異世界トリケラロード

島地 雷夢

俺は恐竜になったようです

 うぅ、危うく溺れるところだった……。 俺は頑張って犬かきをして水面へと顔を出し、そのまま岸へと必死こになってよじ登り、荒い息を何度も吐いている。 水の中はとても冷たかったです。卵から孵ったばかりの赤ちゃんトリケラでも頑張れば泳げるものだと実感した。前世で金槌じゃなかった事も起因してると思う。 もし金槌だったり、今のように半端な前世の知識や記憶が残ってなかったらパニックに陥って無駄に体力を消費して水の底に沈んでいたと思う。 いやぁ……生まれてまだ数分しか経ってない儚い命を散らす所だった……。ギリギリセーフ。 ……さて、身体を乾かすと言う意味でも、体温を上げると言う意味でも今度こそ日光浴を始めるとしよう。 丁度太陽が真上にいるので、時間としては正午あたりだろう。段々と上がって行った気温がピークに達するくらいの時間帯だから、少し早めに温まる事が出来る筈だ。 にしても、トリケラトプスかぁ。 俺は太陽光で背中を温めながら、自分の転生した種族に対して少し心を躍らせる。先程とは違い、興奮を体で表現はしない。した瞬間にまた池ポチャする運命が待ち構えている気がするからな。 トリケラトプス。ケラトプス科トリケラトプス属に属する白亜紀後期に生息していた大型の草食恐竜だ。名前の由来はアイデンティティでもある三本の角から。 トリケラトプスのように頭部や鼻付近に角と嘴が存在し、首元を守るかのように展開された扇状のフリルを持つ四足歩行の草食恐竜は角竜と呼ばれる。 角竜には他に鼻付近の一本しか角の無い原始的な角竜プロトケラトプスや、扇状ではなく見方によってはハート形に見えるフリルを持つペンタケラトプス。そして目の上に角はないがフリルの回りにいくつもの長い突起を生やしたスティラコサウルスなんかもいる。 しかし、やはり角竜の中で一番の知名度を誇っているのはトリケラトプスだろう。 恐竜をモチーフにしたゲームとかでも引っ張りだこだし、図鑑でも表紙を飾ったりもする程に有名だ。 日本人男児に恐竜と訊けばティラノサウルス、ステゴサウルス、プテラノドン、そしてブラキオサウルスと並んで名前が出て来る事だろう。 まぁ、プテラノドンは正確には恐竜じゃなくて翼竜だけどね。 で、トリケラトプスの三本角は主に同種族での争いに使われていたとされている。雌を巡っての、ね。 けど、勿論それ以外にも肉食恐竜から身を守る為にも使われていたらしい。首のフリルは首元を守る為のもので、見た目以上に頑丈な作りとなっているそうだ。 肉食恐竜相手への角を使っての攻撃は、主に相手の下に潜り込んで角を突き刺したり、横に振って肉を掻っ捌いたりしたそうだ。 トリケラトプスは突進攻撃をするイメージがあるが、あれは実際に行うと衝撃に耐えられず頭や首の骨が砕けるらしい。 あとは、巨体にも拘らず結構素早く動けたとか、首の筋肉が凄いとか、危うくトリケラトプスという名前の恐竜がいなくなってしまいそうになった変な事件っぽい何かがあった……と、自分の知っているトリケラトプスの知識をつらつらと脳内に並べて行く。 専門家じゃないし、そこまで詳しくはないけど、突進したら自爆する事を知っていなかったら、俺は外敵に対して普通に突進攻撃を繰り出していたと思う。そして知らぬまま首と頭の骨をやってぽっくりと天に召されてしまうだろう。 中途半端な知識でも、自分の身を守る為には役に立つな。 まぁ、その知識も実際に正しいかなんて分からないんだけどな。何せ、トリケラトプスは俺の生きていた時代からかなり昔に住んでいた生物だ。大体六千五百万年くらい前だったかな? なので、トリケラトプスの事を知るには掘り起こした化石から推測するしかない。実物が既にこの世に存在しないのだから。 故に、今俺の持っているトリケラトプスに付いての知識ももしかしたら間違っているかもしれないので鵜呑みにする事は出来ない。 でも、参考には出来る。推測は何かしらの根拠があって出されたものなので、正確ではないにしても、それと近しいものである可能性は高い。 なので、俺は自分の持っているトリケラ知識を元に生きて行こうと思う。

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