魔導天使~グノーシスの黙示録~
時間魔法戦 《マジック・タイム・バトル》
機動突撃艦シルバーソードの右舷に、次元防壁が展開され、次元爆雷の衝撃波を受け流す。
しかし、その直後、不自然な次元流の乱れからこちらの位置が捕捉される。
刹那、一斉に放たれた機械天使の光子レーザーの軌跡は四百万を超えた。
回避不可能の攻撃……、のはずだった。
しかし、シルバーソードにいつまでたってもレーザーの直撃は到達しなかった。
いや、よく見れば次元防壁の直前でレーザーが足踏みしてるような奇妙な現象が起きていた。
「右舷、次元防壁の時間遅延率50%、何とか回避できます」
【時間魔法戦】のスぺシャリスト、ラクトエルは灰色の瞳を怪しく輝かせていた。
有能だけど、不気味だわ、この娘。いや、独り言です。
「はぁーい、自然な感じで通り過ぎます」
天海士のチャムは神業的操艦で無波動航行を維持しつつ、光子レーザーの直撃圏を離脱していた。
一瞬、遅れて四百万の光子レーザーの軌跡が虚空へと消えていった。
「では、光子レーザー、光子魚雷全弾発―――、あれ、ロックされてる」
サファエルが何か言ってるが、すでに兵装管制はリー・ファ・リーがロック済みです。
まだ、完全に捕捉されてないんだから、隠蔽航行しないとダメでしょ!作戦会議を聞いてなかったのか!いや、全く聞いてないな(泣)
「このまま、無波動航行を維持しつつ、次元深度200メタから500メタへ、少し深めに潜ります」
天海士のチャムは何事もなかったように通常航行に戻っている。
「機械天使はまだ、完全にはこちらを捕捉できてないと思われます。このまま隠蔽航行を続けます」
リー・ファ・リーが静かに補足する。
「……すいません。フェアリー隊長。次元爆雷を感知できず、申し訳ないです」
異次元レーダー担当の通信士ファジエルの黒い円らな瞳が少し涙目になっている。
二枚羽も震え気味にパタパタさせている。
「いいの、いいの。そういうこともあるわ。それよりも、機械天使のフェイクに引っかかって総攻撃かけようとする天使には困ったものだわ」
可愛い子ちゃんを慰めつつ、ド派手ピンクにちょっと皮肉を言ってみた。
「いや、どうせ捕捉されるのは時間の問題だと思われますし……ブチッ」
ド派手ピンクの音声管制をロックしてみた。
何か言ってるけど無視、無視。
「―――ラクトエル、気になってるんだけど、そのメガネ、誰かにもらった?」
リー・ファ・リーが変なことを言い出した。
いや、隻眼が鋭く光ってるし、何か重要なことに気づいたようだ。
私もなんとなく、あのメガネ、見覚えがあるんだけど、あまり思いだしたくない感じがする。
「え……あ、それはですね………」
頬が赤く染っていくラクトエル、ああ、それはもしかして恋なの?そうなのね?
とても嫌な予感がするけど。
「………カノン様に、頂いたんです」
「やっぱり!」
リー・ファ・リーがうなづく。
「やはり、そうなの!」
チャムも気づいてたらしい。
「嫌な予感が当たったわ、まったく」
サイクロー二・カノン、それはムーア王国第十三番聖騎士団所属の火星世界一の伊達男というか、ナンパ師として、かつては彼女の数が100人を超えてたけど、今は10人の美女に絞ったと豪語する男、いや、困った奴である。
ちなみに、「ルナの戦巫女」とか「白い魔女」は通称で、正式名称はムーア王国第零番聖騎士団であり、サイクロー二・カノンとはいわば戦友ということになるのだが、ちょっと、そういうのが恥ずかしい感じもする。同類と思われるのは非常に不名誉である。心外である。
「ちょっと待ってよ、カノンとどこで会ったの?」
「………カノン様は、私たち、第一軍の機動突撃艦ブラックソードの乗組員は、この前の天界の【エデン】で起こった【メルキゼテク騒乱】の次元震で地獄に飛ばされたんです。地獄でカノン様とコーシ・ムーンサイト様に救われたんです。やっと天界に戻ってきたと思ったら、今回の【エデン大戦】に巻き込まれて、私はフェアリー隊長に拾って頂いて、ここにいる訳です」
ラクトエルが【地味メガネ】になった謎が解けた。
そんなこと知りたくもなかったけど。
「コーシ隊長も生きてるんだ! よかった! ブラックソードの艦長のタイガルと言えば、トラ耳の怪力無双の天使よね」
チャムがうれしそうにつぶやく。
チャムはムーア王国第十三番聖騎士団長のコーシ・ムーンサイトファンである。
「コーシ隊長、健在なのね。いや、しぶといから、あるいは天界に転生してると思ってたけど、地獄に転生してたとは!不運ね、不憫ね、せつなすぎるわ。うーん、【メルキゼテク騒乱】が【エデン大戦】のきっかけだったのか。それは知らなかった」
リー・ファ・リーは興味深げに話を聞いている。
「パミール・フェノンはいなかったの?」
別にファンではないけど、フェアリーはついでに訊いてみた。
「パミール様もいました。あの方も渋くてかっこいいですね」
ラクトエルは目を輝かせた。
あんた、意外と気が多いのね。
【地味メガネ】のくせに!
「前から気になってたのよね、訊いてみるもんね」
リー・ファ・リーはそんな自分を誉めてあげたいという風に胸を張っている。
でも、胸はないけど。
貧乳なのがさびしい。
「フェアリー隊長! 機械天使の突撃部隊が多数、本艦を追尾してきています!」
異次元レーダー担当のファジエルがかわいい声を上げた。
「数は?」
「数万というところです。自律超小型潜航艇を出して撹乱しますか?」
ファジエルは真剣な眼差しで、円らな黒い瞳でフェアリーを見つめた。
ほんと、かわいいなあ、この子。
「ファジエル、自律超小型潜航艇を出して! これ以上、逃げ切るのは難しそうね。ラクトエルも例のプログラムを発動して、相手の懐に飛び込むわよ」
「 << 了解! >> 」
ふたりの天使の声が艦橋にひびいた。
シルバーソードの背面の光子魚雷発射管から、数万の自律超小型潜航艇がバラ撒かれ、機械天使の突撃部隊を引きつけて、散開していく。
次の瞬間、機械天使の第二波突撃部隊数万が、シルバーソード周囲を包囲するように空間転位してきていた。
「ちっ! こちらから行く前に、位置を特定されちゃったわね」
フェアリーは舌打ちした。
「チャム、急速浮上! 通常空間に出たら、光子波動エンジン点火、全開! 機械天使の核まで一気に空間転位するわよ」
「了解! 急速浮上! 光子波動エンジン点火、全開で行きます!」
静かなエンジン音だが、時空間が歪んで、一瞬、意識が遠のきそうになる。
次の瞬間には、機械天使の核、円球形の巨大な黒い小惑星の下にシルバーソードは転位していた。
「よし! 光子波動エンジン停止!」
「ラクトエル! 機械天使の核にウィルスプログラム弾頭を有線で発射!」
「はい」
地味なラクトエルの返事で、ナノマシンのウィルスプログラム弾頭が核に打ち込まれた。
あっけない感じだが、周囲の数十万の機械天使の動きが停止していく。
「ふう、これで一安心ね」
フェアリーは一息ついた。
「約2エルぐらい本艦は【いないこと】になります。機械天使の天工知能を誤魔化せるのはそれぐらいが限界ですね」
リー・ファ・リーの開発したウィルスプログラムの効果である。
機械天使の弱点はこの核をウィルスプログラムで制圧されると一定時間、行動不能になることであった。
ひとつの核で数十万単位の機械天使をコントロールしてるので、100万だと核は10個ぐらいあることになる。
「機械天使の包囲網は10宇宙単位に広がっています。ここは中心辺りなので、シルバーソードの1回の転位で1宇宙単位進めるとして、数回、繰り返せば、包囲網を抜け出せる計算になります」
リー・ファ・リーは解説した。
「超接近戦かあ、【いないこと】になってるとはいえ、気持ちのいいものではないよね」
チャムが嘆いた。
ド派手ピンクも何か言ってるけど、今まで忘れててごめん。
「まあ、コーシ隊長とパミール、カノンに会えるのを楽しみに、ちょっと頑張ってみましょうか」
フェアリーは珍しく自分を鼓舞するように言い放った。
ラクトエルの瞳に星が見えた。
テメエは恋する惑星か!
いや、恒星だったか。
(あとがき)
今回はちょっとだけ長めです。
もうちょっとストレス展開続きますが、次回、「百万の瞳、万華鏡の宇宙」〔仮〕をお楽しみに!
しかし、その直後、不自然な次元流の乱れからこちらの位置が捕捉される。
刹那、一斉に放たれた機械天使の光子レーザーの軌跡は四百万を超えた。
回避不可能の攻撃……、のはずだった。
しかし、シルバーソードにいつまでたってもレーザーの直撃は到達しなかった。
いや、よく見れば次元防壁の直前でレーザーが足踏みしてるような奇妙な現象が起きていた。
「右舷、次元防壁の時間遅延率50%、何とか回避できます」
【時間魔法戦】のスぺシャリスト、ラクトエルは灰色の瞳を怪しく輝かせていた。
有能だけど、不気味だわ、この娘。いや、独り言です。
「はぁーい、自然な感じで通り過ぎます」
天海士のチャムは神業的操艦で無波動航行を維持しつつ、光子レーザーの直撃圏を離脱していた。
一瞬、遅れて四百万の光子レーザーの軌跡が虚空へと消えていった。
「では、光子レーザー、光子魚雷全弾発―――、あれ、ロックされてる」
サファエルが何か言ってるが、すでに兵装管制はリー・ファ・リーがロック済みです。
まだ、完全に捕捉されてないんだから、隠蔽航行しないとダメでしょ!作戦会議を聞いてなかったのか!いや、全く聞いてないな(泣)
「このまま、無波動航行を維持しつつ、次元深度200メタから500メタへ、少し深めに潜ります」
天海士のチャムは何事もなかったように通常航行に戻っている。
「機械天使はまだ、完全にはこちらを捕捉できてないと思われます。このまま隠蔽航行を続けます」
リー・ファ・リーが静かに補足する。
「……すいません。フェアリー隊長。次元爆雷を感知できず、申し訳ないです」
異次元レーダー担当の通信士ファジエルの黒い円らな瞳が少し涙目になっている。
二枚羽も震え気味にパタパタさせている。
「いいの、いいの。そういうこともあるわ。それよりも、機械天使のフェイクに引っかかって総攻撃かけようとする天使には困ったものだわ」
可愛い子ちゃんを慰めつつ、ド派手ピンクにちょっと皮肉を言ってみた。
「いや、どうせ捕捉されるのは時間の問題だと思われますし……ブチッ」
ド派手ピンクの音声管制をロックしてみた。
何か言ってるけど無視、無視。
「―――ラクトエル、気になってるんだけど、そのメガネ、誰かにもらった?」
リー・ファ・リーが変なことを言い出した。
いや、隻眼が鋭く光ってるし、何か重要なことに気づいたようだ。
私もなんとなく、あのメガネ、見覚えがあるんだけど、あまり思いだしたくない感じがする。
「え……あ、それはですね………」
頬が赤く染っていくラクトエル、ああ、それはもしかして恋なの?そうなのね?
とても嫌な予感がするけど。
「………カノン様に、頂いたんです」
「やっぱり!」
リー・ファ・リーがうなづく。
「やはり、そうなの!」
チャムも気づいてたらしい。
「嫌な予感が当たったわ、まったく」
サイクロー二・カノン、それはムーア王国第十三番聖騎士団所属の火星世界一の伊達男というか、ナンパ師として、かつては彼女の数が100人を超えてたけど、今は10人の美女に絞ったと豪語する男、いや、困った奴である。
ちなみに、「ルナの戦巫女」とか「白い魔女」は通称で、正式名称はムーア王国第零番聖騎士団であり、サイクロー二・カノンとはいわば戦友ということになるのだが、ちょっと、そういうのが恥ずかしい感じもする。同類と思われるのは非常に不名誉である。心外である。
「ちょっと待ってよ、カノンとどこで会ったの?」
「………カノン様は、私たち、第一軍の機動突撃艦ブラックソードの乗組員は、この前の天界の【エデン】で起こった【メルキゼテク騒乱】の次元震で地獄に飛ばされたんです。地獄でカノン様とコーシ・ムーンサイト様に救われたんです。やっと天界に戻ってきたと思ったら、今回の【エデン大戦】に巻き込まれて、私はフェアリー隊長に拾って頂いて、ここにいる訳です」
ラクトエルが【地味メガネ】になった謎が解けた。
そんなこと知りたくもなかったけど。
「コーシ隊長も生きてるんだ! よかった! ブラックソードの艦長のタイガルと言えば、トラ耳の怪力無双の天使よね」
チャムがうれしそうにつぶやく。
チャムはムーア王国第十三番聖騎士団長のコーシ・ムーンサイトファンである。
「コーシ隊長、健在なのね。いや、しぶといから、あるいは天界に転生してると思ってたけど、地獄に転生してたとは!不運ね、不憫ね、せつなすぎるわ。うーん、【メルキゼテク騒乱】が【エデン大戦】のきっかけだったのか。それは知らなかった」
リー・ファ・リーは興味深げに話を聞いている。
「パミール・フェノンはいなかったの?」
別にファンではないけど、フェアリーはついでに訊いてみた。
「パミール様もいました。あの方も渋くてかっこいいですね」
ラクトエルは目を輝かせた。
あんた、意外と気が多いのね。
【地味メガネ】のくせに!
「前から気になってたのよね、訊いてみるもんね」
リー・ファ・リーはそんな自分を誉めてあげたいという風に胸を張っている。
でも、胸はないけど。
貧乳なのがさびしい。
「フェアリー隊長! 機械天使の突撃部隊が多数、本艦を追尾してきています!」
異次元レーダー担当のファジエルがかわいい声を上げた。
「数は?」
「数万というところです。自律超小型潜航艇を出して撹乱しますか?」
ファジエルは真剣な眼差しで、円らな黒い瞳でフェアリーを見つめた。
ほんと、かわいいなあ、この子。
「ファジエル、自律超小型潜航艇を出して! これ以上、逃げ切るのは難しそうね。ラクトエルも例のプログラムを発動して、相手の懐に飛び込むわよ」
「 << 了解! >> 」
ふたりの天使の声が艦橋にひびいた。
シルバーソードの背面の光子魚雷発射管から、数万の自律超小型潜航艇がバラ撒かれ、機械天使の突撃部隊を引きつけて、散開していく。
次の瞬間、機械天使の第二波突撃部隊数万が、シルバーソード周囲を包囲するように空間転位してきていた。
「ちっ! こちらから行く前に、位置を特定されちゃったわね」
フェアリーは舌打ちした。
「チャム、急速浮上! 通常空間に出たら、光子波動エンジン点火、全開! 機械天使の核まで一気に空間転位するわよ」
「了解! 急速浮上! 光子波動エンジン点火、全開で行きます!」
静かなエンジン音だが、時空間が歪んで、一瞬、意識が遠のきそうになる。
次の瞬間には、機械天使の核、円球形の巨大な黒い小惑星の下にシルバーソードは転位していた。
「よし! 光子波動エンジン停止!」
「ラクトエル! 機械天使の核にウィルスプログラム弾頭を有線で発射!」
「はい」
地味なラクトエルの返事で、ナノマシンのウィルスプログラム弾頭が核に打ち込まれた。
あっけない感じだが、周囲の数十万の機械天使の動きが停止していく。
「ふう、これで一安心ね」
フェアリーは一息ついた。
「約2エルぐらい本艦は【いないこと】になります。機械天使の天工知能を誤魔化せるのはそれぐらいが限界ですね」
リー・ファ・リーの開発したウィルスプログラムの効果である。
機械天使の弱点はこの核をウィルスプログラムで制圧されると一定時間、行動不能になることであった。
ひとつの核で数十万単位の機械天使をコントロールしてるので、100万だと核は10個ぐらいあることになる。
「機械天使の包囲網は10宇宙単位に広がっています。ここは中心辺りなので、シルバーソードの1回の転位で1宇宙単位進めるとして、数回、繰り返せば、包囲網を抜け出せる計算になります」
リー・ファ・リーは解説した。
「超接近戦かあ、【いないこと】になってるとはいえ、気持ちのいいものではないよね」
チャムが嘆いた。
ド派手ピンクも何か言ってるけど、今まで忘れててごめん。
「まあ、コーシ隊長とパミール、カノンに会えるのを楽しみに、ちょっと頑張ってみましょうか」
フェアリーは珍しく自分を鼓舞するように言い放った。
ラクトエルの瞳に星が見えた。
テメエは恋する惑星か!
いや、恒星だったか。
(あとがき)
今回はちょっとだけ長めです。
もうちょっとストレス展開続きますが、次回、「百万の瞳、万華鏡の宇宙」〔仮〕をお楽しみに!
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
9,545
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,173
-
2.3万
コメント