Q.攻撃方法は何ですか? A.卓球です。

島地 雷夢

勧誘されました。

 俺はクロウリさんとレグフトさんに異世界から来た事を告げる。 異世界人だと話さなかった理由もあまり目立ちたくない、勇者と同じような力、気質を持っていると誤解されたくなかったときちんと伝える。 そう言うと、レグフトさんは理解してくれた。 やっぱり、この世界だと異世界人――特に日本人とその血を引く者に対しては勇者と同じ事を求めてしまう傾向が強いそうだ。なにせ、異世界関連の称号にはレベルを上げやすくなる効果が含まれている。 クロウリさんの持つ【異世界人の血を引く者】の称号も、少しばかりレベルが上がりやすくなる効果があるそうだ。 それと、この世界に来た日本人の気質が余計に誤解を招いているみたいだ。 クロウリさんとレグフトさんの話を聞くに、何百年も昔にこの異世界スレアに来た日本人の殆どが俺TUEEEをしたり、強敵相手に無双したり、ゲームのイベント、サブイベント感覚で無理難題を次々とこなしていったり、と全く自重をしていなかったみたいだ。 それは勇者召喚で自らの意思で来た者以外にも、本当に偶然、世界の亀裂とでもいうべきかそう言った次元の裂け目に足を踏み入れてしまい図らずも迷い込んでしまった者の大半がそうやって異世界で生きて来たみたいだ。 当然、そんな事を日本人の奴等がしていれば異世界人の見る目も偏ってしまう。 偶然迷い込んで来た、そう言った気質の無い日本人相手にも無理難題を吹っ掛けたり、やってくれて当たり前って感じで接したり、果ては戦いの道具的な扱いをされたりしたそうだ。 本当、いい迷惑だよ。本人達はいい事したとか思ってるんだろうけど、後先の事を考えて欲しい。 で、流石に神様は見過ごせなくて、【異世界からの勇者】以外の異世界人関連の称号に隠蔽を施したそうだ。その隠蔽は異世界人かその血を引く者達、もしくは自らの意思で称号を伝えた相手以外に効力を発揮する。 因みに、冒険者カードの名前の表記もこちらの世界の人から見ると漢字表記には見えないそうだ。なので、俺の名前も『宇都宮卓海』ではなく『ウツノミヤ・タクミ』と認識されるそうだ。 更に、全ての異世界人が日本人に対してすがる、頼り過ぎる、英雄視する、道具扱いする訳じゃなかった。そう言った人が日本人やその血を引く者達が普通に暮らせるようにと、敢えて日本人的な名前を子供に名付けたりと様々な工夫を施していった。 無論、子供に日本人のような名前をつけるのはそう言った人達だけじゃない。勇者のような逞しい人になれと言う想いをこめて名付ける人達も勿論いたそうだ。 はからずも時が経つにつれて日本人的な名前が徐々に増えて行き、更に黒髪黒目もこの世界では一応最初から存在していたのでおいそれと日本人とその血を引く者だと分かりにくく、普通に暮らせる世の中になったそうだ。 で、日本人の血を引くクロウリさんも「信頼出来る人以外には言わないように」と親に口酸っぱく言われたそうだ。 レグフトさんの前で称号の事を口にしたので、彼女の事は信用しているようだ。 俺とクロウリさんが異世界人とその血を引く者だと知っても、レグフトさんは態度を変えなかった。レグフトさんは異世界人だからと言って特別視しないタイプの人だった。「安心してくれ。私はアズサ殿とミャー殿が望まない事は決してしない」 と、胸を叩いて宣言した。つまり、彼女は俺達の事を他人に話さないでいてくれるみたいだ。 こうして、自身の秘密を打ち明けた事によって、少しばかりパーティーの結束が固くなったような気がする。「で、召喚された勇者は俺の知り合いだったんだ。しかも、同じ学校に通ってて、同じクラスだったんだ」 スライム狩りを終え、スライムの森から町へと戻る道すがら、辺りに人がいないのを確認してから俺と桐山の関係をクロウリさんとレグフトさんに話す。「何と、それは凄い偶然だな」「本当にね。だから勇者……あいつは何かしら思う所があって俺を連れ出したんだと思うよ。ただ、あいつ終始無言だったけどさ」「何で無言?」「あいつは基本だんまりだからね。事務的な事以外は話し掛けても頷くくらいしかしないんだよ」「成程」 そんな会話も町が近付くと終わらせ、別の話題を口にしながら歩いて行く。 町に入り、冒険者ギルドへ行って依頼完了と換金手続きを行い、レンタル収納袋を返却。その後は夕飯食べて解散となった。 俺は真っ直ぐと馬小屋へと向かう。結構お金も溜まってきたから、宿で寝泊まりしてもいいんだけど、ここに愛着が出て来たからなぁ。馬可愛いし。最初は警戒されてたけど今では朝掃除してる時とか鼻先を俺に押し付けて来るんだよな。「よぉ」 何て思いながら馬小屋に戻ってみると、口裏を合わせてくれた指南役の人がにかっと笑って俺に手を振ってくるのが目に映った。「えっと?」 どうしてこんな所にいるのだろう? と言う疑問を余所に、指南役の人が指で馬小屋の中へと入れとジェスチャーをする。俺は言われた通りに馬小屋の中へと入る。ここで下手に拒否しても力付くの手段を取られたらレベル差でこっちに為す術がない。なので、ここは従う方が無難な判断だ。「さてっと、まずは自己紹介だ。俺の名前はジョースケ・ヨルジュ。異世界人っぽい名前だが俺には異世界人の血は流れてねぇよ」 藁の敷かれた場所にドカッと座り、指南役の人――ジョースケさんはぽんぽんと隣りを叩く。そこに座れ、と言う事なんだろうな。俺も藁に座り、自己紹介をする。「どうも。俺の名前は宇都宮卓海です」 流石に異世界人ですとは言わない。もしかしたら気付いているかもしれないけど、そうじゃない可能性もあるから自分からは言わないでおこう。「先程はありがとうございました」「いいっていいって、気にすんな」 改めて、冒険者ギルドでのフォローに対する礼をジョースケさんに述べる。ジョースケさんはからからと笑いながら手を横に振る。「それで、えっと、どういったご用件で?」「なぁに、大した事じゃねぇよ」 ジョースケさんは、改めて俺の方を向いてこう告げる。「お前さん、勇者パーティーに加わんねぇか?」「……はい?」 俺が、勇者パーティーに?「あの、どうしてですか?」「いやな、お前さん勇者の嬢ちゃんと同郷らしいじゃねぇか。しかも、知り合いなんだろ? 勇者の嬢ちゃんに訊いたぜ」 桐山に訊いてたのか。異世界人と分かった上で俺を勇者パーティーに勧誘してきた。これは、少し警戒した方がいいか?「おっと、そう身構えないでくれよ。別にお前さんが異世界人だからって訳じゃねぇよ」 ジョースケさんは肩を竦めて苦笑する。異世界人だから勧誘したんじゃないのか?「じゃあ、どうしてですか?」「強いて言えば、嬢ちゃんの知り合いだからだよ」 嬢ちゃん、つまり桐山の知り合いだから、ねぇ。それがパーティー勧誘にどう繋がるのやら? あくまで俺と桐山は知り合いってだけで、親しい間柄じゃないんだけど。ついでに言えば、俺は桐山に苦手意識があるからな。「嬢ちゃんはこの世界に来てまだ日が浅い。見た感じはそう見えねぇだろうが結構精神的に来てんだよ」「精神的に?」「必要以上に気張って、緊張しちまって色々精神疲労溜まってんの。まぁ、仕方ねぇよな。自分の意思でここに来たとしても自分の知らない世界で、自分の知らない奴等がいっぱいで、自分の事を知ってる奴が一人もいねぇんだからよ」 そうなのか? 俺はジョースケさんの言葉を訊いてそう思ってしまう。だって、桐山は至って普通そうに見えたぞ? だけど、実は結構ストレス溜まってるって?「けどな、今日お前さんと偶然出逢って、一緒に食事した後は妙に晴れ晴れとしてたんだよ。やっぱ同郷の知り合いと食事したり喋ったりすると肩の荷が下りんだろうな」「はぁ」 晴れ晴れとしてたのか。あの無表情の桐山が? あと、あいつは食事中何もしゃべってなかったからな? 相槌打つくらいしかしてなかったよ。「つまり、だ。俺が言いたいのは勇者パーティーとして勇者の嬢ちゃんの為を思っての事なんだよ。勇者として頑張るのいいんだが、このままだと心労で倒れる未来が待ってんだわ」 心労で倒れる、ねぇ。まぁ、慣れない環境に身を置いたり、知らない人達に囲まれたり、勇者としての責務云々とか背負わされたりすれば、ストレスも溜まっていく……かな。見た目の変化がないけど。「…………」 でも、だからと言って俺が勇者パーティーに加入する理由にはならない。薄情かもしれないけど、桐山は自分の意思で勇者召喚に応じてこの異世界スレアに来た。それは勿論、勇者としての席を背負う覚悟を持ってと言う意味だ。それに関する責任や環境の不慣れとかは自己責任になる。 そして、俺は魔王討伐なんて危険な事はしたくない。自分の身の丈に合った生活をしていきたいんだ。あと、俺は桐山が苦手だ。四六時中一緒にいたら、きっと俺の方が精神的に参ると思う。 ただ、それでも知り合いがそんな目に遭うのを放ってはおけないと思う自分もいる。 少しでも負担が減らせるんなら、ついて行った方がいいだろうか? と悩んでしまう自分がいる。 苦手な相手なのに、どうしてそう思うんだろうか? 自分でも不思議に思ってしまう。「勿論、無理強いはしねぇよ。個人の意思は尊重するさ。魔王を討伐する旅をするんだ。相応の危険が伴う。お前さんが嫌だって言うならこの話はなかった事にするし、その後も俺や勇者パーティー、国の奴等がちょっかい掛けたりもしねぇ。もししようとした、全力で俺が止めるさ」 なんて事を思っていると、ジョースケさんをそんな事を言いながらおもむろに立ち上がる。「俺達はこの町にあと三日は滞在する予定だ。その間に答えを訊かせてくれればいい」 尻に付いた藁を叩いて落とし、小屋から出て行こうとする。「今言いたい事はそれだけだ。じゃあな」 一度止まり、俺に顔を向けると手を軽く振り、前方を向いてすたすたと出ていく。 俺は無言でジョースケさんをその場で見送り、見えなくなると同時に藁に身体を投げ出す。 取り敢えず、今日は色々と疲れたから寝よう。まだ時間があるんだから明日考えよう。そう心の中で呟いて目を閉じる。





『緊急事態発生! 緊急事態発生! 冒険者の皆さまは至急冒険者ギルドへ集合して下さい!』
 俺の眠りは大音声の放送とサイレンによって強制的に覚める。 外は既に日が昇り始めているから、一応睡眠はとれている。 にしても、緊急事態って何だろうか? 放送と同時にサイレンも鳴り響いているし、只事じゃないって事は分かるけど。 俺は軽く伸びをして、馬小屋の主さんに一言断ってから冒険者ギルドへと向かう。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品