End Cycle Story

島地 雷夢

第53話

 自称シスターのマシンガントークから解放されたのはかれこれ一時間後だった。正直、言い方を変えてはいたけど同じ内容を何度も繰り返していただけなので、耳にタコが出来るかと思った。 まぁ、それでも俺について分かった事もあるから一概にも無駄骨と言う訳でも無い。 俺は異国から来た剣士で、一週間くらい前に開催されたバルーネン国武闘大会に出場していたそうだ。それを鑑みるに、俺はそれなりに力はあるのではないだろうか? 力が無ければそもそも武闘大会なんてのに出場しないだろうし。 で、俺は剣を使っての戦闘を行っていた事。俺って剣を握った事が無いんだけど。あ、それは今の記憶を失った状態だからで、感覚自体はまだ残ってるのかもしれない。あと、魔法とやらも駆使して相手と戦っていたそうな。 魔法、ねぇ。にわかに信じられないな。だって魔法って科学じゃ説明のつかないような事象を引き起こすんでしょ? 一般男子の俺には無理だと思うな。そもそも魔法って言葉に違和感を覚えるし。俺の常識がこれは非常識だと訴えてるよ。 まぁ、ここで魔法についても思い出そうとすれば頭が痛くなる事は予想がつくので置いておく。まぁ、魔法を使ってたんだと漠然と頭の片隅にでも置いとくよ。 で、だ。俺はブロックで四位の成績を叩き出して決勝トーナメントへと駒を進めたらしい。初戦の相手は俺と同じ別国から来た侍の筈だった。筈だったと言うのは急遽対戦相手が変更になったからだ。だけど、相手の棄権とかで変更になった訳ではない。そもそも棄権したなら俺は不戦勝で第二試合に駒を進めてる筈だし。 何か、職権濫用をしたらしく、大会に参加していたこの国の騎士団の副団長様が変更を申し出たようで、副団長の対戦相手とその侍は了承して俺は副団長と戦ったらしい。 しかもだ、何か副団長は俺に求婚して来たとか。冗談でしょ? と口から出かかったけど話すシスターの目のきらきら具合から嘘じゃないんだなぁ、と痛切にも感じ取ってしまった。この事から、副団長は女性であった事が分かった。これで男だったら俺は直ぐにこの国から出て行くとしよう。色々な意味で身の危険を感じるから。 求婚は副団長が勝てばそのまま受理され、俺が勝てば拒否する事が出来る、と言った旨であり、ぶっちゃけた話をすれば俺にかなり不利な内容だった。俺の拒否権ってほぼ発動出来ないようなものじゃないかな? 実力差から言っても多分無理なんじゃない? 相手副団長だし。 あと、ここが一番疑問が尽きない点だけど。どうやらその副団長は変身をするらしい。何でも血を解放するとかなんとか。中二病的なフレーズだけど、マジでやるらしい。副団長の場合は竜の血だとか。ちょっと恰好いい。竜とかって男子の憧れだろ。 で、俺もその変身とやらが使えるようだ。もう信じられない。けど、どういったのに変身するのかは不明。シスター曰く見た事も無かったそうだ。俺って本当に何者? 概要としては背中に蝙蝠のような羽が生えて左足が馬のようになったらしい。何それ? 俺って実は悪魔だとか? もう人外じゃんそれって。 更に人外認定が俺の左腕だ。何でも副団長との試合の最中に吹っ飛ばされたらしい。それで隻腕になった俺は何故か突如いきなり現れた剣を胸に突き立てると現在のこの白い腕が生えてきたらしい。腕が吹っ飛ばされても生えてきるなんて俺は蜥蜴かよ。 互いに変身しての戦いは最終的には決着はついていないらしい。とは言ってもそれは戦いの結果であって、大会規定では副団長が反則を行った為に俺が次に駒を進めたそうだけど、俺も戦闘不能になって安静の為に強制辞退にされたそうだ。 大まかに言えば、そのような話が何回も繰り返された。「――――で、ですね。ソウマ様は『フロストカーテン』を用いまして」「あの、もういいです」 流石にもう陽も昇って人も普通に外を出歩き始める時間帯と相成ったので、そろそろ俺もあの三人が待つ家へと戻らないとヤバい。「えぇ、ここからがいい所ですのに」「もう五回以上は訊いてますんで。しかも早口で」 因みに場所は道端ではなく、このシスターに無理矢理連れてこられた教会の礼拝堂だ。 俺とシスターが鉢合わせてしまった場所は教会の目の前であり、鉄柵と門で囲まれた敷地内には教会へと続く石畳の道と、その両脇に木が生い茂っていた。教会自体は三角屋根の頂上に木が生えているかのような意匠を施した奇天烈な外見をしていた。入って直ぐは礼拝堂に繋がっていて、長椅子が綺麗に並べられていて、一番奥の中央には木の根をあしらった彫刻が鎮座してた。多分、屋根の上の木の意匠とリンクしてるんだろうな。芸が細かい事で。 で、俺はそのシスターの話を一番後列の長椅子に隣り合って座り訊いていたのだ。後ろの扉は開かれたままだったから外の様子は分かる。と言うかここに時計は無いので外を見る事でしか時間経過を確認出来なかった。それもかなり大まかにだけど。「陽も昇ってきたので、そろそろおいとましないと」「え~、もう少しお話ししましょうよ」「話って、一方的にあなたの話を訊いてただけなんだけど……」 まぁ、こっちとしては俺自身の記憶を知れたので結果オーライなのだが。と思っているとシスターは目を輝かせたまま気持ち少しばかり顔を近付けてくる。「だったら、ソウマ様の話が訊きたいです」「俺の?」「はいっ。そうですね、ソウマ様の出身国はどちらでしょうか? 大会では異国としか紹介されませんでしたので」「……出身」 俺の、出身。何処だ? あ、ヤバい。一度疑問に思ってしまうと、そこから記憶を思い出そうとしてしまう。「…………っ」「あの、ソウマさ」「あっ! いた!」 痛みが走ろうとした瞬間、後方から声が聞こえた。その声に気が逸れたので、幸いと言うか思い出そうとする行為が中断されて頭を抱え込んで蹲る事は無かった。 声に釣られて振り返るとうなじを隠すくらいまでの長さを保った灰色の髪をした少女が立っていた。灰色のズボンに白で最強と書かれた黒いシャツを着ている少女は昨日スーネルって子の膝を枕にして寝ていたリルって子だろう。「心配したよ。ソウにぃ、何で一人で外に出たの?」 少女は一気に教会の中へと入ってきてその顔を俺にグイッと近付けて訪ねてくる。近くで見ると左右で瞳の色が違うな。右が金色で左が髪と同じか。珍しい色をしてるな。 と言うか待て。この子、一瞬で間合いを詰めたぞ。脚力が尋常じゃないな。だって後ろの扉と礼拝堂の最後尾の席の距離は目測十メートル……までは離れてないな。かと言って五メートルじゃないし。間を取って七、八メートルとしても一瞬でこの距離を縮められるか普通? しかも俺より年下の少女がだぞ? もしかして俺って今夢の中にでもいるのだろうか?「ソウにぃ、訊いてるー?」 夢と現実の区別が今一つかなくなってしまった俺の両頬をリルと言う子は人差し指と親指で摘まんで引っ張ってくる。 痛い。普通に痛い。痛みを感じるって事はこれは現実なんだろうな。痛みを伴う夢ってのもあるかもしれないから確実ではないだろうけど。そんな事まで考え出したらキリがないので現実と言う事にしておきましょう。「訊いてる。訊いてるから放してくれないかな? 痛いんだけど」「あっ、御免」 リルはすんなりと放してくれる。よかった、聞き分けのいい子で。「あの、ソウマ様? この子は?」 と、シスターが急に俺の頬を抓ったリルを軽く指差しながら尋ねてくる。「この子はリルちゃんって言って……」 俺はシスターに紹介をしてみるが、生憎と今の俺は名前以外のこの子の情報を全く知らない。いや、服のセンスが常人と異なっていると言う点も分かるがそれは特に意味を成してないだろう。今この時点では。「もしかして妹さんですか?」 と、返答に困っているとシスターは勝手な解釈をしてくれた。あぁ、その線は俺も考えてなかったな。俺の事をソウマじゃなくソウにぃと言う愛称で呼ぶのだ。にぃってつまり兄って意味だろうから、そんな愛称をつけて呼んでくるリルは俺の妹って事になる。真偽の程は定かではないけど。「うん、まぁ、そんな所」 シスターの発言に同調しておくとしよう。俺はこくこくと赤ベこのように二回頷く。「ね~ぇ~」 リルが訊いていると言った筈の俺が相手をしなかった事が気に食わなかったようでまた頬を抓って引っ張ってくる。この子の癖かこれ?「御免御免。で何かな?」「ソウにぃ、訊いてないじゃんっ」 あ、こんな返答では訊いてなかったと暴露してるだけじゃないか。いやいや、本当は訊いてはいたんだけど、ついこのような言葉が口から出てしまったんだ。あぁ、少女を不機嫌にさせてしまった。リスとかハムスターのように頬を膨らませて不貞腐れる顔は可愛いのだけれども、そう思うのは不謹慎というものだろう。多分。「御免。えっと、俺が一人で出てった理由だよね?」「うんっ」 俺が質問を覚えている事にリルは先程見せた膨れっ面を即座になくして大きく頷いてくる。取り敢えず簡潔に伝える事にしよう。「ちょっと街中を歩いてみたかっただけなんだよ」「だったら、皆で歩こうよっ。一人よりも皆一緒の方が楽しいよっ」 皆とは、スーネルって子とファイネの事を指しているのだろうか? 皆で街中を歩くのは、会話もあるし、確かに色々と楽しめるのだろうけど。「まぁ、そうなんだけど……何て言うか、皆と一緒じゃなくって、気分的に一人で静かに歩きたかったってのがあって」「一人がよかったの?」「そうなるね」「何で?」「何でって……」 俺は率直に自分の考えを言葉にしてリルに伝える。するとリルは段々と表情を曇らせていく。その様を間近で目撃してしまっている俺は言葉を上手く紡げなくなる。「ソウにぃはわたしと一緒は嫌なの?」「…………」 子供故の思考。飛躍し過ぎやしないかその発想は? 別に嫌って訳ではなくて本当にただ一人で街の中を歩きたかっただけなんだけど。そもそも今の俺は君の事をよく分かっていないんだから隙とか嫌いとかって感情が働いていないと言うか。って心の中で言い訳しても相手に伝わる訳ないだろうが。 …………もしかして、この子俺が記憶を失ってるって気付いてない? だから、恐らくだけど何時も一緒にいたであろう俺が一人でいたいなんて発言をしたからそれを不安がったとか? 自分といると煩わしくなる、とかそう俺が思っているのだと誤解してる? そんな事を考えているうちに、リルは近付けていた顔を下がらせて体ごと俺から距離を取る。後退する際の動きが何処かぎこちなく、そして緩慢に感じられた。「やっぱり、わたしと一緒だと迷惑だった?」 声のトーンが一段と下がり、リルの眼の端から透明な雫が流れ落ちて頬を伝っていく。 …………え? 泣いた? と思うよりも早く、俺は無意識に立ち上がってリルに近付き、そっと抱き寄せていた。互いの顎を肩に乗せるような形で。右手をリルの後頭部に添えて優しく撫でる。嗚咽も漏らさずに涙を流していたリルは体を固くするけど、それに構わずに俺は彼女の耳元でしっかりと告げる。「迷惑じゃないよ」「本当?」「本当」 記憶が無くても、迷惑じゃないってのは分かるよ。さっきのリルの発言は皆の事を思って言ったんだ。俺の事を心配してそのままの格好で一人で捜しに来てくれた子だ、他人の事を思いやれる子なんだろう。 リルが俺の肩を掴んで俺から体を離し、真っ直ぐとこちらの眼を見ながら重い唇を必死に動かす。「じゃあ、今度は、皆で歩こうよ?」「うん、いいよ」 リルは曇らせていた顔を少しだけ輝かせ、抱き返して来た。取り敢えず、これ以上この子を不安がらせるような事にならずに済んでよかったよ。「……早く、皆の所に帰ろう?」「分かったよ」 俺はリルに言われるがまま、彼女を抱き抱えて立ち上がる。リルはされるがままで、自分が落ちないようにとしっかり抱き着いてくる。「…………とまぁ、そんな訳だからもう行くよ」「あ、はい」 先程まで座っていた長椅子に腰掛けるシスターに出て行く旨を伝えて軽く会釈して出口へと向かって歩き出す。「あの、ソウマ様」「はい?」「本当に、悩みがあれば訊きますから。思った以上に深刻そうなので」 シスターはそう言いながら出口までついて来る。深刻そうって、そんな事を匂わせるような表情でもしてたかな俺? しかもどのタイミングだろう? リルが涙流した辺りからだろうか?「その際はまたこちらの教会へと来て頂き、私に取り次ぐように仰って下さい」「はぁ、分かりました」「あ、自己紹介がまだでしたね。私の名前はナリア=ホフマンと言います」 シスター――ナリア=ホフマンは軽く頭を下げる。「では、機会がありましたらまた」「あぁ、はい。機会があったら」 俺は頭を上げたナリアにそう言うと教会を後にしてファイネの家に向かう。

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