End Cycle Story

島地 雷夢

第18話

 リザーダーノーデムは下半身を横にずらし、勢いをつけて尻尾を振るってきた。
『テールスイング』
 ウィンドウが現れてそのように知らせてくる。恐らく、これはリザーダーノーデムが繰り出した特殊技の名前だろう。ノーデムも特殊技を使うのか。しかも、この一撃でゴールグの頭は吹き飛ばされたのだろう。真新しい血が尾の先端にこべりついており、更には血に塗れた青い髪が数本纏わり付いているのが証拠だ。「ウィンドヴェール!」 俺は尾が動き出したのと同時に『ウィンドヴェール』を発動させて体に風を纏い、敏捷力を上げて地面へと伏せる。
『精神力:25/50』
 頭上を巨大な尾が通り過ぎていく。咄嗟に『ウィンドヴェール』で敏捷力を上げていなければ、伏せるのが間に合わずに尾にぶつかり体が引き千切られていたかもしれない。 俺は『ウィンドヴェール』で敏捷力が上がった足で即座にゴールグの近くへと体を屈めながら走る。自分の武器である銅屑の剣は刀身が砕け、柄だけの状態になってしまったのでこのままでは戦えない。なので、ゴールグが使っていた剣を使わせてもらう事にした。また『テールスイング』を使用した反動なのか、硬直しているのでこれを逃したら後が辛いとも感じた。
『鉄の剣:物理攻撃力5上昇。敏捷力2減少』
 手にするとウィンドウが現れる。銅屑の剣の五倍の上昇値だ。この状況で有り難い情報だった。 俺は左手に持ち替えていた銅屑の剣の成れの果てをリザーダーノーデム目掛けて思い切りぶん投げる。リザーダーノーデムは銅屑の剣を首を振って適当に弾き返した。ダメージは無いだろう。 ここまで来る時に、レガンの数が減っていたのはこいつが原因だろう。ノーデムはレガンと敵対している種族。力が通常個体よりも強いノーデムが現れれば、レガンドールは為す術も無くやられていくだろう。その代わりに、ドギーノーデムは倒されずに人間達を殺していけると言う状態だ。拮抗していれば二種族の数をほぼ同数ずつ減らせたのだが。 俺は鉄の剣を正眼に構えて、目の前の巨大蜥蜴の動きを注視する。幸いなのは、この場には他にノーデムが存在しない事か。もしいたらそちらにも注意を払ってしまい、素人から抜けていないであろう俺は些細な隙を突かれてやられてしまっていた事だろう。 リザーダーノーデムが右の前足で払ってくる。サイズの割に速めの攻撃であり、躱す際に少し服を掠ってしまう。が、前足の去り際に鉄の剣の一撃をお見舞いする。が、あまり効いているとは思えなかった。前足を切り付けた筈なのだが、傷一つ付いてはいない。流石は中ボスと言った所か。物理防御力も通常の敵より上か。 続いて相手は払った右手を戻しながら同時に俺へと攻撃を加えていく。体勢を戻しながらの攻撃だが、単調であり、先程とほぼ同じ軌道と速度であったので素人の俺でも避けられた。その際に二撃切り付ける。しかし、やはり傷一つ付いていない。 今度は俺から攻撃に転じる事にする。あの『テールスイング』さえ気を付けていれば致命傷にはならないだろうと思い、一歩、また一歩と大地を踏み抜いて急接近する。そしてリザーダーノーデムの右腹を切り上げる。右前足を切り付けた時とは感触が違い、柔らかくもぎっしりと密度があるものを切り裂いた感覚が手に伝わってくる。 口を開けて金切声を上げる。どうやら感触通りにダメージが通ったようだ。傷口から黒い液体が滴る。なら、攻める際はここを重点的に攻撃すればいいだろう。吠えて硬直しているので、このままもう一撃加えられると確信し、脇を締め、右腹目掛けて剣を振り下ろす。 が、今度は切り裂いた感触が伝わってこなかった。それに疑問を覚えてしまい、体の動きを止めてしまった俺にリザーダーノーデムは上半身を回してタックルをかましてきた。「ぐっ!」 避けきれず、真面に相手の一撃を受けてしまう。サイズ通りに体重もあるので、重い。当たってくの字に体が折れながら吹き飛ばされ、体中の骨がみしみしと鳴ったような感じがした。
『生命力:298/500』
 一撃で100以上のダメージを受けてしまった。これは洒落にならない。『テールスイング』だけを注意していればいいと高を括っていたが、甘い考えだったようだ。 吹っ飛ばされた俺にリザーダーノーデムが突進してくる。『サンダーフォール!』 慌てて俺は手を巨大蜥蜴に向け、『サンダーフォール』の照準を合わせる。『ファイアショット』にも言える事だが、俺に干渉しない魔法は手で照準を付けた方が精度が上がる事が分かった。『サンダーフォール』は防御魔法だが、俺の体に干渉しないので照準指定をしなければいけない。
『精神力:20/50』
 一メートルばかり離れた場所に雷が降り注ぐ。スーネルの『ライトニングパニック』は一度しか見ていないが、『サンダーフォール』はその雷よりも光は弱く、色は黄を帯びている。また、音も小さいので目や耳を塞ぐ必要が無いのが利点だ。 突進してきたリザーダーノーデムが俺が放った雷の壁に触れる。リザーダーノーデムは動きを止め、その場で軽く震える。『サンダーフォール』自体にダメージ判定は無いが、代わりに触れた相手を麻痺の状態異常にする事がある。どうやら奴は麻痺したようだ。「スラッシュアッパー!」 チャンスとばかりに動けない蜥蜴の腹の下に剣を当てて『スラッシュアッパー』で跳び上がりながら切り上げる。
『精神力:10/50』
 肉を切る。特殊技の威力なのか、先程は切りつけられなかった腹の上の部分も纏めて鉄の剣は切り裂いていく。跳び上がった俺はそのままリザーダーノーデムの背中に着地する。一応の攻撃として剣を逆手に持ち直し、思い切り力を入れて背中に向けて突き刺しまくる。 一〜二回では刺さらなかったが、三回、四回と続けて同じ場所に突くと段々と剣先が減り込んでいく。七回目で防御力の高い皮膚を貫通し、完全に突き刺された。 それと同時に麻痺から解放されたリザーダーノーデムが体を振るわせて俺を地面へと落とす。俺は背中から地面にぶつかったが、直ぐ様起きて距離を取る。距離を取ると、先程まで俺がいた場所に左後ろ足が踏み降ろされていた。少しでも遅れていれば踏みつけられて内臓が破裂していたかもしれない。 と、ここで『ウィンドヴェール』が消えてしまう。『ウィンドヴェール』の継続時間は二十秒であるので、もう時間が経ってしまったのだろう。リザーダーノーデム相手では敏捷力は上げておかないとヤバいので直ぐ様掛け直す。
『精神力:5/50』
 これ以上魔法を使えば虚脱の状態異常になってしまうので、道具袋から精神草を二つ取り出して呑み込む。これで精神草の残りは二つになった。ついでに、生命力も回復する為に薬草を二つ呑んでおく。
『生命力:498/500 精神力:45/50  』
 さて、このまま下の腹――そこだけ皮が薄くてダメージが通りやすい――を狙うにしても、蜥蜴は先程からアグレッシブに動き回っている。傷つけられて怒っているのだろうか? 俺の移動に合わせて体を向け、前足で交互にスタンピング攻撃を仕掛けて来る。 スタンピング攻撃が止まない限りは腹へと向かえない。そしてそうして避けているうちに二十秒が過ぎてしまい、纏っていた風が無くなった。もう一度掛け直す。
『精神力:40/50』
 ずっと避け続けていても拉致が明かないと思った俺は、スタンピング攻撃を回避しながら左手をすっと向ける。『ファイアショット!』 左手から火球を飛ばし、リザーダーノーデムの鼻先へと着弾する。突然の高熱に見舞われた鼻先を気にするように、蜥蜴は煙が上がる鼻を前足で掻く。
『精神力:35/50』
 ここでまた隙が出来たので、俺は横に回って左腹に向けて連続攻撃を加えていく。一撃、二撃、三撃と通常の攻撃を行ってから景気よく特殊技を連続で繰り出す。「スラッシュスラッシュスラッシュアッパー!」 鉄の剣を左に薙いで、戻す勢いで更に薙ぎ、終わりに跳びながら切り上げ攻撃を行う。
『精神力:5/50』
 そして、攻撃の終わりに、跳んだ先にあるリザーダーノーデムの背中に向けて、落下の勢いを乗せながら剣を突き刺す。ここまで過剰に攻撃を加えたんだから、そろそろ倒れて貰いたい。 が、現実はそんなに甘くは無く、金切り声を上げながら蜥蜴は体を震わせて俺をまた落とそうとする。が、今度は振り落とされまいと鍔の部分が接触するくらいまで深々と刺さった鉄の剣にしがみ付いている。その間、何気なくダメージを与えるべく柄を握って剣を捻らせる。 この攻撃は効いているようで、更に一際大きな声を上げたリザーダーノーデムはのた打ち回る。流石に体を震わせるだけでは払い落とせないと気付いたのか、足を伸ばして、体を転がし始めた。 巨大な蜥蜴の下敷きになれば身が持たないと瞬時に判断し。背中に足を付けて、力任せに鉄の剣を引き抜き、身を投げるようにして脱出する。リザーダーノーデムが一回転し終えると、地面で土を踏み締め、尻尾を大きく振るってくる。
『テールスイング』
 ウィンドウと同時に頭を伏せ、尾をやり過ごす。ここで硬直した蜥蜴の腹へと向かって駆け出す。
『テールスイング』
 もう一度ウィンドウが敵の攻撃を知らせてくる。 そう、可笑しかったんだ。どうしてゴールグが死んだのかを。 ゴールグはセデンよりも弱いけど、俺よりも強いキルリよりも強い。ゴールグの強さは身のこなしの速さにあった。『ウィンドヴェール』で強化した俺と同等以上の敏捷性で相手の攻撃を躱して隙を突く戦法を取っていた。そんな人が今の状態の俺でも避けれる『テールスイング』を避けきれずに死ぬなんて考えられなかった。 その答えが、これだ。『テールスイング』の二連撃。予想出来ずに、喰らってしまったのだろう。 俺もまさか二連続するとは思わなかったので、今俺は頭を上げて走っている。ふと視線を向けると尾がこちらに迫ってきているのに気が付く。気付いた時には遅く、避ける暇も無く俺は尾の直撃を胸に受ける。 バキゴキゴリュッ!「がばぁっ!?」 肋骨が砕ける音がした。呼吸が止まり、口から血を吐きながら吹き飛ばされ、形を保っていた建物の外壁に体の全面を打ち付けられてへばり付く。鼻も折れ、折れた肋骨が内臓を傷付けていく。
『生命力:2/500』
 ヤバい……呼吸が出来ない。胸を枝に貫かれた時と違って浅い息すら吐つけない。目の前が霞む。体の内側が焼けるように痛い。体に栄養と酸素を巡らせる液体が無理矢理充満されていく。体が引き千切れなかったのは、恐らく『ウィンドヴェール』を纏っていたからだと思う。どうやら『ウィンドヴェール』は敏捷力だけじゃなく、物理防御力も上げる作用があるらしい。もしくは、風が緩衝材となってくれたからか。 壁から剥がれ、壁を伝って転げ落ちる。一気に落ちなかった御蔭で雀の涙程度の生命力が減らずに済んだ。けど、ここまで来るともう駄目だろうな。腕を死ぬ気で動かし、道具袋の中を彷徨わせ、回復薬を探す。しかし、いやに緩慢な動きで、指先の感覚が鈍くなってしまっているので上手く引き当てる事が出来ない。
『テールスイング』
 あ、もう一度あれが来る。こちらは満身創痍死ぬ一歩手前。避ける力も無い。確実に終わった。 横から叩き付けられるのだろうか? それとも振り下ろされるのだろうか? そう遠くない未来では俺はぺしゃんこに潰されるか、『ウィンドヴェール』の効果が切れてしまった今では胴体が分断されるかの結末が待っているだろう。頭が道端に落ちた柘榴のように弾け飛んだりもするのかな? それはちょっと勘弁願いたいな。
「……ライトニングパニック」
 ピシャァァ……ンッ! 何てどうでもいい事を思っていたら、訊き慣れた声を合図に俺の体を震わせる程の余波を伴う雷が降り落ちたようだ。直接見ていないので今回は視界が潰されなかったが、この魔法が降り注いだと言う事は……。「ハイヒール」 体が暖かな光に包まれる。すると内臓の痛みが無くなっていき、肋骨が元の位置に戻って再生していく感じが手に取るように分かる。それが地味に恐い。自分の体に何が起きているのかが分かるって、嫌だなぁと思った。鼻の骨も元通りになり、体の内部に充満してしまった血液も傷の再生と共に血管内へと戻っていく。
『生命力:500/500』
 視界も良好になり、生命力が全快した。「無事か? 一時の薙ぎ手よ?」 聞き慣れた別の声も聞こえてきた。俺はその声の問いに答える。「あぁ。スーネルの御蔭でね」 頭を振り、近くに落ちていた鉄の剣を掴みながら立ち上がる。少しふらついて倒れそうになった所を、リャストルクを携えたスーネルが支えてくれる。髪が赤茶な所を見ると、『ブラッド・オープン』はしていないようだ。「ありがとう」 俺は助けてくれた事に礼を述べる。「危ない所でしたね」 スーネルが使った『ハイヒール』で俺が全快した事に安心してほっと息を吐く。「本当にね。所でこう言っちゃ何だけど、どうしてここに?」「西地区と南西地区に住んでいる人達の避難を終えたので、こちらに来た次第です」「そっか。じゃあキルリは……って、それはこいつを倒し終えてから訊くか」 スーネルの『ライトニングパニック』を受けても尚存命しているリザーダーノーデムに目を向ける。体中から煙を上げ、皮は焼け焦げ、全身から焦げた臭いを発している。目を潰されたのか、単眼のあった部分から黒くどろどろとした液体を滴り落とさせながら暴れ回っている。
『テールスイング』
 そしてまたしても尾を振り回そうとする。「スーネル、ちょっとリャストルク貸して」「どうぞ」 俺はスーネルに鉄の剣を渡し、久々にリャストルクの柄を握る。やはりリャストルクはまるで自分の体の一部であるかのように馴染む。「では行くか。一時の薙ぎ手よ」「おぅ!」 リャストルクの一言に気合の声を上げ、今まさにこちらに振られてくる尾に向けてリャストルクを振り下ろす。すると、尾は切り離され、勢い余って俺とスーネルの頭上を通り過ぎて半壊した建物目掛けて飛んでった。 流石はリャストルク、攻撃力と切れ味が並みの剣を遥かに超えている。鉄の剣では七回も突き刺さなければ貫けなかった皮をたったの一振りで切り裂いただけでなく、肉と骨おも両断するとは。チートだな。 自分の自慢の尾を切り落とされた際の痛みで奇声を上げ、眼は見えないが切り落とした相手に攻撃しようと右の前足を上げるが、尾が無くなった所為で体のバランスを保つ事が出来ずに前のめりになって倒れ、起き上がろうとしてまた前のめりになる。「ほれ、さっさとあの蜥蜴ノーデムの首を刎ねよ」 リャストルクが止めを刺す事を促してくるので、『ウィンドヴェール』の効果がとっくに切れている体で出せる全力でリザーダーノーデムの首元へと近付き、無造作に振られる前足をリャストルクを振るって切り落とし、首元に剣を当てる。 そして、一思いに切り上げる。リャストルクはリザーダーノーデムの皮、肉、骨に突っ掛かる事無く首から上と下に分断させた。 口を開けたまま、眼が潰された頭部が地面に落ちる。それから半瞬程遅れて体の方も地面に倒れる。そして、リザーダーノーデムの成れの果ては黒い泥となり、地面に吸い込まれるようにして消えていった。
『リザーダーノーデムを倒した。 988セルを手に入れた。 経験値を1096獲得した。 レベル:10に上がった。 ステータスポイントを4獲得した。 装備:影蜥蜴のブーツを手に入れた。』
 九死に一生を得た俺は、黒い巨大な蜥蜴を倒す事に成功した。 ゴールグの敵は、これで取れた。



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