喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 その後、怪盗は「では、また会う日まで」と言い残し、マントから元の姿に戻ったドリットに捕まり、去って行った。役場に行ってクエスト完了の手続きを終え、報酬を手に入れ、これにて怪盗のチェインクエストが終了。「あ~、終わった終わった」 役場から出て、ツバキが大きく伸びをする。「これでカーバンクルが仲間になった」 アケビが首に通してある【宝獣の紅珠】を軽く持ち上げ、笑みを浮かべる。「何か、約束果たすの遅くなって悪かったな」 漸くアケビとの約束を果たす事が出来たが、少し時間をかけすぎたかもしれない。クルルの森の攻略を優先させた事もあるけど、もう少し早く取り掛かっててもよかったかもと今更ながら思う。「ううん。そんな事無いから」 が、当のアケビは気にした風も無く首を横に振る。「ありがとう」 アケビが僅かに微笑みながら礼を述べてくる。「ツバキ君も、ありがとう」「俺もカーバンクル仲間にしたかったんだ。気にすんなって」 アケビはツバキにも礼を言い、ツバキは軽く笑いながら手を振る。「んで、この後どうする?」 ツバキは俺達に向き直って今後の予定を訊いてくる。まだ時間は余裕があるからフィールドに出て探索をするなり制作に励んだり、新たな召喚獣と親睦を深めたり、候補は色々ある。「えっと、ま、まず拠点に戻りませんか?」 アケビの後ろに少し隠れながらサクラが発言する。ツバキ相手に少しは慣れたようで、あまりどもっていない。「そうだね。ちょっと疲れたから休憩したいかも」 アケビはサクラの意見に賛成のようだ。ゲームの中だから実際に肉体疲労はないが、あれだけ動き回ったのだから精神的にも疲れが来る。「んじゃ、そうすっか」 ツバキも反対ではないそうなので、俺達は拠点へと戻る。「「「きゅぅ」」」 拠点ではカーバンクルが三匹でお出迎えをしてくれる。「三匹なんだ」「あの時は一匹だけだったんですけどね」 流石にゲーム的仕様があるから、と無理矢理納得する俺達。ツバキも自身のカーバンクルを喚び出して、三匹の隣りに並ばせる。「そいや、お前等ってパートナーとか召喚獣にニックネームつけてねぇんだよな?」 四匹から視線を外したツバキが俺達に尋ねる。「あぁ」「流石にそろそろニックネームつけたらいいんじゃねぇか? カーバンクル三匹いるんだし」「むぅ」 今までは別につける意義が無いからそのままにしてたし、ある意味で種族名がそのままこいつらの呼び名になってそれに愛着が少し湧いてきた所だ。 が、確かにカーバンクルはここに四匹、うち三匹は俺達パーティーの召喚獣だ。この拠点では常に三匹が一緒にいる訳だから、単にカーバンクルって呼ぶのはいかがなものか。「どうする?」「そうですね……今まで付けていませんでしたし」「今更な感じがするんだけど……した方がいいかな」 パーティーメンバー二人も首を捻りながらニックネームを付けようと前向きに意見を出す。 ただ、これはあくまで俺達の意見だ。ちゃんと全員の意見も訊かないとな。「よし、全員集合っ」 俺は声を張り上げてパートナーと召喚獣を呼び寄せる。「まず、こっちが今日新たに仲間になったカーバンクル達だ。皆、仲良くするように」 まず、パルミー達にカーバンクルを紹介する。皆いい子だから邪険にせず、歓迎の笑みを浮かべてカーバンクル達へと群がる。うち、キマイラとグリフォンの二匹にカーバンクルは怯えてしまったが、敵意と害意が無いと察すると直ぐに背中に乗って自ら親交を深めようとした。 うんうん、いい雰囲気だ。相変わらずドッペルゲンガーが羨ましそうにじっとキマイラ達を見ているのはこの際目を瞑ろう。そして、メリアスもカーバンクルから目を離して俺に肩車をしてくれと訴えて来るので言われるがまましてやる。「「……」」 で、何故か女性陣に白い目で見られる。理由が分からないので尋ねようがないし、それよりも先にしなければいけない事がある。「皆に尋ねたい事がある。ニックネームの事だ」 俺が一声かけると、全員の視線が俺に集まる。「今更になるが、皆にニックネームを付けようと思うんだが、どうだ?」 俺は一呼吸を置き、周りを見る。 パルミー達は目をパチクリさせ、僅かに静寂が支配する。「みーっ!」「びーっ!」「れにーっ!」 パートナー達は歓喜の声を上げた。そして飛び跳ねる。かなり嬉しいらしい。そこまでのはしゃぎようを見ると、今までニックネームを付けなくて悪かったと胸が痛んでくる。 因みに、召喚獣達は目を輝かせている。キマイラとグリフォンはギャップがあって可愛いと思うし、カーバンクル達と上から覗き込んでくるメリアスは容姿が容姿なだけに素直に可愛い。表情の無いドッペルゲンガーだけはどっちつかずの態度を取っているが、拒否をしてこないので、つけてもいいんだろうな。「じゃあ、ニックネームを付ける方向でいいんだよな?」 との問いかけにパルミー達は首肯する。 では、名付けタイムだ。 取り敢えず、俺達は四方へと散らばってそれぞれのパートナー、召喚獣にニックネームを付ける事に。ツバキは既にリークとウィングに名付けているけど、新参のカーバンクルにニックネームを付ける為に近くの岩に腰掛ける。アケビは木の下へ、サクラは拠点の岩の中へと一度入り、クエストには連れて行かなかったパートナーの卵を抱えて岩に寄り掛かるように腰を下ろす。 俺は小川の方まで来て、腰を下ろす。パルミーとスビティー、カーバンクルが俺の膝の上に乗り、メリアスは相も変わらず肩車状態で顎を俺の頭に乗せてる。ドッペルゲンガーは俺と向かう合う形で胡坐をかく。 さて、いざニックネームをつけるとなると咄嗟にいいのが浮かんでこない。 俺の回りにはパルミー、スビティー、ドッペルゲンガー、メリアス、そしてカーバンクルの五匹。いや、三匹と二人か? どちらにせよ、合計五つものニックネームを考えねばならないので、結構大変だ。 しかし、嬉しさを隠しきれないこいつらの目の輝きやうきうき具合を見ると苦には感じられない。と言うよりも、俄然と気合が入るな。 では、考えるとしよう。 俺はパルミーの頭を撫でたり、スビティーの首を擦ったり、メリアスに髪の毛を引っ張られたり、カーバンクルの毛並を味わったり、ドッペルゲンガーと睨めっこしながらあーでもないこーでもないと名前が浮かんでは消してを繰り返す。「よし」 結構な時間を費やし、ニックネームが決まった。後は、当人達が気に入るかどうかだ。気に入ってくれるといいんだけど、少し不安だ。 俺は改めて五匹もとい三匹と二人を順に見て、深呼吸を一回。では、発表。発表の順番は長く付き合っている順だ。「パルミーはルーネ」 最初の見た目は球根で、今もその名残は残っている。そして、木魔法は木の根を攻めに守りに使っている。英語で根を意味するルートと、根を合わせた名前だ。ネの部分は一応固有技に使っている種にも由来させている。「スビティーはビーア」 スビティーは風の魔法を使う蜂だ。そこから空気を意味するエアーとビーを組み合わせた。ウィンドとビーを合わせたウィビーとどちらにしようか迷ったけど、こちらにしてみた。「ドッペルゲンガーはカゲミ」 戦闘した時のドッペルゲンガーはまるで鏡のように俺の姿を取っていた。そして姿は暗く影のように。なので、影と鏡を合わせてカゲミ。「メリアスはリーフィ」 個人的なメリアスの特徴は頭の葉っぱだ。それ故に英語で葉っぱを意味するリーフ。それだけだと単調だったので、語感が可愛くなるようにィをつけてみた。「で、カーバンクルはソラ」 カーバンクルは額の赤い珠と体毛の水色が特徴的だ。まるで地平線から顔を覗かせる太陽と雲の無いすっきりとした青空のように感じたからソラ、と。「……どうだ?」 不安一色で、反応を待つ。「みーっ!」「びーっ!」「きゅぅ!」 三匹は笑顔を俺に向けながら何度も頷き、メリアスは柔らかい笑みを浮かべながら俺の頬を軽く押してくる。ドッペルゲンガーは暫く俺を見た後、右手を差し出して握手を求めてくる。「……気に入ってくれたか?」 俺が再度訪ねると、ほぼ同時に全員が頷く。 そうか……よかった。「じゃあ、これからもよろしくな。ルーネ、ビーア、カゲミ、リーフィ、ソラ」 俺はルーネ、ビーア、リーフィ、ソラの頭を撫で、カゲミと握手を交わす。

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