End Cycle Story

島地 雷夢

第6話

 道中、レガンの亀裂には吸い込まれずに夕陽に変わった太陽が完全に落ちる前にエルソの町に着いた。 ……けど、ノーデムの亀裂には二回吸い込まれた。幸いなのは武器が壊れてしまったキルリは吸い込まれずに済み、俺とリャストルクだけが異空間へと放り出される。 一回目は単眼の黒い犬のような奴――ドギーノーデム一体。二回目はそれを三体相手にした。ぶっちゃけた話をすれば、レガンドールよりも速く動くドギーノーデムだけど、それでも訓練されていない小型犬くらいの速度だったから一介の高校生の俺でもリャストルクでダメージも負わずに容易に撃退する事が出来た。 ……これはステータスとか俺の実力とかではなく、偏にリャストルクの力が凄いんだと思われる。だってどいつもこいつも一撃で屠られる。力を大半失っているとは言え、ここまで凄いとは驚嘆に値する。 あと強いて挙げるとすれば、ノーデムも何故か俺の左側ばかりを狙っていたから動きを読みやすかったって言うのもある。流石にこうも左ばかり狙われると違和感を覚える。もしかしたら、俺の左腕にはあいつらが恐れる未知の力が眠っているのかも? ……と中二病全開の発想をしてしまい、少し顔を赤らめたりした。 そこは置いとくとしよう。 そんなリャストルク様々の御蔭でレベルも2になった。ステータスポイントが1増えて、魔法や特殊技は習得しなかったが、アビリティは一つ習得した。『ロウサーチ』と言う名前だった。 道中このアビリティとレベル:1になった際に得た魔法、特殊技、アビリティをメニューを出して詳細を確認したりもした。 まずは魔法。
『ファイアショット:前方に炎弾を一つ撃ち出す。精神力を5消費する』
 名前は色々と違う場合があるけど、よくある魔法の一つだと思う。これは今後においても遠距離攻撃に使われる気がする。今の所使用していないので威力や速度が不明だが、それは次レガンかノーデムの亀裂に吸い込まれた時にでも確認しよう。
『フロストカーテン:自身の周りに粉雪を舞わせる。精神力を5消費する』
 よく使い方が分からない魔法だった。説明文が不充分じゃないだろうかこれ? 周りに舞わすって攻撃に? 防御に? ……分からない。なので、こちらはレベルを上げてステータスポイントを充分に割り振って、リャストルクなしでもレガンドールやドギーノーデムに引けを取らなくなってから試す事にしよう。 次は特殊技。
『スラッシュ:凄まじい剣閃で横に薙ぐ。精神力を10消費する』
 覚えた魔法よりも倍の精神力を消費してしまう技。その分威力はファイアショットよりも上なのだろうけど、今の所リャストルクの一撃でもどいつもこいつも終わるから検証する必要は無いな。リャストルクの一撃で落ちない奴が出てから使う事にしよう。 で、最後にアビリティ。
『ロウアナライズ:戦闘時に相手の名前を表示する』
 これは正直言って微妙なアビリティだった。だが、相手の名前が分かればそれの対処法を知っていれば戦闘を有利に進める事が出来る事が利点か? ……今は微妙でも時が経って情報の事前収集が出来るようになれば価値観が変わるアビリティだと思う。
『リミットオーバーガード:生命力が一割を切ると、物理防御力と魔法防御力が二倍になる』
 仰々しい名前だけど、これからも重宝するであろうアビリティだ。生命力を一割切らなければ効果は出ないが、それ以外の制約無しで二倍は嬉しい。……ただ、生命力が一割を切っている状態なので、ただ防御力を上げただけでは状況肌は出来ないだろう。少しだけ延命しやすくなった程度と認識しておけば過信せずに済むかな?
『ロウサーチ:道に落ちている物をほんの少しだけ発見しやすくなる』
 ……まぁ、あっても損はしないアビリティだよ。ゲームだと落ちているアイテムで賄うのも重要な戦略だし。恐らくこれからこの世界で何を職にして生きていくにも必要なんじゃないか……とは流石に思えないけど。 このアビリティを手に入れてから、道を歩いていると道端で弱々しく小さく光る何かが目につくようになった。で、屈んでそれに手を伸ばして見ると小さな宝箱で、それを持つとウィンドウが表示されてアイテムをゲットしたという旨が告げられるんだよ。それと同時に宝箱は無くなって代わりに手に入れたアイテムが俺の手の中にあるんだ。異世界故の不思議だった。 以下、今の所の取得アイテム。
『薬草×2:生命力を100回復する』
 ファンタジーの定番。生命力を回復させる学名がついているのか分からない生き生きとした濃緑の草。これは回復魔法を習得しておらず、かつ回復薬の相場次第では当分の間俺の生命線になるだろう。
『毒消し草×1:毒の状態異常を回復する』
 これも定番の毒消し草。どう言った効能故に毒が消えるのかが不明の青紫の草。この毒と言うのは様々な種類の毒に効くのだろうかと言う疑問が浮かび、これがあると言う事は敵の攻撃には毒を与えるものがあると戦慄させられた。……なるべく敵の攻撃は受けないようにしなければ。
『銅屑×4:微妙な値段で売れる』
 微妙ってどのくらいだよっ? と言う突っ込みをついしてしまったアイテム。掌に収まる程の大きさで、何かの破片みたいに見える。内一つは研がれた刃物のように鋭利だった。もしかしたらこれらは銅の剣とかの成れの果てだったりとか? こんな世界じゃ可能性は〇じゃないよな。
『偽石英剣リャストルク×1:#####』
 リャストルクもアイテム欄に載っていたが、説明文が隠されていた。一応装備欄でも確認した(きちんと武器として装備されていた)が、そこでも説明や能力は一切開示されていなかった。 因みに、リャストルク以外のアイテムの内、草類はジャケットのポケットに。銅屑はズボンのポケットに仕舞っている。歩くと太腿に銅が当たって地味に痛いが、草類と場所を交換するとズボンポケットの圧迫で草類が潰れて液が染み出てしまう恐怖が脳裏に浮かんだのでそのままにしている。 これは俺もアイテムボックスなり道具袋なりとかを手に入れなければなるまいて、と思った。  ……で、話を最初に戻すけど、俺達は五体満足無事にエルソの町に着いた。 時間にして、およそ一時間半くらいかな? レガンとノーデムに遭わなければもっと早く着いたかもだけど。 門があって門番にどうこう言われなかった。 何故なら、門はあるが門番がいなかったからだ。 高さ三メートル程の塀の間に作られた門の横に見張り窓は見受けられるのだが、そこから中を覗いても人っ子一人いなかった。いるとしたらテーブルの上のパンを啄ばんでいる雀くらいか。と言うか、この世界には雀いるんだ。道中に鳥とか動物に遭遇しなかったから、もしかしたらここの動物は一風変わった外見をしているのかも、と思ったがそうでもないらしい。 が、そんな事は置いておくとして。 パンがあるという事は、ここに人がいたという事だ。でも、何故だか分からないが現在は失踪中。「何で門番いないんだ?」「多分、魔封晶を取り換えに行ってると思う」 俺の疑問に横に立って同じように小屋の中を窺うキルリが答えてくれる。 魔封晶。アクティブフィールドでレガンとノーデムに遭遇しなくなると言う消費アイテム。と、説明書に書いてあったな。ゲームにおいては確か使用後一定歩数で効果が消える筈。1000歩とかだった気がする。 けど、魔封晶を取り換えるとはどういう事か?『大きめの魔封晶を町の八隅に置く事で、町にレガンとノーデムが亀裂を作り出せなくする結界を敷いておるじゃろ。そんな事も知らんのか?』 この疑問はキルリではなく俺の思考を読み取ったリャストルクが声に出さず思考を流して答えてくれた。溜息交じりでだったけど。知らなくて悪かったな。『別に悪いとは言っとらんじゃろうに。町に住む者なら誰でも知っとる情報なのでな、少々珍しいと思ってな』 それは俺が町に住んでないからだよ。『そうか。では、これで一つ賢くなったじゃろうて』 満足そうに頷いているように思える声音でリャストルクは言う。……確かに、賢くなったよ。 いくら『E.C.S』順守の世界だとしても、やはり完全に同じではないと分かった瞬間だった。ゲームだとシステムの都合上、人の住む場所に敵が出ないように設定を最初からしているが、現実の世界では亀裂を発生させないようにわざわざ消費するアイテムを使う苦労が存在する。 襲われないように、知恵を絞って毎日を生きているんだな。 襲われると、キルリのように家族を亡くしたりする者も出てくるから、当然か。 ふと、そう考えると思ってしまう。 キルリは、果たしてどのような展開で家族を失ってしまったのだろう? 町に住んでいれば魔封晶で守られているから安全。だとすると町の外へと出た時にでも亀裂に吸い込まれたのか? キルリも家族と一緒に吸い込まれたのかそうでないのかは定かではない。あ、いや。少なくとも両親とは一緒になって吸い込まれたのか? 兄は行方不明と曖昧だったが、両親は死んだと断言していた。それは亀裂から両親の亡骸が出て来たのか、はたまた亀裂の中の異空間で殺されるのを目撃してしまったのか。 それをキルリ本人に問う気はさらさらない。訊いてしまえばキルリはきっと思い出してしまうだろうから。俺は他人に身内の死を思い出させてしまう程に無頓着でも無関心でもない。分別は弁える。だから、この疑問は俺の心の奥底に仕舞っておこう。 横で見張り窓から中を覗くキルリに視線を移すと、彼女は微笑みながら右腕を中へと伸ばし指を少しだけちらつかせて雀の気を引こうとしていた。が、雀はキルリの指先の動きに気付かず、懸命にパンを貪っていた。その様子にキルリは頬を膨らませて不満を表す。 なんか、可愛いな。このほのぼのとした空気がなんとも。この光景を見ているとこの世界に来てから摩耗した精神が癒されていくのを実感する。「おや、誰か来てるな」 和んでたら町の方から年季の入ったズボンに半袖のシャツと言う簡素な格好をした一人の男性が歩いてきた。 見た目三十半ばかな? 少し小皺が寄っている。背丈は俺よりも十センチは高くて、がっしりとした体躯。二の腕なんか俺の倍くらいはあるんじゃないかな? 腕相撲したら瞬殺されるのは目に見えている。いや、腕相撲の勝負は挑まないけど。 すっきりした短髪と放置された無精髭、それに太い眉は黄色がかった茶色。目は肉食獣のようにギラギラさせており、内に収まる瞳の色はキルリと同じ空色をしている。強面で厳つい顔はアメフトとかそんな感じのスポーツをやってそうに思えてしまうのは俺だけだろうか?「あ、セデンさん」 キルリが近付く男性に気付くと、窓から中に伸ばしていた手を引っ込めて、男性の方へと向き直る。男性の名前はセデンと言うのか。何故だか分からないけどイメージと違うと思ってしまう。こういう御仁はボブとかマックスとか言う名前の方がしっくりときてしまうのは俺だけだろうか?「お、キルリの嬢ちゃんじゃねぇか。もう戻ったのか?」「えぇ」 セデンと言う男性がキルリを見付けると少しだけ歩行速度を上げて彼女に近付く。会話的に二人は知らない仲ではないようだ。「ん? そっちの坊主は誰だ?」 俺の存在を感知したらしく(まぁ、キルリの隣にいるから当然か)、疑問を吹っかけてくる。そして警戒する。何故警戒するかと言えば、俺がリャストルクと言う剣を抜き身で持ってるからだろうなぁ。こんなの持ってたら誰だって警戒するって。 どうやって警戒を解きながら説明しようか画策しようとしてたら、キルリがセデンに向かって言う。「この人はシイナさん家の唯一の生き残り」 その説明は間違っているが、今の俺はそうなっているので口を挟まないでおこう。と言うか、もしかしてキルリはあの家の人と知り合いだったのか?「何っ!?」 セデンは目を見開いてキルリの肩を力強く掴む。あまりにも強かった所為か、キルリが顔を顰める。「おい! そいつはどういう事だ!? 一から説明してくれ!」 あまりに必死にキルリに事の顛末を訊こうとするセデン。もしかして、彼もあの家の人と知人関係にあったのか? ……だとすると、俺ってもしかしてあの家の人間じゃないって知られてるんじゃないか? でも切羽詰まっているから俺と言う存在の矛盾に気付いてないみたいだけど。 何て不安を余所に、キルリは俺を見付けるまでの顛末を掻い摘んで説明していく。「私が着いて確認した時には、家はもう瓦礫の山となってた。多分、三時間前にいきなり現れた巨大な亀裂から落ちた光の柱が直撃したんだと思う」 あの家はそんな事があって崩壊したのか。確かに、ゲームだと亀裂の中の異空間に引き込まずに人を殺したりするって情報もあったけど、もし俺があの家の中にいたらと思うと、ぞっとする。外でよかったと不謹慎にも思ってしまった。「誰かいないかと辺りを見回してたら、ソウマを見付けた」「ソウマ?」「彼の事」 セデンが眉を寄せながら聞き返すと、キルリは俺を指差して答える。「……そうか。あいつが昨日身寄りを亡くした子を引き取ったと言ってたが。お前、ソウマって名前なんだな?」「は、はい」 セデンは納得したようで頷き、俺に俺の名前を確認してきたので歯切れ悪く答える。 ……どうやら、俺の存在は矛盾していなかったようだ。偶然にも、シイナと言う人は昨日以前に養子を引き取ったらしい。キルリとセデンは俺をその養子と思い込んでいるようだ。なので、俺があの家族の生き残りと言っても問題は無いらしい。「……話を戻すけど、ソウマと一緒に瓦礫を避けていたら、シイナさんと、サウヌさんと、ソアネちゃんが……帰らぬ姿で……」「……そうか」 言い辛そうに一つ一つの言葉を噛み締めながらキルリにセデンはそう呟くだけだった。「シイナさん達は、私とソウマで家の近くにお墓を作って眠らせてきた」 キルリは最後にそう締め括る。「……そうか。ありがとうな。旅で立ち寄っただけだけなのに、キルリの嬢ちゃんに様子を見に行って貰うだけじゃなく、墓まで作って弔って貰って。普通ならダチの俺が行ってやらなきゃなんねぇのによ」「セデンさんは門番だから仕方ないよ。それに、私もこの町に来てからシイナさんとサウヌさんにはお世話になってたし。……せめて、もう少しだけお世話になった分を返したかった」「いや、嬢ちゃんは充分返したよ。……ったく、あいつも変な意地を張らずに町に住んでればな。こんな事にはならなかったのによ……」 二人は顔に陰を落とす。キルリは唇を噛み締めて視線を下に向け、セデンは流れ出る涙を落とさないようにと天を仰ぐ。この会話で分かった事はキルリはこの町に住んでいるのではなく、何処からか旅をしてここに立ち寄ったという事。セデンがこの町の門番だという事。そして、二人はあの瓦礫の下で亡くなった家族のただの知り合いではないという事。 数分、静寂が辺りを支配する。完全な静寂ではなく、セデンが鼻を啜り、嗚咽を漏らす音が小さく聞こえる。空気を読んでいるのか、手に持っているリャストルクも声を発さず、思考を俺の脳へと流してこない。「……おい、ソウマの坊主」 涙を拭ったセデンが俺を腫れた瞼を開いて赤く充血した眼で見下ろしてくる。「は、はい」「……今日は、俺の家に泊まれや」 唐突だった。何の脈絡も無かった。何が何でそんな流れになるのか俺にはよく分からなかった。「家はもう無い。家族もいない。せめて家か家族が見付かるまで俺の家に来い。俺の名前はセデン=オーマン。坊主の養父……シイナの野郎の、昔からのダチ公だ」 セデンはそう言うと、背を向けて町へと戻り、見張り窓がある塀に接した小屋の中へと入っていく。「俺はまだ仕事が残ってるから連れて行けねぇ。悪いがキルリの嬢ちゃんに連れて行って貰ってくれ」 テーブルに置かれたパンを突いていた雀を指に乗せながら俺とキルリに向けて言う。……その雀ってもしかして飼っているのだろうか? それとも餌を与えているうちに懐いてしまった野良なのだろうか? 疑問に思うがここでそれを追及する場面ではない事は分かる。「行こう、ソウマ」 キルリに手を引かれて俺は門を後にして、エルソの町へと入る。

 こうして、最初の町であるエルソでの生活が始まった。 一ヶ月と少ししか滞在しなかったけど、ここでの生活は今後の俺の方針を決める手助けとなった。 ……そこで起こった、とても悲しい事件の影響だけど。 どうして起きたのだろう? どうして俺はあの時、何も出来なかったのだろう? どうしてもっと早く、『ブラッド・オープン』を覚醒させられなかったのだろう? 悔やんでも、悔やみ切れない。




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