End Cycle Story

島地 雷夢

第33話

「これがいい」 リルが指を差して選択する。 ここはマカラーヌで衣類を扱っている店だ。予定の十日よりも二日程多く日数が掛かってしまったけど、俺達は無事にマカラーヌへと辿り着く事が出来た。マカラーヌは六メートル程の塀に囲まれていて、重厚な鋼鉄の門が聳え立っていた。俺達は南門から入った。その時に通行料? を一人1000セル払えと門番をしている人に言われた。まさか一人あたり二日分の食費に相当する額を三人分もするとは思えなかったけど、生憎と俺はレガンとノーデムを倒して結構なくらいセルを貯めていたので懐が痛くないくらいの打撃だったので、渋る事も無く門番に三人分の3000セルを払って街の中へと繰り出した。 王都マカラーヌは確かに巨大な都市で、エルソの何倍も大きな街だ。そして何と言えばいいのか、近代的な街並みを有している。雑居ビルとでも言えばいいのか五階建ての細長い建築物が建ち並び、その建物にはコンクリートが使われているみたいだ。道には石畳で舗装された歩道とそれおりも一段下にアスファルトで舗装された車道が整備されていた。アスファルトによって隙間が存在しない道は馬車の往来がしやすいようにされていた。この世界でもコンクリートやアスファルトってあるんだなと閑雅深く思った瞬間だった。 そして、エルソの町では見掛けなかった街灯を発見した。街灯は街に入ったのが昼を少し過ぎたくらいだったからまだ外は明るく、街灯は灯っていなかったけど、夜になってもこの街は明るく彩られるのだろう。ガス灯かな? また、マンホールも見受けられた。と言う事は下水道設備が充実としているのだろう。生活の衛生面がしっかりとなされている筈だ。そうでなければ中世ヨーロッパとかのようにペストとかの伝染病が蔓延している。空中を漂う臭いに汚物特有の顔を顰めるような強烈な悪臭は鼻孔に入って来ないのが証拠の一つとなるだろう。 ただ、やはり建物が高いと圧迫感や閉塞感を感じてしまうな。上を見上げてもエルソの町にいた時よりも青く広がる空が狭く感じてしまうのは都会特有の症状だろう。まぁ、三十階建ての高層ビルとかが建ち並ぶニューヨークとかに比べれば高さは無いからあまり危惧するような事でもないだろうけど。 で、マカラーヌに入った俺達が最初に向かったのが服屋だ。もう五月も終わろうとしている(多分。エルソの町を出て行く時には桜の花が散っていた)ので、夏服を用意しないといけない。そして何時までもリルに俺の服を着せておく訳にもいかないからな。リルはスカートよりもズボンを着たいと言っていたからスーネルの服ではなく、俺の服を着ていた。理由はスカートは穿いた事が無くて違和感があるから、だとか。女子だからスカートにもなれた方がいいと思うけど、無理強いはしない。人生は長いから、そのうち穿く機会もあるんだろう。 そして、今更ながらに旅の間スーネルはスカートだったんだよな。しかも丈の長いロングスカート。よくそんな恰好で森の中とか走り回れたよな? と変に感心してしまう俺であるが、まぁその所為でスカートの布地も結構傷付いてしまっているようだ。まぁ、それもそうだろう。普通、長旅をする時は動きやすい服装を取るのではないだろうか? もしかしたらこの世界での旅衣装はこのようなものだったりするのか? と、スーネルに疑問をぶつけてみたら「どうもズボンは慣れないもので」と言った返答を貰った。ズボンが慣れないだけでスカート一択にするのはある種の強者だけど、やはり長旅をするのだからズボンに慣れるべきだと進言しておいた。スーネルはなら一、二着くらいは持っておきましょうと渋々頷いた。 と言う訳で、個々人の様々な理由でまず先に服屋へと入って行った。中々に広く、壁際に何着か飾られていたり、ハンガーに掛けられてずらりと並べられている。御丁寧に試着室も見受けられるので実際に着て恐らく中にあるであろう鏡か第三者に試着を批評して貰えるだろう。また、大特価五十パーセントオフとワゴンに押し詰められて山積みにされているシャツの軍団もあった。しかもそのシャツ達は文字入りだった。『卑怯者』とか『豪胆』とか、部屋着ならまだしも外で着るには多少以上の勇気が必要となる文字がでかでかと背面に、そして左胸の位置にワンポイントプリントされていた。流石に、これは……売れないだろうな。うん。 とか思っていたらである。 最初のリルの発言に戻る。 リルは指を差したのだ。ワゴンに山積みされた文字入りシャツを。因みに文字は『感無量』である。これを着ている人がいたら、常に感動でもしているのだろうか? と疑ってしまう一品だ。布地は青で、文字は白となっている。半袖でサイズは……一応リルが着ても肘が隠れる事はないが少しぶかっとするだろうな。 いや、そんな事よりも、だ。「えっと……これがいいの?」 ちょっと目が点になりながらもリルに問うてみる。「うんっ」 めっさいい笑顔で頷かれた。「本当に?」 もう一度確認する。「うんっ」 躊躇う事無く頷くリルちゃん。元気いいな。 リルと一緒に旅をして十二日が経ったけど、最初よりも喋り方が変化した。粗野な印象は鳴りを潜めて少しばかり溌剌? とした物言いをするようになった。よく笑うようにもなった。心象の変化故なのかな? あと、年齢を訊いた所十二歳だった。スーネルより二歳年下で、俺との差は五歳だ。見た目的にもう少し幼いと思っていたけど、そうでも無かった現実だ。「……ほ、他には?」 一応、この残念シャツから意識を逸らせる為にちょっと舵取りをする。いや、個人の趣味を否定するつもりはないけど、こういう服を着ている人と一緒に街中を歩くのはちょっと憚れると言うか何と言うか。いや、でもまだ子供だからこう言った文字入りシャツを着ていても周りから向けられる視線は生暖かく優しいものだろうから精神的にはあまり苦にはならないか。「んとね……」 俺の話術――ではないな、によってリルは視線を『感無量』シャツから逸らして別のシャツへと向けていく。いや、作戦は成功はしたんだけどリルちゃん、出来ればその大特価五十パーセントオフのワゴンの中から選ばなくてもいいから。壁際に飾られている高そうな服を選んでいいから。 何て俺の心の声は届く訳もなく、リルはにぱっと笑いながら新たなシャツを指差す。「これっ」「…………」 無言になってしまう俺。だってさ、リルが右の人差し指で指したシャツ、何て書いてあると思う? 『無職』だよ? ちょっとお勧め出来ないな。確かにリルは働いていないし、年齢的にも職に就けない(俺の世界では)から着ていても問題は無いように見えるが、こう、世間体が……確実に痛い方向へと……。しかもそのシャツの布地は濃い緑で、文字が赤と言う目に悪い彩色をしているから余計にお勧め出来ない。「あと、これっ」 と、今度は左手で指差す。その指先が示すのも当然ながら大特価ワゴンの一品であり、布地の色は黒、文字は白。で、書いてある文字は『最強』だった。自己主張が激しいな。大人が着てたらからかわれて喧嘩を吹っ掛けられそうな一品だな。いや、子供でも学校へと着て言ったら虐めの対象になってしまうかもしれない。いや、確かに俺達の中で素早さだけなら最強だけども。リルは『フェンリル・ブラッド』になれるから素の状態でも速い。そして反射神経もいい。ぶっちゃけリルの反射神経の御蔭で兎を仕留めて食料確保が出来ていた。リルの御蔭でひもじい思いをせずにマカラーヌまで辿り着けたのだから感謝している。けど、なぁ……。 どうしよう……リルの感性は俺と全然違う。 こ、ここはスーネルに助けを求めるしかないかな? まだスーネルは自分の服を選んでいない。理由はまずはリルの服を一緒に選ぼう的な流れになったからだ。因みに俺の横にいるスーネルはリルのチョイスに何の突っ込みを入れていない。それに少し違和感を覚えたけど、それは置いておく。「な、なぁスーネル」「ソウマさん」 俺が顔を横に向けてスーネルにヘルプを求めようとしたら、それよりも先にスーネルが口を開いて俺に言ってくる。「これ、似合うと思いますか?」 頬を染めながらそう言って大特価ワゴンに山積みされているシャツの一つ――『良妻』シャツを手に取って俺から見れば着ているように見えるように翳している。因みに布地は薄めのピンクで、文字は……何故かショッキングピンクだった。色彩のチョイスが偏り過ぎていた。バランスを考えようよ。 いや、そうではなくて。貴女もですかスーネルさん? 貴女も文字入りシャツに心を奪われているんですか? そして何故『良妻』を選んだ? スーネルはまだ結婚していないだろう。もしかして未来への目標としてその文字を選んだとか? 良き妻としてありたいと言う夢があるのか?「…………」 つい、返答出来ずに無言で眼を隠すように左手を当てる俺。ちょっとついて行けない。これはあれか? 修学旅行のテンションになっているのか? 旅先で浮かれて仕様も無いお土産を買い漁るあのテンションなのか? そうなのか? きっとそうだろう。そうだと信じたい。「……こほん」 スーネルがわざとらしく咳払いをし、紅く染めた頬を直ぐに元の色に戻して『良妻』シャツを元に戻す。「冗談ですよ。流石にこのような服を着て往来を歩く勇気はありません」 にっこりと笑うスーネル。冗談か……。そうだよな、今まで着ていた服は文字のプリントされてない無地のものばっかりだったもんな。いきなりそんなのを選んでびっくりしたけど安心したよ。でも、何故か心なしかちらっちらっと『良妻』シャツに視線が向いているのはどうしてだろう? 多分、考えたら負けなんだろうな。「リルさん、先に下着を選びましょう」 そう言ってスーネルが強引にリルの手を引いてワゴンの前から遠ざかっていく。取り敢えず、ナイスと心の中で呟き、親指を立てておく。流石に女性の下着コーナーへと向かう度胸と勇気は持ち合わせていないから俺は俺で自分の服を選ぶ事にした。 まぁ、俺の場合は普通に無地のシャツに、薄めの布地のズボンを幾らか選ぶだけだけど。あと、下着かな。 男物のコーナーへと向かっていくつか適当に確保する。あ、服を買う前に新しい道具袋でも買っておけばよかったな。スーネルによると、ここで売っている道具袋の高い値段のものになると、見た目よりも多く収納出来るものがあるらしい。それはちょっと欲しいかな。これから旅をするにしても食料に衣類、調理器具は常に携帯しなければいけないからある程度余裕を持てる道具袋が最低でも一つは必要だ。そしたら、服を買い終えたら次は雑貨屋……で売ってるかな? そこに行こう。 と、俺が服を選び終えるとスーネルとリルが俺の下へと戻ってきた。どうやら下着を選び終えたようだ。スーネルは下着を選ぶついでにズボンも一着選んだようで、ジーンズだった。丈は少し長めで、着る時は裾をまくる必要があるけどまだスーネルは成長期だからこれくらいが丁度いいのかもしれない。あと、ベルトはスカート着用時にも時々使用していたものを使えば問題はあるまいて。リルも自分の分のズボンも選んだようだ。こちらは動きやすさ重視の生地のズボンが多数だった。 で、その後はスーネルが夏服とロングスカートを、リルが文字入りシャツと文字の入っていないシャツを数種類手に取って会計へと移る。 服って結構高いんだね。これだけ買うと10000セルくらいになった。そして今持っている道具袋に入り切らないから買った時に無料で貰った麻袋に仕舞って俺が持つ事になった。流石に女子に荷物を持たせるのはどうかと思って俺が自ら買って出たのだ。 さて、これで服の買い物は終わったと店を出ようとした時、俺の腰に佩かれているリャストルクが周囲の他の客に聞こえないように俺の心に直接語りかけてくる。『……お主にぴったりの服があったのじゃが』 え? そんなのあったの? 何処に?『あのワゴンの中にじゃな』 ワゴン……ってあの大特価の文字入りシャツ軍団?『そうじゃ。あの中にな、こんな服があったのじゃよ』 リャストルクは一呼吸溜め、勿体ぶるように言う。『……『異世界人』と言うのがじゃな』「要らんわっ!」 と、つい大きめの声を出して突っ込んでしまったので周囲から痛い視線を浴びせられてしまった。俺はリャストルクをスーネルに渡して足早に服屋を後にした。 いや、確かに『異世界人』シャツは俺に打って付けの一品だろうけどね、そこまで自己主張はしないよ。 と言うか、リャストルクも冗談を言うようになったんだな、と偽石英剣の心情の変化を感じ取った瞬間でもあった。


「End Cycle Story」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く