End Cycle Story

島地 雷夢

第7話

 門を潜り抜けても、直ぐには町の中という訳ではなかった。正確な町と町を守る門と塀との距離は五十メートル程離れており、林? が広がっている。どうして離れているのだろうか? 俺にはよく分からなかった。 エルソの町は土を均した道は高低による緩やかな段差を作り出し、煉瓦積みの一階建ての建物が多数並んでいる。高さは大体どれも同一であるが、点々と二階建て、三階建ての建物が存在する。そう言った建物は恐らく町長とか他の人よりも金を持っている人、店を構えている人だろう。実際に二階建ての建物には看板が掲げられており、そこには『コキル食堂』とか『木の葉亭』とか書かれていた。この町では共同住宅はないようだ。人口が少ない分、建物を小さくしているのかな? 俺が潜った門は東門らしい。それを知ったのは門の柱の裏側に『East Gate‐東門‐』とペンキのような青い塗料で縦に書かれていたからだ。 今更ながらだが、この世界の言語は日本語と同じで、文字は英語と日本語が混じっている。これは日本のゲーム会社が製作したゲームに順守した世界だからだろうか? 俺としては異世界の言語を習得すると言う手間が省けたから儲けものと思っている。 夕方と言うだけあってか、行き交う人は家に帰ろうとしている者や、飲食店へと食べに行こうとしている者が多数を占めているように思える。 町と言うよりも村に近い気がする。町と言う程広くは無く建物も低い。共同住宅は見当たらない。代わりに大抵の家には何と小さいが庭も付いている。庭に侵入されないように柵はきちんと備え付けられているが、日本程防犯設備が整っているようには思えないから空き巣やらが入り込んでしまうのではないだろうか? と心配になってしまう。 八方向から伸びる石畳で舗装された道は町の中央へと向かう。水を湧かせる噴水がシンボルとして設置されている。 噴水は環状に広がる敷地に中央へと向かう道標であるかのように、八個設置されている。 その中央だけ石畳は無く、そこには俺一人で何とか腕を回せられる程に幹が太い木が一本植えられていた。その木は桜――それもソメイヨシノと同一と思われる淡い薄桃色の五枚の花弁を持つ花を咲かせていた。 俺がいた世界では冬だったが、ここは新緑芽吹く春のようだ。どうりであまり寒くなかった訳だ。今になって冬でなかった事に感謝。もし冬だったらこの薄着の状態で外で気絶したままだと凍え死んでいたかもしれない。このジャケット、意外と薄いから防寒性はあまりない。御洒落アイテムとカウントするべきだろう。あぁ、本当に今の季節が春でよかった。 中央広場(だと思う)を過ぎて、そのまま直進する。どうやら西へと向かうようだ。 誰がって? それはキルリだ。俺は先程からキルリに手を握られて連れられている状態だ。……そろそろ人目が気になって仕方がないんだけど、キルリに離してと言っても訊いているのか訊いていないのか無言で握りっぱなしなのだ。どうして離してくれなのだろう? 離すと迷子になるとでも思っているのか? でも、そこまで人でごった返していないし、キルリを見失って迷う方が至難の業だと思うんだけど。 因みに、この道程でキルリはリャストルクが喋る事を隠しておいた方がいい、と進言してきた。何故? とは思わない。恐らくここの世界の人はレガンとかノーデムとかだと疑ってしまうからだろう。知った相手がキルリだったからこそ、いや、キルリも敵意剥き出しだけど、俺の身は安全だった。キルリは俺に攻撃を加えようとしてこない。まぁ、この剣はレガンの空間で拾った事を知っているから、俺がレガンやノーデムではないと思っている故だろう。「……ここだよ」 とか何とか思っていると、どうやら目的地に着いたようだ。 キルリが向く方を見る。これがセデンの家なのだろう。一階建てで、外壁が少しぼろくなって煉瓦にひびが入ってきている家だった。瓦が敷かれた屋根は傾斜があまりついていなかったので、この地域では雪はあまり積もらないのだろう。 右隣は『ゴールの酒場』と言うここまで来て初めて目にする木造の二階建て。半開きの扉の奥からはまだ夕方だと言うのにわいやわいやと喧騒が聞こえる。左隣はセデンの家と同じ一階建て。特に看板等はないので一般家庭が住まう家なのだろう。この世界の基準で一般家庭と言うのはどう言うのを指すのかは知らないが。 このセデンの家の立地条件はあまりよろしくないだろう。夜中は酒場から漏れ出す騒音で安眠妨害されそうだ。出来れば遮音性能が高い素材で建物を建てて貰いたいと思う。「入って」 キルリはポケットから鍵を取り出すと、扉の鍵穴に差し込んで反時計回りに回す。あれ? セデンから鍵受け取ってたっけか?「……その鍵は?」「私が預かってる分の鍵」 キルリは簡単に言うと扉を開けて中へと入る。預かってる分って事は、キルリはセデンの家に滞在しているのだろうか? もしかしてこの町宿が無いとか? いや、それはないな。俺が見た三階建ての建物『木の葉亭』は恐らく宿だ。多分。 とすると、何でキルリはセデンの所に? 金が無いからタダで泊まってるとか? それとも……あ、いや。これはくちにしちゃいけないな。うん。失礼に値するけど、もしかしたら俺は夜は耳を塞いで寝た方がいいかも知れない。「どうしたの? 入らないの?」 扉の前で立ち止まってる俺にキルリは首を傾げながら尋ねる。「何でもないよ」 首を振って今頭に浮かんでしまった光景を払拭させて中へと入る。 どうやらここは靴を脱がないようだった。玄関と言うものが無い。故に靴置き場が無い。それでもつい脱ごうとしてしまった俺は典型的な日本人。 いそいそと靴に伸ばしていた手を引いて、キルリの後を追う。向かった先は居間かな? ソファがあって、火の気のない暖炉があって、書棚があった。一応テーブルもあるが、何故か壁際に押しやられてる。 この場所まで俺を連れてくると、キルリはテーブルに外した皮の胸当てと肩当て。鞘に入った状態の半分に折れた剣とその破片達を静かに置き、そして反転して俺を見る。 何故か見る。 じっと見る。 なして見る?「……で?」 耐え兼ねたので俺は口を開く。「で?」 何故か首を少し傾げて反復された。「いや、この後俺はどうすればいいのか、と疑問に思っただけなんだけど」「座れば?」 と、キルリはソファを指差す。 いやいや、そんな訪れた事も無い人様の家で、しかも家の人がいない中で座るとか出来ないよ俺は。そこまで図太い神経はしておりません。 俺の遠慮しますよオーラを感じ取ったのか、キルリは指していた指を折る。「だったら」 また俺の手を引いて別の所へと連れて行く。今度は何? 扉を潜る。この家には廊下が無い。居間が広く、扉を開ければ即座に次の部屋へと繋がっている。構造上問題は無いか? 恐らくないとは思う。あまりうるさくしなければ音は壁を越えずに済むだろう。 で、連れて来られた場所は台所だった。この町では水道が通っているらしく石造りの流しには蛇口が存在している。が、ガスは通っていないようで、薪をくべて火を焚きつける釜戸方式を取っていた。 ……けど、電気は通っているのか、食器棚の隣には冷蔵庫は存在する。 え? この世界ってエレクトロニックは普通に普及してるの? いや、でもそしたら外灯も普通にある筈だし、普通にこの家に入った時に灯りを簡単に点けるだろう。けど外灯はない。灯りも見るからに火を点けて灯す吊り下げられたランプだった。 と言うか、電気があるなら電子レンジはないの? あれさえあれば大抵の料理が出来るんだけど。プリンとかも例外ではない。震災後に電気、水道が普及してガスが普及しなかった時には父が電子レンジでプリンを作ってくれた。結構旨かったんだよなぁ。 一応、冷蔵庫の裏に回ってコンセントを確認するが、何とコンセントは無かった。というか、プラグも無かった。この世界はエレクトロニックはガスと同様普及していないらしい。もしかしてこの冷蔵庫は冷蔵庫ではないのだろうか? でも、これはまんま冷蔵庫だった。(他人のだけど)試しに開けてみるとひんやりとした空間がそこには広がっており、下の段には野菜が、中段には肉や卵、牛乳が収納されていた。 何でこの冷蔵庫は電気の力を借りずに食材を冷やす事が出来るのだろうか? これは異世界で御馴染みの魔法石とやらで冷やす力を生み出しているのだろうか? とか、つい興味を抱いてしまったが、それは置いておくとしよう。「…………で?」 この場に連れてきたキルリに問い掛けようと口を開く。「で?」 また反復された。「いや、何で俺をここに連れて来たんだ?」「夕飯を一緒に作ろうと思って」 即答だった。手を洗いながら。そして掛けられていたエプロンをつける。「なして?」「セデンさんは料理を作らないから」 答えになってるようでなっていない気がするが、この言葉でキルリはセデンの家を宿代わりにしている事が判明する。もしかして対価は料理だったりするのか?「ソウマは料理出来る?」 キルリは流しの上にあるランプに燐寸を擦って点けた火で灯りを灯し、下についている戸を開けると、そこから俎板と万能包丁(?)を二つずつ、それから大きめの鍋を取り出す。「一応は」 時々父と一緒に料理をするので、最低でも食べられるものは作り出せる程の腕前は持っている。「じゃあ、冷蔵庫から人参、ジャガイモ、玉葱、椎茸を出して切って」 キルリは俺に包丁を一つ渡す。渡す時はきちんと刃の方を持って柄を俺に向けていた。と言うか、あの冷蔵庫のようなものはこの世界でも冷蔵庫と言うらしい。 俺は手を洗って――石鹸があったのでそれを使ってきっちりとね――包丁を受け取る。「どういう風に?」「スープにしようと思うから、適当に」 適当にって、それが一番難しいんだけど。 と言う俺の声は耳に入らないようで、キルリは鍋を軽く水で濯ぐと中を水で満たして釜戸に置く。が、火は点けない。まぁ、根菜類は沸騰水よりも水から調理した方がいいっていうしな。どうしてだか知らないけど。キルリは鍋を置くと俎板を流しと釜戸に挟まれたスペースに置く。 っと、こう見てる場合じゃないな。言われたからには料理をしなければ。俺は手を洗った後も掴んでいたリャストルク(何故かずっと沈黙してるけど)を壁に立て掛け、冷蔵庫から言われた野菜と菌類を取り出して水で洗う。 キルリは玉葱と椎茸を、俺が人参とジャガイモを切る事になった。 俺は敢えて人参の皮は剥かない銀杏切りをしていく。皮にも栄養があるので捨てるのは勿体ない。なのでそのままだ。皮つきのまま切るのが珍しいのか、キルリは人参をじっと見る。視線を余所に向けながらよく玉葱を切れるな。「……ねぇ、ソウマ?」「何だ?」「変わった切り方をするね」 あれ? そっちの方が疑問でしたか。もしかしてこちらの世界には銀杏切りが存在しないのか? そのまま輪切りの文化か? もしかしたら賽の目切りはあるだろうけど半月切りは無い予感がしてきた。「……こうした方が食べやすいからさ」「成程ね」 俺の言葉にキルリは感心したように納得すると玉葱を切る作業に戻った。一応換気目的の窓は開けているけど目にキツイ。横にいる俺の方が涙出て来た。キルリは涙流さないのに。 涙と格闘しながらも人参を切り終え、次はジャガイモを片していく。流石にジャガイモの皮は剥く。ジャガイモの皮と芽にはソラニンと言う毒性物質が存在するので食べてはいけない。でも皮の方は少量しかないので食べてもあまり問題は無いらしいが、念の為だ。ジャガイモはカレーとかシチューの具にするように大きめに切る。 切り終えた野菜軍団を鍋に投入してキルリは火を点ける。勿論燐寸で。火打石扱わないらしい。そして薪に簡単に火が点くのはしっかりと乾燥しているからか、はたまた燃えやすい類の木だからか。 石突きを取られて一方向に切られた椎茸も最初から投入される。恐らく茸の出汁も抽出するのが目的なんだと思う。 水が茹って沸騰するとキルリは冷蔵庫から細切れの肉を取り出して入れる。豚かな? 肉を投入した後は流しの上に設置された棚から塩と胡椒を取り出して入れる。あれ? 塩って沸騰した後に入れるんだっけ? 率先して料理をしないのでそこら辺の常識が無いから判断しかねるが、まぁ、塩を入れる順番が上下したとしても料理の出来にはあまり大差は出ないだろう。 肉にも火が通り、しっかりと灰汁抜きもし終えた後は上の棚から香草を幾つか取り出して投入した。何入れたんだろう? パセリとかバジルだったら分かるんだけど、他は分からん。あ、少なくともターメリックではなかった。 結構な時間を掛けてスープは完成された。香草の匂いが自分には少しきついと感じるけど、味見した際には旨いと思えた。 完成し、火を消したと同時に外の扉が開かれた。 セデンだった。「セデンさん。仕事は?」 あまりにも早い帰還だったらしく、キルリはセデンに疑問をぶつける。「いや、まだ終わってない。と言うか、今日夜番の奴が急用とかでこれなくなってな。代わりに俺がそのまま継続させられる事になったから、それを伝えにな。帰るのは明日の朝になる」 セデンは溜息を吐き、頭を掻きながら説明する。門番も大変なんだなぁ。就労法とかに引っ掛かる気がする。「そう、なら夕飯は?」「向こうで常駐されてる硬いパンと硬い干し肉でも食べるさ。キルリの嬢ちゃんとソウマの坊主は俺の事は気にしないで、疲れてるだろうから飯食ったら今日はもう風呂入って寝とけ」 この世界では風呂は常駐されているようだ。勿論、薪風呂式だろうけど。でも風呂があるのは嬉しい限りだ。体を清潔に保てる。「……で、ソウマの坊主に伝える事あるんだが。俺の部屋とキルリの嬢ちゃんが使ってる部屋の間に空いてる部屋があるから、そこに布団を敷いて寝てくれ。生憎そこにベッドは無いからそこは勘弁してくれな」「いえ、気にしませんので」 済まなそうに言うセデンに俺は手を左右に振って答える。日本人なのでベッドでなくとも問題はありません。「そうか。……じゃあ、俺は行くからな。…………念と為に言っておくが、キルリの嬢ちゃんが幾ら可愛いからって夜中に襲うなんて真似はするなよ?」「いや、しませんから」 釘を刺してくるセデンに俺は目を逸らさずに言ってのける。夜這いとか勘弁。した瞬間に人間関係にひびが入るし。それに人様のもの(だと思う)に手を出す勇気も持ってないし。「……なら、いいか。キルリの嬢ちゃんも、寝る時はきちんと鍵掛けろよ?」「うん」 キルリは普通に頷く。そりゃ、今日知り合ったばかりの男と一つ屋根の下で寝るのだから当然だ。もし鍵を掛けないと言っていたら、俺は自分に宛がわれた部屋に鍵を掛けて寝るよ。「じゃあ、今度こそ行ってくる」「いってらっしゃい」 片手を挙げて出て行くセデンにキルリは手を振る。俺もつられて手を振る。 で、その後はキルリと二人で夕食を食べた。メニューは作ったスープと少し硬くなったパン。パンをスープに浸して食べた。柔らかくなって旨かった。 夕食を終えると、二人で食器を下げて洗う。洗剤は固形で、植物油脂を固形化した物だった。所謂石鹸であった。と言うかまんま石鹸。手を洗う際に使った石鹸だった。石鹸で食器を洗う日が来るとは思わなかった。 洗い終えて付近で食器を俺が拭いている間にキルリが風呂を焚きに行った。やっぱり薪風呂式だった。 準備が出来た先に、と食器を拭き終え粗熱が取れた鍋を冷蔵庫にしまった俺にキルリが告げてくる。どうやら先に俺に一番風呂を譲ってくれるようだ。俺は御言葉に甘えて風呂へと向かう。 脱衣所兼洗面で服を脱ぎ、籠に入れる。別の籠にはタオルとバスタオルが入っていた。洗濯機は当然ないらしく、洗濯板が床に置かれている桶に入っていた。 ふと、洗面所に備え付けられていた大きめの鏡で自分の体を見る。見た感じは元いた世界の俺と同じだが、眼の色は違った。ゲームのキャラメイキングで設定した通りに右が緑、左が橙のオッドアイだった。 そして鏡を見て思った事は、この世界の生活水準は結構高いものだという事。日本と比べると劣っているのだが、それでも水道は完備され、風呂まで入れる。庭付きの家もある。冷蔵庫があって食料の保管も簡単に行える。鏡もある。昔鏡は高価な物だったらしいから一般市民には手が届かない品物だったそうだ。一般家庭にあるという事は大量生産に成功し、かつ値段も抑えられているのだろう。 そんな考えを頭の片隅で展開させながら風呂場へ入ると、湯気が襲ってくる。が、日が暮れて少し肌寒くなった今時分では丁度いい。湿気を逃がす目的で作られた格子の窓から熱気が逃げて冷気が入る。 流石にシャワーは無いので風呂桶で大きめの湯船から湯を拝借し、体に掛ける。そして遭遇率が高いと思う石鹸で体と髪を洗う。タオルで泡立ててからね。 隅々まで洗い、泡を流して風呂に浸かる。丁度いい湯加減ですこと。「ソウマ、湯加減はどう」「丁度いい」 火の番をしてくれているキルリにそう答える。あぁ、生き返るの〜。疲れが吹き飛ぶよ。このまま寝てしまいたい。あ、いや。寝ては駄目だ。脱水症状になる。それ以前にキルリに負担を掛けてしまう。 十分で俺は風呂から出る。「あ、もう出るの?」「キルリも早く浴びたいだろうと思って。あ、一度お湯は抜いておくか?」「何で? 勿体よ」「あ、そうですか。じゃあ抜かない」 どうやら男が入ったお湯でも抵抗が無いようだった。それはいいのか悪いのか。と言うか、抵抗以前に勿体ないか。水はやはり貴重なのだろうか? でも一般家庭で風呂にも使え、洗い物にも使えて、水道完備なのだから貴重ではない筈。まぁ、少しでも節水する方が地球には優しいのを知っているからあまり疑問に思わないけど。ここ地球じゃないけど。 と言うか、もしかしてもう一度お湯にする為に使用する薪が勿体ないのか? まぁ、落ちらの方が説明がつくか。ガスや電気による瞬間湯沸かしは無い訳だし、一度抜いてしまうと面倒か。 風呂から上がってバスタオルで体を拭き、何時の間にやら用意されていたシャツとズボンを着る。下着と靴下もね。どうやらセデンが昔着ていたもののようで、少しよれていたがサイズは調度だった。キルリが俺に宛がわれた部屋の箪笥から見付けてくれたらしい。きちんと礼を述べた。 キルリが風呂に入っている間は俺が火の番をする。湯加減はどうかと訊いて丁度いい温度をキープするにはちと骨が折れる。現代日本じゃ薪風呂はあまりないので。俺の家も薪風呂じゃなかったので特に。因みに覗くなんて自殺行為はしなかった。したら人間関係がヤバくなるのは予想出来るので。 キルリも風呂を浴び終えると、台所へと行って冷蔵庫から瓶に入った牛乳を取り出し、蓋を開けて中身を煽った。「飲む?」「飲む」 風呂上りではなくなったが、喉は乾いていたので御言葉に甘える。冷やされた牛乳は旨かった。 牛乳を飲みながらキルリと明日の予定を話した。俺としては今後もキルリと一緒に行動する事になっているのでね。キルリはまずは明日折れた剣を鍛冶屋に持って行って打ち直せるか確認して貰うそうだ。俺も同行する事にした。その時に手に入れた銅屑を売れるかもしれないからね。 あと、道具袋を買う事を進言しておいた。案の定とでも言うべきか、キルリは道具をポケットやら胸当てと服の間やらに仕舞っているらしい。そんな事をしていてよく今まで旅をしてこれたなと言う言葉は敢えて呑み込んで、鍛冶屋の後に雑貨屋に寄る事となった。俺も必要な訳だし。と言うか必須だ。 どうでもいい話だけど、何であの時回復薬を取り出すのに手間取ったのかは謎だ。感触から直ぐに分かると思うのだが? まぁ、いいか。取り立てて知りたい情報でもない訳だし。 一息吐いた時にはもう夜も十時を回っていた。時間は居間の壁に掛けられた鳩時計が知らせてくれた。時間もどうやら俺の世界と同じように進んでいるらしい。キルリも疲れが溜まっていたようで、パジャマ姿の彼女はもう寝ると俺に告げる。俺も眠いので寝る為にランタンを片手に持つキルリ後ろを歩く。何せ、他の明かりはもう消灯してしまったので唯一の光源がないと星明りを頼る事になってしまう。 キルリの使っている部屋とセデンの部屋に挟まれた部屋はその二つの半分程度の広さしかなく、箪笥が部屋の半分を占めると言う謎の現象が発生していた。まぁ、寝られるスペースがあるので文句は言いませんよ。タダで寝られて、飯も食えて、風呂までは入れたんだからこれ以上の贅沢はいらないな。 外の酒場から聞こえてくる喧騒も、思いの外大きくないので気にならない。どうやらあの木造建築は遮音効果があるらしい。もしくは、この家の遮音効果が高いのかだが。どちらにしても有り難かった。「お休みなさい」「お休み」 欠伸を噛み殺しながらキルリが部屋へと入るのを確認してから、着ていた服から取り出した銅屑と薬草、毒消し草と所持金を箪笥の上に置いて、俺も寝ようと布団を敷き始める。 枕もセッティング完了して、いざ就寝だ。と布団を被った時に気付いた。「……リャストルク忘れてた」 台所の壁に掛けたままだった。流石にあそこに一人は可哀想だと思い、一緒の部屋に置こうと起き出して暗い中俺は台所へと向かう。壁に手を当てながら、躓かないように慎重に歩く。台所に着いてからも壁に手を当てたまま移動。リャストルクは壁に立て掛けたのでこの方が探しやすいだろうと考えたからだ。 と、少し中に踏み込んだ所でリャストルクの柄に手が触れる。「……あったあった」 柄を掴んで自分の方へと手繰り寄せる。さて、これで漸く眠れるよ。あ、その前に自己紹介をいい加減にしないとな。「悪いが一時の薙ぎ手よ。今夜はまだ眠れぬし、自己紹介の時間も無いぞ」 が、数時間ぶりに口を開いた(あくまで表現)リャストルクの意味不明な言葉に疑問を覚える。「何でだ?」 自己紹介はともかく、眠れないとは何ぞ? もしかして、薙ぎ手となったら寝れなくなると言う呪いが掛かるとか? それは嫌だ。今も疲労で睡魔が襲ってくるのに眠れないなんてどんな拷問だよ?「違うわい。薙ぎ手になってもきちんと睡眠は取れる」 じゃあ、何でだよ?「それはじゃな、今からお主があの小娘と出遭ったと言う瓦礫と化した家へと行かなければいけないからじゃ」 えぇ〜、明日じゃ駄目なの? と言うか何で行かないといけないの?「明日だと手遅れになるかもしれないからのう。じゃから今行った方がお主の為でもある」「俺の為って?」 つい声に出してしまう。何であの瓦礫の場所に今から行く事が俺の為になるんだろう?「このままだと、お主の命は危うくなるかもしれないからのう」 そんな俺の疑問はリャストルクが解消してくれた。 俺の眠気は、言の葉と言う一陣の風によって即座に吹き払われた。



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