喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 勝負は、言ってしまえばカンナギの一方的な展開で終わってしまった。 大型武器は補正によって敏捷が下がってしまうが、それでも巨大ホッピーの攻撃を難なくと躱していき、薙刀っぽい斬馬刀っぽい包丁っぽい大刀で切り刻み、最後は言葉通りに叩っ切ってものの十秒足らずで戦闘終了。大刀は終わったと同時に袖の中に仕舞われて行った。『ぶい』 と、メッセージを俺とサクラに送って得意げに部位サインを送ってくるカンナギ。相も変わらず無表情だけど。『結構弱かった……』 そして残念さが滲み出るメッセージを即送って寄越す。無表情のままだが肩が少しだけ下がってる。 結構弱かったとカンナギは言うが、普通は強敵に分類されると思うぞ? あの巨大ホッピーは。動きは素早く、岩盤も砕く威力を持つ攻撃。巨体だからこちらの攻撃が当てやすい反面、相手の突進も避け辛くなっていて、体重もその分乗り当たったらヤバい。耐久にSPを全く振っていない俺は確実に一撃でやられる。 敏捷にSPをあまり割いていないプレイヤーなら、いいように攻撃を受けてそのまま生命力は尽きて死に戻り……となっても可笑しくない。あれくらいの速さだと、一応今の俺でも避けるくらいは出来るがそれだけだな。攻撃までは出来ない。そんな暇ない。 俺にとっては強敵で間違いない巨大ホッピーを弱いと言ってのけるカンナギは、普通に凄いと思う。まぁ、レベル差も当然あるんだが動きの一つ一つに無駄がなく殆ど最小限で抑えられていた。あれだけ大きな武器を使っていても体幹がぶれる事も無くきちんと扱っており、振り抜く速度も重量武器とは思えない程に素早い。 それを踏まえると、例え俺と同じレベルで戦うPvPでも俺は勝てないと思う。機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツのローズ以上で、下手すると姉貴と同等かもしれない。「主、もう戻ってもいいだろうか?」 と、カンナギと巨大ホッピーが戦闘を繰り広げていた間ずっと俺達を守ってくれていた牛頭が召喚主に問う。するとカンナギは一つ頷き、牛頭の体は光となって徐々に消えて行く。「ありがとうな」 完全に消える前に再度俺は礼を言うと、牛頭は軽く息を吐いた。「今度は手を煩わせるな」 最後にそう言い残して還った。 手を煩わせるな……って、もう守らないぞって意味か? よく分からん去り際の台詞を残すなよな。 まぁ、深く気にしても仕方ないか。『下の奴もいなくなった事だし、もう先に進もう』 と、カンナギが促しているのもあるが。言われて下の方を見ると、ミニゴーが何時の間にかいなくなっていた。どうやら、どちらかを倒すと片方も消える仕組みになっているらしい。 何で山の中にこんな仕掛けがあるのか分からないが、連戦にならなくてよかったと素直に喜んでおこう。 その後は巨大モンスターと遭遇する事も無く、強いて言えば他のプレイヤーにも会う事も無く俺達はこの空間から出れた。……変態コート女の事はもう忘れよう。次遭ってしまったらその時はその時だ。 最上段の広場は上へと続く階段が用意されており、そこを上っていると何時の間にか外に出ていた。比喩でもなく言葉通りに。階段を歩いていたら急に視界が暗くなって、何時の間にか土の地面を踏み締めて外に出ていた。 上を見れば星が輝く夜空で、周りが暗くて何処に出たのか一目見て分からない。生憎とランタンは持っていないので。だが、直ぐ様フレニアが弱い火を吹き、カンナギがランタンを取り出してある程度の明るさを確保出来た。 それでもここが道から外れた林の中くらいしか分からなかったので、マップを開いて現在位置を確認する。大体中腹辺りか? そんな所にひょっこり出てしまったようで、俺達が穴に落ちた場所から大分離れた所にいる。 取り敢えず、もう外に出れたのでアケビ達にメッセージなりボイスチャットなりが使えるようになったから、早く連絡を取るとしよう。 メニューを開いた時、どさっと何かが落ちる音がした。そちらの方に目を向ければ、カンナギが俯せになって倒れているのが見えた。「大丈夫ですか⁉」 サクラが慌てて駆け寄って手を貸そうとするが、それよりも速くカンナギの体は光となって行った。
『Log Out』
 カンナギはログアウトした。え? 何が起こった? いきなりの事で俺とサクラは目を瞬かせる。 モンスターによる奇襲か? いや、それならカンナギの持つスキル【地獄耳】で物音は感知出来るから避けるだろうし。 と言うか、カンナギがいなくなった場所に『Log Out』と表示されたからモンスターの攻撃じゃなくて、強制ログアウトだろう。時間制限を超過したと思うが、ログアウト直前にカンナギが倒れたのが気になる。 兎にも角にも今の俺達はアケビ達に連絡を取る以外にない。セーフティエリアへと向かって進んでもいいが、そうすると山の内側に落ちてく穴にまた足を踏み入れてしまうかもしれない。モンスターと遭遇する危険もあるが、ここでまた音信不通になるような場所に行くよりはまだモンスターと戦う方がマシだと思える。 なのでこの場から動かずにアケビにボイスチャットを送ろうとした所で、案の定と言えばいいのか、モンスターが出てきた。正確には上からゆっくりと降りてきたか。「ひっ」 サクラが息を呑むのが分かる。フレニアの火で淡く照らされた先にいるモンスターはそれ自体が発光していて、夜襲を仕掛けるのにはあまりにも不向きな、そしてそれ故に夜では恰好の獲物になるモンスターは端的に言えば髑髏。それもデカい。セレリルよりもデカい。あと、何故か目玉が生々しく残されている。STOって本当に全年齢対象のゲームか? って疑いたくなるがそれは今更か。イベントの時は肉の腐れたアンデッドと化したモンスターが出現した訳だし。 兎にも角にも、メニューを閉じて先手を取る事にした。ただ、近付くのは得策ではないので遠距離攻撃【シュートハンマー】を発動させ、フライパンを光る髑髏目掛けてぶん投げる。 ――しかし。「は?」 フライパンは髑髏の眉間の部分に当たった……のだがそのまま通過した。おいおい、これってもしかして物理攻撃が効かないモンスターなのか? と思っていると骸骨の向こうに行っていたフライパンが髑髏をすり抜けて戻ってきたので慌ててキャッチする。「カタカタカタカタ」 光る髑髏は俺を嘲笑うかのように顎を上下に動かして気味の悪い音を響かせる。 これ……物理攻撃一辺倒な俺だけじゃ倒せない相手だぞ。幸い今ここには魔法が使えるサクラ、スビティー、そして火を吹けるフレニアがいる。魔法は流石に効いてくれないと打つ手が無くなる。大抵ゲームでは魔法は物理攻撃として扱われないからSTOでもそうであってくれと願うしかないか。 逃げるにしても、分かる場所にあるセーフティエリアは遠くにあるし、逃げてる間に他のモンスターと遭遇して挟み撃ちになる可能性もある。そして、単純に髑髏に敏捷で負けて逃げ切れない場合もあるからな。あと、また穴に落ちて……と言う事も有り得る。 ただ、潔く戦ったからと言っても勝てるとは断言出来ない。と言うか、負ける可能性の方が高いか。それでもやらないよりはマシだけど……ここで忘れていた事が一つ。「…………」 サクラはこういったグロいモンスターも駄目だと言う事。この間のイベントの時もアンデッド化したモンスターの大群を見た時に気絶した。そして今も気絶してそのまま先程のカンナギよろしく俯せになるように倒れ込むが、そこはフレニアが慌てて潜り込んで地面との接触回避する。 魔法要員が一人戦闘不能になってしまったが、仕方のない事だ。この髑髏は耐性の無い人にとっては悲鳴物だろうに。そこの所考慮しろよ運営さんよ。気絶してしまったサクラを庇いながら、俺とスビティー、フレニアでどうにかしなくては。
『Log Out』
 ……と思っていたら、サクラがログアウトして行った。え? なして?「れにー……っ」 そして、パートナーであるフレニアもサクラがいなくなった事で強制的に光にさせられて拠点へと送られる。おいおいおいおい……。 フレニアの火が無くても髑髏は光っているから動きは対処出来るが、魔法が使えるのがスビティーだけになり、戦局は圧倒的に不利になった。「カタカタカタカタ」 髑髏は顎を動かしながら、スビティーへと接近する。「びーっ⁉」 スビティーは慌てて回避しようと翅をばたつかせ上空に逃げるが、髑髏は追尾していく。「カタカタ――――――」 髑髏は音を鳴らすのをやめたかと思うと、大口を開けて。「びーっ!」 スビティーをばくんと食べてしまった。呑み込むような動作をし、閉じられた口の歯の隙間から光が天へと昇って行く。即死技か、はたまたスビティーの耐久では防ぎ切れなかったか。 サクラもいなくなった。フレニアもいなくなった。カンナギもいなくなった。そして今、スビティーもいなくなってしまった。 俺だけでは絶対に勝てない。相手の攻撃を避け続ければ延命は出来るけど、体力が尽きた瞬間に終わる。【クイーンハビニーの結晶】があるから一度は生命力1で耐える事は出来るけど、焼け石に水の延命である事に変わりない。 ――――これ、詰んだ。死に戻り確定だ。
「「「「「ファイヤーッ!」」」」」
 と諦めた瞬間に、後ろから螺旋を描いた五色の光が髑髏目掛けて駆け抜けていった。 光は直撃し、髑髏を吹っ飛ばした。「危ない所だったね、オウカ君」 聞き覚えのある声がしたので後ろを振り返れば、浮かぶ火の球に照らされた五人組。「「「「「召喚戦隊! サモレンジャー参上!」」」」」 サモレンジャーがポーズを決めてそこに立っていた。と言う事は、あの五色の光はサモレンジャーの合体魔法【オーロラブレイク】か。「ありがとう。助かった」「礼を言うのはまだ早いようだよ、オウカ君」 と、ポーズを解除したサモレッドが首を振り、俺の後方を指差す。 そちらを向けば、あの髑髏は未だに健在でゆっくりとこちらに近付いて行くのが見て取れた。サモレンジャーの【オーロラブレイク】を受けても健在とか、どんな耐久してるんだあの発光髑髏は?「流石はキリリ山のボス……ですね」 と、サモブルーはそんな事を呟いた。 ………………………………………………………………は? あの髑髏がボス?

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