喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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「……あ、そう」 沈黙が痛すぎたので、つい声を出してしまう。「そして、俺がリーダーのサモレッド!」「僕はサモブルー!」「ワタクシはサモマリンですわ!」「私はサモイエロー!」「……サモ緑」 で、決めポーズを解除して順々に個々人の名前を紹介していく五人衆サモレンジャー。 おい、三番目と最後。そこだけ何か変じゃないか? サモマリンって、潜水艦みたいな名前だし、サモ緑って……せめてサモグリーンにしておけよ。 …………とは、口が裂けても言わない。自分でつけた名前なのだから他人がとやかく言う資格はない。本人が納得さえしていればそれでいい。「そして、俺の召喚獣は紅蓮の悪魔イフリート!」「僕の召喚獣は水の精霊ウンディーネ!」「ワタクシの召喚獣は雪の妖精ジャック・フロストですわ!」「私の召喚獣は稲妻と共に現れるサンダーバード!」「……風で切り裂く鎌鼬」 更に、頼んでもいないのに自分達の召喚獣を次々と喚び出していく。 赤の召喚具は紅のマントであり、それが発光すると背後に禍々しい暗い炎が燃え上がり、そこから角の生えた人のような生物が姿を現した。全体的に黒と赤で構成されており、炎のように揺らめいて朧げだが、醜悪そうに歪められた口だけははっきりと見て取れる。 青の召喚具はプレートアーマーの下に隠されていたペンダントで、背後に水の柱が湧き上がり、それが女性の形を作り上げる。半透明のヴェールを羽織ったこれまた半透明の女性は優しげに微笑んでいる。 水色の召喚具は髪飾りで、下から雪が舞い上がり水色が胸の前に持ってきた両手の中に寄り集まってリトシーと同じくらいの大きさの雪だるまになった。黒い丸の両目とバッテン印の口、枝で作られた腕が特徴的だ。 黄色の召喚具は髪留めで、天から落雷が轟くのと同時に上級から紫電を纏わせた鳥が舞い降りてきた。羽毛は背中側だけが逆立っており、鋭い嘴にギラギラと貫く眼光は雄々しさを醸し出している。 緑の召喚具はマフラーで、前方に小さめの旋風が木の葉を巻き上げながら発生し、それを内側から切り裂く形で両手が鎌の鼬が姿を顕わにする。緑と同じように首元にマフラーを巻いており、右の瞼に切られたような傷跡が存在する。 で、五体はものの数秒で消えてしまった。 …………え? もしかして紹介する為だけに喚び出したのか? 戦闘でもなく、移動でもなく、その他に必要とした訳でもなく、ただ紹介する為に召喚って……、何かなぁ。「さて」 と、今までの一連の流れがさも当然と言わんばかりの表情(とは言っても口元しか見えないが)の赤が俺の前へと移動する。「次に武器の説明をしよう」 まだ説明が続くようだ。正直、もう腹が一杯になってきたのだが。で、リトシーが俺の足を盾にしてサモレンジャーから見えないように隠れている。最初にアケビと出逢った時と同じ事してるな。もしかして怖いのだろうか?「まず、俺の武器は双剣【オルトロス】! 炎属性が付加されていて薙ぎ払った相手を燃やし尽くす!」「僕の武器は長弓【水霊の弓】! この弓で放った矢は一定の確率で水のようになり何かに触れると拡散します!」「ワタクシの武器は【スノークリスタル】! 穢れを知らない白い刀身は氷の力を封じ込めていますわ!」「私は武器無し! 強いて言えば自分の体そのものが武器よ!」「……黙秘する」 それぞれが自分の武器を翳してくる中、緑だけは自身の武器を明かさなかった。まぁ、別に構わないので気にしないが。で、黄色はやっぱり格闘技を主体とするスタイルらしい。「最後に、各々の得意とする魔法について説明をしよう」 まだ終わらないのかよ、とは言わない。こういう手合いは途中で中断されるのを嫌う筈だし、幾ら面倒でも聞き届けるのが助けて貰った者の務めだろう。「俺は炎の魔法を得意としている!」「僕は水の魔法が得意だよ!」「氷魔法以外にワタクシに似合う魔法はありませんことよ!」「私は雷魔法で身体能力上げて戦うよ!」「……風で切り裂く」 まぁ、サモレンジャーの面々の扱う魔法は召喚獣と武器の説明を訊いた段階で分かってはいたがな。 …………これで漸く終わったか?「お次は防具についてだが」 まだ続くのか…………。全然最後じゃなかったぞ。 その後、三十分くらい説明は続いた。個々人のゲーム内設定とか、結成理由だとか、主な活動とか、休日とか、給料は出来高制だとか……正直、後半に行くにつれて別に知りたくもない事ばっかりだが黙って律儀に訊いたさ。助けて貰ったからな。「これにて、俺達召喚戦隊サモレンジャーの説明を終える!」 赤が声高々にそう〆た。漸く、か。この説明とやらを訊いている間ずっとリトシーは俺の後ろに隠れているし、モンスターが出現するとサモレンジャーの説明をしていない方々が即行で討伐したので俺とリトシーに被害は全く出ていない。 中にはあのダヴォルも出現し、やはり一体だけだったのだが青が何もない場所に向けて矢を放つと鳴き声が響き、矢が空中で止まった。と思ったら矢が刺さった箇所を中心にもう一体のダヴォルの姿が浮き上がった。 そこからはもうサモレンジャーの青と水色と黄色の三人で軽く倒していた。説明時にレベルが全員40もあるそうだ。それだけあれば俺が苦戦した相手にも簡単にあしらう事が出来ると言うものだ。 で、どうして青がもう一体のダヴォルを発見出来たかと言うと、スキル【看破】を装備していたからだと言う。【看破】は隠れているモンスターを見分ける事が出来るスキルで、つまりは片割れのダヴォルは風景に溶け込んでいた事になる。それにしても凄い隠蔽効果だと思う。赤曰く毛の逆立ってないダヴォルは毛で光を屈折、吸収等をする事によって見えないようにするそうだ。道理で分からなかった訳だ。 俺も【看破】のスキルを所持していればトレンキの足で毎回腹に蹴りを入れられる事も無かっただろうな。ただ、【看破】はSL60も消費するので手を出しにくいのが現状だがな。あるのとないのとでは大違いだろう。「僕達、初めて全部の説明を言い終えましたね」「ええ。結成してからはや十日、漸く高貴なワタクシの生い立ちを言えましたわ!」「ちょっと分かんないけど興奮してきたよ」「……達成した」 赤の後ろで四人が円を組むようにしゃがみ込んでそんな事を小声で言っていた。……そうか、初めて全部の説明を言い切れたのか。それはよかったな。御蔭で俺はかなり疲れたが。現実世界だったら絶対に目の下に隈を作っていた事だろう。 まぁ、おめでとうと言っておこう。心の中で、五人と俺に向けて。五人には説明を全て終える事が出来て。俺には全ての説明を訊き終える事が出来て。「して、君の名前は何て言うんだい?」 赤のその一言で四人は即座に赤の隣に並んだ。俊敏性が高い事で。 そう言えば、俺はまだ名前すら言ってなかったな。流石に言わないと不味いな。「……俺はオウカ」「オウカくんか」 うんうんと頷く赤は俺の前に手を指し出してくる。「俺達とオウカくんが出会ったのもきっと何かの縁だ。これからも、よろしくな」「……よろしく」 俺としては何かしらの繋がりが生まれた事に対して喜ぶべきなのだろうが、如何せん苦手なタイプの集団なのでなるべく会いたくないと思ってしまう。 赤と握手を交わし、順々に他のメンバーとも握手をしていく。「……所で、オウカくんは【テイマー】のようだね。さっきから君の後ろに隠れているのがパートナーかい?」 赤が首を傾げながら指をリトシーに向けてくる。どうやら少し顔を出して様子を窺っていたらしいが、自分に注目が集まると即座に俺の後ろにまた隠れるリトシー。「あぁ。名前はリトシーだ。ほらリトシー、助けて貰ったんだからきちんと礼を言わないと」 いくら外見が怖い? としても、だ。助けて貰ったのだからきちんと正面向いて礼を述べないといけない。リトシーは礼儀知らずに育って欲しくない。「…………しー」 と、リトシーは勇気を振り絞ったのかゆっくりと俺の前へと出て来て、おずおずとサモレンジャーの面々の顔を順に見てから頭を下げ……ではなく上半身を折り曲げる形でお辞儀をし、勢いよく顔を上げる。「「「「っ‼」」」」 緑を除くサモレンジャーは何故か慄いていた。何だ? どうしたんだ? そしていきなり慄くからリトシーがびっくりしてまた俺の後ろに隠れてしまった。「「……か」」「か?」 水色と黄色が肩を震わせながら何か口から音を発する。「可愛いですわっ!」「可愛いっ!」 で、即座にリトシーに向かってそのように叫んだ。「しーっ⁉」 リトシーはびっくりして、俺の前に出て来ると胸に向かって跳んで来た。俺は咄嗟に抱き抱える。リトシーは俺の胸に顔を埋めて五人を見ないようにしている。「確かに、可愛いな」「可愛いですね」 赤と青も腕を組んで頷いている。水色と黄色と同意見のようだった。「だが、いくら可愛いからってそう大きな声を上げるな。リトシーちゃんが怖がったじゃないか」 水色と黄色を戒める赤の言葉に二人はしまったと言う表情を全力で作り上げる。「御免なさいですわ、リトシーちゃん」「驚かせて御免ね、リトシー」 よろよろとこちらに近付きながら謝る二人だが、接近する気配を察知したリトシーは実を縮こませる。それを拒絶の意思と取った水色と黄色は今度は絶望と悲しみによって慄いた。「ワタクシ、リトシーちゃんに嫌われてしまいましたわ……」「……私も、ショックだよぉ」 二人同時に紙面に膝と手を突いて落ち込む。「まぁ、自業自得と言えばそうなるのだが」「ちょっと見てられないね」「だがなぁ、こればかりは俺には何も出来ないぞ」「それは僕も同じですって」 赤と青は小声で二人に聞こえないように話し合っている。 まぁ、この二人はあのクソ気に食わない変態コート女と違って嫌がっても無理矢理引っ付こうとしたり撫でようとしたり舐めるように見たりせず、害意もないから俺としてもどうにかしたいとは思う。面倒臭い奴等云々は置いておくとして。 何か解決方法はないか? アケビの時も最初は怖がっていたが、直ぐに普通に接するようになっていた。あの時、アケビは何をしていたか……。「……もしかしたら」 と、ここでリトシーが水色と黄色と普通に接する事が出来るかもしれない事を思い付く。「ん? どうしたオウカくん?」「……リトシーが二人を怖がらなくなる方法がある」「「っ!」」 俺の一言に水色と黄色が一斉に顔を上げて俺に懇願するような眼を向けてくる。黄色はバイザーでよく見えないが、きっとそうだろう。「で、その方法とは?」「動きまくるか、目を引くような魔法を発動させるかだな」 赤が訪ねてきたので俺はそう答えた。 リトシーがアケビと普通に接するようになったのはアケビの人並み外れた身体能力を解放して動き回っていたのを見た後だ。つまり、何かしらリトシーの興味を引くような事をすればリトシーも警戒心を解いて普通に接してくれるようになると思う。「本当か?」「多分な」 あくまで推測だから断言は出来ないが。「だそうですよ二人共」「やりますわ!」「やってやるわよ!」 水色と黄色は同時に声を上げる。で、どうやら二人同時に何かをやるそうだ。水色と黄色はある程度距離を開けて対峙する。「氷よ、我が言葉により形を成し、雪の結晶を舞い散らせよ。【フォールオブスノー】」「雷よ、我が言葉により形を成し、散り散りに解き放て。【エレクトリックスプレッド】」 二人同時に魔法の詠唱を開始し、足元に魔方陣が浮かび上がる。その様子をリトシーは少しだけ顔をずらして眺めている。 まずは水色の魔法が発動し、視認出来るくらい大きな結晶の雪がはらはらと舞い落ちてくる。緑生い茂る森の中で雪は違和感があるが、これはこれで綺麗だと思う。 次に黄色の魔法が発動し、翳した手の先から一筋の電気が放たれる。その数は全部で五つで、それぞれが別の方向へとジグザグな軌道を描きながら進んで行く。 電気が雪に接触する。 すると、電気は最初に触れた雪を中心に他の雪へと拡散されていく。 まるで花火のように広がっていき、ある程度の大きさの円を描くと電気は消え失せる。 人造の自然現象で生み出した、現実では起こりえない幻想を作り出した水色と黄色。二人は更に魔法を発動させて雪と電気の花火を次々と作り出していく。「……しー」 リトシーは何時しかきちんと真正面を向き、水色と黄色の作り出した幻想的な光景に目をキラキラと輝かせている。 最後の花火が消え去ると、リトシーは俺の腕の中から飛び出して水色と黄色の方へと向かって跳び跳ねていく。「しー♪ しー♪」 二人に対してもう怯えは無くなったようで、それぞれの足ににっこりと笑いながら体を擦り付けていく。「「~~~~~~っ‼」」 リトシーにそんな事をされた水色と黄色は二人同時にリトシーに抱き着いた。リトシーは逃げようともせず、それを受け入れている。嫌そうにしてもいないから、本当に大丈夫そうだな。 何にせよ、よかったよかった。「よし、では次は俺達がリトシーちゃんに芸を披露するとしようかサモブルーよ!」「そうですね!」 で、どうやら次は赤と青がやるようだった。


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