End Cycle Story

島地 雷夢

第14話

 今日の昼間に覚えた疑問――『ブラッド・オープン』に関する嘘が話題にならなかった理由が夜になって理解した。 計八十体近くものレガンとノーデムを倒し、セデンの家に戻る前に町の商店でドロップアイテム等を売ったり薬を買い、家に戻ってキルリとスーネルと共に夕飯を作ってセデンが返ってきたら皆で食べ、その後に門付近の無駄に広い林で魔法やら剣技の特訓をする事がこの頃の日課となっている。光源はリャストルクが賄ってくれる。 この世界で生き残る為には、自衛の手段を得なければいけないと痛感したので、自主的に行うようにしているのだが、どうしてだか分からないが魔法に関してはスーネルが。剣技に関してはキルリが指南してくれている。こちらとしては有り難いんだけど、言っては何だが見返りは期待出来ないのにする意味はあるのだろうか? と疑問に思ってしまう。
『レアクエスト『特訓っ!』を開始した』
 ……まぁ、この事がまさかのクエストとして開始されたんですけどね。しかもレアクエスト。ストーリーには関係ないけど達成した暁にはレアアイテムや魔法、特殊技の習得が待っているのでより一層励む事にした。 話の軌道修正をしよう。今日は魔法の特訓を先にした。その際に目にしたのだ。スーネルが『ブラッド・オープン』した姿を。「へ?」 一瞬で目が点になり、口をぽかんと開けてしまった。 肩まで伸びているスーネルの赤茶の髪は水面に反射する光のように輝かしい淡い黄金色に染まり、耳が少し伸長して先が尖った。このような容姿になるのは『エルフ・ブラッド』だ。スーネルは魔法攻撃力と魔法防御力に秀でているのだろう。 でも待って欲しい。スーネルはオッドアイじゃない。両目とも黒だ。セデンの(眉唾な)話によれば『ブラッド・オープン』が出来る者は両目の色が違う筈じゃなかったか? そうなると、やっぱりセデンのお爺さんの話は嘘なのか? と、思ったのだが、どうやらセデンのお爺さんは正しいかもしれないと即座に考えを改めた。 いきなりの様変わりに顔を近付けたりして変化した部分を観察していた時に、スーネルの瞳に目が行った。よく見る為に側頭部を固定し、瞳を覗き込むようにして近付けて確認すると、右目は墨のような黒だが、左目が夜闇のような濃藍色だった。つまりオッドアイ。分かり辛かった。紛らわしいなぁ。でもまぁ、こう言う色のオッドアイも無い訳じゃないしな。と言うか、もしかしたらこのタイプのオッドアイの人の方が多いのかも。「……ソウマ、顔近付け過ぎ」 背後からキルリが俺の首根っこを掴んでスーネルから距離を取らせようと結構な腕力で引っ張られる。どうして怒気が籠っているんだろう? と言う疑問もさる事ながら、俺は両手でスーネルの頭をホールドしていたのでこのまま引っ張られるとスーネルも一緒に引っ張られるのは理解しているのだろうか? 流石にスーネルを巻き添えには出来ないのでホールドを解除する。「あっ」 が、寸での差で遅かったようだ。スーネルは慣性の法則によって前方へと倒れ、俺の胸へとダイブ。どうやらきちんと土に根を生やしてたっていなかったようだ。スーネルの体を支えようと腕を伸ばしもしたけど、タイミングは遅く、肩を抱いて寄せているような構図になっていたりする。鼻ぶつけなかったかな? 俺の胸は筋肉あんまりないから骨ばってて硬いだろうし、流石に鼻血は出ないだろうけど。「大丈夫か?」「はい、大丈夫です。ですが……貴方は意外と大胆ですね」 何が? 少し微笑みながら何を言っているんだこの子は? でも、この顔で俺の顔を覗き込んでくるのは反則だろう。幼さの残る可愛らしい顔が『エルフ・ブラッド』の影響で更に可愛く見えてしまう。エルフは美形に描かれる事が多いのが常だか、これはまさにそれを体現している。見てるこちらが気恥ずかしくなってきて目を逸らそうとするが、どうも逸らせないでいる。もしロリコンだったらこのままお持ち帰りしているのかもしれない。いや、俺はロリコンじゃないけども。「は・な・れ・ろっ!」 そんな膠着状態をキルリが間に割って入り、俺の手を叩いてスーネルの肩を掴んでずざざっと離して距離を取ってくれた御蔭で脱する事が出来た。でも、俺の手を叩かなくてもよかったんじゃないかな? 意外と痛い。手の甲が赤く腫れてるよ。
『生命力:391/400』
 しかも、地味に生命力が減るくらいの威力だし。「まぁ、今のは恐らくお主が迂闊にその妖精娘に近付いたのが悪いのじゃろうて」 近くに地面に突き立てられたリャストルクが溜息交じりに言ってくる。何か久しぶりにリャストルクの声を訊いた気がするのは、気の所為じゃないだろう。 因みに、リャストルクにだけは俺の本当の名前を教えておいた。リャストルクと心を通わせる――と言えば聞こえはいいが、単に思考がだだ漏れな状態(主に俺の側)なので嘘を吐いても仕方がなく、思考だだ漏れ故に俺が異世界から来たと知ったので、その事を含めて話した。異世界での事を話したけど全く疑いもせず、どちらかと言えば興味津々といった感じで訊いていた。特に漫画とかゲームに反応してた。この世界には無い娯楽だからだろうか? で、本当の名前まで教えた訳だが、俺はリャストルクが何者かを逆に訊いてはいない。初めて会った時から感じていたが、まだ話す仲でもないし雰囲気でもなかったからだ。もし、本当の薙ぎ手が見付かるか、今以上に信頼関係が築き上げる事が出来れば話してくれるのかもしれないし、それでも話してはくれないかもしれない。でも、確実に入れるのは今は言えないのだ。だから、俺は無理に訊こうとはしない。……まぁ、もしリャストルクの機嫌を損ねて装備から外されると俺の戦力がガタ落ちしてしまうと言うのも理由の一つなのだが、それは言わない方向にしている。「迂闊?」 リャストルクの言葉に俺は疑問符を浮かべる。別に迂闊に近付いた訳じゃないんだけど。と言うか、スーネルが俺の胸にダイブした原因はキルリ自身にあるのだから、俺の手を叩く理由にはならないだろうに。因みに、リャストルクの言う妖精娘はスーネルの事を指す。リャストルクは基本人を名前で呼ばない。俺を呼ぶ時はお主か一時の薙ぎ手。キルリは小娘。スーネルは妖精娘。セデンに至っては髭面で強面の男だ。どうして名前で呼ばないのだろうか? 名前の方が文字数少ないのに。「小娘がいると言うのに、妖精娘に顔を近付けたじゃろうが。傍から見れば、勘違いものじゃぞ?」「勘違いって?」「そこまで言わなければ分からんのか?」 分かりませんよ。俺は人の心の機微なんて読めないよ。「……一時の薙ぎ手よ。お主は本当に男か?」「失敬な。俺は正真正銘男だよ。証拠見せるか?」「誰が見るかっ」「見るのが恥ずかしい?」「それはそうじゃ。いくら人気の無い場所だからと言っても公然とした場所で男の……って何を言わせるのじゃ如何わしい!」「そっちが勝手な妄想しただけだろ? 俺はただ髭でも見せようとしたんだよ」「そんなものかい!」「そんなものだよ。と言っても、何故か未だに髭が生えてこないんだけどね。俺って二次性徴はまだなのかな? もう十七歳なんだけど。どう思う?」「知るかっ!」 とか何とか俺とリャストルクが漫才擬きをしている間、キルリとスーネルは五メートルくらい離れた場所でこちらに背を向けてなにやら小声で話し込んでいるようだ。何を言っているのか聞き取れない。リャストルクの音量も影響してるだろうけど。まぁ、聞き耳を立ててまで他人の話を訊こうとする性分じゃないから気にしないけど。「……まぁ、何じゃ。お主が気付いていないようだから言わせて貰うがの」 あ、どうやら先程の勘違いに関しての俺の求める答えをリャストルクが言ってくれるようだ。「あのままじゃと傍から見れば妖精娘にせっぷ「てぇい!」ぬぉっ!?」 求める答えを半ば口にした瞬間、刹那で五メートルの距離を疾駆したキルリによって柄を握られ、フルスイングで軽く十メートルを越した明後日の方向へと投げ飛ばされた。刀身が光っているから回転しているのが分かる。そして光源が失われた事によってここら一帯が薄暗くなってしまった。と言うか、キルリにはリャストルクがとてつもなく重く感じている筈なのに、よくあれだけの距離を叩き出せたものだと感心する。「……キルリさん、何してんの?」 鼻息荒くしているキルリを窘めるように俺は注意を促す。今はもう夜で、それにはかけた月が輝いているとは言え暗いんだから、このままだと特訓もしにくい。「……御免。ちょっと、ね」 キルリはバツの悪そうな声音で、俺から視線を逸らして答える。何がちょっとね、なのか? きちんと理由を話して貰わないと伝わるものも伝わらないのだが。「でもま、丁度いいんじゃない?」「何がだよ?」「魔法の特訓に。だって今日も『ライトスフィア』の練習でしょ?」 キルリがさも今の出来事が必然であったかのように言い包めてくるが、それだったらリャストルクに頼んで発光を和らげさせて貰えばよかったのではないだろうか? と思うのは俺だけか? さて、本日の……と言うよりはキルリの言う通り本日もなのだが、の特訓は魔法『ライトスフィア』を発現させる事。『ライトスフィア』――字面からして光の球なんだろう。けど、それは攻撃に使うのか防御を目的としているのかが謎いだ。 と言うよりも、この世界で取得した魔法は全て謎なんだよ。その理由は『E.C.S』と魔法が異なるからだ。『ファイアショット』も『フロストカーテン』も『ウィンドヴェール』も『サンダーフォール』も、全て『E.C.S』には存在しない魔法なのだ。少なくとも序盤では。 『E.C.S』で序盤に覚える魔法は『フレイム』、『アイス』、『エアー』、『エレキ』だ。属性こそ同じだが、名前が全然違う。因みにこれら四つは所謂攻撃魔法だ。だが、この世界では違う。『ファイアショット』は攻撃魔法だが、『フロストカーテンは』一週間経った今でも攻撃判定無しで防御判定も無いいまいち把握し切れていない魔法。『ウィンドヴェール』は体に風を纏わせて機動力を上げる補助魔法。『サンダーフォール』は敵の攻撃を雷撃で封じる防御魔法の位置にある。 因みに、俺がレガンロイドと相対した際に見た稲妻は『ライトニングパニック』という雷系統の攻撃魔法だそうだ。スーネルが発動出来たので俺も出来るかもしれないが、当分先の話だろうな。精神力が直ぐ底を尽きそうな予感がしてならない。『ファイアショット』を避けなかったレガンロイドが一気に避けたんだから相当の威力なんだろうとは思う。けど、それを扱うにはそれ相応の力が必要な訳で、俺には圧倒的に足りない要素だ。補足だが、『E.C.S』では『ライトニングパニック』なんて魔法は前者四つど同様存在しない(俺の知識の中では)。 そんな訳で魔法は前情報が無いので、この魔法の特訓は最初特性を掴む為の自主練目的だったのが、直ぐにスーネルによる新魔法の会得時間と化した。スーネル曰く「四属性の魔法が使えるのならば、練習よりも手数を増やした方がいいです」との事。まぁ、多種多様になった方が戦闘に有利になるのは分かるけどさ、練習も必要だと思うよ。「じゃあ、ちゃちゃっとやっちゃって。私との模擬試合をする時間が無くなっちゃうから」 キルリがそう言いながら近くの木に背を預ける。そう、剣技の特訓はまさかのキルリとの模擬試合と化した。最初は素振りでもしていたんだけど、キルリが「私と戦わない?」と言い出したのが切っ掛け。キルリが俺の型を指南してくれるのではなく、だ。一対一の試合。木剣を用いて安全面は考慮されているが、それでも俺は毎日青痣を付けている。 ぶっちゃけた話、勝てない。全敗中である。初日は為す術も無く滅多打ち。ある時は面を食らい、ある時は胴を。そして足払いされて首に切っ先を当てられたりもした。清々しい程の完敗っぷりだった。剣を振る基礎が出来ていない相手に容赦がなさ過ぎた。少しは基礎を学ばせる機会をくれてもよろしいのではないでしょうか? と言っても何故か聞く耳を持ってくれないキルリ。仕方がないので皆が寝静まった頃合を見計らってセデンの家の庭で二時間ばかし一人木剣を振っている。御蔭様で寝不足になるが。あ、因みにリャストルクも道連れだ。光源確保と言う名目の下、一人ではやはり寂しいし怖いからだ。暗い中で見えずに素振りは恐怖ものだ。 まぁ、だからと言ってキルリとの模擬試合が役に立たないという訳ではない。むしろ役に立っている……筈だ。 素振りは型を身に付けるのには打って付けだが、俺にとっては相手を想定して振っていないのでどうも避けたり防御に出る動作が遅れてしまう。キルリの攻撃を避けたり防ごうとする時にそれが顕著になる。なので、俺の素振りはただ振るだけじゃなくて、その日キルリの攻撃を躱したり、防いだりした際にどう剣を振っていればやりやすいかを頭に思い浮かべながら振っている。 それに加えて、避けながらの攻撃、避けられた後の対処なども大変勉強になる……筈。うん、その筈。レガンやノーデムだって動く。俺の攻撃を避ける時もある。そう言った場合でもテンパらずに対処出来るようにと実際に戦って経験しておく。因みに、キルリは俺が避けるとその方向へと剣を追わせ、俺の攻撃を避けるとカウンターを仕掛けてくる。本当、俺なんかよりも強い少女です。 ……はてさて。心の中で愚痴を言うのもこれくらいにして、魔法の特訓をする前に遠くに飛ばされたリャストルクを救出しに行くとしますか。 俺は遠くに光る刀身を目指して暗い林の中を歩き出す。その後をキルリとスーネルがついて来る。 あっ、そう言えば。「どうしてスーネルは今日ブラッ……エルフの血を発動させたんだ?」 こちらの世界では『ブラッド・オープン』とは言わないのでこう言っておく。その姿の方が魔法が出しやすいとかかな? 魔法特化の『ブラッド・オープン』な訳だし。でも確か微妙にだが燃費は悪くなる筈だけど。う〜ん、分からん。「それはですね。この姿を貴方に見せた事が無かったからです」 俺の横についたスーネルは真顔で言ってのけた。「え? それだけ?」「それだけです」 …………特に深い意味はありませんでした。 因みに、スーエルは暫くはセデンの家に居座って家事を行っているが、俺の罰の期間が終わり、キルリと共に町を出ていく時に一緒に連れ立ち、自分が元いたカムヘーイの教会へと戻って修道女になるとの事。どうして俺とキルリと一緒に行くのかと言えば、「護衛を頼めますか?」との事。でも『ブラッド・オープン』出来るのなら護衛は必要ないだろう、という突っ込みは敢えて控えさせて貰った。何て言うか、上目遣いで頼まれたので。男はこの目からは逆らえないだろうなぁ、と思いつつ了承したのだった。



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