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特撮好きな狐と狸

島地 雷夢

特撮好きな狐と狸

 木漏れ日の射す森の中。人が楽に通れるようにと地面を固く踏み締められた道を歩く者がいる。 その者はこの世界の住人ではない。 こことは別の世界で神に仕える巫女だ。巫女は自身が仕える神の親族が治めている世界を救う手助けをして欲しいと懇願された。 何でも、その世界では五体をばらばらにされた邪神が各所に封じられており、その封印が魔の者により解き放たれようとしているのだそうだ。 邪神の封印は神の御力を顕現させる事の出来る巫女にのみ行う事の出来る秘儀。そして不運ながら、この世界の巫女は僅かな命を残す老婆とまだ言葉も交わす事の出来ない赤子しかいなかった。 神自身が邪神を封印する事は出来ない。邪神の近くに行けば、邪念に侵されてしまうのだ。最悪、新たな邪神へと変貌してしまう可能性がある。 このままでは邪神の封印は解かれ、世界は闇に染まってしまう。そうなると、ここを治めている神もまた新たな邪神に落ちてしまう。 故に、神は親族が治める世界を救う手助けをして欲しいと巫女に頼んだ。 巫女は自身が仕える神の頼みを快く受け入れた。 彼女自身、神の御蔭でこうして生き永らえる事が出来ているのだ。 巫女は元来身体が弱く、様々な病に侵され、幾度も死ぬような恐怖を味わった。 だが、神の御力を顕現する事の出来る巫女の才能が開花し、神の加護により病に侵される事は無くなった。 神には感謝しかなかった。本来なら病で床に伏せるだけだった彼女はこうして二本の足で立って元気に歩く事が出来るのだ。 神によって救われたこの命、巫女は神の為に使うと決めたのだ。 故に、巫女は神の頼みを受け入れ、別の世界へと足を踏み入れたのだ。 巫女がこの世界で行う事は五体ばらばらにされ各所に封印されている邪神の欠片にたいしての再封印および封印の強化だ。 魔の者に関してはこの世界の者達だけでも対処は出来るので、封印にだけ意識を向けるように言い使った。 ただ、封印に向かう際には魔の者や異形の者の襲撃を受ける事もある。 そう言った場合は自衛の為に立ち向かわなければならないが、生憎と巫女は攻撃の手段を持ち合わせていない。 なので、彼女以外にも共にこの世界へと渡った者がいる。 それが一匹の狐と一匹の狸だ。 狐と狸は巫女が幼い頃より兄弟同然に一緒に育った。 自身にとって姉のような存在だった巫女を救った神に忠誠を誓い、巫女を補佐、守護する役目に任命された。 彼等には攻撃の手段がある。更に、こちらの世界へと赴く際にそれぞれ一つ特別な能力を神から授かった。 この能力がある御蔭で、今の所巫女に危機は訪れていない。 狐と狸の能力は、ある意味で彼等の願望が成就したものである。 一人と二匹が森を歩いていると、茂みから魔の者が飛び出して来たではないか。 魔の者もまた、邪神により別世界より巫女が降り立った事を知らされ、排除へと向かったのだ。 魔の者の数は三。目の前に二人、後ろに一人だ。 狐と狸は巫女を守るようにそれぞれ前と後ろへと即座に移動し、魔の物を威嚇する。 魔の者は威嚇する二匹を鼻で笑う。たかが獣の分際でどうにか出来る訳がないと。 しかし、彼等はただの獣ではない。巫女に仕える神聖な化生なのだから。 狐と狸の身体から煙が発生し、それが上へと立ち上る。 すると、狐と狸は姿を消し、代わりに見知らぬ者がそこに立っていた。 一人は黄金色の長髪をなびかせた女性。一人はくすんだ茶色の短髪の男性だ。 女性は狐が、男性は狸が人に化けた姿だ。巫女に仕え化生となった狐と狸は人の姿へと変化する事が出来るようになったのだ。 突然の事で一瞬固まる魔の者達。その隙を逃さず、人へと化けた狐と狸が躍りかかる。 狐は手に狐火を生み出して放ち、立ちどころに二人の魔の者を火に包んだではないか。日に包まれた魔の者はもがき、地面を転がって火を消そうとするが、自然の火ではない狐火がその程度で消える事無く、そのまま消炭と化した。 対する狸は幾千もの木の葉を舞い上がらせ、魔の者の首へと殺到させ、突き刺さる一枚一枚では大した傷を負う事はないが、それが何千という数がもの一気に押し寄せる。結果、魔の者の首は胴体から分断され、宙を舞う事となる。 襲撃者はものの数秒で物言わぬ骸と化した。巫女は自分を襲撃した者と言えども慈悲は忘れず、彷徨う事無く真っ直ぐとあの世へと向かうように祈りを捧げる。すると、魔の者の亡骸は光の粒子となり、空気に溶けて行った。 祈りを捧げ終えると、今度は空から一匹のドラゴンが現れ、更には木々をへし折りながら全長二十メートルはある一つ目の巨人が姿を現したではないか。 さしもの巫女に仕える化生と言えども、ドラゴンや巨人相手では分が悪い。 ――――特別な能力を授かっていなければ。 狐と狸の行動は早かった。 まず、狐は己の臍辺りに手を翳す。すると、狐火が腰を覆うように展開し、円形の綺麗な石が収められた帯が出現する。 右手をずばっと左上へと突き出し、左手は腰に軽く沿える。右手で円を描くように右へと動かし、左手を右に突き出すと同時に右手を腰に沿える。「変身!」 凛とした声が狐の口から漏れ出る。 それを合図に狐は高く飛び上がる。 すると、狐の身体は狐火に包まれる。しかし、焼かれている訳ではない。狐火が消えると、そこには狐の顔を模したマスクを被り、ややぴっちりとしたスーツの上に狐火を模したアーマーを装着した特撮ヒーロー然とした狐の姿があった。 そして、対する狸はと言うと懐から何故か茶筅を取り出し、それを高々と掲げる。「チャガマーン!」 猛々しい一声と共に狸の姿が光に包まれ、次第に巨大化していく。光は一つ目の巨人と同程度まで大きくなると、次第に弱まっていく。 光が晴れると、そこには巨人と化した狸の姿があった。顔はまるで茶釜を模しているかのように注ぎ口が角のように生えており、鉄色の身体に銀色のラインが走っている。また胸には緑色の燈が灯ってる提灯が取り付けられており、まるで何処ぞの光の国に住んでいる巨人を思わせる。 これこそが、神から授かった特別な能力――変身だ! 実は、狐と狸はテレビで特撮番組をよく見ていた。 そして、画面の中で戦うヒーロー達に憧れていたのだ。 狐は仮面のヒーローのように、狸は光の巨人のように、何時かは自分達もあのように巫女を狙う悪と戦いたい、と。 狐と狸の願いは、この世界に降り立った時に適ったのだ。 今の狐は狐に非ず。巫女の味方マスクドフォクシーだ! そして、狸もまた狸ではない。巫女の味方ブンブクチャガマンなのだ! 己の拳に狐火を纏い、火焔のブレスを吐いたドラゴンへと果敢に向かって行く。 ドラゴンのブレスは狐火を纏った拳に当たると綺麗に霧散する。そして、隙が出来た瞬間に狐は何度もドラゴンの身体に拳を打ち込んでいく。 ドラゴンも前脚を薙いだり、尻尾を振って応戦するがマスクドフォクシーに当たる事はない。当たったかのように見えてもその姿はまるで陽炎のように消え去り、別の場所に姿を現すのだから。 滅多打ちにされ、次第に動きが鈍くなっていくドラゴン。それ見てマスクドフォクシーは好機と見て必殺技の構えを取る。 重心を下げ、右足に狐火を集中させる。狐火は最初右足全てを包んでいたが、次第に凝縮し、最終的に足の裏だけに纏うような形となる。 狐火を纏い終えると、マスクドフォクシーは助走をつけて飛び上がり、空中で一回転捻りを行うと、ドラゴン目掛けて飛び蹴りを放つ。「フォクシーキィーック!」 蹴りはドラゴンの額を捉える。すると、足裏に収束していた狐火がドラゴンへと乗り移り、全身へと広がる。 ドラゴンはもがくが狐火は消える事無く、最終的にドラゴンはその身体を爆散させる。 フォクシーキック。それは己の力の源である狐火を集束させたマスクドフォクシーの必殺技であり受けた相手は爆散する定めにあるのだ! さて、ブンブクチャガマンはというと一つ目の巨人相手にタックルをかましていた。 ブンブクチャガマンの身体は鋼鉄よりも硬く、そして一つ目の巨人の何倍も重いのだ。その巨体から放たれる一撃は一つ目の巨人を押し倒すのに充分な威力だった。 地面に倒すとブンブクチャガマンはマウントポジションを取り、チョップを何度も繰り出す。 一つ目の巨人は為す術もなく攻撃を受ける事となり、もう死に体となっている。 トドメを刺すべく、一度ブンブクチャガマンは距離を取る。 腕をクロスさせ力む。するとブンブクチャガマンの身体から蒸気が発生し、鉄色をした体は段々と赤味を帯びて行くではないか。注ぎ口を模した角の先からもまた蒸気が漏れ出るが、それは身体から発生する蒸気の比ではない。「スチニウムエッジ!」 ブンブクチャガマンは身体を後ろに仰け反ると、その反動を利用して大きく頭を突き出す形で一歩前に踏み出す。 そして、角の先から赤と白が螺旋を描く光線を発射する。光線の直撃を貰った一つ目の巨人は一度ビクンと跳ねると、無残にもその身体を爆散させる。 スチニウムエッジ。それはブンブクチャガマンの身体に流れるエネルギースチニウムを集中させ光線として発射する必殺の一撃だ! 受けた相手は勿論爆散する! マスクドフォクシーとブンブクチャガマンはそれぞれ敵を倒し終えると互いに顔を見合わせ、サムズアップを交わす。 マスクドフォクシーの身体が再び狐火に包まれ、火が消え去ると元の狐の姿に戻る。ブンブクチャガマンもまた光に包まれ、それが狐と同程度の大きさまで縮まり元の狸の姿へと立ち返る。 狐と狸は死したドラゴンと一つ目の巨人に祈りを捧げる巫女の下へと向かう。 祈りを終えた巫女は近寄ってきた狐と狸の頭を感謝の意を籠めて優しく撫でる。二匹は気持ちよさそうに目を細める。 暫くの撫で撫でタイムを堪能し、一行は止めていた足を動かし、邪神の欠片が封じられている地へと向かう。 さぁ行け! マスクドフォクシー! ブンブクチャガマン! 巫女を守り、この世界から邪神の脅威を取り除く為に!


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