喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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「久しぶりだな、ゴダイ。兜で顔隠してるから分からなかった」 カギネズミをゴダイに手渡すと、カギネズミは手をするりと抜けてゴダイの肩へと乗る。「あん時は防具が何時ものじゃなかったからな。これが本来の俺の格好だ」 ゴダイはそう言いながら胸の部分を軽く叩く。確か、重装備好きが集まったパーティーだったか? 重装備だから敏捷が低くなる。代わりに大型の武器で一気に生命力を持っていくスタンスと。動きが遅いからその分耐久を上げて攻撃回数を増やす。その為の全身甲冑なんだろうな。 甲冑はゴダイ含めて全員全く同じ作り。可動域を殺さないように鎖帷子で繋がれていて、そこの色がそれぞれ違う。ゴダイは銅色、他の二人は金色と銀色だ。あと、扱う大型武器も違う。ゴダイは以前言っていた通り大剣で、金色は長槍、銀色は大斧だ。 同じ作りの甲冑だが、大きさは違う。それはプレイヤー自身の身長に左右されるからだろう。一番大きいのがゴダイ、次に銀色、一番小さいのは金色だ。身長的に銀色は俺より少しデカくて、金色はサクラと同じくらいだ。「ゴダイ、その子達お前の知り合いか?」 と、大斧を背負った銀色がゴダイに問い掛ける。声からして男か。ゴダイよりもドスの効いた感じだな。「その子達っつうより、このオウカとだけ知り合いだな。他は俺も初対面だ」「あぁ、イベントの時アンデッドを涼しい顔して調理器具でぶっ倒してたってプレイヤーか」 ゴダイの返答に大斧使いは手をぽんと叩いて納得する。俺の事はゴダイ経由で知られているようだ。と言うか、別に涼しい顔はしてなかったと思うんだが。まぁ、いいか。「そっちの子達はオウカの仲間だよな?」「あぁ」 俺とゴダイは顔見知りだが、他の面子は初対面だ。折角だから自己紹介をしようか。「初めましてだな。俺はゴダイでこいつはカギネズミ。この間のイベントの時オウカとは顔見知りになった大剣使いだ」「ちゅー」 と思っていたらにっこり笑ってゴダイが先に自己紹介を始めた。カギネズミも器用に後ろ足で立って行儀よくお辞儀をする。カギネズミのお辞儀に倣って俺の後ろに隠れているパルミーとスビティーも少し顔を出してお辞儀をする。 で、大斧使いと長槍使いも急いで兜を取って自己紹介を始める。「っと、俺はアサギリだ。以後よろしくな」 大斧使いの名前はアサギリと言うそうだ。髪を完全に剃ったスキンヘッドで、眉すらも存在しない。ゴダイよりも顔が厳つい。右の額から左の頬に掛けて走っている傷跡と、ギラリと光る紅い双眸の威圧感が半端ない。一応笑ってるけど、完全に獲物を追い詰めた時に浮かべるような感じの笑みで、威圧が倍増している。 その威圧感はパルミーとスビティーはアサギリの顔が顕わになった瞬間に俺の後ろにまた隠れた程だ。多分、サクラもアケビの後ろでアサギリの顔を見ないようにしてると思う。「僕はツツジノ」 で、長槍使いはツツジノ。線の細い顔で、赤銅色の髪は短く切られててスポーツ少年な感じがする。見た目的に俺と同い年かそれより少し下かってくらいだな。アサギリと違って爽やかな笑顔だな。白い歯が煌めいているように見える。「因みに、アサギリとツツジノは【サモナー】でよ。今は召喚時間使い切ってて喚べねぇんだわ」 ゴダイが補足する。そうか、アサギリとツツジノは【サモナー】か。だからパートナーは連れてない、と。で、今は召喚時間使い切ってて喚べない状態か。「モンスターとの戦闘直後なのか?」「あぁ。漸くアングールに勝てたんだ……っ」 俺の問い掛けにゴダイは拳を固く握り、肩を震わせながら答える。あぁ、もしかしてさっき倒されたアングールと戦ってのはゴダイ達だったのか。で、あの勝利の雄叫びもゴダイ達、と。「長かった……本当に長かった……」「俺、何回あいつに呑み込まれたんだろ……」「何度も尻尾でぶっ飛ばされたよ……僕は」 ゴダイは天を仰ぎ、アサギリは肩を落とし、ツツジノはやや斜め下を向きながら吐露する。重装備で身を固め、敏捷を捨てて耐えて攻撃する戦闘スタイルだとアングールにとっては恰好の獲物になってしまう。呑み込み攻撃の。イベントの時点でまだアングールを倒せていなかったから、一週間以上かけて漸く打ち倒した訳か。「それは、おめでとう」 ゴダイ達の喜び具合と今までの苦労は分からないが、当人にとっては漸く達成出来た事なので、祝いの言葉を送る。 三人が(恐らく)平常になった頃合を見て、こちらも自己紹介を始める。「えっと、俺はオウカ。で、こっちはパルミーとスビティー。俺のパートナーだ」「……みー」「……びー」 パルミーとスビティーは未だに俺に隠れているが、少しだけ顔を出して頭を下げる。まぁ、まだ怖いんだろうな。アサギリが。「初めまして。アケビといいます。そこの御二方と同じ【サモナー】をやっています」 アケビは物おじせずに普通に自己紹介をする。ただ、少し口調は固い気がする。「…………あ、その」 で、サクラは顔を伏せたままだが、少しずつアケビの後ろから出て来る。すり足で。横にいるフレニアが心配そうに覗いているが、小声で「大丈、夫」と答えている。ただ、如何せん体が震えているから大丈夫には見えない。「……サク、ラ、です。こ……の子、は、フ、レニ、ア」「れにー」 体の半分くらいを出した状態が限界だったらしく、アケビの袖を弱々しく握り締めながら挨拶をする。フレニアは元気よく胸鰭をパタパタさせる。「よろしくな」 俺達の自己紹介が終わり、ゴダイが笑いながらそう言ってくれるが直ぐにサクラはアケビの後ろに隠れてしまう。ゴダイは少し苦笑いを浮かべたが、直ぐに消して俺の方へと顔を向ける。「で、オウカ達はどうして北の森にいるんだ?」「ボスにリベンジする為だ」「オウカ達って、まだボス倒してなかったのか?」「色々と辛酸舐めさせられてんだよ。何度も死に戻ってるし」 ゴダイ達ほどではないが、こちらもフォレストワイアームに何度も死に戻りさせられている。本当、今日こそは討伐したいものだ。「そうか。オウカも頑張れよ」 ゴダイは俺の肩をポンポンと叩く。そして同情の籠った瞳を向けてくる。 アサギリとツツジノも同様の目を向けてくる。「決して諦めるなよ? 諦めなければ報われるんだ」「応援してます。めげずにチャレンジして下さい」 そして激励の言葉を投げ掛けてくれる。どうやら、少しばかり彼ら自身の境遇と重ねているようだ。彼等も諦めずに何度も何度もチャレンジして、今日漸くアングールを打ち倒す事が出来たんだろう。言葉に重みがある。「ありがとう」「頑張ります」 俺とアケビはほぼ同時に答える。それに三人は頷く。その後すぐに三人は何やらアイコンタクトを始めたかと思えば手に持っていた兜を被り直す。「じゃあ、俺達は行くな」 そして三人は背を向けて元来た道へと戻り始めようとする。「もう行くのか?」「あんま長居しねぇ方がよさそうだしな」 肩越しに振り返りながらゴダイは言う。「……すまない」「別に謝るこたぁねぇよ」 俺は謝るが、ゴダイは肩を竦めるだけで気にしてはいないみたいだ。ただ、気を遣わせてしまったな。「じゃあな。次会った時にでもフレンド登録しようや」「あぁ」 片手を振り、ゴダイ達は去っていく。肩に乗ってるカギネズミも前脚を振っている。俺の後ろに隠れていたパルミーとスビティーも手を振り返している。 ゴダイ達の姿が完全に消えるまで見送り、サクラの方へと目を向ける。 サクラはアケビの後ろに隠れて、変態コート女に見付かった時程ではないが震えている。ゴダイ達がいなくなったのは、サクラに配慮してだろう。 本当、気を遣わせてしまったな。「…………ご、めん、な、さい」 そして、震えるサクラの口から謝罪が漏れる。



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