喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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「うっし! 今度はこっちのターンだぜ!」 ツバキは偽者の攻撃を紙一重で避けながら、仮面を狙っていく。偽者の方もツバキの攻撃を避けながら距離を開けようと腕を振るう。 サポートはするが、今迂闊に手を出すとツバキの邪魔になりかねない。なので、俺は少し遠目から二人の戦闘を注視しながら、料理アイテムをツバキに使って体力を回復させる。 何度目かの攻撃で、刀の切っ先が仮面を捉える。しかし、外すまでには至らず僅かに位置がずれただけに終わった。「調子に乗るなよぉ! 土よ、我が言葉により形を成し、大地を盛り上げよぉ! 【アースウォール】!」 偽者は【アースウォール】を目の前に作り出して、強引にツバキとの距離を開かせる。「土よ、我が言葉により形を成し、彼の敵に降り注げぇ! 【ロックバレット】!」 自分の姿が見えない状態からの攻撃なら喰らわせる事が出来る筈、とでも思ったのか、偽者は【ロックバレット】を発動し、土壁の向こうにいるツバキへ礫を降らし、そして駄目押しとばかりにナイフを数本上に投擲する。 俺の側からはツバキがどうなっているか分からないが、今偽者は壁の向こうのツバキにしか眼中の無い状態となってる。「喰らえっ」 その隙をついて、奴の背中に向けて助走をつけた跳び蹴りを喰らわせる。「ぐっ⁉」 土壁に顔面を強かぶつけたように見えるが、仮面が外れる様子はない。 しかし、仮面の端にひびが入ったではないか。このまま壊れてくれれば御の字だったが、そうもいかず、ひびは中心へは向かわず、端の僅か一センチ程度で止まっている。口元を怒りで歪めた偽者は標的を俺へと変更。「こんの野郎がぁ!」 偽者は【蹴舞】を繰り出してくるが、俺はバックステップを用いて回避。「れにー!」「びー!」 わざわざスキルアーツを使って動きを自ら固定した偽者へとフレニアが炎の蛇を、スビティーが毒針を放つ。炎の蛇は止まらない偽者の身体に絡みつき、毒針は背中を打ち抜く。「ちっくしょうがぁ!」 スキルアーツが終わると同時に偽者は二匹へとナイフを投擲する。が、先程までとは違い精度がガタ落ちしており、軽く身を捻るだけで回避が出来てしまっている。 NPCでも動揺はするのか。何にせよ、動きが乱れている今がチャンスだ。「土よ、我が言葉により形を成し、大地を盛り上げよぉ! 【アースウォール】!」 が、そのチャンスも即行で潰される。 形振り構っていられないのか、偽者は【アースウォール】を連発する。簡易的な迷路が出来上がり、それぞれが分断される。 宙にいるフレニアとスビティーだが、二匹には雨霰の如くナイフが降り注いでいるので攻勢に移れないでいるのが見て取れる。数撃ち当たる戦法で放たれているナイフの投擲角度から偽者のいる位置はある程度分かるが、そこまで行くのにこの土壁が邪魔過ぎる。 あいつのナイフと精神力は無尽蔵かよ、と悪態を吐きながら俺は簡易迷路を進もうとして立ち止まる。 …………別に、迷路進まなくてもいいよな? アトラクションって訳でもないし、ゴールしたら景品が手に入る訳でもない。なら、素直に進む必要は全く無い。 かと言って、壊すのも俺の武器では時間がかかるだろうからそれもなし。 なら、手段は一つ。「っと」 俺は土壁を蹴って上に昇る。幸い高さは三メートルくらいだから三角蹴りをしなくても昇れるのが救いか。 そして、俺と同じ考えに至ったらしいツバキも同様に土壁の上に昇っているのが見えた。互いにこのまま進めば丁度偽者の所に同時に着くくらいの距離だ。 降り注ぐナイフは二匹に集中しているが、流れ弾に注意しないといけない。頭上の脅威に意識を割きながら下に落ちないよう注意しながら駆ける。 偽者の直ぐ近くまで来て、ナイフの投擲が終わったと同時に俺とツバキは跳び降りる。「なっ⁉」 驚愕の顔を作り、ほんの一瞬だけ硬直するが、直ぐ様俺とツバキにナイフを投擲してくる。「ふっ」 俺はフライパンを投げ、ツバキへと投げつけられたナイフを到達する前に纏めて叩き落とす。俺に投げられたナイフは頑張って包丁で弾き落とすも、全ては防げず最後の一本を胸に貰う。「サンキュっと!」 無傷のツバキは抜刀し、すれ違い様に偽者に一太刀を浴びせる事に成功する。「しまっ」 その一太刀は仮面を的確に捉え、二つに割れたそれは音を立てながら床に落ちる。 仮面が壊れたと同時に、土の壁も崩壊する。「ちぃ!」 偽者は顔を隠しながら距離を取り、ナイフを投げてくる。俺とツバキは互いの武器で撃ち落としながら偽者へと肉薄する。「ふっ」「たらぁ!」「くっ!」 俺は包丁と蹴りで、ツバキは刀で偽者へと連撃を繰り出す。偽者はそれを紙一重で躱したり、ナイフを手に持って軌道を逸らしたりして防いでいる。 が、ここまでやってもスキルアーツで強引に突破しようとせず、魔法を使って距離を開けようともしてこない。 これは、読みが当たったと考えてよさそうだな。「えいっ」「ちっ⁉」 スキルアーツや魔法を使ってこないと見たアケビも加わり、三対一の構図になり偽者は攻撃に転じる事が出来なくなる。「びー!」「れにー!」 いや、五対一か。上空からスビティーとフレニアも攻撃しているからな。確実に無視出来ないダメージが偽者へと蓄積されていく。片手で顔を隠す事をやめれば余裕が出る筈だが、偽者はそんな事せず、不利な状態でも顔を隠し続ける。 決して攻撃の手は緩めないので体力は一気に持っていかれる。しかし、そこは自身に料理アイテムを使ったり視界の端にいるサクラが俺達に料理アイテムを使用して回復させているから問題ない。 傍から見ればリンチに見えない事も無い。けど、この偽者にはむかっ腹来ているのでこれぐらいしても問題ないと思われる。 偽者も劣勢に立たされているにも関わらず粘っていたが、それも終わりの時が来た。「せりゃ!」「がっ⁉」 ツバキの袈裟懸けが決まり、偽者はその場に膝をつき、俯せに崩れ落ちる。「……終わりか?」「多分な」 身動き一つしない偽者に警戒し、様子を窺う。 ふと、偽者の懐から何かが転がるのが見えた。「あっ」 俺はそれを急いで拾い上げる。間違いなく【カーバンクルの宝珠】だ。そう言えば、こいつ懐に入れてたんだっけ。……よく、壊れなかったな。あれだけ攻撃してたのに。もし壊れてたら大変だった。まぁ、ゲームだから壊れないように設定されてたのかもしれないけど、それでも本当に壊れてなくてよかったよ。「…………ぁ~~あ」 俺が安堵で胸を撫で下ろしていると、操り人形のように急に起き上がる偽者。その際にも顔を隠したままで、思わず武器を構えて何時でも攻撃出来るように準備をする。 しかし、その必要はなかった。偽者はそのまま跳躍してシャンデリアの上へと姿を消す。「今日の所は引いといてやるよ。このままやっても、今の俺じゃどうしたって勝てねぇ」 上から目線だが、自身の不利を素直に認める偽者。「いずれ、また遭う事になるかもなぁ。そん時は、今日の借りは返させて貰うぜぇ。はーっはっはっは…………」 笑い声は段々と小さくなっていき、辺りに静寂が訪れる。「ん……んん……」「……キィ……」 少し間を置き、怪盗とドリットが意識を取り戻し、軽く頭を振って起き上がる。怪盗は最初ぼんやりとしていたが、直ぐ様体に力を入れて辺りを見渡す。「……あいつは?」「逃げたよ」 怪盗の問いに俺は上を指差しながら答え、手に持った【カーバンクルの宝珠】を怪盗に見せる。「……そうか」 怪盗の身体から緊張が抜け、軽くふらつき崩れそうになる。それをドリットが駆けつけて支える。ドリットは怪盗がきちんと足に力を籠めて立ったのを確認すると、マントの姿になり怪盗の身体を隠す。 マントを羽織った怪盗は改めて俺達に向き直ると、深々と頭を下げる。「……本当に、ありがとう。御蔭で、その子は救われた。そして、身勝手な話だけど、出来れば僕の我が儘を訊いて欲しい」 怪盗は顔を上げると、俺の持つ【カーバンクルの宝珠】を指差す。「その子を、僕に渡して欲しい」

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