイネは苦虫をかみつぶしたかのように渋い顔を作る。成程。その機能はきちんと理解してるのか。どうやって理解したのだろうか? もしかして誰かが実際に操られて、その体験談を語ったか目の当たりにしたのかな?「身体検査して誰もノディマッドを隠し持ってないってのも立証されてるし。そもそも一メートルくらいあるんだから触れたまま隠すってのも無理な話なんだけど」「確かに」 一メートルもあれば隠すのなんて無理だよ。服の中なんて無理無理。大道芸のように口から体内に入れても一発でばれるよ。「『クリアハイド』で隠してた訳でも無いし」 うん、俺はファイネの言ってる意味が分からない。『クリアハイド』って何でしょうね? 魔法って奴ですかね? 話の腰を折らないように芽生えた疑問をそっと押し戻す事にする。「だから、操られてるってのはないの。まぁ、欲に駆られて自分の意思で何処か別の場所に隠してるって可能性もあるから尋問してるんだけど」「欲、ねぇ」 まぁ、喋るボウガン? ってのは物珍し過ぎるだろうから、コレクションとかにしたい人はするんだろうな。よく分からないけど。「隠すにしても一人だと他の監視の人に見付かるから、五人全員の共犯だろうって見解になってるけど」 まぁ、他の人の目を盗んでくすねるのなんて実質不可能だろうな。視線や意識を別の何かに誘導しても完全には無理だろうし。「そんな訳で、私もこれからその尋問に立ち会わなきゃいけなくて、今日一日はここに戻って来れないの」「そりゃあ、大変だな」 そうかそうか。わざわざ尋問に…………ってちょっと待たれい。「本当は私一人でもノディマッドを捜しに行きたいんだけど、私には前科があるからノディマッドの近くに行く事が出来なくて」「待って待って。ちょっと待って」 俺の待ったコールにファイネは小首を傾げる。「何?」「何でファイネが尋問に立ち会うんだ? いや、そもそもどうしてそんな情報が入って来るんだよ」「そりゃあ……あ、そう言えば記憶を無くしてから一度も言ってなかったかなぁ」 ファイネはバツが悪そうにし頬を指で掻きながら呟く。そして居住まいを正して俺に説明をしてくる。「あのね、どうしてノディマッドがいなくなった事を知ってるのかってのと、尋問に立ち会わなきゃいけないってのはね、私が騎士団の副団長だからだよ。最新の情報を握っておかないといけないし、尋問に関しては強硬手段の一つとしてだけど、一度操られた立場から操られてるかどうか確認する為の意味も含まれてると思うな」「へぇ、ファイネが騎士団の副団長ねぇ。…………って何ぃ⁉」 ファイネが、副団長ぉ⁉ マジでっ⁉「嘘だろ⁉」「嘘じゃないよ。こう見えても騎士団のナンバーツーなんだからね」「えっ⁉ だったら大会で俺に結婚を申し込んだのってのぼ⁉」「それ何処で知ったの⁉」 先程知り得た自称俺のファンのシスターから得た情報を口にしたらファイネが光の速さで立ち上がって俺の口を塞ぎに掛かってきた。そして顔は赤らんでいらっしゃる。 それはつまり、本当の事だと言う事で。「あの、ファイネさん? それは何の話ですか」 そして、スーネルが笑みで俺の口を片手で塞いでいるファイネに問い掛けてくる。って、スーネルさん? 口は笑ってるけど目が全く笑ってないよ? 光が無くなってるよ? と言うか知らないの? 何でも試合前に堂々と発言してたらしいけど。もしかしてスーネルはその場にいなかったのかな?「えっ! いやっ! そのっ! あれには深い訳がっ!」「そうですか。で、それはどのように深い訳ですか? 仰って下さいな、ファ・イ・ネ・さ・ん」 背後に禍々しい鬼が見える幻覚を引き起こさせる怖い笑顔を浮かべたまま、スーネルはゆっくりと俺の口を塞いでいるファイネの腕を握る。あ、なんか手の甲の血管が浮かんでるように見えるのは気の所為なんだろうな。気の所為だといいな。と言うかどうしてここまで怒ってるのだろうかスーネルさんは? 分からん。「だから、あれはノディマッドに操られてたんだよ! あいつが勝手に私の口を動かして言っただけなんだって!」「そうですか。操られてたんですか。なら仕方ないですね」 あ、操られての発言だったんだ。ファイネの必死な弁解を訊いたスーネルは握っていた手の力を弱めていく。そして瞳に光が戻っていく。と言うか、俺って本心からの結婚を申し込まれた訳じゃなかったんだ。ほっとしたような、がくっとしたような複雑な気分だ。「そう! 仕方なかったんだよ! 私はまだ・・結婚なんて」「まだ・・、ですか?」 スーネルさん。また瞳からハイライトが消え失せてしまいましたよ。「まだ、と言う事は将来的に結婚を考えてるんですか? ソウマさんとの」「いやちょっ⁉ なんでそうなるかな⁉」 スーネルは大丈夫なのだろうか? ちょっと言動に過敏な気がしないでもないけど。ちょっと以上に恐い。 もしかして、三角関係築いてるとか? 俺と、スーネルと、ファイネで? ………………あ、必死で思い出そうとしちゃ駄目だ。頭が割れる。考えるのも放棄しないとまたあの痛みが襲ってくる。 俺は(恐らく俺の所為で)ヒートアップしてしまっている二人に気付かれないようにそっと立ち上がり、このままではうるさくて起きてしまうと思いリルを抱えて台所から出て行く。「ふぅ」 廊下に出て静かに扉を閉め、一息吐く。「俺、記憶戻ったらどうなるんだろう?」 下手したら、責任追及されかねない。どんな責任かは知らないし、想像もつかないけど。そもそも責任が発生する事案が発生しているのかも定かではないっていうか自分で言ってて訳分からなくなってきた。「取り敢えず、リルちゃんを寝かせておくか」 俺が横になっていたベッドにリルを寝かせようと、二階へと向かい始める。
――助けて――
 すると、またあの声が俺の頭の中に響いてくる。
――助けて――
 辺りを見渡すが、俺とリル以外にはこの場にいない。だとしたら、誰だ? リャストルクは休眠中だと言うから喋る事はないし、俺の記憶を奪ったノディマッドは俺に助けを求めて来るとは思えない。
――助けて――
 声が遠ざかっていき、聞こえなくなった。暫くその場に立ち止まるが、それ以降は助けを求める呼び掛けは頭に響かない。「……何なんだよ、一体」 煮え切らずにいるが、まずはリルを寝かしつけようと思い、止めていた足を動かして階段を上っていく。

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