End Cycle Story

島地 雷夢

第16話

 今から二週間前。その日の前日からレガンとノーデムを減らす罰から別の罰へと移行した。「行くぞ、ソウマの坊主」「はい」 俺はセデンに連れられてエルソの町を巡回していた。 俺が受けた罰その二。門番の仕事の手伝いをさせる。素人の俺にそんな事をさせてもいいのかと問うた所、どうやら構わないらしい。因みに、門番の仕事と言っても、ずっと門にいるのではなく、町の中を巡回して異常が無いかの確認もするそうだ。電話もないこの町では、何か事件が起きたら近くの門の見張り小屋まで誰かが走って知らせに行かなければいけない。その手間を少しでも少なくする為に、セデン達門番は町の見回りも行っているそうだ。 門番の数は五十二人。八つ存在する門の見張り小屋には二〜三人はいるようにして(そうは言っても、俺が初めてエルソの町に来た時は誰も小屋にいなかった訳だが、突っ込まない方がいいだろう)、残りが町を巡回するか、休日として体を休めるような体勢を取っているそうだ。 因みに、俺のこの罰での肩書きは『見習い門番』である。セデンは俺が追従するのを門番仲間を含めて罰としてとは言わなかった。俺の立場を鑑みてくれた結果なのだろうけど、俺としては本当の事を言ってもいいと思った。実際にそう進言したんだけど。「俺が面倒臭ぇ事になるからな」 との事。別に俺の為ではなく、セデンの都合だった。 あと、俺とセデン以外に同席はいない。キルリとスーネルは家事をしている。リャストルクを持ち出す事も禁止されたので、剣はやはり俺の部屋の棚の上に鎮座されている。俺が腰に佩いているのはこの頃の相棒である銅屑の剣である。町の中で剣を佩くのはセデン曰く「何が起こるか分かんねぇから一応持っとけ」との事。それはつまり、町の中でも危険があると言う意味で……。「おっ、見習いはやっぱり剣持ってんのか」 ……ではなく、ある意味での身分証明だった。巡回して最初に出会った町人に言われた台詞が前述の通り。この町では剣を持って出歩くのは門番くらいだそうだ。この町にある鍛冶屋はもっぱら町民相手には包丁を作ったり研いだりを生業としている。門番相手だと剣もプラスされる。 行き交う人にセデンが見習いだと俺の事を紹介すると、「あぁ、だからずっと剣持ってたんだ」と納得した目で俺を見てくる。どうやら、セデンに紹介されるまで、門番でもないのに剣を携えてるある種の変人と見られて目を合わせないでいたようだった。町に出るのは初めてではなく、セデンの家に初めて行った時や、亀裂の除去作業(?)へと出掛ける時、それから帰ってきて商店でドロップアイテム等を売ったりと結構出歩いてはいた。でも、道行く人は同伴していたキルリには声を掛けても俺には声を掛けてこなかった。素性の分からない新参者だから仕方がないと半ば諦めていたが、ここにきてまさかの現状打破。 そして、この話からキルリもこの町で見習い門番とカテゴライズされている事になる。見習い門番と建前上なった日にキルリに訊いてみた所、「一応、そうなってるよ」と肯定した。それ以上は何も言わずに、皿洗いへと戻って行ったけど。 気になったので町を歩きながらセデンに訊いてみた。「キルリの嬢ちゃんはなぁ、自分を鍛える為に門番見習いになったんだよ」 セデンは町の様子を確かめながら続ける。「嬢ちゃんがここに来たのは二ヶ月くらい前でな、北門の方から刃が欠けた剣を引き摺って歩いてたんだ。着てる服もぼろぼろで、ひでぇ怪我もしてた。それを見付けたのが丁度北門を担当してた俺でな。慌てふためいて小屋から出て嬢ちゃん所へ行って、回復薬を飲ませたさ。そして怪我が治ると気でも緩んだのか、気を失っちまってな。道端に寝かせておくのもなんだから、小屋にある仮眠用のベッドに横にしたんだよ」「ぼろぼろ……それって」「あぁ。坊主が考えてるのとはちょっと違うな。キルリの嬢ちゃんはその時点でここに立ち寄ったのが二つ目の町で、それの直後じゃない。けどな、直後じゃねぇがそれが尾を引いて影響してたのは確実だ。何せ、目覚めた嬢ちゃんは暫くは何も喋んなくてな。感情も表わそうとしなかった。事情を知ったのはそれから一ヶ月後だが、キルリの嬢ちゃんは目の前で両親を殺されたんだと。それがショックで心を閉ざしちまってたんだ。……何でも家族で遠くまで出てたらしくてな、魔封晶の欠片の効力が運悪く無くなっちまって、その瞬間に亀裂が二つ現れたんだと。そのうちの一つに嬢ちゃんと両親、他の一つに兄が吸い込まれたらしく、その亀裂の中で嬢ちゃんを庇ってレガンに殺された親父の剣を使って何とか生き延びたらしい。亀裂から出た後は別の亀裂に吸い込まれた兄を捜したらしいが、見当たらなかったらしくて、怪我を負いながらも兄を捜す為に歩き回ったそうだ」「そう……ですか」 だから、キルリは兄は行方不明って言ってたのか。そして、両親が殺されたと断言したのは同じ亀裂の中の空間で殺されるのを見てしまったからか。「で、そんなキルリの嬢ちゃんの心をいい方向へと向かわせたのが、シイナとサウヌさん、それにソアネちゃんだよ。シイナとは餓鬼の時からよくつるんでてな、町から出てひっそりとした場所で暮らしてても偶に酒場で呑んだりするくれぇの仲だったよ。そんなシイナがキルリの嬢ちゃんを助けてから二日目くらいに町に来てな、そん時には俺の家で預かってて、心を閉ざした嬢ちゃんを見て、シイナは愕然としてたよ。で、その日はもう帰ったんだけどな、次の日にはシイナはサウヌさんとソアネちゃんを連れて来たんだ。そしてな、キルリの嬢ちゃんを過度に刺激しないように話し掛けたり、遊んだりしてくれたんだ。シイナ達は毎日毎日、自分ん家から通ってキルリの嬢ちゃんの為に俺ん家に入り浸ってな、嬢ちゃんの心を癒してくれたんだよ」 そうか、だからキルリはシイナ達カチカ家の人に世話になったと言っていたのか。彼等の御蔭で今の自分があり、もし彼等がいなければ、心を殺したまままた旅をしていたのかもしれない。 と、ここで一つ引っ掛かる部分がある。「そう言えば、どうしてシイナさん達はエルソの町の中に住んでなかったんですか?」「ん? あぁ、それはな」 セデンが近くの果物屋で林檎を二つ買い、そのうちの一つを俺に渡しながら言う。「しょーもねぇ話なんだがな、シイナとサウヌさんは愛し合ってたが、認められて結婚したんじゃねぇんだ」「認められて? それって両親ですか?」「そうだ。シイナはもう両親を流行病で亡くしちまってたから、サウヌさんの両親だな。サウヌさんの家は結構位が高くてな、シイナは所謂ただの町民で、こんなみすぼらしい奴と結婚なんて認めん! って言われたらしい」「うわぁ……」 そんな事が実際にあるなんて。いや、俺のいた世界でもあるのだろうけど、ここまで格差社会的な側面を見せられると如何ともしがたい気持ちになる。「で、その一言にカチンときたシイナと、同様に頭に血の昇ったサウヌさんがな、家の中を壊滅的なまでに壊しまくったんだと。壊した中に大事な家宝があったらしくて、それを壊したのがサウヌさんの方だったんだよ。家宝を壊されたサウヌさんの両親は激怒して、感情に任せて勘当を言い渡したんだ。それから、シイナとサウヌさんは即家を出て、あんな親と一緒の町になんか住めるか、って言って隠れるように町の外にあった家に住みついたんだよ」 家宝を壊したから勘当か。それだけで勘当? そこまで貴重なものだったのかな? それとも俺とその人達で価値観が違うから俺はそれだけでって思うのかな? あと、この世界と俺がいた世界じゃ倫理観が違うのかもしれない、それも影響してるんだと思う。「他の町には行かなかったんですか? そっちの方が安全な気がするんですけど」「俺もそう思ったし、実際に言ったさ。そしたらよ、シイナの野郎は俺と酒が呑みにくくなるからって他の町に行かなかったんだよ。ったく、変な所を意識しやがって。別に俺は気にしねぇのに」 はぁ、と溜息を吐くセデン。呆れたと言った風体であるが、目が潤んでいた。「……で、話を戻すが。シイナ達の御蔭でキルリの嬢ちゃんは回復していったんだ。最初は頷く事もしなかったが、徐々に身振り手振りを加えられるようになって、口籠りながらも声を出した時は皆して喜んだもんだ。で、キルリの嬢ちゃんが今くらいになるまで回復したら、キルリの嬢ちゃんは礼を言ってこれから毎日は来なくても大丈夫ですって言ったんだ。毎日町の外から来るには魔封晶の欠片の力を使わないと安全に行けねぇってのを分かってからな。それを踏まえて、キルリの嬢ちゃんはそう言った。シイナもキルリの嬢ちゃんの言葉は尤もだと言って、状態を見て大丈夫だと判断してそこからは一週間に一度くらいの頻度で嬢ちゃんに逢いに来たな」 セデンは一旦口休めの為に買った林檎を歩きながら食べ始める。歩きながらは行儀が悪く見えるが、道行く人にも何かを食べながら歩く人がいるので、ここではそれが普通なのだろう。俺も小腹が減ったので買って貰った林檎を一齧りする。甘酸っぱい果汁が口の中に溢れ、喉を潤していく。 半分程セデンは林檎を食べると、残りは彼の肩に鎮座していた雀のチュン太へと分け与える。チュン太は「ほぉー」と一鳴きしてから物凄い勢いで啄ばんでいく。食欲旺盛で、食べるスピードはなんと俺よりも速かった。こいつは鳴き声といい、本当に雀なんだろうか? と疑問に思ってしまう。「で、回復したキルリの嬢ちゃんは、俺に剣を教えてくれて言い出し始めたんだ。これからも兄を捜す為に旅をしていくから、少しでも力を付けたいって言ってな。でも俺は人にものを教えんのは苦手だから、見習い門番として門番仲間に剣術の基礎やら足腰を鍛えるやらと色々としごいて貰ったよ。俺が教えられたのは『スラッシュ』と『スラッシュアッパー』くらいだな。この技を使えんのは町じゃ俺だけだったからな。嬢ちゃんは才能があるらしくてな、二週間でものにしたよ。門番仲間にも、模擬試合で食らい付けるくらいに成長したよ」 セデンは頬を少し緩めて嬉しそうに笑う。成程、キルリの『スラッシュアッパー』はセデンが教えたのもだったのかと目を細めてセデンを少し睨みつける。 俺は習得していないが、見た感じからして『スラッシュアッパー』は『スラッシュ』の軌道を下から上にし、そのまま切り上げるように前方へと跳ぶ攻撃だ。模擬試合では魔法を禁止してるが特殊技はOKと取り決めて行っており、俺は『スラッシュ』は躱すが、躱した後に即座に出る『スラッシュアッパー』を回避し切れずに毎回顎を打って宙を舞う。あれが無ければ何回かは勝っていたと思う程今は憎んでいる技だ。「ん? どうした坊主?」 俺の恨めしい視線に気付いたのか、俺にそう問うてくるセデン。「……何でもないです」 ここでセデンに当たるのは八つ当たりに等しいので自重する。それに、毎回『スラッシュアッパー』を出されていいようにくらうのは俺の技量がまだまだ足りていない証拠だ。何か文句を言う前にもっと実力を上げろ、と自分を叱責する。まぁ、あと敏捷力にステータスポイントを振る為にもう少しレベルを上げて均等に振ればいいだろうと考えた。その時のレベルが8で、ステータスポイントが7貯まっているので、あとレベルを一つ上げれば全体に均等に割り振れる状態だった。「何でもない、か。まぁ、坊主も頑張れば、キルリの嬢ちゃんから一本取れるようになるさ」 セデンは俺の肩をばしばし叩いて励ましてくる。どうやら俺の表情やらで事情は悟ったようだ。と言うか、肩を叩かないで欲しい。地味に痛いから。「さて、と。今日も仕事頑張ろうぜ、ソウマの坊主」 にかっと笑いながらセデンは食べ終わり芯だけが残った林檎を持参している袋に入れる。この町には公共用のゴミ箱が無いので、自分で出したゴミは自分で処理をしなければいけないらしい。俺も林檎を食べ終えたので、道具袋とは別の袋に入れる。 今日行った仕事は昨日と大体同じで、初めの内は町の中を見回り、ちょっとした喧嘩の仲裁、御年寄りの人の荷物運びの手伝い、ゴミ拾い、子供達と遊んだりした。午後になってからは見回りから見張り小屋で門の外を監視するような仕事の合間、セデンや他の門番の人に模擬試合をして時間を過ごした。子供と遊ぶのもまさか仕事に入るとは思わなくてびっくりしたが、子供の健康の為にも一緒になって遊んだ方がいいとの事で、大人の中でも何かと信用出来るらしい門番がそれを担当する事になったそうだ。 正直って、子供と遊ぶのが一番疲れた。模擬試合をするよりも、だ。子供の体力は底なしか? 鬼ごっこをやっていても制限をして走っているとはいえ、疲れるのが俺の方が速く訪れるってのはどうよ? 納得いかない。けど、むきになると直ぐに酸欠起こしそうになるので自重する。ステータスポイントを振らなければ体力さえも増えないのだから無理は禁物だ。 門番の見習いとして罰を受けているが、これの御蔭で俺は町の人達と親しくなっていった。 今では気さくに挨拶をする人も多くなったし、ちょっとした頼み毎もされるようになった。一番人気が出ているのは子供達だ。歳がセデン達よりも近いと言うのもあるし、なにより少しでも体を動かしておきたいと言う自分の考えもある所為か、動きに制限を設けているが必死になっている姿が子供達には好印象だったようだ。あと地面に枝で描いた絵が子供達よりも下手なのが逆にいいらしい。……ちょっとショックだった。それに加えて俺の体に攀じ登って来てアホ毛と言われている部分をみょいんみょいんと引っ張り回される羽目にもなっている。地味に痛いんだよなぁ。何時この部分が禿げるかと心配になってしまった。 最初に訪れて一週間の時よりも、俺は気分がいい。人と接する事がこれ程心の平穏を保つ事に必要だとは思わなかった。ここの人達はいい人だ。喧嘩も見かけるが、人間であるのだからそれも仕方がないし、それを加味しても暖かな雰囲気で包まれている。 俺は罰が終われば、キルリと一緒に旅をする事になるが、そうなってもまたこの町に来ようと思った。それくらい、この町を気に入ったんだ。
 けど、事態は一変した。
「……ぁ」 俺は浅く息を吐く。本当は深く呼吸をしたかったけど、それは叶わない。
『生命力:3/500』
 赤く表示されるウィンドウに俺の生命力が残り少ない事を伝えてくる。 俺は今、南門の近くにある林の中程で倒れており、胸には俺の腕程の太さを持つ折れた枝が突き立てられている。浅く息をしたのも、これが原因で深く息をしてしまったら肺に血液が一気に入ってしまい、死期が早まってしまうからだ。肺に痛みは無い。神経がやられてしまったのだろうか? 腕が上がらない。足も動かない。指先が冷たい。頭がぼぉっとする。服の布地が血を吸って重たくなっていく。耳には逃げる人達の悲鳴と、倒れる音が遠くから入ってくる。 ……俺は、何をやってるんだよ? 何で、こんな事になってんだよ? 今日も町内を見回り、何時もと変わらない日々を過ごす筈だった。 一旦南門に集まって、そこから町へと向かおうとした。今日はセデンと一緒ではなく、他の門番の人と共に行動する事になっていた。向かおうとした時、エルソの町の上空に、巨大な亀裂が二つ別の場所に出現した。魔封晶で守られている筈なのに、現れた亀裂の一つから白い光の柱が、もう一つからは黒い光の柱が落ちてきた。 それが地面と接触したと思しき瞬間に、轟音と共に突風が吹き荒れた。俺と門番の人はその風に煽られ、地面から無理矢理足を引き剥され、数メートルもの距離を飛ばされた。 俺はその時に、林に生えた木の枝に突き刺さり、その枝を折りながら地面へと落下した。一緒にいた門番の人は俺と同じ方向へと飛ばされたが、どうなったのかは分からない。少なくとも、今見える範囲には確認出来ない。 何が起きた? 一体、エルソの町はどうなった? そんな俺の疑問は、無情なウィンドウが答えを示した。
『クエスト『エルソの災害』を開始した』
 クエストが、開始された。 俺はこのクエストを知っている。見た事がある。 ゲームの情報雑誌で見たクエスト『エルソの災害』。エルソの町が崩壊し、その原因を作ったレガンとノーデムを殲滅するという内容だ。 このクエストでは、バトルフィールドは発生しない。アクティブフィールドにレガンとノーデムが現れるので、それを一匹残さずに消滅させるのがこのクエストのクリア条件だ。 バトルフィールドが発生しないと言う事はつまり、エルソの町の人が攻撃対象であり、レガンとノーデムは町を蹂躙していく事を意味している。 ゲームの時は深く考えなかったが、今となってはこれは非常に惨いと思う。町の中をレガンとノーデムが闊歩し、逃げ行く人々を問答無用に殺していく。自分達が強くなる為に。レガンとノーデムは敵対しているから出遭ったら奴等も殺し合いを始める。レガンは人とノーデムを殺し、ノーデムは人とレガンを殺す。人は逃げるか、その二種族に攻撃を加える。 無法地帯。その名が相応しい惨状になると思う。 どうして、こうなったんだよ? どうして、このクエストだけ『E.C.S』と同じなんだよ? どうして、ここなんだよ? その疑問は、誰も答えてくれなかった。 答えない代わりに、俺の耳には阿鼻叫喚が、小さくだが聞こえてくる。



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