End Cycle Story

島地 雷夢

第37話

 天気は晴れやかな青空が広がっているのではなく、薄く少しグレーがかった白い雲が空を全面覆っている曇り空。空気に湿り気が然程ない事から雨は降らないだろうと予測は出来るけど、降水確率は分からない。この世界に天気予報は存在しないらしいので測ろうとしても気象予測の基礎が分からないので俺には無理だ。 雲の奥から太陽光が必死に光を注いでいるが直射は有り得ず全て細かな水の結晶によって拡散して広域に降り注ぐ破目になり、そんな中でも一番考量が強い太陽のある位置に目を向けても眩しさに目を焼かれるような感覚に陥る事は無く、少し眩しいなぁ、くらいの威力しか地表へと差し込まないでいる。 曇り空の下――バルーネン国王都マカラーヌの中央に鎮座している城は外側から見ては分からなかったが、中に入ると円環の形をしている事が分かった。城壁に囲まれた内部には円環の城が聳え立ち、環の中央には綺麗に切り揃えられた庭木が左右対称の配置で植えられている。芝生も定期的に刈り取られているのか伸び過ぎずに晴れた日にそこで寝っ転がればあまり時間を掛けずに夢の世界へと旅立てるのではないかというくらいにふさふさと茂っている。 そして、その庭園の中央には直径二十メートルはあるだろう巨大な紫の結晶――魔封晶が四隅に職人による意匠が施された柱が立てられた専用の台座の鎮座している。これがこのマカラーヌをレガンとノーデムから守っている護りの要であり、俺がこの世界に来てから見た魔封晶の中で一番の巨体を有している。このくらい大きいから、マカラーヌ全体を守る結界をこれ一つだけで賄えるのだろう。 巨大な魔封晶が鎮座するの庭園の下……そこに城の兵士が訓練に使うと言う広場が存在している。広場と言うよりも、地下闘技場と述べた方がいいかもしれない。 上部の庭とリンクするかのように円形でサッカースタジアムと同程度の広さを誇るそこには石畳で作られた円形の舞台が八個の同じ大きさで均等な距離を置いて設置されていおり、その間に天井を支える為の無骨な柱が聳え立っている。その円の舞台の上で模擬選を繰り広げたりするのだろうが、わざわざこのような舞台を作らなくても全面全てを有効活用出来るようにすれば無駄なスペースが生まれずに済むのではないか? と思ったが、どうやらこの石畳の円形舞台は『バルーネン国武闘大会』の為だけに毎年設置して、終了すれば解体されるそうだ。 この地下空間の採光は大理石だと思われる白い天井の数十と言う白光が灯っており、それが地下空間を隈なく照らし出している。この灯っている白光は地上に降り注ぐ光を届ける為に開けられた穴から漏れ出した光ではなく、そこに埋め込まれた何かが光っているようだった。恐らくだが、月と星、太陽と同じように光を発する物体なのだろうと勝手な予測を付ける。ここまで白い光は火ではほぼないだろうし、かと言って電気が普及してないのでハロゲン灯でも水銀灯、それにLEDライトでは決してないだろうから、そう予測せざるを得ない。 この地下空間を見下ろせるように客席も完備されており、兵士が訓練する広場を囲んで見下ろすように円状に三メートルから六メートルの高さに掛けて段組みで椅子がずらりと並んでいる様を見ると、どうして地下、それもわざわざ城の下に設けたのかが分からなくなる。ここは兵士の訓練の場所なのに、観客席を設ける意味が分からない。このようにコロシアムの風体にするなら、いっその事地上にコロシアムそのものを作ればいいのではないだろうか? その方が色々な催しも出来るだろうし、と当たり前の疑問を覚えるが、心の中で突っ込んでいるので誰も答えを言ってはくれない。心の声を聞き取れるリャストルクを今身に着けていないので偽石英剣からの返答は全くない。 そんな用途が訓練場所向けではない地下空間に今俺はいる。 マカラーヌに来て四日が経った。 今日は『バルーネン国武闘大会』の予選日である。 早朝から城門に長蛇の列が出来ており、城の兵士がきびきびと入場者の整理を行っていた。入場者は入場料1500セルを支払い、兵士に危険物を持ち込んでいないかボディチェックをなされた後、ずらりと並ぶ兵士の光る視線を受けて指定の通路を通過して地下空間へと赴くようになっている。観客は直接観客席へと向かえるような道へと途中で案内され、指定席ではなく自由席となっていて基本的に来た順が早い程に前列が埋まっていくようだった。間近で人と人が鍛え上げた技と技をぶつけあって行う戦闘を見て手に汗握りたいからなのだろう。 また、入場者の中で入場料を払わずに通る者もいるが、その者はこの大会の出場者として前もって参加費10000セルを支払った者だ。大会出場者は入場者と同じ道順を進んで行くが、途中で下りの階段があるのでそこを下りていくと観客席の真下へと出る事が出来る。観客席の真下の空間の内側は通路となっていて、地下広場へと出る扉が複数設置されている。対して外側には所謂控室と呼ばれるだろう部屋が八部屋と、それとは別に部外者立ち入り禁止の部屋が十二部屋存在しており、大会参加者は自分の番が来るまではそこの控室で待機するようになる。自分の番が来て広場へと向かう際には遣いが控室へと呼びに来るようになっている。 今回の大会の参加者は多いのか少ないのか分からないけど百十九人が参加している。その百十九人がA〜Hの八ブロックにほぼ等分で分けられて予選を行う。どのブロックに当たるかはこの参加者のみが下るであろう階段の最奥でくじ箱を構えた兵士に促されてA〜Hの文字が書かれたくじを引かされて大会が始まる前に決定される。 因みに、大会はもう既に始まっており、各ブロックに分けられた予選は同時並行で行われている。予選の方式は『Hotel&Bazaar Garnera』で説明された通りに総当たり戦。一度に約十五人が舞台に上がって乱闘を起こすのではなく、二人が出て三分間の時間制限の下試合を行うと言うもの。試合で勝つ条件は相手を舞台の外へと足一つでも出すか、相手の戦意を奪う事。ただしこれはあくまで試合と言う事なので、フェアな戦闘を心掛けろと言う事で目潰しや金的攻撃、そして相手の命を刈り取る行為は禁止されている。故に武器は持ち込み禁止で刃が潰された刀剣類が貸出される。因みに三分経っても勝敗が付かない場合は審判による判定が行われるようだ。 予選ブロックの通過人数は各ブロックの上位四名。トーナメントは勝ち上がった三十二名で行われる。トーナメントは予選の翌日に行われる。まぁ、その理由は参加者の疲労を少しでも取り除く為の猶予期間ではなく、単純に予選に時間を食われるからだろう。一試合最長三分を各ブロック同時に行うとしても一人で十三〜十四人と戦わなければならないので……組み合わせを含めた試合の総最長時間の計算とか苦手だから敢えてやらないけど、一日は消費した方がいいと判断したから予選に一日使っているのだろう。 で、今丁度Gブロックの第三試合が終わった所だ。参加者全員が地下広場に集められて開会式が行われて直ぐに行われたそれぞれのブロックの第一試合が始まってからこれから第四試合が始まろうとするこのペースは早い方で、選手の入れ替え時間を含めても七分しか経っていない。 このGブロックよりも試合が進んでいるのがBブロックとFブロック、それにHブロックだ。B、F、Hは既に第四試合を始めており、それぞれの舞台では二人の猛者が相手を叩きのめそうと技を繰り出したり、相手の攻撃を避けて場外へと出させようとしたりと戦い方は十人十色で観客の目は移ろいでいる事だろうと思う。 Gブロックの第四試合がもう直ぐ始まる。 俺は第三試合で善戦したが惜しくも破れてしまった男性の脇をすり抜けて舞台に立つ。 そう、俺はこの『バルーネン国武闘大会』に参加してしまっている。 優勝しようと言う意気込みはないけど、それでも俺はこの大会で決勝トーナメントに出場しなければならない。そうならざるを得ない理由が出来てしまったから、参加を決意した次第である。 舞台の上に立つと、つい観客席へと視線が向いてしまう。そして、深呼吸をして心の平静を保とうと努力する。 俺の装備は片手剣。形状は両刃直剣。一番慣れ親しんだ剣で形状と重さ、握り具合が似ている貸出武器がこれだけだったので、選んだ次第だ。ただ、やはり貸出武器なので使い勝手が何時もと違うのは仕方がない事だろう。予選を通過していくうちに振り慣れる事を祈るばかりだ。防具は自前の物を身につけてもよい事になっているので、欠人形の籠手(左)陶蜂の軽鎧と黒蜥蜴のブーツと何時もの装備を身につけている。 対する俺の初戦の相手は三十代の男性で厳つい顔をしていて顔の下半分を隠すように長く伸びた髭が蓄えられている。ごつい体付きの癖に身長は俺より五センチは低い小柄な体躯からドワーフとでも呼びたい姿をしていて、手にはドワーフの武器の象徴とでも言うべきか両手で持つ大きい斧が握られている。勿論刃は潰されてるが、大振りの一撃を食らえば骨の一つは間違いなく折れるだろう。防具は兜に全身を覆う鈍い煌めきを放つ重鎧なので動きは遅そうだ。 審判をしている人が俺とドワーフっぽい男性がそれぞれ所定の位置へと着いたのを確認すると、手を上げ、「始め!」の掛け声と共に振り下ろす。 開始の宣言と同時に、ドワーフっぽい男性――ドワーフと呼ぶ事にする――は斧を両手で握り締めて俺へと突進してくる。がっちゃがっちゃと重鎧は金属音を奏でていて、耳を塞ぎたくなるが、それを堪えて俺は剣を構えて相手の攻撃を窺う。 ドワーフは走りながら斧を横に構え、俺が射程距離内にはいる間際に体を回転させて遠心力によって威力が増した斧を俺から見て左上段から斜めに振り下ろしてくる。俺はそれをバックステップで避け、斧を振り切って石畳へと打ち付けたドワーフの隙が出来た右脇腹に向けて剣を薙ぐ。が、重鎧に弾かれて逆にこちらの手が痺れる。重鎧相手は初めてでどのような感覚か一度は掴んでおきたかったから敢えて攻撃したが、このままだと決定打を与えられないかもしれない。 と、思った俺は即座に作戦を変更した。当初企てていた作戦は剣に慣れる為に真っ向から挑んでいこうという脳味噌筋肉な作戦であったが、これでは勝ち目は無さそうだ。相手の動きは鈍いので攻撃を避ける事は出来るだろうが、判定で負ける場合も無きにしも非ずなので、初戦はこの後の試合にも影響しそうなので勝ちたい。なので、アシストに魔法を使う事にした。この大会では魔法が使えるのならば回復系統以外ならば使ってもいいとされているので問題はない。 かと言っても、『ファイアショット』や『サンダーフォール』、『ライトスフィア』等の明らかに人に向けたら無事では済まない魔法を使う気は無い。使うのは今の所本当に使い道の分からないと判断してきた『フロストカーテン』だ。「フロストカーテン」 俺がそう呟くと俺の周囲に粉雪が舞い、視界を白く染め上げる。
『精神力:85/90』
 俺からはドワーフが見えなくなったが、それは相手も同じ事だ。そして、突然の粉雪に相手は動揺しているだろう。俺はその間に即座に片手剣を腰のベルトとズボンの間に佩いて記憶を頼りにドワーフの背後へと回り込んで距離を取り、助走をつけてドロップキックをかます。「ぐぶっ!?」 見事にドワーフの背中にクリーンヒットしたらしく、ドワーフは石畳に前のめりになるように音を立てて倒れる。その隙に、俺はドワーフが持っていて両手斧を失敬する。幸いな事に倒れた衝撃であまり強く握られておらず、抵抗もされないままに奪う事が出来た。結構重いな、これ。持ってるだけで腕が震えて来たので早めに事を済ませるとしよう。「せいっ!」 呼吸を整え、奪った両手斧を強く握り締め、脇も締めて振り上げてドワーフの脳天目掛けて振り下ろす。兜をしているとは言え、念の為に背の部分をぶつけるように向きを変更している。斧は兜に守られたドワーフの後頭部へと吸い込まれるように振り下ろされ、がいぃぃん! と金属同士がぶつかって振動する。 俺は両手斧を場外へと放り投げ、ドワーフから距離を取る。十秒が経過したので『フロストカーテン』の効果が切れて粉雪が晴れる。回復した視界に映ったのは俯せのまま微動だにしないドワーフの姿だった。俺の狙い通り、脳震盪を起こしてくれたようだ。兜で守られているとは言え、衝撃自体は伝わるので一か八かの賭けでもあったのでよかった。これで意識を刈り取れていなければ剣で地道に切っていたかな。厄介な両手斧は既に場外へと放り出したので、ドワーフは武器無しで戦わないといけない事に庵る。両手斧が無ければ怖くはないのでね。 視界が晴れた事によって審判も現状を目の当たりにし、ドワーフへと駆け寄っていく。そして意識が無い事を、呼吸と脈拍がある事を確認して右手を俺の方へとずびしっと向けて「そこまで!」と終了の宣言をする。 開始一分ちょいで、俺は初戦で勝利を収めた。が、これと言って喜びも無く足早に控室へと戻る。ドワーフは掛かりの人が担架を持って来てそれに乗せられて運ばれていった。意識を失わせて悪い事をしたとは思う。けど、俺はこの予選ブロックをどうしても勝ち抜かなければいけないんだ。 勝って、現在はHブロックで出番を待っているファイネ=ギガンスと決勝トーナメントで戦う為に。


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