End Cycle Story

島地 雷夢

第9話

 この木で周りを囲まれた空間も外の時間とリンクしているのか、暗い。星空がないので完全な暗闇が続く。幸いしているのはリャストルクが光っている為に手前の空間は見える事だな。それでも視界は悪いから、苦戦するだろう。 ――なんて思っていましたけれども。そうでもないと瞬時に考えを改めた。 理由は二つあって、一つ目はノーデムの単眼が赤々と煌めいていた事。瞬きはあいつらもするから常時ではないけど居場所を把握出来る。 二つ目はアビリティ『ロウアナライズ』によってノーデムの頭上に名前が記載されたウィンドウが展開された事。どうやらここにいるのはキャシーノーデムという猫型のノーデムで、六体いる事が窺えた。しかもウィンドウはキャシーノーデムが動いてもついて行き、屈めばその分下がり、跳躍すればその分上がる。位置がもろばれだった。そして微妙と思っていた『ロウアナライズ』がまさかこんなに役に立つとは思わなかった。 位置が完全に分かったので、結構スムーズに駆逐出来た。背中をフィールドの端に寄せるのを前提でだ。後ろを取られたら一気に終わりそうなんで。引っかき攻撃とかはウィンドウと眼の光だけでは分からなかったけど、若干掠った程度でダメージとしては4とか2とかその程度だった。直撃なら二桁に突入してただろうけど。 キャシーノーデムの攻撃方法はこっちに近付いて引っかいてくるか、跳び掛かってきて噛み付こうとするかの二択だけあった。ダメージを受けたのは前者だけ。それも前述の通り微々たるものだけど。ドギーノーデムの二倍はある速さだったというのも影響したのだろう。近付いて腕を伸ばす分完全に避けきれていない。 反面、跳び掛かってくる攻撃は軌道が分かり、空中では回避が不可能という点を突いて、跳んだキャシーノーデムの軌道上にリャストルクの剣先を向けているだけで簡単に突き刺さる。 ノーデムの消滅は黒い泥と化して地面に溶け込んでいく。天に還るレガンとは違い、ノーデムは地に還るらしい。 俺は結局、目的地に着くまでに計八回ノーデムの亀裂に吸い込まれた。昼間よりも遭遇回数が多いのは奴らが夜行性だからだろうか? まぁ、出会ったのは全部キャシーノーデムなんですけど。計三十八体もの敵を撃破した。剣を振って腕が重くなるし、時間を浪費してしまった。あいつら、集団で一人を襲うとかないわー。狩りか? 狩りだろうな。リャストルクと『ロウアナライズ』が無ければ俺は袋叩きに遭って終わってただろうな。
『キャシーノーデムを五体倒した。 330セルを手に入れた。 経験値を160獲得した。 レベル:4に上がった。 魔法『ウィンドヴェール』を習得した。 魔法『サンダーフォール』を習得した。 特殊技『刃波』を習得した。 アビリティ『カウンターガード』を習得した。 ステータスポイントを3獲得した。     』
 まぁ、御蔭様でレベルはここに来るまでに二つ上がった。ステータスポイントは合計で5増えて、魔法に特殊技、アビリティも増えた。 直ぐにでも確認したい所だが、それよりも早く養子を探さないといけない。全て終わってからだな。でも、ここまで走り続けて息切れが凄まじい。体力がないとこうまでキツイとは……。これから生き抜く為にも必要最低限の体力は確保しなければいけないなと心に誓う。もう汗だらっだらだ。セデンの家に帰ったらもう一回風呂に入りたい。 兎にも角にも、ノーデムを切り払って俺はカチカ家の跡地へと辿り着いた。時間にしてどのくらいかかっただろうか? ここからエルソへと向かった時間よりも掛かったのは確実だ。現時刻は深夜零時を越えている事だろう。 暗いが、リャストルクの刀身から発せられる光を頼りに瓦礫へと近付く。そしてリャストルクを近くの地面に突き刺して、俺は瓦礫の除去作業を開始する。 瓦礫を一つ一つ取っては後ろへと投げる。後ろに人がいるかもしれないという危険は皆無なのでいちいち確認せずに投げる。オーバースローでは……投げない。体力減ってるのでね。それ以前にそこまでの筋肉が無い。と言うか、全身の筋肉が今も悲鳴を上げて痛い! 休憩も無しに走り通したりノーデムを切ってたり、それに今は除去作業もしているの本来あまり使わない筋肉まで使って乳酸が生産されまくってしまった。これは明日筋肉痛になるだろうな。 いてぇ、とか泣き事をほざきながらも除去作業の手は緩めない。緩めてはいけない。怠ってはいけない。そうしてしまったら、自分に災厄が降りかかってしまうから。 でも、この作業は夜の間だけで終わるかな? 俺が除去作業を進めた場所からそう遠くない場所に養子の遺体が埋まっていればあまり時間を掛けずに終了するのだが。もし正反対の方の端に埋まっていれば、下手をすると朝になっても見付からないという展開が待っている。それは嫌だなぁ。もっと楽に除去する方法はないものか? と、手を止めて何となく地面に突き刺したリャストルクを見る。こいつを使えば瓦礫は吹き飛ばせるだろうか? レガンとかノーデムを問答無用で一刀両断したり砕いたり出来る剣だから、瓦礫くらいなら問題なく切れるだろうな。いや、切っちゃ駄目だよ。もし切った先に養子の遺体があったらスプラッターな惨状が出来上がってしまう。かと言って剣の腹を使い、ゴルフの要領で吹き飛ばすというのも非効率だし。そもそも俺はゴルフをした事が無いのできちんと避けれる自身が無い。 なので、俺は自分の手を使って地道に取り除く事を再開させた。結局、地道に一つずつ持っては投げるのが建設的だった。あ〜、これ結構腕以外にも足と腰に来るな。明日歩けるかな? 横になって寝てしまったら最悪その日は立つ事が不可能になるんじゃないか? と言う不安が過ぎる。 数えるのも馬鹿らしいが、気晴らしに途中から退けた瓦礫の数を数えていた。 二百六十四個目を瓦礫を退けて、次の瓦礫へと手を伸ばす。伸ばした手は瓦礫ではない何か柔らかいものを触った。 この感触からして、石とかではない事は確実。強く握ってみると、形が変わる程に柔っこい。たゆんたゆんとした感触が神経を伝う。養子の遺体でも見付けられたか? でもここで疑問が一つ。死んでから結構時間が経っているというのに、死肉はここまで柔らかいだろうか? 普通は死後硬直とかでかちこちになっているイメージがある。あ、でも料理で肉を叩いての柔らかくする方法があったような気がする。瓦礫に潰される時に繊維が切断されて弛緩したとか? いや、仮にそうだとしてもここまで柔らかくないだろう。普通は掴んだら骨に当たる筈だし。けど、骨の感触が一切ない。骨が肉の中から消失する事は基本外部からの干渉が無い限りは有り得ない。遺伝的問題は除外するけど。 もしかして、この柔らかいのって内臓? 心臓とか、胃とか、肺とか? 果ては脳味噌? いや、俺のイメージするぐちょっとした感触はしないし、何よりも液体を触っている感じではない。内蔵が出てるなら血に塗れている筈だし、血が流れ出て乾燥していたとしても、それ以前に血の匂いがしない。つまりこれは内臓ではない。と思う。 しかも、ちょっと温かいんだよね。ほんの微かだけど、瓦礫と違うし、死体とも違う。あと上下に動く。非常にゆっくりだけど。それに加えて何か脈動している。弱々しいけど。「…………脈動?」 どうしてそんな表現したんだ? 風で動いたとか、地面が動いたからが影響していると言ってもいいのに。いや、風は吹いてないし、地震も無い。リャストルクから結構離れてしまったので光があまり届いていないので目を凝らしても識別出来ない。マジで何なんだこれ? 疑問に思いながらも、その柔らかいものの周りの瓦礫をゆっくりと避ける。ここまで瓦礫を退けるとそろそろ衝撃で軽く雪崩が発生しそうだったので、それに巻き込まれないようにと一つ一つ持ち上げて投げずに数メートル先へと置いて、また戻って瓦礫持って離れて置くと言う単純作業を繰り返す。「そ、そろそろ、いい、かな?」 息切れしながらもそれから二十くらいは周りの瓦礫を避けた。二十個目の瓦礫を避けた時にからんからんと軽い音がする何かがいくらか俺の方へと雪崩れてきた。多分木製の家具とか扉の一部だろうとは思う。それは避けずに置ておいた。まずは手に持った瓦礫を退けるのを優先したからだというのも一つの理由だ。 地面に突き刺したリャストルクを引き抜き、あの柔らかいものがある方向へと向かう。木片を残したもう一つの理由は、道標と使う為だ。俺が夜に瓦礫を避けている時には他に木片らしい音と感触は無かった。一度リャストルクの方へと戻ると先程までいた場所は暗闇になるので何処だか迷ってしまう。それを防ぐ為に置いたままにした。 進むと、確かに木片が下に転がっていた。と言う事は、この先にあの柔らかいものがあるのか。 リャストルクの光を前方へと掲げる。刀身の放つ光が奥の空間を照らし出す。 その場所には、少女が横たわっていた。キルリよりも幼いだろうか? 瓦礫の粉を被った赤茶の髪は肩まで伸びており、綺麗に切り揃えられている。目を閉じているその顔はまるで赤子が母親の腕の中で眠っているかのように可愛らしい。つい頬を突きたくなる程だった。だが肌は血色を欠いている。 服装は所々破れてしまったロングスカートに、胸の部分がはだけてしまった半袖のシャツの上に桜色のカーディガン? を着ている。胸がはだけているのでその、女性の左の乳房が顕わになってしまっていて、即俺は視線を逸らす。男としての習性(胸に目が行く)を必死で堪える。逸らして足の方へと視線を向けるが、そちらもロングスカートの間から太腿が露顕して……はい、また逸らしました。 で、何故このように視線を忙しなく動かしてしまっているかと言うと、この横たわっている少女が生きているからだ。血色を欠いてはいるが決して死んだ人のような白さではなく、ほんの微かだがまだ赤みを残している。弱いがきっちりと呼吸をしており、胸が上下にしている。手首の脈も確かめると、一応動いていた。 先程の柔らかいものはこの少女の何処の部分だったのかはこの際置いておくとして、死んだと思っていた本物の養子は生きていたというまさかのミラクル展開が発生していた。あの瓦礫の中、よく生きていたなと思うが、その奇跡を作り出したのはあの木片だろう。木片になる前の扉だか家具だかが偶然にも少女を瓦礫から庇う形で被さってきたのだろう。そしてこう、上手い具合に呼吸に支障が無いように隙間も空いていた、と。 もし、俺がこの少女が埋まっていた瓦礫の山を除去する際に、投げ捨てていたら隙間が埋まって窒息したり、軽く雪崩が起きて圧死したりしていたかもしれない。そう考えると俺自身が雪崩に巻き込まれないようにしていたとは言え、よくぞゆっくりと、そして投げずに瓦礫を避けていたと自画自賛したい。 こう生きている少女、しかも気を失っている相手の体をじろじろと見るのは失礼に値するだろう。なのでもう俺の視線は顔に固定させた。もし遺体だったらこんなにおろおろする前にあの言い知れぬ恐怖が体を這っただろうから気にしなかった筈だ。でも死んでいてくれればよかったのにとは思わない。生きていたんだ、と見ず知らずの少女の生存に胸を撫で下ろす。「安心するのはまだ早いぞ。このままだと危ないのは間違いないて」 手にしたリャストルクが俺を急かす。いや、急かして正解だろう。「どうした方がいいんだ?」 救急車を呼ぼうにも携帯電話が無い。それ以前にこの世界には救急車が無い。担架を作って町に運ぼうとしても人員が俺一人なので持ち上げられず無理。背負うと言う手段もあるが、もう筋肉がプルプルし出して来たから十メートルくらいで音を上げる気がする。「薬草を持って来ておろう。そこの小娘に全部呑ませよ。そうすれば最悪の事態は回避出来るじゃろうて」 薬草、俺の唯一の生命線だが、渋る場面ではない。これを消費して救えるのであれば安いものだろう。 でも、薬草を呑ませるって言っても、草のまま? 喉に引っ掛かったりしないかな? 詰まる可能性の方が高いな。「一度に全部ではなく、草葉を一枚一枚喉の奥へと押し込めばよい。擂り潰し、煎じて呑ませる方が楽ではあるが、生憎とお主にはその技能も道具も持ち合わせていない」 まぁ、確かにね。俺は薬草なんて取り扱ってないし、物を擂り潰すのは魚の擂り身を作った時くらいだよ。リャストルクを足元に突き刺し、言われた通りに俺はジャケットのポケットから薬草を二つ取り出し、少女の口を開けて草の葉を一枚ずつ無理矢理喉の奥へと押し込む。その前に、はだけた胸元をきちんと服で隠すのを忘れない。「因みにな一時の薙ぎ手よ、恐らくお主が触っておったのは小娘の左の乳房だろうて」「このタイミングで何故言ってくるんですかね!? 考えないようにしてたけど俺知らない間にセクハラしちゃってたの!? 最低野郎だな俺はこんちきせぅ! と言うか、その時俺はリャストルクを持っていなかったから触った感触を語っていた事を知らない筈なんですけど!? どうして知ってるの!?」「いや、お主が先程の柔らかいものは云々と心の中で呟いておった時にな、触っていたであろう物体の感触やらの情報が妾に流れ込んできたのだ。人間で骨が当たらずに柔らかい場所と言えば胸か腹か尻じゃ。その内、たゆんたゆん、脈動、上下運動が起こるのは胸じゃろうと結論付けた訳じゃ」「節操ねぇな俺の思考流通経路よ! 少しは情報を整理してくれよ!」「妾は困らんよ」 そりゃね! そちらさんは何故か俺よりも取捨選択が上手いらしくて思考があまり流れてこない。羨ましい限りですよ。「あとは、そうじゃのう。この小娘が助かったのは木片もあるじゃろうが、魔封晶の欠片も影響しとるよ」「は? 魔封晶の欠片?」「ほれ、今も小娘の手に握られておるぞ」 確かに、少女は右の手で何かを掴んでいる。そっと見てみると、淡く透き通るような綺麗な紫色をしている。これが魔封晶と言うアイテムか。「町や都市から離れた所に建っとる一軒家はの、レガンやノーデムの亀裂で襲われぬように魔封晶の欠片を屋根に取り付けて結界を張るのじゃ。この程度の欠片でも家一軒を守る程の力はある。定期的な交換は必要じゃがの」「成程。でもそれとこれとはどう言った関係が? しかも、魔封晶があっても光の柱? とやらで消された訳だけど、それについては?」「あくまでレガンとノーデムの亀裂を出現させないようにする為の物じゃからな、空から放たれた攻撃は防ぎ切れん。家が崩れた時、小娘は咄嗟に落ちてきた欠片でも掴んだんじゃろう。少しばかりではあるが、魔封晶の結界は圧迫を和らげる効果があるからの」 へぇ、そんな効果があるんだ。便利なアイテムだな。「その代わり、欠片でもちと値が張るぞ。小娘が持っとる欠片で大体金貨一枚じゃ」「御免、金貨一枚の価値が分からない」「お主に分かるように言えば、100000セルじゃな」 それは……高い、と思う。銀貨一枚で1000セルだったから、金貨は銀貨の百倍の価値がある事は分かった。でもこの世界の相場が分からないので一概に高いと思えない。「……日本円だとどれくらいだろう」「日本円とは何じゃ? ……まぁ、その話も追々訊くとして。この世界では一日における一人の食費がおおよそ500セルくらいかの。つまり、金貨一枚は単純に考えると二百日分の食費となる」 ……そうなのか。この透明な紫の結晶は食費二百日分――半年以上食べて行ける価値があるのか。生活費を含めると実質半年未満かもしれないが、それでもとても高価な品物だという事は分かった。「町の八隅に置く魔封晶はこの欠片の百倍くらいの価値はあるの。そのくらい大きいのでないと町に結界を敷けないのでな。更に、もっと大きな都市へ行くと金貨五百枚の価値がある魔封晶で結界を敷いておる」 人々の生活を守るのにはとても金が掛かるのだなぁ、と思った瞬間である。 とか何とか雑談しながらも、俺はきちんと少女に薬草を呑ませていき、手持ちの薬草全てを失った。薬草の効能から、先程よりも呼吸は力強いものとなっており、心なしか血色もよくなっている。「これで一先ずは安心じゃな」 リャストルクの言葉に俺は胸を撫で下ろす。
『クエスト『カチカ家の養子』をクリアしました』
 ウィンドウが現れてクエストクリアを告げられる。遺体を見付けて埋めるのではなく。助ける事がクリア条件だったようだ。「一命を取り留めたのじゃから、暫くはここで安静にさせておくべきじゃな。魔封晶の欠片がある限り、この娘はレガンとノーデムの亀裂に巻き込まれるような心配は無いぞ」「了解」「……では、一段落した所で。お主の事を尋ねるとするかの。お主は一体何者じゃ?」 地面に突き刺さっているリャストルクが真剣な性質を帯びた声音で俺に問い掛けてくる。リャストルクに関しては俺の事を秘密にしておくべきではないだろう。ボロが出て関係が歪になる前に、今の自分の状況、それに元いた世界の常識なんかも伝えた方がいい。俺の素性を知っている人(人じゃないけど)が一人でもいるだけで心の負担が減るような気がする。今も慣れない異世界で精神ががりがり削られてるから余計にそう思うんだろう。「俺は」 まずは自分の名前を口にしようとした時、頭の上に何かが止まった。手を伸ばすと、何かが独りでに離れ、リャストルクの上に止まる。 雀だった。こんな夜に雀がいるのは可笑しい。鳥って梟とかミミズク以外って鳥目で夜見えないんじゃなかったっけ? でもこの雀は明らかに俺を凝視している。「俺にも教えてくれるか?」 背後からこの場で訊きたくない声が聞こえた。しかも、少しドスが利いていて怖い。暗いから余計に恐怖心を煽らされる。一瞬体を震え上がらせ、即座に振り返る。 やはりと言うべきか、声の主はセデンだった。腰には何も仕舞われていない鞘が佩かれており、ランタンを右手に、一振りの片刃の剣を左手に持って、表情は殺しているが俺に冷たい視線を向けている。明らかに俺を警戒している。「坊主はどうして夜中にここに来たのか? そこの寝てる嬢ちゃんが誰なのか? 喋ってる剣が何者なのか? ――――そして、ソウマの坊主は本当にシイナの養子なのか?」 状況としては、最悪の方向へと転がったかもしれない。



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