End Cycle Story

島地 雷夢

第42話

 俺とファイネとの距離は目測で十五メートル。先程までは接近戦をしていたけど、止めに入ろうとした審判へと吹き飛ばす為に俺から距離を取ったので現在は距離が開いている。これは運がいいとは正直に言えない。 距離が開いてしまえば銃から青い弾丸が発射されてしまう。弾丸は正に眼にも止まらぬスピードなので弾が発射されてからの回避行動は例え動体視力が凄くよくて反射神経も抜群でも無理だ。かと言ってトリガーに手を掛けた時に防御をしたとしても『サンダーフォール』をやすやすと貫通する程の威力も持っているので防御も得策ではない。やるのはトリガーに手を掛けられた時に左右に跳んで避ける事。そうすれば、弾が発射される前に避けている事になり、被弾の確率が減る。それでも、避けるタイミングを間違えれば銃口を向け直して即座に撃ち抜かれるだろう。 なので、小回りの利かない一メートルもありそうな銃を使われない為にも早めに距離を縮めなければいけない。 案の定と言うべきか、駆け出した俺に向けてファイネは銃口を俺に向ける。俺は遠めだが、目を凝らし、トリガーに掛けられた右の人差し指を注視する。 僅かに力が入ったと感じた瞬間に進行方向から見て右斜め前方へと跳ぶ。跳んだ半瞬後に無機物同士を勢いよく叩き付けたような鈍い音が鳴り響き、俺の左横を青の弾丸が奇跡を描いて通り過ぎて行った。一撃目は回避成功。 だが、跳び方がきちんとなっていなかったので、爪先から着地し、勢いを殺せずに強制的に前転して片膝をつく羽目になる。これが結構なタイムロスになる。 救いなのは、あの銃がマシンガンとかガトリングガンのような連射タイプではない事だな。形状からしてもそうだけど、一番初めに放った弾丸とその次に射出された弾丸の間にタイムラグが生じていたのは分かっている。どうしてなのかは分からないけど、そこを利用して少しでも距離を縮めなければならない。 とは言っても、そこまで長いタイムラグでもなく、精々二、三秒しかない。なので、着地を失敗して転んだり前転したりしてしまうと直ぐに回避行動に移らなければならず、あまり距離を稼ぐ事が出来なくなってしまう。なので、回避行動には細心の注意を払わなければならない。 そう思っている間にも、ファイネの人差し指に力が入ったと感じたので、片膝をついた状態でそのまま左前方へと無理な体制で跳ぶ。片足だけのばねだったのであまり飛距離は出ず、足先に弾が掠る。ちっ、と音を立てるが黒蜥蜴のブーツだけに当たったので俺へのダメージは無い。 また、無理な姿勢からの跳躍だったので、今度は両膝をついて、それに加えて両手も地面についてしまう。「やっべ……」 と冷や汗が頬を伝った瞬間に俺は後頭部を守るように両手を当て、ファイネの方を向く暇もなく身を丸めながら右に転がる。間一髪、ファイネの放った弾丸は俺が先程まで両手両膝をついていた箇所へと的確に放たれており、俺の耳に石畳が砕ける音が聞こえた。 転がって回避してしまったので、体を伸ばして足裏を地面につけ、手をついて起きると言う動作をしなければならなくなった。が、どう考えても俺が起きる為の動作をしてくれる事を許してはくれないだろう。 なので、そのままの姿勢で今度は左に転がる。再び耳に石畳が破壊される音が聞こえてくる。 ヤバい。最悪のループに入ってしまった。転がってばかりではファイネの下へと辿り着けないだろうし、かと言って起き上がろうとすれば銃弾に貫かれる。転がりながらファイネの下へと向かう案は却下だ。転がりながらの進行方向の変更は正直言って無意味に近いし、仮に辿り着けたとしても目が回っている自信がある。三半規管が狂った状態で真面に立ち上がって『ナイトメア』を発動させる事は出来ないだろう。 なので、どうにかこのループを抜け出す為の打開策を考えながら勘で左右交互、時々同じ方へと転がる。 それを繰り返しているうちに、俺は気付いた。弾丸が発射される際の音が、少し大きくなっているのを。そしてかつかつとした音が聞こえてくるのを。それはつまり――。「がっ!」 左に転がろうとした俺の腹部に先の尖った何かが打ち込まれる。陶蜂の軽鎧が守っているにも関わらず、内蔵を無理矢理に圧縮させられ、横隔膜が縮み、肺から空気が一気に無くなる。一時的な酸欠に苦しむ時間も、胃の内容物を吐きそうになる時間も無く、この一撃で俺の体は宙へと舞い、地面へと落ちて数度バウンドし、勢いがなくなるまで地面を転がり続けた。ここまでの衝撃を受けても骨折をしなかったのは陶蜂の軽鎧の御蔭だろう。
『生命力:545/900』
「ら、ライトスフィア!」 転がり終えると俺は仰向けのまま即座に『ライトスフィア』を唱える。
『精神力:25/90』
 光の障壁が俺を包むと同時に、青い弾丸がそれにぶち当たり、軌道が逸れて右脇に開いた箇所へと撃ち込まれた。『ライトスフィア』の弾丸が当たった箇所は他の場所よりも薄くなっていた。 咄嗟に『ライトスフィア』を発動させてしまったが、項を成したようだ。しかし、今の俺が使える最大の魔法である『ライトスフィア』でさえも、弾丸を消し去る事はおろか防ぐ事も出来ず、軌道を逸らすだけだった。まぁ、軌道を逸らすだけでもかなり有り難かった。これで『サンダーフォール』の時のように貫通してしまっていたら、俺は今頃胸の中心に弾を撃ち込まれていただろう。 俺は『ライトスフィア』が発動している間に体を起こし、激痛の走る腹部を押さえてファイネの方へと見る。彼女が立っている場所は先程まで俺がいたであろう場所だ。発射時の音が大きくなっていた事から、彼女が弾丸を放ちながら俺の方へと向かっていたらしい事が窺える。そして、そのままの勢いで俺の腹部を爪先で蹴り上げたのだろう。男一人を軽々と吹き飛ばす蹴りの威力はやはり計り知れない。ダメージも300オーバーだ。 ふと、押さえている手に刺々しい感触が伝わってきたので陶蜂の軽鎧の腹部に目をやる。そこには衝撃を受けたであろう一点から四方八方へと亀裂が走っていた。細かな白い欠片がぼろぼろと落ちていく。鎧を砕く蹴りって……洒落にならないな。 鎧を確認しているとまた弾丸が撃たれたが、『ライトスフィア』により弾道は本来の道筋から逸れて石畳に着弾する。つくづく、この光属性の魔法には救われているなと思う。レガンクインビーとの戦闘でもレガンビー二匹を倒して、レガンクインビーから発射された針をも防いだし、スーネルから『ライトスフィア』を覚えるように勧められて助かったよ。 この『ライトスフィア』の効果が切れる前に、ファイネの下へと一気に駆ける!「うぉぉおおおおおおおおおおおお!」 いきなり雄叫びを上げても感情を失くしているファイネには一時的にも体を硬直させるような効果はない。ただ、腹部の痛みを意識から逸らす為に上げたに過ぎない。けど、声を上げた事で余計に腹部が痛み逆効果になってしまった。 それでも、痛みによってよろけずに真っ直ぐファイネへと向かう。 ファイネは銃弾を放っても無駄だと悟ったらしく、俺から距離を取ろうと体を反転させ、首を回してこちらの様子を窺いながら走り出す。走行速度はファイネの方がやや上であり、このまま追いかけっこをしたとしても『ライトスフィア』の効果が切れる前に超至近距離まで近づく事は不可能だ。 それでも、俺は走る。これ以上距離を離されてはならないから、俺は全力でファイネの後を追う。 二十秒もの時間が過ぎた。これにより、俺を守るように包んでいた『ライトスフィア』が消失した。 光の障壁が消え去った事を確認したファイネは急ブレーキを掛け、左手を地面につけて体を急速に反転させて右手に持った銃を俺に向ける。ファイネの右人差し指は今まさにトリガーへと添えられようとしている。「フロストカーテン!」 トリガーに指が触れる前に、俺は周囲に粉雪を舞わせた。
『精神力:20/90』
 粉雪によって二メートル先に見える景色が断たれ、俺からファイネの姿が見えなくなった。しかし、それはファイネからも同じだ。俺は念の為にと左前方へと進路を変更する。すると、先程まで俺がいた箇所に銃弾が放たれた。銃弾は粉雪を一瞬払うも、直ぐに穴を埋めていく。『フロストカーテン』によって視界が白一面になっているであろうファイネの背後へと回って、一気に近付く事にした。『フロストカーテン』の効果時間は僅か十秒だが、それだけあれば、至近距離まで近付く事が出来るだろう。 俺は自分の記憶を頼りに、ファイネの方へと向かう。先ずはファイネを『フロストカーテン』が降らせている粉雪の中へと入れなければ、俺がどのように動いているのかが降りしきる粉雪の移動で分かってしまう。粉雪の範囲が実際何処までかは分からないけど、兎に角俺は左右にステップを踏みながら五メートルまで距離を縮めようと駆ける。 ファイネの足音が聞こえず、銃弾が石畳を撃ち抜く音が聞こえる事から、ファイネはその場に留まって俺を撃ち抜こうとしているようだ。もし、ファイネが正気だったらそのおうな愚行はしなかったと思う。この場合も、『ライトスフィア』を張った時と同じように距離を開ければよかったのだ。そうすれば、視界が白に覆われる事は無かっただろう。 残り約五メートルまで近付いただろうと予測される所で、銃撃の音は止んだ。視界が白一色で目の前が何も見えないから闇雲に撃っても無駄だと思ったのだろう。そして、視界を確保しようと遮二無二に走り出そうともしていない。視界が不明瞭な時点で下手に動くと逆に策に嵌まるとでも思っているのだろうけど、この場合はその考え自体が悪手だ。もし動いていれば俺は肺語を取る事は出来なくなっていただろうから。 銃撃が止んだタイミングで、俺は正面にいるだろうファイネの背後へと向かう為に弧を描くように走る。そして、背後へと回ったと思った瞬間に『ブラッド・オープン』を解放し『エンプサ・ブラッド』になり、翼を羽ばたかせてそちらの方へと全力で飛ぶ。 それと同時に、『フロストカーテン』は切れ、降りしきる粉雪が消え去る。 俺の視界にはファイネの後ろ姿が映し出される。俺は左手を伸ばす。どこでもいい。ファイネの体の何処かしかにさえ触れれば『ナイトメア』を発動出来る。そうすれば、こんな出来事を終わらせる事が――。「なっ!?」 俺の左の指先がファイネの左肩に触れる寸前に、ファイネは体を落として姿勢を低くして回避した。嘘だろ……完全に真後ろ向いていたし、『フロストカーテン』が晴れてから触れる寸前までで一秒も時間は掛かっていない。なのに、どうしてファイネは反応出来たんだ? 俺が呆気にとられていると。「ぐぶっ!」 胸に衝撃が走る。胸骨が揺れ、肺が振動し、呼吸が止まる。
『生命力:214/900』
 見れば、ファイネが両手を地面につけ、馬のように左足で俺の胸を蹴り上げていた。ファイネは回避しただけでなく、攻撃も同時に行っていた。
 ピシピシバキャッ!
 壊れる音がした。それは俺の肋骨が折れた音ではない。陶蜂の軽鎧の胸部分がひび割れ、そのひびが腹部の亀裂と結合して、原形を留めずに砕け散った音だ。背面部は無傷だけど、前面部が完全に無くなり、それに伴って留め具すらも強制的に意味をなさなくなって背中にただ背負われた状態の残り部分が地面に胸から落ちた衝撃で零れ落ちた。守りのなくなった胸と顔面が石畳に強打され、骨が折れるのではないかと言うくらいの痛みが走ったが、幸いな事に鼻の骨も折れる事はなかった。 落下時の衝撃で止まった呼吸が再稼働され、勢いよく息を吸い込むと胸が痛んだ。肺に何かしらの支障が出てしまったのかもしれない。 と、俺の後頭部に何かが押し付けられる。いや、何かではないな。銃口を押し付けられたのだろう。ファイネは無感情な目で俺を見下ろし、無慈悲に引き金を引くのだろう。それで弾丸が発射され、俺の後頭部を撃ち抜いて脳漿をぶちまけ、俺の命は果てるのだろう。 けど、俺は諦めない。 俺は一か八かで胸と腹の痛みを歯を食い縛りながら堪え、右手で後頭部に先を当てている銃身を掴み、やや上方へと銃口を逸らす。 その際に、銃を掴んだ為か、俺の視界に名称と能力が記載されたウィンドウが現れる。
『偽金剛銃ノディマッド:#####』
 能力はリャストルクと同様に分からなかったが、この銃の名前は分かった。偽金剛銃ノディマッド。それが、リャストルクと同系統の武器で、恐らく意思を持っているであろう銃で、ファイネを操っているであろう元凶の名前だ。 逸れた銃口から、青い弾丸が発射された。それは俺の後頭部に生えている髪の毛を掠り、地面に弾痕を残した。 俺はノディマッドを掴んだ手を放さずに、そのまま力を加えて自分の方へと引き寄せる。その力を利用して俺は僅かに上体を起こし、崩れそうになる姿勢を保とうと足に力を入れているファイネの右足首を左手で掴む。「ナイトメア! ナイトメア! ナイトメア!」 俺はこのチャンスを逃さない為にも三連続で『ナイトメア』を発動させる。頼む、これで眠ってくれ――。
「無駄だ」
 ――しかし、俺の願いはファイネの発したものではない、無機質な音に近い声によって打ち砕かれる。 俺の顔は自然と偽金剛銃へと向けられる。偽金剛銃の銃身は淡く光り、僅かにだが震えていた。リャストルクが話す時と同じ現象が起きていた。「我に触れている者は状態異常にはならん。無論、竜の血の弱点である眠りと混乱にする技を食らったとしても、だ」 声も銃から聞こえてくる事から、やはり偽金剛銃ノディマッドも意思を持っていたと確信する。そして、ノディマッドは俺の『ナイトメア』の効果までも知っているようだ。 どうして知っているのだろう? と言う疑問を覚えていると、銃身を持っていた右手を振り払われ、銃口が俺の左肘に当てられる。「いい加減、我が操っている娘の足から手を放せ」 ノディマッドの言葉と同時に、銃弾が発射される。 銃口が当てられていた俺の左肘には孔は開かなかった。開かなかった理由は単純だ。左肘が消失したからだ。左肘は銃弾が肉と骨の中を通過する際に生じた衝撃によってぐちゃぐちゃになって原形を留めずに四方に飛び散った。 銃弾が左肘を破壊した直後は時が恐ろしい程に遅く流れ、可動兼接続部位を失った俺の左腕の半分――欠人形の籠手が装備された肘より先の部分が反動によりファイネの足首から離され、肘関節を失った箇所から血を撒き散らしながら宙を舞った。
『生命力:89/900』


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