End Cycle Story

島地 雷夢

第15話

 で、『ライトスフィア』を発現させる特訓と言うのは、このような事を指す。 手を開き、腕を天高く掲げる。所謂オラに元気を分けてくれー、のポーズをする事。正直言って恥ずかしい。人目が無い事が救いだ。 どうしてこのようなポーズを取っているのかと言えば、人様から元気を徴収するから……ではなく、空に輝く月と星から魔力を吸い取る為らしいです。らしいですと他人事のように言っているのは俺がそれを実感出来ないでいるからだ。と言うか、今現在俺は魔力を吸い取っていないだろう。「もっと誠意を持って月と星に呼び掛けて魔力を取り込んで下さい」 俺の前で『ブラッド・オープン』を解除して赤茶の髪に戻ったスーネルがこう淡々と言うのだから。こう言われる場合は俺は絶対に魔力を吸い取っていない。「だから、呼び掛けるってどうやってだよ?」 毎回同じ事を言われているのだが、如何せん理解出来ないでいる。何せ魔法とは無関係の世界で生きていた為、この世界の人とは感覚にずれが生じている。と、自分にいい方へと納得させる。「呼び掛けは呼び掛けです」 全く答えになっていない答えを口にするスーネルは師事に向いていないだろうとこの特訓をやり始めた時から理解している。どうやら彼女は感覚で『ライトスフィア』を習得したようだ。 彼女曰く『ライトスフィア』を含む光属性の魔法は魔法書や人に教わる事では習得出来ない魔法らしい。光属性の魔法は光を発する物体の魔力を体内に取り込み、それを体に馴染ませる事で習得する。因みに昼間の太陽の魔力は今の俺には適さないらしい。取り込んだ場合は強過ぎる事に加えて大量に入ってくるので俺の内部が耐え切れずに破裂するとか。夜間に輝く月や星は太陽よりも魔力が弱く、吸い取れる量も少ないので体への負担が減るのだとか。 レベルアップだとこんな苦労をせずに魔法を覚えるのに、とは思うが口にはしない。少しでもこの世界で生き残りやすくするには、こう言った努力を欠かしてはいけない。日本とは違って身の安全は保障されないんだし。いや、日本も結構安全じゃないけど、ここよりははるかにマシか。 因みに、闇属性の魔法も光属性の魔法と同様に闇を発する魔力を吸い取らない限り使えないそうだ。闇を発するなんて変な事を言うものだと思う。そんな物質は存在しないだろうに。 さて、意識を戻して月と星から魔力を吸い取る作業に戻るとしよう。とは言っても、どうするんだ? 初日は言われた通りに実際に声に出して呼び掛けた。「魔力を下さい」って満天の星空に向けて高らかに言った。でも駄目だった。凹んだ。それに加えてキルリが吹きかけて笑いを堪えていたのがショックだった。俺だって好き好んで言った訳じゃないのに。その時はダッシュでその場からいなくなりたい衝動に駆られた。でも我慢して今度は心の中で「魔力下さい」を連呼してみた。それでも駄目だったけど。 その他、何か念波のようなものを送るような想像をしたり、地面に「魔力プリーズ」と書いたり、紙に「魔力求ム」と書いて紙飛行機にして飛ばしたり、夜空に向かって『ファイアショット』を腹癒せに放ったり、単に願ったりもしてみたのだが、どれも芳しい成果は上げられないでいる。 もう、どうすればいいんでしょうね? 俺としてはお手上げ状態ですよ。「……はぁ」 つい溜息が漏れてしまう。もう諦めて覚えてる魔法の特性確認でもしようかな?「諦めずに頑張って下さい」 両手をぐっとして挫折を許さないような発言を仕出かしてくるスーネル。いや、だったらきちんと説明くらいはして貰いたいんですけどね。呼び掛けと呼び掛けとか呼び掛けとかのね。 因みに、手本を見せて貰った事はある。訊いて駄目なら見て学ぼうと思った。その方が絶対効率的だと思った。けど、結果としてはあまり意味がなかった。 何故なら、スーネルが何をしたのか全く分からなかったからだ。スーネルが実演をする際、俺と同じように両腕を天高く上げ、視線を夜空へと向け、そのまま五秒。それで終わりだと言われた時の肩透かし感は凄かった。君、何もしてないよね? ってつい言ってしまった。そしたら「失礼な事を言わないで下さい」と怒られてしまった。実演したのに何もしていないと言われれば、そりゃ誰でも怒ると言うもので、その日は魔法の特訓は打ち止めされ、正座をさせられて叱られた。 何がどうやって魔力を取り込んだのか分からない俺。と言うよりも魔力とは何ぞや? の知識からなので魔力の感知? とでも言えばいいのか、それを知らないので魔力の流れとかも分からないでいる……筈。 魔力は『E.C.S』では存在しないステータスで、俺のステータス表示にも表れない。けれども、この世界では魔力の概念が一般的に浸透しているらしい。流石は異世界。地球とは違う。ゲームでは魔法攻撃力と魔法防御力がそれの代わりとなっており、俺のステータスもそれを順守している。 つまり何が言いたいのかと言えば、俺はこの世界の人とは根本から違うと再確認させられた。 この世界の人は魔法を使えば使う程に魔力を高める事が出来、また、他の物体からも魔力を供給する術を持っているので、魔法を使う、魔力を奪う等をすれば魔法の威力は上がり、魔法に対する抵抗は強くなり、より多くの魔法を放てるようになる。また、一つの魔法の強弱を任意で操る事が出来る。 反面俺はと言えば、魔法を使い続けても威力は上がらないし、抵抗も強くならない事に加えて多く使用する事も出来ない。俺は経験値を得てレベルを上げてステータスポイントを振らなければいけない。それに加えて魔法を多く使いたければ精神力に、魔法の威力を高めたければ魔法攻撃力に、魔法に抵抗を持ちたければ魔法防御力と個別の能力となっているし、一つ魔法の強弱を操る事も出来ない。 また、同様の現象で身体能力にも影響している。普通ならば走って足腰を鍛え、体力をつけて息切れをしにくくし、筋肉をつけて攻撃力の底上げと少しばかりの防御力の向上等をするが、俺にはこの世界での走り込みや筋トレは意味を無さない。 たった一週間しか経っていないが、それでも剣を振り続けて分かった。振る度に自己流とは言え型は様になって行ったのだが、幾ら振っても剣を振るう速度は変わらなかった。しかし、敏捷力を上げると僅かにだが速くなった。 これだけしか実証していないが、仮に一ヶ月や二ヶ月走って体力をつけようとしてもつかないだろうと思う。物理攻撃力を上げれば見た目は変わらないけど持てる重量に変化が現れ、物理防御力を上げれば多少掠っても生命力が減る事が無くなるのだろう。 ならば特訓は意味が無いのではないか? と言う訳でも無い。今では魔法は新しい魔法を覚える為の時間にされているが、元々は魔法の特性を把握しようとした目的で行った事であるし、素振りは型を身に着ける為に必要不可欠だったからやろうとしていたのだ。 特訓は決して意味が無い訳ではない。目に見えない形で着実と俺がこの世界で生き残る為の糧となっていく。 ……まぁ、この『ライトスフィア』習得だけは別かもしれないけど。 さて、本当に困ったものだ。 魔力を持っていない俺にはどうする事も出来ない。吸い取るとか取り込むとかの概念が分からない。でも、スーネルは俺に『ライトスフィア』を習得させようとしている。何を言っても、だ。拒否権は俺に無い。「……あっ」 一つ、思い浮かんだ。もしかしたらこの方法もありなのではないか?「どうしました?」 スーネルがいきなり声を上げた俺に視線を投げ掛けてくる。「実は、星と月から魔力を取り込むのをやめようと思って」「いえ、それですと」「分かってるよ。『ライトスフィア』は習得出来ないって言いたいんだろ。だから、別の方法を試してみる事にするんだよ。どうもこの方法は俺と相性が最悪だからね」「別の方法と言うと?」「スーネル、俺に向けて『ライトスフィア』を放って欲しい」「え? 貴方に向けて『ライトスフィア』を放つ、ですか?」 スーネルは目を少し見開いて俺の言葉を反芻させる。 俺はこう考えてみた。 光を放つ物体から魔力を吸い取り、体に馴染ませる事で光属性の魔法を扱えるようになる。でも、俺は魔力と言う概念が分からないので魔力を吸い取る、取り込むと言った感覚、行動が出来ない。ならば、光属性の魔法を自分の身に受けてダメージを受ければいいのではないか、と。 『E.C.S』には無いが、他のゲームのシステムで時々見掛ける『ラーニングシステム』を連想してみて思いついた。 魔力を感じる事が叶わない身体だが、魔法には属性が付加されている事は分かっている。なので、その身に魔法を受ければ少量はその属性を纏った魔力が体に染み込むのではないか? と。生命力が減ってダメージを受けたのならば絶対とは言い切れないが、可能性は無きにしも非ずだ。試してみる価値はあるだろうと思う。少なくとも、よく分からずに月と星に呼び掛けているよりは何か進展が望める筈だ。 魔力云々は伏せて、独白の後半部分を声にしてスーネルに伝える。「はぁ、分かりましたが、危険ですよ?」 スーネルは曖昧な返事をしながら頷く。「因みに、『ライトスフィア』ってどんな魔法だ?」 念の為に訊いてみる。俺の体に当てられる魔法なのだから、流石にそろそろ詳細を知っておかないと身構えられない。いや、攻撃魔法でも受けようとは思うが、思いの外強力な魔法だったら、傍らに薬草を準備しておかなければならないから。魔法の特訓で魔法を受けて死ぬ、は笑えない。「発動者の周りを囲むように光のドームが現れ、触れた者にダメージを与え、相手の攻撃もある程度防ぐ攻防一体の魔法です」 成程、所謂バリアを展開するのか。発動者の周りに展開される『フロストカーテン』よりも明らかに有能な魔法だと言う事は分かった。が、威力はどうなのだろうか?「どのくらいの強さなんだ? 普通の状態の球体の攻撃力は」「そうですね……レガンドールなら二回接触すれば消える程のダメージを与えます」 それは……ちょっと洒落にならないと思う。 レガンドールは序盤の敵だから少ない回数で倒せると言うのは納得出来るが、まさか真っ向から切り掛かった場合の俺の攻撃よりも大きいとは。『エルフ・ブラッド』のスーネルだからこその攻撃力なのだろうが、俺がただ切り付け攻撃だけを行った場合は十撃以上当てないと倒せない。 ……ちょっと、試しに俺は銅屑の剣で左の太腿に突き立てる。銅だからなのか骨に到達したが砕ける様子はないが、肉は抉れるように切れた。嫌な汗がぶわっと出て痛みが走り、反射的に声が出そうになったので歯を食い縛って堪える。
『生命力:345/400』
 先程手の甲を打たれてから自動回復し、満タンだった生命力が55減った。つまり、スーネルの『ライトスフィア』は最低でも五倍の威力を誇っているようだ。更にここからレガンロイドの生命力は550前後と判断出来る。まぁ、恐らくだけど。きちんとした計算はしていないが、あながち間違ってはいないだろう。「ソウマ何やってるの!?」 リャストルクの隣で魔法の特訓を見ているのが常になっていたキルリが血相を変えて俺の下へと走り寄り、血が流れ出ている太腿に手を翳して『ヒール』で傷を回復させてくれた。傷はみるみるうちに癒えて、痛みも引いた。
『生命力:400/400』
「いきなり自分に剣を突き立てるなんて正気!?」「自傷行為は正気の沙汰とは思えません」 キルリは俺を咎めるように睨みつけ、スーネルも俺を咎めるような口調で非難してくる。俺は自分の攻撃力を確かめて、これから行う『ライトスフィア』に触れると言うある意味での自傷行為で一発では死なない事を確認しただけ、とは言えない。この二人は生命力の概念はないようだし、言っても信じて貰えないだろう。「いや、これから攻撃魔法に触れる訳だから、自分に活を入れて覚悟を決めただけだよ」 なので差しさわりも無く、ある意味で嘘を吐いてない返答を二人にする。「そ、そうなの? でも、それだったら自分の頬を叩くとかの方がいいよ? その方が最悪切り落とすとかの心配ないから」「そうですね、私もそちらをお勧めします。そちらの方が手が滑って致命傷、などと言う冗談にならない展開にはならないでしょうし」 二人にはそれぞれ納得はして貰えたが、やるならもっと穏便な方法を取れと言われてしまう。「以後善処はするよ」 と言うよりも、恐らくもう自分の太腿を突き刺そうとは思わないだろうけど。「では、『ライトスフィア』を張りますが、弱くした方がいいでしょうか?」「いや、普通でお願い」 スーネルは俺と違って魔法の強弱を調節出来るが、それをして貰おうとは思わない。俺の考えでは調節しても結局は同量のダメージは受けなければいけないと予想しているからだ。魔法を弱くすればその分ダメージを抑えられるが、同様に魔力量も抑えられてしまうと踏んでいる。それならば触れる回数を減らしてでもとっとと終わらせてしまった方が得策ではないか、と俺は考えている。なので、スーネルには普通に『ライトスフィア』を発動して貰う事にする。ただし、強くしたら俺が一撃で死ぬ可能性が出てくるので強くするのは無しの方向にしている。「……分かりました。ライトスフィア」 スーネルが魔法の名前を唱えると、彼女を守るように薄黄色の光の球体が包み込んでいく。第一印象はバリアと言うよりも、某ゲームで威力百未満の攻撃を無効化するオーラと言った感じだ。球体の上部が揺らめいているのが余計にそう思わせる。不安定なのか?「どうぞ」 準備が出来たスーネルの言葉に、俺は光に触れようと右腕を伸ばす。「うわっ!」 触れると、直ぐ様弾き返された。ゆっくりと触ったのにも関わらず、反動が大きかった。
『生命力:119/400』
 一瞬触れただけで生命力が半分以上削られた。やはりスーネルの『ライトスフィア』は俺の斬撃のおおよそ五撃分の威力があった。 さて、これだけのダメージを負った成果は直ぐに反映されるのだろうか?「………………」 暫く待っていてもウィンドウが現れないので、魔力量が少なかったのか、はたまたこの方法は失敗なのか判断がつかない。それを判断するにしてももう二〜三回は試さないと。いや、それでウィンドウが現れなくてもまだ魔力量が足りないとも判断できるが、あまり命懸けで橋を渡りたくはないのでそれくらいで打ち止めにする。 拾った薬草を三つ飲んで全快させ、光の球体に振れる。その作業を計三回終えてもうやめようかなと考えた時に、ウィンドウが現れた。
『魔法『ライトスフィア』を習得した』
 俺の考えは間違っていなかった事が証明された。魔力を感じ取る事は出来ないが、魔法をくらう事で魔力を取り込む事に成功したようだ。代償は薬草九個の消費だ。痛みは無かったが、地味に回復アイテムを削られたのは痛い。まぁ、そこらで拾えばいいだけの話だけども。「ライトスフィア」 習得したようなので、『ライトスフィア』を展開しているスーネルと見物しているキルリに当てないようにと距離を取って実際に発動させてみる。すると、スーネルと同様に光の球体が俺を守るように包み込んでくる。「……本当に出来たんですね」 『ライトスフィア』が解除されたスーネルは唖然としながら俺の『ライトスフィア』を眺める。この口振りから、出来るとは思っていなかったんだろう。彼女の眼がそれを雄弁と語っている。「ソウマ、よかったね」 反対にキルリは喜色の表情を醸し出して笑っている。他人の事なのにどうしてここまで喜ぶのかはよく分からないが、喜びを分かち合えるのならば習得した甲斐があったと言うものだろう。 ……だが。「あ……れ……?」 急に体に力が入らなくなり、為す術も無く俯せになるように倒れた。「ソウマ!?」「どうしましたかっ?」 キルリが慌てて、スーネルが『ライトスフィア』を解除してこちらに走り寄って来るのを視界の端で確認する。 もしかしてこれって……。
『状態異常:虚脱』
 ウィンドウが俺の考えを肯定してきた。やっぱりこの状態は虚脱だった。 ウィンドウが現れたのを確認すると、俺はメニューを開いて魔法の欄を確認する。
『ライトスフィア:対象の周りに光の球体を展開する。精神力を40消費する』
 この魔法は大変燃費が悪いようだ。俺の精神力を全部消費して発動する。この魔法を使うには、精神力の数値を上げないといけない。そうしないと、使った瞬間に虚脱の異常状態になってしまう。虚脱になっても『ライトスフィア』が発動したままなので襲われる心配はないが、時間経過で解除されるのだろうから楽観視も出来ない。早くレベルを上げて、ステータスポイントを均等に割り振れるようになってから使うべきだろう。 この燃費が悪い『ライトスフィア』はスーネルが発動した際に何気に秒数はカウントしていてその結果、二十秒は持続する事は分かっているので、少なくともキルリとスーネルは俺に二十秒は触れない。それが歯痒いのか、キルリは特にわたわたしている様子が視界の端で窺えた。 『ライトスフィア』の継続時間が過ぎて解除されると、キルリが素早く俺を抱き抱え(えっ?)、スーネルがリャストルクを持ってセデンの家へと走って戻った。どうやら今日は強制的に特訓は終了のようだ。別に精神薬か精神草を呑めば虚脱は解除されるので心配はないと言いたかったが、口が動かないのでされるがままにされ、ベッドに横にされ、セデンには「何やってんだよ坊主」と溜息を吐かれた。そして俺はキルリとスーネルに何故か見守られながら眠りにつかされる羽目になった。 翌日、目を覚まして精神力が回復して虚脱の状態異常が治って起き上がると、直ぐ近くで座っていたキルリに肩を掴まれてベッドに押し倒された。「今日は安静にしてなさい」 軽く睨まれた。いや、もう回復したから大丈夫、と言っても信じて貰えず、この日はベッドで一日を過ごす羽目になった。どうしてここまで心配されるのだろうか? よく分からない。 この日、一番驚いたのはセデンが仕事を休んでまで、キルリとスーネルと一緒に俺の看病と言う名の世話をした事だろう。別に看病される程の状態ではないが、わざわざ仕事を休んでまでしてくれて、済まない気持ちになった。



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