うちのトラックは、轢いた相手を異世界に飛ばせるらしい
第16話 『この世界の真実の一端』
「順番に聞かせて貰おうか。まずは、どうしてあいつに会ってはならなかったんだ?」
投げる体勢に入っていたシロを降ろし、自称・神へと問いかける。
シロは乱雑に扱われたのが気にくわないのか、まるで抗議するように俺の足下でカジカジとズボンの裾を噛んでいた。
時々脛に牙が当たって痛いが、それはシロを投げたことの罰だと思って甘んじて受ける。
そんな俺とシロを見て何となくわかる程度に眉尻を下げながら、彼女は口を開いた。
『それを説明するには、まずはわたくし達のこと……それと、どうして流行やあの者が選ばれたのかを話す必要があるでしょう』
そう前置きし、そのことを説明し始めた。
『わたくしはこの世界を管理する管理者ナンバー02番、個体識別名を101001011011010110100101101001001010010110110101──』
「ちょっと待った、ストップ!!」
『……なんでしょう?』
慌てて止めると、自称・神はやや不満げに首をかしげる。
だが、これはしかたないだろう。
「……名前、なんだって?」
『ですから、1010010110110101──』
「ごめん、俺が悪かった。だからもう止めてくれ」
『……流行』
「いや、だってな……何を言っているのかわからん。あんたが以前、正しく認識出来ないと言っていた意味がわかったよ」
正直に言って、さっぱりわからなかった。
とはいえ、管理者ナンバー02と言っていたということは、別の存在がいるってことでもある。
「名前は横に置いて話を続けてくれ。あんたが二番目なら、一番目もいるのか?」
『……ええ。この世界には管理者が十ほど存在します。わたくしが流行に依頼した仕事を横からかすめ取ったのは、管理者ナンバー01になります』
名前を横に置かれたことに、無表情ながらも面白くなさそうにそう答えてきた。
もう少し詳しく聞けば、この十人……十柱か?
十の管理者はさらに上位の管理者……この場合は創生の神とでも言うのかもしれないが、それにこの世界を任された存在らしい。
存在としては、自称していたように人から見れば神も同様。
ただ全知でも全能でもならしいが……。
で、この管理者という自称・神達だが、文字通りそれぞれの世界が破綻してしまわないように見守っている存在らしい。
『世界は停滞することで澱んで行くのです。わたくし達はそれぞれに担当を決め、その澱みを解消しておりました』
「その澱みを解消するのが、あんたらの指定した人間を異世界に飛ばすことだ……と?」
『正確に言いますと、異なる世界の存在とトレードすることにより世界に波紋を呼び起こし、澱みを均しているのです』
「……もしかして、人間じゃなくても良いのか?」
俺はつい、声のトーンを落としながらそう詰問していた。
異世界とのトレードをすることで波紋を呼ぶ。この言い方だと異世界と物々交換することのみが目的で、その対象はなんでも良いように聞こえてしまう。
そして異世界からは、なんでもない宝石や銅塊、神像が送られ来たこともあった。
ならば、人間である必要はなかったのではないだろうか? そう考えてしまったのだ。
だとすれば、今までの俺の罪悪感や葛藤はなんだったのだろうか。
タバサやアシハナに後味悪い思いをさせていたことはなんだったのだろうか。
そう思い睨み付けると、自称・神はゆっくりと首を左右に振っていた。
『それは誤解です。その世界世界によって澱みの大きさは異なります。そして、小さな波紋ではどうにもならないことも、大きすぎる波紋を呼んでさらに世界のバランスを崩すこともありうるのです。この世界では数百年ぶりに澱みを解消するため、わたくしともう一人の神でバランスりながら進めることになったのですが……選択肢は人間しかなかったのですよ』
数百年分も溜まった澱みを均すためには、人間を異世界に送るしかなかった。
奇しくも新た人間を呼ぶことで波紋を起こそうとしている異なる世界もあり、そちらとこちらの世界の事情が適合することで自称・神が俺や真城に依頼を出していたようだ。
「事情は、とりあえずはわかった。それで俺や真城が選ばれた理由は? あんたが言っていたあの条件は嘘なんだろ?」
『嘘ではありません。少なくともわたくしはその条件で探し、流行とその所有するトラックを選んだのですから。ただ……もう一人の者は、担当者が御しやすい者を選び、人格などを考慮していなかったことは否めないでしょう』
つまり、担当する自称・神でそもそもの選考基準が違ったわけだ。
『ただ……一つだけ、わたくしと彼の者が選ぶ際に第一の条件として考慮したことがあります』
「それは?」
『わたくし達からの依頼を断らない……断っても、最終的に依頼をこなしてくれる相手であること。もう一人の方は借金を理由に、わかりやすくお金を稼げる方法として依頼を受けさせておりました。そしてわたくしは、流行……そなたの情に訴えております』
ああ……確かにそうだ。
俺は依頼をこなさないことで起こると言われた天災から、娘を守るために……くそったれな依頼を引き受けたのだ。
目の前の自称・神にかすかな苛立ちを覚えるが、俺は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「それで、俺があいつと会ってはならなかったという理由はなんだ?」
『その理由は、いくつかあります』
そして、自称・神はそのいくつかあるという理由を上げていく。
一つ目の理由は、自分が特別に選ばれた人間だと思っている真城に会うことで、あいつを精神的に不安定にさせないため。
先程の説明にあった世界の澱みを均すための波紋を、依頼以外の人間を異世界へと送ることで無作為に起こされたくはなかった……と言うことだ。
まぁあいつはあの化け物を呼び出したとき以外にも、何度か無関係の人間を異世界へ送っているようだが……。
ちなみにトラックで異世界に送る際に人払いをするのは、その光景を目の当たりにすることで記憶やその存在がいたという証拠の改竄が難しくなるかららしい。
目撃者がいればいるほど改竄に多くの力を使う事になり、その分澱みを均すための波紋の力が弱まるらしい。
ついでに聞いてみたのだが、タバサやアシハナの戸籍は、この目の前の自称・神がサービスして用意してくれたそうだ。
どうせ異世界に送った人間に関して改竄するため、そのついでにタバサ達の戸籍を用意するのはたいした手間でもなかった……と言っていた。
この件に関しては、素直にありがたいと思う。
なお、真城が事故を起こして何人も轢いた件。あのとききは人払いなどの力はいっさい使われなかったらしい。
担当はもう一人の自称・神らしいので、詳しくはそちらに聞かなければわからないらしいが……。
どうやら呼び出された化け物が関係しているとか。
そちらの対処に追わて、真城にまで手が回らなかったか?
それとも化け物を呼び出したことで力を取り上げたか……多分そんなところだろう。
二つ目の理由。これは異世界へ人を送れる力が関係しているようだ。
というのも、もしこの力同士が競合してしまった場合──例えば俺のトラックとあいつのトラックが正面衝突でもしてしまったら、日本の三分の一くらいが消し飛んでいた可能性があったとか。
お互いにお互いを異世界に送ろうと干渉し合えば、周辺を巻き込んで大規模な異世界転移が発動する。
その範囲はせいぜい数キロらしいが、世界がその弾みで壊れてしまうと言うことらしいが……。
「おい、俺が違和感を覚えてトラックを止めていなければ、横から衝突していた可能性があったんだが……」
横から対象をかっさらわれたときのことを思い出す。
あのときは対象が誰もいないはずの右側を気にして顔を向けたのを見て、嫌な予感がしてブレーキを踏んだのだ。
もしあのまま突っ込んでいれば、真城のトラックと俺のトラックはぶつかっていたはずだ。
『あのときは、流行の英断に救われました……。あのままぶつかっていれば、そなたの娘は間違いなく異世界転移に巻き込まれていたでしょう』
「マジか……」
そんな理由があるのならば、会ってはいけないと言われるのもわかる。
同じ目標を轢こうとするのは、危険極まりない。
そして、さらに三つ目の理由。
『この理由で最後になりますが、そなた達を会わせることで深く世界の真実を知られたくなかったのです。出来ることならば、こうして説明することもしたくはありませんでした』
「それはどう言う意味だ?」
色々騙していることがバレたくなかった、と言うことだろうか?
だが、自称・神は小さく首を横に振った。
『知れば知るほど、そなた達は日常に戻れなくなるでしょう。それを懸念していました。流行……あなたは、あの獣のことを知ってどう思いましたか? 全てを見なかったことにして、日常に戻ることが出来ますか?』
「……ああ、そういうことか」
答えは『出来るわけがない』だ。すぐ側に危険があることがわかっていて、見て見ぬ振りは出来ないだろう。
ましてやそれが俺や見知らぬ誰かだけじゃなく、結花や元妻、タバサやアシハナにも害を及ぼす可能性があるのだ。
そもそもそれを見過ごせるのであれば、最初から自称・神からの依頼を引き受けたりはしていない。
もしこの世界のことを色々知り、滅びる寸前だとしよう。そのとき俺はどうするか……。
知らなければ、良かったのに──と思うことは間違いない。
「獣で思い出した。他の誰も気付かなかったのに、俺と真城、あとはタバサとアシハナだけが見えていたようだが……どういうことなんだ?」
ふとそのことを思い出し、自称・神に尋ねてみた。
元々このことも話すつもりだったようで、自称・神は隠さずに化け物のことを教えてくれる。
『あの獣は異世界の幻獣の一種。月の無い夜にしか実態を持てず、その夜にしか人の目に留まることもありません。ただ異世界の獣ゆえに、この世界にはほとんど存在せず異世界に溢れている魔力──魔法の力があればその姿を見通すことが出来るでしょう』
魔力……そう言えばタバサが言っていたな。
この世界は魔力が希薄で、強い魔法を使えなくなってしまっている、と。
実際に何度か魔法を使うところは見せて貰ったが、自前の魔力を使っていたらしい。
「アシハナとタバサが見えたのはその所為か。だが、俺と真城が見えたのはどういうことだ?」
『そなた達は異世界へ人を送ることを何度もしています。あちらの世界から何らかが送られてくるとき、光の魔法陣が出現するのは知っているでしょう? あれは高濃度の魔力であり、近くにいればその魔力に影響されてこの世界の人間でも魔力を帯びてしまうのです』
そうか、それで俺と真城は見えたわけか……。
「……もしかして、俺も魔法を使えたり出来るようになるのか?」
『素質があれば、あるいは。さすがにそのことまではわたくしにはわかりません』
「そうか」
まぁ、魔法に憧れるほど俺も子供ではない。
使えれば便利だろうが、特別使いたいとも思っていない。
「しかし、あんたは俺に気を使ってくれてたんだな。かなり意外なんだが……だとしたら、どうして俺のトラックにそんな力を与えた? 澱みを均すために波紋が必要なのであれば、俺や真城を頼らずに自分達でやれば良いだろ」
俺が日常に戻れないことを危惧するのであれば、そもそも関わらせなければ良い。
もしくは情に流されやすい人間ではなく、真城のような奴にやらせれば良いのだ。
『わたくしは流行とは次元の違う存在だと言ったことがありますね? わたくし達管理者は、直接自分の手で世界に干渉すことは出来ないのです。今のように夢枕に立つような迂遠な方法を使わなければなりません』
「だが、人払いをしたり戸籍を弄ることは出来るだろ」
『人払いは、力を授けたあなたのトラックを媒介としてようやく行えているだけです。そして異世界へ送った人の履歴の改竄は、転移させたことで起こる波紋を利用しているだけ……』
自分では介入できない。だから自分の頼みを聞いてくれる相手へ力を授け、夢で依頼をする。
改竄はかなりの介入だとは思うが、そもそも誰かが波紋を起こしてくれないと出来ない。しかし自分達ではその波紋を起こせない。
結果、誰か……この自称・神の場合は俺に頼るしかなかった。
「報酬が、異世界から送られてくるものを丸投げするだけなのはどういうことだ?」
『先程も言いましたように、わたくし達は世界に直接関われません。そんなわたくし達がどのようにしてそなた達に報酬として物品を渡せると言うのでしょう?』
「あ……」
言われてみればそのとおりだ。
そして異世界から送られてきた物にも、この自称・神は干渉出来ない。
何故なら送られてきた時点で、この世界の物になるからだ。
何より扱いにも困るのだろう。自分では回収することも、移動させることも出来ないのだから。
だから報酬として頼みを聞いてくれた相手に渡すしか無い……。
「たまにガラクタのような物が送られてくるのも、もしかしてその所為か……」
この世界の管理者がそうならば、異世界の神──を名乗る管理者も同じように自分の世界に干渉出来ないだろう。
だから自分に捧げられた物をそのまま異世界へ送っている。
この世界から異世界へ行った奴も、もしかしたら俺と同じようにその世界の自称・神から依頼を受けている可能性もあるな……。
「しかし、送ってくるならあんな化け物じゃなく、シロみたいに大人しいのにしてくれよ……」
どう考えてもアレは厄災の類だ。
思わずそう独りごちる俺に、自称・神はどこか真剣な眼差しを向けてきた。
投げる体勢に入っていたシロを降ろし、自称・神へと問いかける。
シロは乱雑に扱われたのが気にくわないのか、まるで抗議するように俺の足下でカジカジとズボンの裾を噛んでいた。
時々脛に牙が当たって痛いが、それはシロを投げたことの罰だと思って甘んじて受ける。
そんな俺とシロを見て何となくわかる程度に眉尻を下げながら、彼女は口を開いた。
『それを説明するには、まずはわたくし達のこと……それと、どうして流行やあの者が選ばれたのかを話す必要があるでしょう』
そう前置きし、そのことを説明し始めた。
『わたくしはこの世界を管理する管理者ナンバー02番、個体識別名を101001011011010110100101101001001010010110110101──』
「ちょっと待った、ストップ!!」
『……なんでしょう?』
慌てて止めると、自称・神はやや不満げに首をかしげる。
だが、これはしかたないだろう。
「……名前、なんだって?」
『ですから、1010010110110101──』
「ごめん、俺が悪かった。だからもう止めてくれ」
『……流行』
「いや、だってな……何を言っているのかわからん。あんたが以前、正しく認識出来ないと言っていた意味がわかったよ」
正直に言って、さっぱりわからなかった。
とはいえ、管理者ナンバー02と言っていたということは、別の存在がいるってことでもある。
「名前は横に置いて話を続けてくれ。あんたが二番目なら、一番目もいるのか?」
『……ええ。この世界には管理者が十ほど存在します。わたくしが流行に依頼した仕事を横からかすめ取ったのは、管理者ナンバー01になります』
名前を横に置かれたことに、無表情ながらも面白くなさそうにそう答えてきた。
もう少し詳しく聞けば、この十人……十柱か?
十の管理者はさらに上位の管理者……この場合は創生の神とでも言うのかもしれないが、それにこの世界を任された存在らしい。
存在としては、自称していたように人から見れば神も同様。
ただ全知でも全能でもならしいが……。
で、この管理者という自称・神達だが、文字通りそれぞれの世界が破綻してしまわないように見守っている存在らしい。
『世界は停滞することで澱んで行くのです。わたくし達はそれぞれに担当を決め、その澱みを解消しておりました』
「その澱みを解消するのが、あんたらの指定した人間を異世界に飛ばすことだ……と?」
『正確に言いますと、異なる世界の存在とトレードすることにより世界に波紋を呼び起こし、澱みを均しているのです』
「……もしかして、人間じゃなくても良いのか?」
俺はつい、声のトーンを落としながらそう詰問していた。
異世界とのトレードをすることで波紋を呼ぶ。この言い方だと異世界と物々交換することのみが目的で、その対象はなんでも良いように聞こえてしまう。
そして異世界からは、なんでもない宝石や銅塊、神像が送られ来たこともあった。
ならば、人間である必要はなかったのではないだろうか? そう考えてしまったのだ。
だとすれば、今までの俺の罪悪感や葛藤はなんだったのだろうか。
タバサやアシハナに後味悪い思いをさせていたことはなんだったのだろうか。
そう思い睨み付けると、自称・神はゆっくりと首を左右に振っていた。
『それは誤解です。その世界世界によって澱みの大きさは異なります。そして、小さな波紋ではどうにもならないことも、大きすぎる波紋を呼んでさらに世界のバランスを崩すこともありうるのです。この世界では数百年ぶりに澱みを解消するため、わたくしともう一人の神でバランスりながら進めることになったのですが……選択肢は人間しかなかったのですよ』
数百年分も溜まった澱みを均すためには、人間を異世界に送るしかなかった。
奇しくも新た人間を呼ぶことで波紋を起こそうとしている異なる世界もあり、そちらとこちらの世界の事情が適合することで自称・神が俺や真城に依頼を出していたようだ。
「事情は、とりあえずはわかった。それで俺や真城が選ばれた理由は? あんたが言っていたあの条件は嘘なんだろ?」
『嘘ではありません。少なくともわたくしはその条件で探し、流行とその所有するトラックを選んだのですから。ただ……もう一人の者は、担当者が御しやすい者を選び、人格などを考慮していなかったことは否めないでしょう』
つまり、担当する自称・神でそもそもの選考基準が違ったわけだ。
『ただ……一つだけ、わたくしと彼の者が選ぶ際に第一の条件として考慮したことがあります』
「それは?」
『わたくし達からの依頼を断らない……断っても、最終的に依頼をこなしてくれる相手であること。もう一人の方は借金を理由に、わかりやすくお金を稼げる方法として依頼を受けさせておりました。そしてわたくしは、流行……そなたの情に訴えております』
ああ……確かにそうだ。
俺は依頼をこなさないことで起こると言われた天災から、娘を守るために……くそったれな依頼を引き受けたのだ。
目の前の自称・神にかすかな苛立ちを覚えるが、俺は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「それで、俺があいつと会ってはならなかったという理由はなんだ?」
『その理由は、いくつかあります』
そして、自称・神はそのいくつかあるという理由を上げていく。
一つ目の理由は、自分が特別に選ばれた人間だと思っている真城に会うことで、あいつを精神的に不安定にさせないため。
先程の説明にあった世界の澱みを均すための波紋を、依頼以外の人間を異世界へと送ることで無作為に起こされたくはなかった……と言うことだ。
まぁあいつはあの化け物を呼び出したとき以外にも、何度か無関係の人間を異世界へ送っているようだが……。
ちなみにトラックで異世界に送る際に人払いをするのは、その光景を目の当たりにすることで記憶やその存在がいたという証拠の改竄が難しくなるかららしい。
目撃者がいればいるほど改竄に多くの力を使う事になり、その分澱みを均すための波紋の力が弱まるらしい。
ついでに聞いてみたのだが、タバサやアシハナの戸籍は、この目の前の自称・神がサービスして用意してくれたそうだ。
どうせ異世界に送った人間に関して改竄するため、そのついでにタバサ達の戸籍を用意するのはたいした手間でもなかった……と言っていた。
この件に関しては、素直にありがたいと思う。
なお、真城が事故を起こして何人も轢いた件。あのとききは人払いなどの力はいっさい使われなかったらしい。
担当はもう一人の自称・神らしいので、詳しくはそちらに聞かなければわからないらしいが……。
どうやら呼び出された化け物が関係しているとか。
そちらの対処に追わて、真城にまで手が回らなかったか?
それとも化け物を呼び出したことで力を取り上げたか……多分そんなところだろう。
二つ目の理由。これは異世界へ人を送れる力が関係しているようだ。
というのも、もしこの力同士が競合してしまった場合──例えば俺のトラックとあいつのトラックが正面衝突でもしてしまったら、日本の三分の一くらいが消し飛んでいた可能性があったとか。
お互いにお互いを異世界に送ろうと干渉し合えば、周辺を巻き込んで大規模な異世界転移が発動する。
その範囲はせいぜい数キロらしいが、世界がその弾みで壊れてしまうと言うことらしいが……。
「おい、俺が違和感を覚えてトラックを止めていなければ、横から衝突していた可能性があったんだが……」
横から対象をかっさらわれたときのことを思い出す。
あのときは対象が誰もいないはずの右側を気にして顔を向けたのを見て、嫌な予感がしてブレーキを踏んだのだ。
もしあのまま突っ込んでいれば、真城のトラックと俺のトラックはぶつかっていたはずだ。
『あのときは、流行の英断に救われました……。あのままぶつかっていれば、そなたの娘は間違いなく異世界転移に巻き込まれていたでしょう』
「マジか……」
そんな理由があるのならば、会ってはいけないと言われるのもわかる。
同じ目標を轢こうとするのは、危険極まりない。
そして、さらに三つ目の理由。
『この理由で最後になりますが、そなた達を会わせることで深く世界の真実を知られたくなかったのです。出来ることならば、こうして説明することもしたくはありませんでした』
「それはどう言う意味だ?」
色々騙していることがバレたくなかった、と言うことだろうか?
だが、自称・神は小さく首を横に振った。
『知れば知るほど、そなた達は日常に戻れなくなるでしょう。それを懸念していました。流行……あなたは、あの獣のことを知ってどう思いましたか? 全てを見なかったことにして、日常に戻ることが出来ますか?』
「……ああ、そういうことか」
答えは『出来るわけがない』だ。すぐ側に危険があることがわかっていて、見て見ぬ振りは出来ないだろう。
ましてやそれが俺や見知らぬ誰かだけじゃなく、結花や元妻、タバサやアシハナにも害を及ぼす可能性があるのだ。
そもそもそれを見過ごせるのであれば、最初から自称・神からの依頼を引き受けたりはしていない。
もしこの世界のことを色々知り、滅びる寸前だとしよう。そのとき俺はどうするか……。
知らなければ、良かったのに──と思うことは間違いない。
「獣で思い出した。他の誰も気付かなかったのに、俺と真城、あとはタバサとアシハナだけが見えていたようだが……どういうことなんだ?」
ふとそのことを思い出し、自称・神に尋ねてみた。
元々このことも話すつもりだったようで、自称・神は隠さずに化け物のことを教えてくれる。
『あの獣は異世界の幻獣の一種。月の無い夜にしか実態を持てず、その夜にしか人の目に留まることもありません。ただ異世界の獣ゆえに、この世界にはほとんど存在せず異世界に溢れている魔力──魔法の力があればその姿を見通すことが出来るでしょう』
魔力……そう言えばタバサが言っていたな。
この世界は魔力が希薄で、強い魔法を使えなくなってしまっている、と。
実際に何度か魔法を使うところは見せて貰ったが、自前の魔力を使っていたらしい。
「アシハナとタバサが見えたのはその所為か。だが、俺と真城が見えたのはどういうことだ?」
『そなた達は異世界へ人を送ることを何度もしています。あちらの世界から何らかが送られてくるとき、光の魔法陣が出現するのは知っているでしょう? あれは高濃度の魔力であり、近くにいればその魔力に影響されてこの世界の人間でも魔力を帯びてしまうのです』
そうか、それで俺と真城は見えたわけか……。
「……もしかして、俺も魔法を使えたり出来るようになるのか?」
『素質があれば、あるいは。さすがにそのことまではわたくしにはわかりません』
「そうか」
まぁ、魔法に憧れるほど俺も子供ではない。
使えれば便利だろうが、特別使いたいとも思っていない。
「しかし、あんたは俺に気を使ってくれてたんだな。かなり意外なんだが……だとしたら、どうして俺のトラックにそんな力を与えた? 澱みを均すために波紋が必要なのであれば、俺や真城を頼らずに自分達でやれば良いだろ」
俺が日常に戻れないことを危惧するのであれば、そもそも関わらせなければ良い。
もしくは情に流されやすい人間ではなく、真城のような奴にやらせれば良いのだ。
『わたくしは流行とは次元の違う存在だと言ったことがありますね? わたくし達管理者は、直接自分の手で世界に干渉すことは出来ないのです。今のように夢枕に立つような迂遠な方法を使わなければなりません』
「だが、人払いをしたり戸籍を弄ることは出来るだろ」
『人払いは、力を授けたあなたのトラックを媒介としてようやく行えているだけです。そして異世界へ送った人の履歴の改竄は、転移させたことで起こる波紋を利用しているだけ……』
自分では介入できない。だから自分の頼みを聞いてくれる相手へ力を授け、夢で依頼をする。
改竄はかなりの介入だとは思うが、そもそも誰かが波紋を起こしてくれないと出来ない。しかし自分達ではその波紋を起こせない。
結果、誰か……この自称・神の場合は俺に頼るしかなかった。
「報酬が、異世界から送られてくるものを丸投げするだけなのはどういうことだ?」
『先程も言いましたように、わたくし達は世界に直接関われません。そんなわたくし達がどのようにしてそなた達に報酬として物品を渡せると言うのでしょう?』
「あ……」
言われてみればそのとおりだ。
そして異世界から送られてきた物にも、この自称・神は干渉出来ない。
何故なら送られてきた時点で、この世界の物になるからだ。
何より扱いにも困るのだろう。自分では回収することも、移動させることも出来ないのだから。
だから報酬として頼みを聞いてくれた相手に渡すしか無い……。
「たまにガラクタのような物が送られてくるのも、もしかしてその所為か……」
この世界の管理者がそうならば、異世界の神──を名乗る管理者も同じように自分の世界に干渉出来ないだろう。
だから自分に捧げられた物をそのまま異世界へ送っている。
この世界から異世界へ行った奴も、もしかしたら俺と同じようにその世界の自称・神から依頼を受けている可能性もあるな……。
「しかし、送ってくるならあんな化け物じゃなく、シロみたいに大人しいのにしてくれよ……」
どう考えてもアレは厄災の類だ。
思わずそう独りごちる俺に、自称・神はどこか真剣な眼差しを向けてきた。
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