End Cycle Story

島地 雷夢

第44話

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 御免なさい。 私の所為で、こんな事になるなんて思わなかったの。 本当に、御免なさい。 私はただ、純粋に君に興味があって戦いたかっただけなの。 食堂で初めて君を見た時、胸の奥がざわついたの。どうして胸がざわつくのか分からなくて動揺してたら、君はもう食堂を出てた。 でも、それもその日の夜にどうして胸がざわついたのか分かった。君も、祖先の血の力を使えたんだね。あの日、君が背中に生やした翼を羽ばたかせて屋上に上ってきたのを見てたんだよ。私、竜の血の御蔭で夜目が利くんだ。あの時は確かに見回りで屋根の上を移動してたけど、偶然だよ、君を見たのは。そして、君を見た瞬間に胸がまたざわついたの。だから、このざわつきは血と血が何かしら惹かれ合ったんじゃないかって思ったんだ。 私が声を掛けて君が振り返って私を見た時、君は驚いた顔をしてたね、あれはやっぱり屋上に人がいた事に対してじゃなくて、亡くなってしまった君の知り合いに似ていたからだよね。あの時の私はそんな事全然知らなくて、君が一体どんな祖先の力を使うのかしか興味が無くて、話をしていればそのうち口にするかな? とか思ってて、君が泣いた時にも欠伸だと言ったのを疑いもせずに素直に信じて、君の気持ちに気付いてあげられなくて、御免。 夜の見回りを再開させた私は、その次の日から、あまりにも自分勝手だったけど、君が泊まっていた宿を突き止めて、実際に戦って祖先の血の力を見てみようと思って半ば強制的に君を大会に参加するように仕向けた。騎士団は私闘の類いは禁止されてるから、こんな形でしか戦う事は出来なかったの。窓から入った私は君が大会に参加するように君の御連れの少女二人と喋った剣にも協力を仰いで、一緒に私の家まで来て貰ったの。剣が喋ったのは正直言ってかなり動揺したけど、害意は無いって事だったから赤茶の髪の子――スーネルちゃんに持って貰ったの。私じゃ重くてとてもじゃないけど持てなかったから。 あの子達――スーネルちゃんとリルちゃんから君の事について色々と訊いたよ。二ヶ月前に君が何処か遠くからこの国に来てしまった事、一ヶ月前に起きた『エルソの災害』を経験した事、その時に祖先の血の力に目覚めた事、そして――知り合いを災害で亡くした事。 その知り合い――キルリちゃんと言う子と私の顔がとてもよく似ていると言う事も。スーネルちゃんは最初私の顔を見た時、とても驚いていて、それは窓から入ったからだと思っていたけど、そうじゃなかったんだって分かった。ただ、亡くなってしまった知り合いに似ていたから、それでびっくりしたんだって。 それは君にも当て嵌まったんだよね。 君が、キルリちゃんを失くして一番悲しんでいたって訊いて、私は胸がずきりと痛んだんだ。そして、初めて会った日の屋上での君を改めて思い返したんだ。私を見た時に驚いて、何かを堪えるようにして、泣いてた。 君は、キルリちゃんに似てる私を見て、彼女を思い出しちゃってたんだよね。キルリちゃんとの思い出が溢れて来て、どうしようもないくらいに心が揺れて、揺らいで、感情が溢れ出ちゃったんだよね。キルリちゃんに会いたいって、思っちゃったんだよね。 私は知らなかったとは言え、君にとても残酷な事してしまった。 でも、私はそれでも君の力を見てみたいと思ってしまって、大会を棄権してもいいとは伝えずに、予選ブロックで自分の試合をこなしながら君の戦いを見てた。自分勝手な事をしていると自分を毒吐きながら、何時祖先の血の力を使うんだろうと期待していた。 予選ブロックが終わって、君が決勝トーナメントに出場出来ると結果が出ると、私はどうしていいのか分からなくなった。いや、嬉しかったのは勿論ある。決勝トーナメントともなれば、君も予選では使わなかった祖先の血の力を使うかもしれないとも思ったし、私と戦えるかもしれないとも思った。 けど、それ以上に君にこれ以上負担を強いるのは行けないとも思った。これは私の我儘によって無理矢理参加させられているだけだ。君自身は大会優勝を目標としていなくて、私と戦ってスーネルちゃんとリルちゃんを取り戻そうとしているだけ。本心から試合に臨もうとしていないのだから、楽しむ、心躍るなんて事は決して有り得ない。 だから、私は君と試合しなくてもいいと告げる為か、はたまた君と押し合いを楽しみにしていると告げる為か定かではない心の状態で君が取っている宿の部屋の前で君が帰ってくるのを待ってた。 君が帰って来た時にした私の反応は――最低だと思う。 私を見る事が苦になるだろうに、それでも私は君の手を握ったり、悪戯心が芽生えて頬にキスしたりしてしまった。そんな事をしてしまった所為で、君にキルリちゃんの事をまた思い出させちゃった。 そして、自分は何て馬鹿な事をしてしまったんだろうと嘆いた。悔やんだ。私は、君にそう言う顔をさせたかった訳じゃないの。君を泣かせたかった訳じゃないの。ただ、君の祖先の力に興味があって、その力を見たくて、実感したくて戦いたいだけだった。 なのに……。 私は自分に嫌気が差して、見回りがあると嘘を吐いて、また明日と言ってしまって、君の前から逃げ出した。あの時、また明日じゃなくて、もう大会を無理に出る必要はないって言っておけばよかったと今でも悔やんでる。 君の前からいなくなった私は、私の家にいるスーネルちゃんとリルちゃんを今日の朝――試合が始まる前に君の下へと帰そうと思った。もう、私は君の祖先の血の力を見てみたいなんて思わなくなって、これ以上、君を苦しめたくないって思った。 でも、それにしても一度は謝りその旨を伝えようと宿から出た時に思って、逡巡したけど足はもう帰路に向かっていた。謝るにしても、直ぐに私の顔を見てまた君を悲しませたくなかったから。 今思えば、あの時連続で悲哀な想いをさせてでも、私の良心の呵責なんて跳ね除けて君に謝りに行けば、こんな事にはならなかったのに。 帰路を歩いてる時だった。私の頭上から、それは降って来たんだ。 見た事も無い形状。杖にしては歪だし、かと言って武器には見えなかった。いえ、どちらかと言えば武器の方がしっくりと来るかな? ボウガンに似てたから。けど、矢をつがえる機構が全く見受けられなかったから、ボウガンじゃない事は分かってたけど、私はそれを屈んで拾い上げてしまった。 そうしたら、体の自由が利かなくなった。屈んだ状態のまま私は固まった。『竜の血を宿す者、か』 不意に頭の中に声が響いた。鼓膜を振動させたんじゃないって事は感覚的に分かったから、誰かが感応魔法の『テレパスコール』でもしてきたのかと思った。けど、そうじゃないって直ぐに理解してしまったんだ。『用が済むまでの間、貴様の体を借りるぞ』 私が手にしたものから体の内側へと、蛆虫や蚯蚓と言ったあの細長くてうにょうにょしている生き物が這いずりまわっているかのような感覚が襲い掛かってきて、凄く気持ちが悪かった。それが手足の先まで、そして頭の天辺まできて吐き気が襲ってきたけど、私は吐く事も無く――いや、吐く事が許されずに勝手に足が動いた。 自分の意思で動いているのではないのがこれ程までに怖いとは思わなかった。操作魔法も存在するらしいけど、これは魔法じゃない。魔法なら魔法名を言わなければ発動しないし、そもそも他人を操る魔法なんて存在しない。だから、これは手にしたものがやってる事なんだって、ものに見えて意思がある何者かだって。 勝手に動かさないで! そう口を動かして叫ぼうとしたけど、口は全く動かなかった。私の自由は文字通りに奪われてしまっていた。私は重い足取りで街を練り歩いた。それは夜の間ずっとで、日の光が街を照らしだすとぴたりと止まった。『漸く慣れたな』 それだけ言うと私の体は急に走り出した。それでさっきまでの鈍行は体を慣らす為のウォーミングアップのようなものであり、それを終えたらしい手にした何かは真っ直ぐと私の家まで走った。どうして私の家の場所を知っているのだろう? と疑問に思うと、何かは律儀に答えた。『我は貴様の記憶を読み取った。故に貴様の家の場所。そして――貴様が攫ったものが何であるかも分かっている』 それを訊いた瞬間に肝が冷えた。普通ならば家には誰にもいないが、今はそうではない。とある事情で家に人がいる状態となっていた。 今、私の家にいるのは、スーネルちゃんにリルちゃんだ。 これの目的が何かは知らなかったけど、嫌な予感しかしなかった。 案の定とも言うべきか、その何かは私の家の前までくる手にした何かの先を私の家に向けた。 すると、何かの先から光る弾が発射された。光の弾家の壁を貫通し、崩落させてしまったのだ。人体に当たってしまっては風穴が開いてしまう。「ファイネさん⁉」 家に開いてしまった穴から見えたスーネルちゃんは私から距離を取ってリルちゃんを後ろに隠し、あの話す剣――リャストルクとか言った名前――を手にして私に向けていたけど、切り掛かろうとする気配は見られず、あくまで威嚇が目的だったみたい。『むっ⁉ お前は!』 リャストルクが私を見て――ううん、私の持ってる何かを見て驚きの声を上げた。それと同時に、何かの先は剣に向けられまた引き金を引こうと力が籠り始める。 このままだと、スーネルちゃん達が危ない! 私は全身全霊を掛けて、引き金を引くまいと引こうとする指の力に抗った。 何度も何度も退こうとする指を、何度も何度も押し止めた。『む……、まだ抗う程の意識があるか。……致し方ないな。もう少し体を慣らさなければ。我の獲物はあくまで異端者。今は裏切り者なぞに構っている暇はない……が、このままであればこ奴等は邪魔を仕出かしだろう。ならば』 何かは私の頭の中で独り言を言うと、そいつが勝手に私の口を動かしてきた。「ルームクリエイト」 それは空間魔法の名前だった。魔法名を言い終わると、二人の背後に亀裂が走り、二人と喋る剣を吸い込んでしまった。『……このままであると、異端者と対峙したとて抗われる可能性がある、か。なら、体の自由だけでなく、意識までも封じ込めた方がよかろう』 その言葉を最後に、私の体は完全に自由を失った操り人形になった。視界がぼやけ、まるで浮遊しているかのような感覚に陥った。 そして、操られた私は君と確実に戦わせようとした何かによって不正紛いの事を強いられ、武闘大会で君と戦う事となった。私は、これが君を狙っている事をこの時点で知り、そして決して逃げられない舞台を整える為に、わざわざ武闘大会で殺そうとしている事も知ってしまった。 君と戦う事を強制した表向きの大義名分は、君への私の告白。まさか、こいつが私を操ってそんな事を言い出すとは思っても見なくて、操られていながらも私は恥ずかしさに顔を赤らめたと思った。確かに過去の武闘大会――数百年も前だけど愛の告白の為だけに特権を使用した団長も存在したらしいけど、でも普通は言わないだろう。『さて、もう完全に意識も奪える頃合だろう』 こいつが勝手にのたまった次の瞬間には、私の視界は暗転した。音も聞こえなくなり、そして何も感じなくなった。 何も分からない私は、それこそ君の無事を祈った。 けど、現実は無事――とは言い切れないものだった。
「俺は、ファイネをお前の呪縛から解放する」
 私の視界に、光が戻った。音が戻った。感覚が戻った。 君の――その声が私の意識を暗闇の呪縛から解き放ってくれた。どうしてだか私にも分からないけど、君のその言葉は、とても力強くて、とても優しくて、とても頼りがいのある物だった。 でもね、身勝手だけど感覚なんて戻ってこなければよかったと後悔した。 私の眼には、あの喋る剣を構えた、左腕が無くなってしまった、とても痛々しい君の姿が入ってきた。 あぁ……もしかして。いや、もしかしなくても、これは私の所為なんだ。私がこれを拾わなければ、君はそんな怪我をしなくても済んだんだ。 何で、我が儘を言って無理矢理戦わせられる羽目になった元凶の私を助けてようとしているんだろう? 何で、左腕が無くなっても、肩で息をしていても意志の強さを感じる両の眼で真っ直ぐと私を見ているんだろう?「はっ、戯言を。ならば、我を娘から離してみせよ。――竜の血を解放した、この娘からな!」 手にした何かは私の体を巡る竜の血を勝手に解放していく。私の頭には角が、背中には翼が、手には鋭い爪が、そして爬虫類の蜥蜴が生えていく。 このままだと、君はやられてしまう。竜の血は、速さと威力に重点を置いた力だ。だから、片腕を失って体力も減ってしまっている君は、直ぐに殺されてしまう。それ程に、竜の血を解放した私の力は凄まじい。 私は、君に謝らないといけないのに。そんな君を、まるで紙を握り潰すかのように殺そうとしている。 それだけは、それだけは駄目だ。「むっ⁉ どうして体が動かんのだ⁉」 これ以上、こいつの好きにさせては駄目だ。 私はこいつを持った手を必死で動かし、その先を私自身に向ける。「貴様っ‼ 意識を取り戻したのか⁉」 ゆっくりと、抗ってくる腕を震わせながらも君をもう傷つけさせない為に、私の意識が閉じ込められる前に、もっとも確実で、もっとも簡単な方法で、全てを終わらせるよ。 もう、君には迷惑を掛けないから。「……御免、ね」 私は何かの先を胸に当て、引き金に掛かっている指を一気に引く。「止せ! やめろ!」 何かは抗議してくるが、もう、遅い。 私は、引き金を引いた。 胸に孔が空き、意識が遠退いて行く。 これで、もう……君、を……傷、つける、事……は、ない、よ……。
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