End Cycle Story

島地 雷夢

第45話

 俺がファイネをノディマッドから解放しようと、リャストルクを手にして突撃しようとした時、ファイネは、全く動かなかった。ノディマッドな奴られている筈のファイネは『ドラゴン・ブラッド』の力で俺とは桁違いの速さで襲い掛かり、そして肉を抉るかのような一撃を繰り出せるだろう爪を突き立てるのが必勝と言ってもいい行動なのだけど、微動だにしない。「むっ⁉ どうして体が動かんのだ⁉」 ノディマッドは焦りの声を上げる。どうやら奴にとっても予想外の出来事らしく、俺はどうすればいいのか分からずに突撃しかけた姿勢を解いてただただ偽金剛銃と少女を見ているしかなかった。 すると、まるで錆びついたブリキの人形のようにぎぎぎと体を動かす。それはノディマッドに操られての行動ではなく、自らの意思を振り絞っての抗いだって事は見て取れた。「貴様っ‼ 意識を取り戻したのか⁉」 意識を取り戻した? あぁ、そうか。スーネルとリルをわざわざ空間に閉じ込めたのは、ファイネの意識がまだ残っていて、引き金を引かないようにしていたからだ。だから、彼女の意識が少しでも残っていれば偽金剛銃に抗い、行動を阻害する事が出来る。 なら、俺がやるべき事は、必死でノディマッドを抑えているファイネの意識が再び封じ込められてしまう前に、偽金剛銃を取り上げる事だ。 だが、ファイネは腕を動かし始める。もしかして、意識が失い始めたのだろうか? と言う疑問は直ぐに消し去られた。 何故なら、ノディマッドの銃口を自分へと向け始めたからだ。一メートルあるそれを両手を伸ばし切り、左の手で銃身を右を銃床に右手をそえ、右の親指を引き金に掛けている。「……御免、ね」 そしてファイネは、事もあろうか、何故か、俺に謝ってくる。その眼は未だに虚ろであったが、僅かに瞳が潤んだのが見て取れてしまった。 銃口を胸に当てると、右の親指に力を込めて引き金に掛かっている指を一気に引こうとする。 俺は凍ったかのように何故か身動きが出来ないでいた。ここで彼女を止めなければ、青い銃弾は彼女の胸を貫いて、空洞を開けてしまう。それに、今ファイネは『ドラゴン・ブラッド』を解放している状態なのだ。つまり、物理防御、魔法防御とに通常時の半分以下にまで減ってしまっている。そのような状態であのリャストルクと同じ種族の一撃を受けて無事では済まない。 脳裏には、一ヶ月前の光景が甦って来た。胸を貫かれ、癒す事が出来ずに死なせてしまった目の前の少女と同じ顔をした――キルリの事を。 止めないといけないのに、どうして、どうして動かないんだよ⁉ もう、あんな思いをするのは御免なんだ! だから、動けよ! 動けよぉ‼「止せ! やめろ!」 彼女を操っているノディマッドですらファイネを止めようとする。 けれど、ノディマッドの制止を訊かずに、そして俺は動く事は出来ずに。 ファイネは、引き金を引いてしまった。 ノディマッドの銃口から放たれた青い銃弾は、ファイネの装備している鎧と胸に直径十センチ程の綺麗な円形の孔を穿ちながら、彼女の体を通り過ぎて『エリアブロック』の桃色の障壁にぶち当たって消え去った。 ファイネの胸に開いた孔から血がどばっと流出する。口から、鼻から、血が飛び出してくる。あれでは肺も心臓も、そして脊髄も損傷してしまっただろうからもう長くはない。膝から崩れ落ちると、それでも偽金剛銃は手にしたまま俯せになるように倒れ込む。彼女の体の中心に、石畳の舞台に赤い血の溜まりを形成させていってしまう。 体が上下に動いている様子はない。つまり、呼吸はしていないと言う事だ。あれ程の大きさの孔が開いたのだ。肺はただの損傷だけじゃなくて、ほとんど消失してしまったのかもしれない。同様に、心臓も消え去ったと見るのが妥当だろう。 俺は、そこまで状況判断してから自分に嫌気が差して、そして血の気が一気に下がっていくのを感じ、動いても無いのに倒れたファイネがどんどん遠くへと離れていくかのような錯覚に陥った。 どうしてこういう時に限ってこう目の前の状況を理解しようと頭を働かせるんだ? ここは取り乱してもいい筈なのに、でも、冷静でいられるようにと滲みついてしまった俺の思考回路は取り乱す事を拒絶し、現実を厭が応にも認識させてくる。 あぁ……また、繰り返すのか? 俺はまた繰り返してしまうのか? 今の俺の精神力はたったの5。ヒールを使うには10必要なのに、また使えない状況だ。そして回復薬もない。薬草も持ち込めなかった。もし、あの時も、今回も、ヒールさえ使えれば、回復薬さえあれば、薬草さえ手元にあれば、救えたのに。救えるのに。 何か、何か方法はないか? 目の前の少女を死なせない為の、操られてしまっただけの可哀想な少女を助ける方法は、ないか? 方法、方法、方法……。 ………………………………………………………………駄目だ。 思い、浮かばない……。 この傷では傷口を焼いて血を止めたとしても生命活動に必要な臓器が無くなってしまっているのだ。延命措置にもなりはしない。だからと言って外部に助けを求めようにも『エリアブロック』の壁がそれを邪魔をするし、今の俺の力程度では破る事も出来ない。リャストルクを使っても、それは不可能だろう。何せ、俺よりも攻撃力のあるファイネによる偽金剛銃の一撃でさえもひび一つ入らなかったのだ。俺なんかでは無理だ。『方法なら、ある』 リャストルクが、諦めかけていた俺に救いの手を差し伸べてくる。「く、この小娘が……っ!」 内容を聞こうとした瞬間に、身動き一つしなかったファイネが、まるで糸で操られている人形のように不審な挙動で起き上がらせられる。意識を手放した状態であっても離さなかったノディマッドの銃身が淡く光っている。「そこまでして、この異端者を傷付けまいとするかっ!」 思惑通りに事が運ばなかったらしいノディマッドはもし人間のような容姿ならばかたかたと肩を震わせ、顔を真っ赤に染め上げて憤っているに違いないだろう。「……だが」「……ハイ、ヒー……ル。……ハイ、ヒール。ハイヒール」 ノディマッドはファイネの操り、銃を持っていない左手を孔の開いた胸へとかざし、回復魔法を唱えさせる。唱える毎に口から血を吐き、淡い光が胸を包み、傷口を完全に癒す。「自決するのであれば、胸ではなく頭を撃つべきだったな。命がある限りは我は貴様を操る事は出来、更には貴様自身が使える魔法を唱える事が出来る。故に、瀕死程度ならば回復魔法で治癒される運命にある。まぁ、もっとも。回復出来ぬ状況であるならばそのままの状態で異端者を殺させるがな。回復させたのはあくまで異端者を殺しやすいコンディションにする為だ」 傷は完全に塞がって何事も無かったかのように見える。しかし穿たれた鎧の穴とその周り及び口と鼻から流れている血液が生死に関わる程のダメージを受けていた事を如実に物語っている。 結果的にファイネは助かった……。俺は喜ぶべき事なのに、手放しにそれを行う事はどうしても出来ない。「つまり、貴様がした事は無駄骨に終わったのだ。即死でもしない限り、貴様は貴様自身の手で異端者を縊り殺す。または捻り殺す。または締め殺す。または殴り殺す。または突き殺す。または切り殺す。または撃ち殺す……殺す事から逃れられない運命にあるのだからな」 明滅する偽金剛銃はもう意識が残されていない『ドラゴン・ブラッド』を解放している少女に鼻で笑うかのように告げていく。「……さて、この世の存在ではない異端者よ」 虚ろな瞳でファイネは俺を見て、ノディマッドの銃口を俺に向けてくる。「少々茶番が入ってしまったが、始めようではないか。一方的な殺戮を」 背中の翼を展開し、尻尾で地面を叩いて反動をつけて真っ直ぐと上昇していく。空と飛んだ理由は、恐らく俺がもう飛べない事を見越して、俺からの邪魔が入らないようにと 俺は上昇していくファイネに視線を注ぎ、リャストルクの柄を握る力を強める。 ……リャストルク。『何じゃ?』 あいつ、お前の同族だけど、ぶっ壊しても構わないよな?『当然』 俺は、俺とは関係の無かった少女をまるで使い捨ての道具のように扱うノディマッドが許せない。 頭は冷めてる。けれど、胸の内は怒りが込み上げてくる。 怒りは当然ノディマッドに対してと……俺自身に対して。 ファイネを巻き込むな。 俺を殺したければ一人で来い。 俺も、ファイネに責任を感じさせるな。「ウィンドヴェール」 俺は敏捷力を上げる為に風の鎧を纏わせる。『ファイアショット』を一発、もしくは『刃波』を二発撃ってもいいが、難なくと避けるだろう。それに下手をするとファイネを傷付けてしまう可能性もあった。なので、ここは隙を見付ける為に俺の敏捷力を上げる事にした。
『精神力:0/90』
 精神力は0となったが、虚脱の異常状態にはならない。それが分かっていたから、俺は『ウィンドヴェール』を唱えたんだ。俺が『エンプサ・ブラッド』状態の時に発動した『ナイトメア』が全部不発に終わったのは偽金剛銃の状態異常耐性付加によるものだ。あれと同じ種族である偽石英剣リャストルクを持っている状態ならば、状態異常にはならないと踏んだのだ。案の定、虚脱にはならずに体の力は抜けていない。「ふん、今更風の鎧を纏って何になる? お前は既に血の力を使い果たし、空を飛べないではないか。風の鎧程度では、ここまで来る事は出来まい」 上空五メートルでノディマッドは呆れるように俺を貶し、銃口の先に青い光を収束させていく。それはどんどんと大きくなり、憶測で十センチ程度の光球の形となる。「さらばだ」「バーストショット」 操られたファイネが『バーストショット』――恐らくこれから放つ特殊技の名前なのだろう――と口にする。『避けるのじゃ! あれは単発に見えるが直ぐに拡散し、雨霰の如く降り注いでくるぞ!』 特殊技の名前が唱えられたと同時にリャストルクが思考を流して注意を呼び掛けてくる。 俺は反射的に距離を取ろうとバックステップで後ずさる。すると、ファイネは引き金を引いて銃口の先に溜まった青い光を俺に向けてぶっ放してきた。 リャストルクの言葉通り、青い光弾は即座に数十と言う小さな光の弾となって辺りに拡散していった。速度は音速を超えているだろう。 音の速度にさえも対応出来る筈もない俺はそれを避けきれる事は出来ずに、風の鎧の上から何発か喰らってしまい、右肩、右胸、右腕、左横腹、右の太腿、左足の甲に孔が開く。当たった石畳は綺麗に撃ち抜かれて黒い穴を形成させている。撃ち抜かれた箇所には白煙が立ち上り、一時的に両者の視界を遮っていく。「ぐっ!」 幸いなのは眉間を貫かれなかった事だろう。もしそこを貫かれていれば即死していた。また、俺が受けた光は他の拡散していったものよりも小さいのもこうしてまだ生きている事に繋がっている。 それでも決して楽観視していいものではない。当たった箇所は左腕をぶっ飛ばされた時よりも軽傷で三センチ程度の穴が開いただけ軽傷で済んだが、それでも激痛が走り、胸の貫かれた事により呼吸が変になり、以前にも経験した溺れたかのような感覚がある。
『生命力:17/900』
 ダメージは大きく、生命力が300以上も削られている。赤く表示される生命力の数値から、『リミットオーバーガード』と『リミットオーバーアタック』が発動している事が窺えるが、焼け石に水の状態だろう。『難とか無事のようじゃの』 リャストルクが俺の命がまだある事に安心する。リャストルクにも光弾が当たっていたのだが、特にダメージを受けているようには見えない。『今のあ奴と妾は同格じゃから、おいそれと壊れはせんよ。しかし……もう後は無いぞ?』 そうだね。後一発。それもただ殴りに来ただけでも俺は死ぬよ。『ドラゴン・ブラッド』の速さじゃ、『ウィンドヴェール』を纏ってても避けきれるとは思えない。 けど、俺は逃げない。最後まで戦い抜いてやる。一ヶ月前に味わった事を繰り返さない為にも。道具のように扱われている目の前の少女を助ける為にも。あの偽金剛銃をぶっ壊す為にも。『一応言っておくと、冷静さを欠いているノディマッドは直接手を下そうとせんじゃろう。自身の持つ最大の一撃で跡形もなく消し飛ばす……そのような行動を取るじゃろうな』 そうか。つまり、もう一度『バーストショット』が来ると。『恐らくそうじゃろう。今のあ奴の持てる最大があれじゃろうから、十中八九な』 と、ここで白煙が散り、視界がほぼ正常に戻る。「まだ息があるか。……しかし、これで終わりだ」 空に浮かんでいるファイネがノディマッドの銃口を再び俺に向けてくる。そこには先程と同じように光が収束していき球を作る。 あれを受ければ、俺は確実に死ぬ。速度的にも、範囲的にも避ける事は絶望的だ。『一時の薙ぎ手よ』 何だ?『一つ、この場を乗り切る手があるのじゃが』 手? そんなのがあるのか? ……もしかして、さっきファイネを助ける為の方法と同じか?『そうじゃ。そしてそれはお主の同意と契約が必要なのじゃよ』 同意と契約?『うむ』 それは何だよ?『それはじゃな』 偽石英剣リャストルクは口早に、しかし、俺がしっかりと聞き取れるように内容を口にする。『妾の正式な薙ぎ手となる事じゃ』

「End Cycle Story」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く