喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

another 11

「いやはや、ここまで団長の全力で楽しみ、全力で練習に打ち込む表情を見れるとは思わなかった。今回のイベントでは組に分かれての運動会という風変わりなものだったが、団長にとっては胸の高鳴りが抑えられない程に興奮した様子で待っていたので当然と言えば当然か。どうやら団長はこのような運動会を経験した事がないそうで、初めて参加出来ると向日葵の笑みを団員全員に向けてうきうきと話していたな。その可愛さにやられた保護者のローズも『よかったですね。精一杯力を尽くして、楽しみましょうね』と団長の頭を撫でるという実に羨ましいことをしていたよ。あの光景は正に親子のそれと言っても過言ではなかった訳だ。もう完全にオカンの称号はローズのものだな。でな、団長のその新緑に芽吹く木々の如き活発さ、物怖じしない太陽の如く明るさ、ひた向きに練習に打ち込む真剣さに我が組の皆々様は骨抜きにされてな。今や実質的に組のリーダー兼アイドルとして我が団長を中心なり、皆が一致団結したのだ。絶対に優勝するぞという空気に満ちて誰も練習では手を抜かず真摯に取り組んだ。だが、かと言ってきついだけの練習とならないよう、全体に刺激と楽しさも散りばめながら練習のスケジュールを組んだりもしたものだ。額に玉のような汗をかき、頬をほてらせながらも心の底から楽しんでいるというオーラが滲み出る団長の姿はそれはもう愛おしくて仕方がなかったさ。昼休憩の時にローズから手渡された水筒のお茶をごっきゅごっきゅと勢いよく飲み、おにぎりをその小さな口いっぱいに頬張る姿はまるでリスやハムスターのようでいて、それらを上回る程に愛らしかった。いやはや眼福眼福。その姿を俺達以外も見ていてとてもほっこりとしていたな。ただ、数人から邪な気配を感じ取ったので、そいつらに対しては団長が奴等の視界に映らないように俺達は絶妙な位置をキープしたがな。何処にでもそう言った輩がいるのだなと改めて実感はしたが、今回は組対抗のイベントなので欠員を出す訳にもいかないので、PvPで物理的に鎮めると言う方法は取らずに、俺達からすればかなり穏便な方法をとっていた。あんな汚れた奴等でも貴重な戦力なのだ。団長が優勝に喜ぶ姿を拝む為には例え塵芥に等しき輩だとしても有効活用しなくてはなるまい。まぁ、幸いなことに奴等は団長を悲しませる様な行動は取らなかったからな。御しやすかったものだ。……で、だ。ある意味ではこちらが本題かもしれないな。無論、全力全開で楽しみながら練習に励む団長の姿はそれだけで目の保養になるが。普段ではあまり見られない団長の姿を拝見する事が出来たのだ。それは練習が終わり、一時間後の夕飯時に見れる姿……風呂上がりの火照った姿だ。練習後は汗をかなりかいた状態だ。いくらVRゲームの中とは言え、汗だくのままではいられない。故に。この練習場には大浴場が設置されている。無論、男女に分かれており、システム上は完全な裸体を晒す事はなくどうやっても取り外せないタオルが着用される。俺達男共は腰に一枚巻かれたな? 女子は胸から下が長いタオルで隠されていた事だろう。直接目で見て確認した訳ではないので憶測でしか言えないがな。無論、覗きなどと言う男が廃る様な無粋な真似はしていないし、そもそもゲームの仕様上覗く事は不可能だ。それでもシステムの穴を突こうとする馬鹿な輩の後頭部目掛けて桶を全力で投げ飛ばしたりしたがな。団長のあられもない姿なぞ見せてたまるか。そんな邪な考えを浮かべる輩は地面に伏して浴場のタイルでも眺めているのがお似合いだ。……おっと話しが少し脱線したな、軌道修正をするとしよう。本来なら見る事は叶わない風呂上り姿の団長。少しゆったりとした、うさ耳フードのついたとても愛くるしい動物パジャマを着て、濡れた髪をローズに乾かして貰っていた姿は実に気持ちよさそうに目を細めていてエクセレンツ。団長の髪を乾かしていたローズもまた、お揃いの動物パジャマを着用していたな。団長とは違い、兎ではなくツキノワグマだったが。ペアルック状態に俺達は羨ましさのあまり嫉妬の炎に燃やされそうになったが、血の涙を流しつつもぐっと堪えたさ。それでな、保護者に髪を乾かして貰っている最中、火照った体を冷ます為にフルーツ牛乳をんぐんぐと飲んでいる姿は見ていてほっこりするものだった。」

「……そうか」

「そうだったのだよ」


 最早何時もの場所と化したおでんの屋台にて。ハイドラは充分に煮汁の染み込んだ大根を口に頬り込む。


「そしてな、その後夕食時の団長がまた――」


 偶然居合わせたオウカ相手に、先日のイベントでのモミジについて長々と話すハイドラ。オウカは律儀に聞きつつ、はんぺんを口に運ぶのだった。

 夜はまだ長い。語らいは、まだまだ続く。





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