魔導天使~グノーシスの黙示録~
天翼の騎士 《ウィングナイト》
「フェアリー、お疲れ様です。機械天使はあらかた片付いちゃったみたいですね」
天工精霊エレが索敵を終えて話しかけてきた。
フェアリーとは反対側の天翼の騎士シルバーソードの左胸の異空間に彼女はいた。
小さな妖精に似た身体に透明な二枚の翅をもつ彼女は、機械生命の創造に優れ、機械に生命を吹き込むことができる生命魔法を得意とする【黒天族】によって創られた生命体である。
空間魔法を得意とする【赤天族】と治癒魔法と自然魔法を得意とする【白天族】に創り上げられた汎用天使型宇宙兵装、天翼の騎士は、天工精霊に機能サポートされてはじめて、万全の力を発揮することができる。
天界の三大氏族の技術を結集して創られた傑作兵装が天翼の騎士であり、戦艦百隻分の戦力に匹敵するとも言われている。
ちなみに、戦艦の由来は氏族から来ているが、かつて天界の移民船に一族単位で搭乗した古い習わしから来ている。
「ちょっと、出るのが早かったかな。まあ、シルバーソードのクルーとスタンドウルフ隊の実戦経験も積めたし、練度も少し上がったかな」
フェアリーの天翼の騎士シルバーソードの周囲には撃破した機械天使の残骸が漂っていた。
「フェアリー隊長、俺、全然、出番無かったんですけど」
スタンドウルフ隊のバー二ィからの通信である。
機動突撃艦シルバーソードを円環状に防御する直衛に入っていたのだが、光子魚雷の遠隔射撃ぐらいでほとんど出番はなかったようだ。
「まあ、仕方ないわ、直人とクリスが頑張りすぎたから。あと、サファエルの機動防御が完璧すぎたわね」
フェアリーはちょっと一息ついて、波動剣を異空間の鞘に納めた。
「リー・ファ、現在の被害状況は?」
「シルバーソードに特に損傷はありません。ただ、ラクトエルがダウン気味です。時間魔法戦も魔導機関のエネルギーチャージ中で当分、使えません。サファエルも頑張りすぎたみたいで熟睡中ですね」
隻眼の副艦長は勝ち戦でも浮かない顔で言った。
歴戦の勘が何かを告げているのかもしれなかった。
「そう。スタンドウルフ隊の回収を急いで。それから長距離ワープの準備をして」
フェアリーも少し嫌な予感がしていた。
「了解です」
フェアリーはこんな時、コーシ・ムーンサイトがどうしてたのか?思い出していた。
あの人はいつも冗談交じりの笑顔でくだらないことを言っていた。
ひとりになってはじめて、自分はあの人に支えられていたことがわかる。
私はまだまだね。一軍の将としては失格ね。
彼女がさまざまな物思いに沈んでる間、状況はただ平穏に過ぎて行った。
「スタンドウルフ隊、回収完了。フェアリー隊長、戻ってきて下さい」
リー・ファ・リーが安堵の表情で通信を送ってきた。
「はーい、今、帰るわよ」
フェアリーも少しだけほっとしてシルバーソードに帰投しようとした。
その時、巨大な重力震反応が現れた。
フェアリーの眼前に巨大な惑星が出現していた。
「惑星型機械天使です。厄介なのが来ましたね」
リー・ファ・リーが難しい顔をしている。
「いや、私の予想した最悪の事態からはほど遠いわ。大丈夫よ」
フェアリーは正直、少しほっとしていた。
惑星型機械天使は機械天使の母艦級の機械天使であり、機動突撃艦シルバーソードの百倍ほどの質量をもつ。
確かに、厄介な相手だが、勝てない相手ではない。
天翼の騎士シルバーソードの光子波動エンジンの出力を上げていく。
惑星型機械天使から機械天使が次々と湧き出して来るのには目もくれず、フェアリーは機動突撃をかけて超接近戦を挑んだ。
そのまま右の拳を惑星型機械天使に叩き込む。
【波動拳】、光子波動エンジンの力をそのまま拳に乗せていく。
重力変異が巻き起こり、惑星型機械天使に亀裂が走る。
最初の惑星型機械天使を撃破した刹那、次々と重力震が発生して巨大な惑星が転位してきた。
出現した惑星型機械天使は百機ほどで、フェアリーは再び波動剣を抜刀して一刀の下に次々と切り裂いていく。
生き残った機械天使からのレーザー攻撃は、左手の円形の盾から放射された【イージスシールド】の展開で防ぎ切っている。ミサイル攻撃も天工精霊エレの制御下で次々に迎撃されていく。
天翼の騎士は、たった一騎で戦局を変えてしまう決戦兵器である。
ただ、天工精霊との相性、搭乗適性がある天使が少なく、騎士不足さえなければ、今の戦局を変え得る戦力と言えた。
討ち漏らした機械天使は機動突撃艦シルバーソードにも迫るが、直衛に入っていたスタンドウルフのバー二ィ隊によって撃破されていった。
一度、帰還したクリス、直人のスタンドウルフ隊も補給を終えた順に出撃、迎撃に当たる。
サファエルも最後の力を振り絞ってイージスシステムを展開させて防御に務める。
ラクトエルだけはやることないので熟睡中である。
「コーシ隊長、前線が大変なことになってます」
次元レーダー担当のセジエルが困惑顔で言った。
紫の髪と瞳をもつ、二枚羽のちょっと神秘的でかわいい感じの天使である。
そこはサムエルの旗艦、ソードシップ『ホワイトナイトソード』の艦橋である。
「状況説明を頼む」
コーシ・ムーンサイトは、艦長のサムエルが頷くのを見てセジエルに目配せした。
「えっと、すでに機動突撃艦シルバーソードは百万の機械天使は撃破して、第二波の惑星型機械天使、約百機と交戦中のようです」
「なるほど、その惑星型機械天使って何なんだ?」
コーシ・ムーンサイトは素朴な疑問を口にした。
「そこからなんですか! そこから説明しないとダメなんですね」
「機械天使というのも、ちょっと分からないのだが……」
「―――そこ、はぁ~。基礎から説明いたしますわ! 基礎から!」
セジエルの怒って頬をふくらました姿がまたいいのだが、怒らせすぎると厄介そうなので、あくまで真剣な態度で聞いてみた。
丁寧な説明が終わった所で、艦長のサムエルから衝撃の報告が続く。
「あのー、システィーナ様からコーシ隊長宛に、天翼の騎士【クリムゾンハート】が届いてます。聖剣【クリームクリムゾン】とセットだそうで、もれなくセットで付いてくるソードシップ【クリムゾンソード】も全自動操縦で追尾してきています」
「えっ?」
最近、あまり驚くこともなかったコーシ・ムーンサイトだったが、ちょっと目を丸くしてしまった。
全天スクリーンのサイドスクリーンに紅色のソードシップが映っていた。
セットって、いや、ソードシップまでついてくるんだ。
「それ、ひょっとして、俺が乗って出撃ですか?」
「そうです。当然です!」
セジエルはきっぱり言った。
天海士のパミール・フェノンも、艦長のサムエルも激しく同意した。
人間、いや、天使も驚きすぎると思考が停止してしまうんだなと納得した。
「でも、騎士適性とか、ほら、いろいろあるだろ」
最後の抵抗を試みてみる。
「大丈夫ですよ。超戦歴豊富で優秀な天工精霊がサポートしてくれるから、かかしが乗ってても余裕で勝てます」
サムエルが太鼓判でダメ押しをした。
「いや、かかしって、天界にもあるの?」
素朴な疑問が浮かんだが、もちろん、セジエルは華麗にスルーして冷酷に告げた。
「コーシ隊長、出撃お願いします!」
コーシのフローティングシートがカプセルに覆われたかと思うと、勝手に奈落の底に沈むように降下していった。
そんなシステムあったんだ!
「はじめまして、天工精霊のエルです。システィーナ様からサポート依頼されました。よろしくね!」
天翼の騎士【クリムゾンハート】のコクピットに到着したら、前面モニターにかわいい青い瞳をした黒髪の二枚翅の妖精が現れた。
「おぅ、よろしく! 初心者なのでお手柔らかに」
しどろもどろだが、とりあえず、挨拶を返しながらコクピット内をキョロキョロした。
「ソードシップ【クリムゾンソード】の方は、私、天工精霊のエルザがコントロール致します。 天翼の騎士【クリムゾンハート】の方は、エルお姉さまに任せておけば、万事、大丈夫ですよ」
前面モニターに紅い瞳をした黒髪の二枚翅の妖精が微笑む。
何となくエルと雰囲気が似ている。お姉さまとか言ってるので、姉妹とかかな?
「聖剣【クリームグリムゾン】の認証完了、騎士適性、登録オールグリーンです。出撃準備OKです!」
天工精霊エルが騎士認証を完了し、出撃準備が整ったようだ。
「了解! 【クリムゾンハート】出撃!」
つい、ノリで叫んでしまった。
「【クリムゾンハート】出撃! ソードシップ【クリムゾンソード】に格納後、長距離ワープに入ります」
天工精霊エルザからも通信が来て、何か戦場に直行するようだけど、心の準備が………。
「大丈夫ですよ。超急速睡眠学習で戦闘レシピは叩き込んでおきますから。少し海馬が暴れるのはお許し下さい」
天工精霊エルの青い瞳が残忍に光ってるような気がしますが、まさかね、そんな性格悪くないよね。
妖精だもんね。いや、精霊だったか。
「ふふふっ………しばし、おやすみなさい、コーシ様、よい悪夢を!」
天工精霊のエルザの紅の双眸が妖しくきらめく。
さっき、悪夢とか言わなかったか?
あ、だめだ、眠くなって―――コーシ・ムーンサイトの意識は、悪夢のような過去戦闘データの海の中へ沈んでいった。
天翼の騎士シルバーソードの左手のイージスシールドが円形の楯ごとはじけた。
「左腕のイージスシールド大破! 実弾砲撃です。すぐに予備と交換します。ですが、攻撃可能範囲に敵影は観測できません」
天工精霊エレが不審な表情でフェアリーに報告する。
「どうゆうことなの? ステルス砲撃ということ?」
惑星型機械天使を掃討し終えた時に放たれた謎の攻撃に、フェアリーも警戒心を強めて、楯を構えなおして防御姿勢になる。見えない砲弾と敵に戸惑っていた。
「―――あっ、ありました。エルお姉さまの過去戦闘データとリンクしたら。千年以上前の戦闘データのようなので、これは天使大戦の頃の魔天騎士ナンバー7の次元変動弾です」
次元変動弾。砲弾を異次元空間にランダム転位させて、敵を砲撃する砲弾である。
出所も分からなければ、砲手の位置も特定しずらい悪夢のような武器である。
天工精霊エレが敵の正体を見出すと同時に、再び、左手の楯に砲撃が命中した。
「くうっ!」
歯をくいしばっていたが、フェアリーはあまりの衝撃にうめき声を上げた。
威力が凄まじい。
左の楯を実弾防御仕様に変更してたので大破は免れたが、そんなに長くは持ちそうにない。
「超重力震です! 大質量の物体が転位してきます!」
天工精霊エレの叫び声がした。
フェアリーも息をのむ。
やがて、目の前に現れたのは、巨大すぎるブラックホールのような天体であった。
その中から漆黒の十枚の翼をもつ機体が現れる。
魔天騎士ナンバー5、【黒騎士】が降臨していた。
(あとがき)
やっと、小説らしい地獄の引きになりましたが。
次回は僕の予定と違って「黒騎士 《ルシファーナイト》」になりそうな予感ですね。
だいぶ、この小説、ストーリーが変わりつつありますが、フェアリーが強すぎて、展開が変わってきています。
プロット変更はないんだけど、展開によってディテールは変わってしまいがちです。
次元変動弾とか出て来る予定なかったんだけどね。そこが即興小説の醍醐味かもね。
天工精霊エレが索敵を終えて話しかけてきた。
フェアリーとは反対側の天翼の騎士シルバーソードの左胸の異空間に彼女はいた。
小さな妖精に似た身体に透明な二枚の翅をもつ彼女は、機械生命の創造に優れ、機械に生命を吹き込むことができる生命魔法を得意とする【黒天族】によって創られた生命体である。
空間魔法を得意とする【赤天族】と治癒魔法と自然魔法を得意とする【白天族】に創り上げられた汎用天使型宇宙兵装、天翼の騎士は、天工精霊に機能サポートされてはじめて、万全の力を発揮することができる。
天界の三大氏族の技術を結集して創られた傑作兵装が天翼の騎士であり、戦艦百隻分の戦力に匹敵するとも言われている。
ちなみに、戦艦の由来は氏族から来ているが、かつて天界の移民船に一族単位で搭乗した古い習わしから来ている。
「ちょっと、出るのが早かったかな。まあ、シルバーソードのクルーとスタンドウルフ隊の実戦経験も積めたし、練度も少し上がったかな」
フェアリーの天翼の騎士シルバーソードの周囲には撃破した機械天使の残骸が漂っていた。
「フェアリー隊長、俺、全然、出番無かったんですけど」
スタンドウルフ隊のバー二ィからの通信である。
機動突撃艦シルバーソードを円環状に防御する直衛に入っていたのだが、光子魚雷の遠隔射撃ぐらいでほとんど出番はなかったようだ。
「まあ、仕方ないわ、直人とクリスが頑張りすぎたから。あと、サファエルの機動防御が完璧すぎたわね」
フェアリーはちょっと一息ついて、波動剣を異空間の鞘に納めた。
「リー・ファ、現在の被害状況は?」
「シルバーソードに特に損傷はありません。ただ、ラクトエルがダウン気味です。時間魔法戦も魔導機関のエネルギーチャージ中で当分、使えません。サファエルも頑張りすぎたみたいで熟睡中ですね」
隻眼の副艦長は勝ち戦でも浮かない顔で言った。
歴戦の勘が何かを告げているのかもしれなかった。
「そう。スタンドウルフ隊の回収を急いで。それから長距離ワープの準備をして」
フェアリーも少し嫌な予感がしていた。
「了解です」
フェアリーはこんな時、コーシ・ムーンサイトがどうしてたのか?思い出していた。
あの人はいつも冗談交じりの笑顔でくだらないことを言っていた。
ひとりになってはじめて、自分はあの人に支えられていたことがわかる。
私はまだまだね。一軍の将としては失格ね。
彼女がさまざまな物思いに沈んでる間、状況はただ平穏に過ぎて行った。
「スタンドウルフ隊、回収完了。フェアリー隊長、戻ってきて下さい」
リー・ファ・リーが安堵の表情で通信を送ってきた。
「はーい、今、帰るわよ」
フェアリーも少しだけほっとしてシルバーソードに帰投しようとした。
その時、巨大な重力震反応が現れた。
フェアリーの眼前に巨大な惑星が出現していた。
「惑星型機械天使です。厄介なのが来ましたね」
リー・ファ・リーが難しい顔をしている。
「いや、私の予想した最悪の事態からはほど遠いわ。大丈夫よ」
フェアリーは正直、少しほっとしていた。
惑星型機械天使は機械天使の母艦級の機械天使であり、機動突撃艦シルバーソードの百倍ほどの質量をもつ。
確かに、厄介な相手だが、勝てない相手ではない。
天翼の騎士シルバーソードの光子波動エンジンの出力を上げていく。
惑星型機械天使から機械天使が次々と湧き出して来るのには目もくれず、フェアリーは機動突撃をかけて超接近戦を挑んだ。
そのまま右の拳を惑星型機械天使に叩き込む。
【波動拳】、光子波動エンジンの力をそのまま拳に乗せていく。
重力変異が巻き起こり、惑星型機械天使に亀裂が走る。
最初の惑星型機械天使を撃破した刹那、次々と重力震が発生して巨大な惑星が転位してきた。
出現した惑星型機械天使は百機ほどで、フェアリーは再び波動剣を抜刀して一刀の下に次々と切り裂いていく。
生き残った機械天使からのレーザー攻撃は、左手の円形の盾から放射された【イージスシールド】の展開で防ぎ切っている。ミサイル攻撃も天工精霊エレの制御下で次々に迎撃されていく。
天翼の騎士は、たった一騎で戦局を変えてしまう決戦兵器である。
ただ、天工精霊との相性、搭乗適性がある天使が少なく、騎士不足さえなければ、今の戦局を変え得る戦力と言えた。
討ち漏らした機械天使は機動突撃艦シルバーソードにも迫るが、直衛に入っていたスタンドウルフのバー二ィ隊によって撃破されていった。
一度、帰還したクリス、直人のスタンドウルフ隊も補給を終えた順に出撃、迎撃に当たる。
サファエルも最後の力を振り絞ってイージスシステムを展開させて防御に務める。
ラクトエルだけはやることないので熟睡中である。
「コーシ隊長、前線が大変なことになってます」
次元レーダー担当のセジエルが困惑顔で言った。
紫の髪と瞳をもつ、二枚羽のちょっと神秘的でかわいい感じの天使である。
そこはサムエルの旗艦、ソードシップ『ホワイトナイトソード』の艦橋である。
「状況説明を頼む」
コーシ・ムーンサイトは、艦長のサムエルが頷くのを見てセジエルに目配せした。
「えっと、すでに機動突撃艦シルバーソードは百万の機械天使は撃破して、第二波の惑星型機械天使、約百機と交戦中のようです」
「なるほど、その惑星型機械天使って何なんだ?」
コーシ・ムーンサイトは素朴な疑問を口にした。
「そこからなんですか! そこから説明しないとダメなんですね」
「機械天使というのも、ちょっと分からないのだが……」
「―――そこ、はぁ~。基礎から説明いたしますわ! 基礎から!」
セジエルの怒って頬をふくらました姿がまたいいのだが、怒らせすぎると厄介そうなので、あくまで真剣な態度で聞いてみた。
丁寧な説明が終わった所で、艦長のサムエルから衝撃の報告が続く。
「あのー、システィーナ様からコーシ隊長宛に、天翼の騎士【クリムゾンハート】が届いてます。聖剣【クリームクリムゾン】とセットだそうで、もれなくセットで付いてくるソードシップ【クリムゾンソード】も全自動操縦で追尾してきています」
「えっ?」
最近、あまり驚くこともなかったコーシ・ムーンサイトだったが、ちょっと目を丸くしてしまった。
全天スクリーンのサイドスクリーンに紅色のソードシップが映っていた。
セットって、いや、ソードシップまでついてくるんだ。
「それ、ひょっとして、俺が乗って出撃ですか?」
「そうです。当然です!」
セジエルはきっぱり言った。
天海士のパミール・フェノンも、艦長のサムエルも激しく同意した。
人間、いや、天使も驚きすぎると思考が停止してしまうんだなと納得した。
「でも、騎士適性とか、ほら、いろいろあるだろ」
最後の抵抗を試みてみる。
「大丈夫ですよ。超戦歴豊富で優秀な天工精霊がサポートしてくれるから、かかしが乗ってても余裕で勝てます」
サムエルが太鼓判でダメ押しをした。
「いや、かかしって、天界にもあるの?」
素朴な疑問が浮かんだが、もちろん、セジエルは華麗にスルーして冷酷に告げた。
「コーシ隊長、出撃お願いします!」
コーシのフローティングシートがカプセルに覆われたかと思うと、勝手に奈落の底に沈むように降下していった。
そんなシステムあったんだ!
「はじめまして、天工精霊のエルです。システィーナ様からサポート依頼されました。よろしくね!」
天翼の騎士【クリムゾンハート】のコクピットに到着したら、前面モニターにかわいい青い瞳をした黒髪の二枚翅の妖精が現れた。
「おぅ、よろしく! 初心者なのでお手柔らかに」
しどろもどろだが、とりあえず、挨拶を返しながらコクピット内をキョロキョロした。
「ソードシップ【クリムゾンソード】の方は、私、天工精霊のエルザがコントロール致します。 天翼の騎士【クリムゾンハート】の方は、エルお姉さまに任せておけば、万事、大丈夫ですよ」
前面モニターに紅い瞳をした黒髪の二枚翅の妖精が微笑む。
何となくエルと雰囲気が似ている。お姉さまとか言ってるので、姉妹とかかな?
「聖剣【クリームグリムゾン】の認証完了、騎士適性、登録オールグリーンです。出撃準備OKです!」
天工精霊エルが騎士認証を完了し、出撃準備が整ったようだ。
「了解! 【クリムゾンハート】出撃!」
つい、ノリで叫んでしまった。
「【クリムゾンハート】出撃! ソードシップ【クリムゾンソード】に格納後、長距離ワープに入ります」
天工精霊エルザからも通信が来て、何か戦場に直行するようだけど、心の準備が………。
「大丈夫ですよ。超急速睡眠学習で戦闘レシピは叩き込んでおきますから。少し海馬が暴れるのはお許し下さい」
天工精霊エルの青い瞳が残忍に光ってるような気がしますが、まさかね、そんな性格悪くないよね。
妖精だもんね。いや、精霊だったか。
「ふふふっ………しばし、おやすみなさい、コーシ様、よい悪夢を!」
天工精霊のエルザの紅の双眸が妖しくきらめく。
さっき、悪夢とか言わなかったか?
あ、だめだ、眠くなって―――コーシ・ムーンサイトの意識は、悪夢のような過去戦闘データの海の中へ沈んでいった。
天翼の騎士シルバーソードの左手のイージスシールドが円形の楯ごとはじけた。
「左腕のイージスシールド大破! 実弾砲撃です。すぐに予備と交換します。ですが、攻撃可能範囲に敵影は観測できません」
天工精霊エレが不審な表情でフェアリーに報告する。
「どうゆうことなの? ステルス砲撃ということ?」
惑星型機械天使を掃討し終えた時に放たれた謎の攻撃に、フェアリーも警戒心を強めて、楯を構えなおして防御姿勢になる。見えない砲弾と敵に戸惑っていた。
「―――あっ、ありました。エルお姉さまの過去戦闘データとリンクしたら。千年以上前の戦闘データのようなので、これは天使大戦の頃の魔天騎士ナンバー7の次元変動弾です」
次元変動弾。砲弾を異次元空間にランダム転位させて、敵を砲撃する砲弾である。
出所も分からなければ、砲手の位置も特定しずらい悪夢のような武器である。
天工精霊エレが敵の正体を見出すと同時に、再び、左手の楯に砲撃が命中した。
「くうっ!」
歯をくいしばっていたが、フェアリーはあまりの衝撃にうめき声を上げた。
威力が凄まじい。
左の楯を実弾防御仕様に変更してたので大破は免れたが、そんなに長くは持ちそうにない。
「超重力震です! 大質量の物体が転位してきます!」
天工精霊エレの叫び声がした。
フェアリーも息をのむ。
やがて、目の前に現れたのは、巨大すぎるブラックホールのような天体であった。
その中から漆黒の十枚の翼をもつ機体が現れる。
魔天騎士ナンバー5、【黒騎士】が降臨していた。
(あとがき)
やっと、小説らしい地獄の引きになりましたが。
次回は僕の予定と違って「黒騎士 《ルシファーナイト》」になりそうな予感ですね。
だいぶ、この小説、ストーリーが変わりつつありますが、フェアリーが強すぎて、展開が変わってきています。
プロット変更はないんだけど、展開によってディテールは変わってしまいがちです。
次元変動弾とか出て来る予定なかったんだけどね。そこが即興小説の醍醐味かもね。
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