Q.攻撃方法は何ですか? A.卓球です。

島地 雷夢

甲羅を手に入れました。

 勇者がこの町に来ると聞いてから二日経った。 町が騒がしい。人だかりが出来ている。東門へと人が殺到している。 周りの人の会話から、どうやら勇者がこの町に来たらしい。 人数は五人。うち一人が勇者の指南役、うち三人が勇者と共に魔王討伐へと向かう仲間だそうだ。 勇者、戦士、魔法使い、僧侶、の四人パーティー。勇者と戦士が前衛を努め、魔法使いと僧侶が後衛を努めるバランスのとれたパーティー編成だ。指南役の人はあくまで指南に徹しているらしく、滅多な事では一緒に戦わないらしい。 それぞれのレベルは勇者は1、他の三人は10前後、指南役の人が80だとか。勇者パーティーのレベルが思いの外低いのはわざわざレベルが低い勇者に合わせてなのだろうか? と言うか、勇者レベル低すぎだな。 まぁ、勇者は先日召喚されたばかりらしいので、レベルが1なのは納得かな。あと、神様曰く勇者は【異世界からの勇者】と言う称号の御蔭でレベルアップしやすく、更にステータスアップの補正を受けるらしいから、ただのレベル1以上に強いし、早々にレベルアップもしていく事だろう。 で、今からまず東門を抜けてスライムの森へと向かうそうだ。ブルースライム相手なら攻撃を喰らっても問題ないし、死ぬ危険も無い。そこでなら安全にレベルを上げる事が出来るし、スライムの皮を回収して換金出来る。宿代稼ぎにもなるから一石二鳥か。 まぁ、国から必要経費として旅費を貰っている可能性があるから換金しなくてもいいかもしれないけどね。 そうかそうか。今日は勇者はスライムの森でレベル上げ、か。 俺はそれを確認すると湿地帯へと向かう。湿地帯は南門を抜けていくから、勇者一行と鉢合わせする可能性は限りなく0だ。 今日は、ウィードタートルの甲羅を取りに行こうと思う。そして、夜まで待ってアンデッドを倒して素材を手に入れる予定だ。 一応、その事をクロウリさんとレグフトさんには伝えてあるし、二人は了承してくれた。特に、レグフトさんが乗り気だった。彼女は昨日頑張って虫相手に不気味な笑い声を上げる事無く倒す事が出来るようになって、ちょっと意気高揚している。 笑い声を上げなくなるまで、実に百十三匹ものクロヤンマの成虫と幼虫、巨大ヒル、一つ目マイマイに三つ目ナメクジを屠ってたりする。その御蔭で、レグフトさんのレベルは30を超えた。俺は29で、クロウリさんが27だ。全員順調にレベルが上がり、油断したり取り乱したりしなければ湿地帯に生息する魔物相手でも安全に倒せるようになった。 きちんと食料も持ったし、水も持った。調理器具も薬も完備。寝袋も人数分購入したからちゃんとした陸地で野営を取る事が出来る。流石にアンデッドが出る時間帯に町に戻るのは大変だろうから、湿地帯で一泊する予定だ。 俺達はそれぞれ大きなバッグを背負い、湿地帯の中でも地面がしっかりしている場所へと向かう。途中クロヤンマ達が襲い掛かってきたけど、敵ではなかった。 怪我もなく陸地に足を踏み入れ、久しぶりに硬い地面の感触を味わってカンジキを外す。流石に普通の地面でカンジキは動きにくいからね。「さてっと、ウィードタートルはどこだ?」 取り敢えず、辺り一面を確認するも、それらしき魔物は見当たらない。地面に穴掘って寝ているらしいから、直ぐには見付けられないか。 俺達は暫く陸地のあちこちに視線を移しながら歩き回る。「あ、これ?」 と、クロウリさんがある一角を指差す。そこは他よりも少しばかり植物が密集している。「可能性は高いね。試しに掘ってみようか」 俺達は植物の回りを持って来ていたスコップで掘っていく。すると、草が生えた巨大な甲羅が姿を現し始めた。「ビンゴ」「もう少し掘り起こそう」「だね」 俺達は少し早く、それでいてウィードタートルを起こさないように慎重に掘り起こしていく。 周りに掘り起こした土で小さな山が出来た頃、漸くウィードタートルの全体が顕わになった。「で、こいつの甲羅が欲しい訳なんだけど……」 今ウィードタートルは就寝中。首ちょんぱで倒す事は不可能だ。かと言って、甲羅に強い衝撃を加え続けて割るのも至難の業な気がする。一番力があるレグフトさんが自慢の剣で何度も切り付ければ行けるかもしれないけど、剣が先に折れる可能性も当然ある。 腕を組んで考える俺。レグフトさんもスコップを地面に刺し、その柄に顎を乗せる。そんな中、クロウリさんはじろじろと見ながらウィードタートルの回りを一周する。「うん。僕に任せて」 と、クロウリさんがスコップを土の山に差し、杖をウィードタートルへと向けて詠唱を始める。「ブラックグラビティエリア」 辺り一面にブラックグラビティエリアが展開し、ウィードタートルが少し浮かびがる。……あれ? 少しだけ? ロンリーウルフとかビッグフロッグとかもっとふわぁっと浮かんでたんだけど。見た感じ三十センチくらいしか浮かんでいない。それだけ重いのかな? 重力の影響を受けなくすると言っても、完全じゃないのか。「と言うか、何でブラックグラビティエリアをしたの?」「こういう事」 俺の質問にクロウリさんはウィードタートルを指差す。「あ、あれ?」 よくよく見れば、甲羅の位置がずれて行ってないか? 正確には、甲羅だけが上に浮かんで行くような感じだ。 すぽんっ。 ……何か、葡萄の実を皮から一気に押し出すように身体が甲羅から離れた。 ただ、ウィードタートルはしっかりと甲羅に包まれている。けど、きちんと草の履いてた甲羅は別に浮かんでいる。あれぇ? クロウリさんは浮かんでいる甲羅を杖の先で押して動かし、土の山の外側へと隔離する。その後、直ぐにウィードタートルを上から押して地面に接触させる。 ブラックグラビティエリアの効果が切れ、ウィードタートルの甲羅が地面に落ちる。ウィードタートル自体はその間に地面に接触されてたので落ちる事はなかった。 それを確認すると、クロウリさんはスコップを持ってウィードタートルに土をかけ始める。俺とレグフトさんもクロウリさんに釣られてスコップで土山を崩してウィードタートルを埋めていく。 ふんわりと土で周りを埋められたウィードタートルは甲羅だけが露出する形となった。「えっと、何したの?」 俺は首を傾げながら、地面に埋まった甲羅と地面に落ちたk差の生えた甲羅を交互に身ながらクロウリさんに質問する。「脱皮を手伝っただけ」 クロウリさんはスコップに付いた土を払い落としながら簡潔に答えた。「脱皮、だと?」 レグフトさんも首を傾げている。「ウィードタートルは数十年に一回脱皮する。脱皮する際は甲羅に自生させた草木の自重で滑り落ちるように工夫してる」「マジすか」「マジ。丁度このウィードタートルは脱皮時期だったから、それを手伝っただけ」 そうなのか。だから、甲羅が二つもある訳か。 と言うか、亀って脱皮するの? 爬虫類の一種だけど、そんな事するとは到底思えない身体の作りしてるんだけど。魔物だから、だろうか? 亀の生態に詳しくないから断言出来ないけど、その可能性は高い、かな?「そうか、脱皮をするのか」 とレグフトさんは何度も頷いて感心する。レグフトさんも知らない情報だったようだ。「何でクロウリさんはウィードタートルが脱皮するって知ってたんだ?」「お師匠に魔物の事を色々叩き込まれたから」 俺の質問にクロウリさんは率直な答えを提示する。そうか、お師匠さんに魔物に関する知識を叩き込まれたのか。魔物の素材を魔法の媒介にするから、魔物について色々と知っておいた方がいいから弟子に教えたんだろうな。「脱皮した甲羅は生きてるのより硬いから、いい素材になる筈」「マジか」 俺はまじましと脱皮後の甲羅を眺める。 予想もしなかった事が起こったけど、戦闘を行わずにウィードタートルの甲羅、ゲットだぜ。

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