Q.攻撃方法は何ですか? A.卓球です。

島地 雷夢

ちょっと以上に怖いと思いました。

 レグフトさん曰く「昨日は新しい扉を開いた」との事。その御蔭? で【精神安定】のスキルが一気にレベルアップしたそうだ。 あと、習得可能スキルに上がった【不屈】の効果は文字通り屈することなく貫き通せるように補正が掛かる。つまり、この【不屈】があれば虫嫌いの克服に掛かる時間が少しばかり短くなる……かもしれない。 そして、大丈夫と微妙に胸を張って答えたレグフトさんに連れられて、俺達は湿地帯へと向かう。この際にレグフトさんは【不屈Lv1】を習得した。 で、虫系統の魔物が出現する区域まで進軍。早速クロヤンマが一匹現れる。「……ふふふ」 ヘルムを被ったレグフトさんは、何やら不気味な笑い声を上げる。「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふうふふふふふふっふふふふふふふふふふふふふっふっふふふっふっふっふふふふふううふふふふふうふふふふうふ」「「…………」」 俺とクロウリさんは口元を引きつらせて後退りする。「ふふふふふふふふふふふふふううふふふふっふふふふふふっふふふふふふふふふふふふふふふふふふふうふふふっふうっふうふふふふふふふうふふふふふふふふうふふふっふふふふふうふふふふふふふふうふふふふうふ」 ちょっと近寄りがたい雰囲気さえも醸し出し、白属性を扱う白騎士見習いなのに黒い靄のような者が立ち上っているかのような幻が見える。 レグフトさんはまるで幽鬼の如くふらふらとクロヤンマへと向かい、剣を振り下ろす。クロヤンマはひょいと躱してレグフトさんに攻撃を仕掛けていくが、それを盾で防ぎ、カウンター気味に剣を振るう。 クロヤンマは胴体から真っ二つに切られ、絶命する。「「お、おぉ………………」」 俺とクロウリさんは一人で虫系統の魔物を倒したレグフトさんへと向けて遠慮がちに拍手をする。 いや、純粋に進歩を祝う気持ちはあるんだけど、何かこう……もっと穏便に虫嫌いを克服するような方法があったんじゃないか? と言う後悔が芽生える。 多分、ヘルム外したら瞳のハイライトが消え失せて、口だけで笑ってるレグフトさんを拝められる気がする。正直、別の意味で怖いので見たくないのでヘルムは絶対に外さない。外したくもない。 レグフトさんは次々と襲い掛かってくるクロヤンマとヤゴを切り捨てていく。ただし、クロヤンマだけで、ビッグフロックが現れてもそちらには目を向けずに延々と虫だけを相手にしていく。 …………怖気の走る笑い声を上げながら。「ふふふうふふふふふふっふうううふっふふふふふふっふっふっふふっふっへへえっへえへうえへうえうへへへうえへえうえうへうえへうえうえうふああふへへうえうえふえふへいえふえふあうへうへうあへうあうえ」「く、クロウリさん‼ 撤退! 撤退!」「合点!」 幽鬼とかしたレグフトさんを見ていられなくなった俺とクロウリさんは即座にビッグフロッグを倒してレグフトさんに駆け寄り、二人で脇の下に腕を通して急いで湿地帯からの脱出を図る。「「はぁ、はぁ、はぁ……」」 町へと駆け戻り、膝に手を付いて荒い息を整えに掛かる俺とクロウリさん。「ふふふふふふふうふふふふふふふふっふふふふふふ…………おや?」 不気味な笑い声は鳴りを潜め、正気に戻ったらしいレグフトさんは辺りをきょろきょろと見渡し始める。「アズサ殿、それにミャー殿。どうして私達は町にいるのだ?」「「えぇ…………」」 記憶にないらしいレグフトさんの一言に、俺とクロウリさんはちょっと遠い目をする。 俺とクロウリさんはかくかくしかじかとレグフトさんの狂気な状態を切々と説明する。「わ、私はそんな事になっていたのか?」「「うん」」「そ、そうか……」 レグフトさんは認めたくなさそうだったけど、俺とクロウリさんは真実しか語っていない。それを感じ取ったレグフトさんはきちんと真実と向き合い、僅かに肩を落とした。「…………まさか」 ふと、レグフトさんは何を思ったのかおもむろに冒険者カードを取り出してステータスを確認する。「……やはり」 で、何を見たのか知らないけど、冒険者カードを落として急に膝から崩れ落ちて両の手を地面につけるレグフトさん。 何を見て落ち込んだのだろう? と俺とクロウリさんは地面に落ちたレグフトさんの冒険者カードを覗き見る。
『名前:レグフト・ウィンザード 性別:女 年齢:十七
 レベル:28 体力:B- 筋力:C+ 敏捷:D 耐久:C+ 魔力:F- 幸運:D
 ポイント:132 習得可能スキル:【狂戦士Lv1】(消費ポイント100)
 スキル:【斬撃Lv2】【白剣Lv1】【守護Lv1】【注目Lv1】【頑丈Lv1】【気配察知Lv1】【反応Lv1】【精神安定Lv4】【不屈Lv1】 魔法:なし 称号:【白騎士見習い】』
 騎士が習得しちゃいけなさそうなスキルが習得可能になっているのは決して見間違いじゃない。【狂戦士】って、いわゆるバーサーカーって事だよな? それの習得条件を満たしちゃった訳か。 習得条件を満たしたのは、十中八九……確実に十割クロヤンマを切り伏せていたあの時の精神状態が起因してるだろうな。 あれって、狂気に飲まれてたんだ。精神安定出来てないじゃん……。いや、もしかしたら精神を平常に保つ為に敢えて狂わせたのかもしれない。自己防衛として。 ……ま、まぁ。虫嫌いを克服したかどうかは定かじゃないけど、虫を前にしても恐慌状態に陥って行動不能にならなくなったのだから、儲けものだ。そう考えておこう。うん。「騎士見習いなのに……狂戦士って……」 と言うか、そこまでショックだったのか。【狂戦士Lv1】が習得出来るようになったの。民や主を守る騎士と見境なく暴れる狂戦士は、確かに相いれないかもしれないけど。 落ち込むレグフトさんを難とか宥め、俺達は冒険者ギルドへと倒した魔物の素材を換金しに向かう。「?」 道中、何時もより人が慌ただしく通り過ぎたり、道端で立ち話をする人が多くみられる。どうしたんだろう? 何か事件でも起きたのかな? と疑問に思いながらも冒険者ギルドに到着し、中に入る。ギルド内も何時もより慌ただしく……と言うよりも、そこかしこで話をしている冒険者が。「…………だってよ」「そうか、ついに……」 疑問に思うけど、取り敢えずは素材の換金だ。そのついでに受付の人に訊けばいいだろう。「先日、勇者様が召喚されたそうなんですよ」 換金を終え、受付の人に尋ねるとそのような答えが返ってきた。「勇者、ですか」「はい。そして、明日か明後日にこのトラストの町に来るそうですよ。何でも、魔物との戦闘経験を積む為だそうです。ここら一帯はそこまで危険な魔物はいませんしね」 と受付の人はちょっと興奮気味に口早に語る。 そうか、勇者が召喚されたのか。それって、やっぱり俺のいた世界からだろうな。で、高確率で日本から。 しかも、その勇者はこの町に来る、と。なら、そこかしこで話題に上がりもするか。だから湿地帯から戻ってきたら何時もと様子が違っていたのか。「因みに、勇者の名前って分かりますか?」「はい。キリヤマ・カオル様だそうです」「……きりやまかおる?」「はい」 俺はつい聞き返してしまう。受付の人は頷く。「そうですか、ありがとうございます」 受付の人に礼を述べ、俺達は喫茶コーナーへと向かう。 名前からして、やっぱり日本人だ。同郷の人がこの異世界スレアに来ている。もし出逢えば日本のサブカルチャートークとかで会話に花が咲くかもしれない。 だが……俺はちょっとその勇者には会いたくないなぁ。 キリヤマ・カオルという、男とも女とも取れる名前は、凄く聞き覚えがある。 高校に通っていた頃、同級生にその名の奴がいた。 同姓同名と言う可能性があり、そいつ本人だという確証はない。けど、もし同級生のあいつなら、会いたくない。苦手なんだ。 だから、勇者がこの町に来ても、会わないように細心の注意を払おう。「勇者、召喚されたんだ」「一度会いまみえたいものだ」 …………暫く、勇者に興味津々な二人とは別行動を取ろうかな?

「Q.攻撃方法は何ですか? A.卓球です。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く