悠くんと純伶ちゃん

王帝月ノ宮

本と、再会

からん ころん からん からん ころん
下駄を鳴らして公園へ入る。
入り口でペットボトルにジュースをいれてもらい、母たちがいるテーブルにつく。
彼女はすぐに見つけた。だって、俺が座った席から一直線の位置に座っているから。
俺がチャラ男だったら話しかけれただろうが、生憎と奥手で女子に最後に話しかけたのは7年も前なので、話しかけられず、その姿を遠くから眺めるしかできなかった。
母が、呼んでくるか?と聞いてくれたが俺はかぶりを振って、祖母の家に帰った。
俺は、何をしているんだろう。
せっかく初恋の幼なじみがいるのに恥ずかしくて話せないなんて、よっぽどのヘタレだ。
結局、今年も話せずに終わった。
と思ったら、神様のいたずらか気まぐれか。俺の最寄りの書店で純伶ちゃんとばったり行き合った。
全く、世の中は理不尽だ。
純伶ちゃんと会うって分かってたらハーフパンツと半袖のTシャツにズッパじゃなくてきちんとした格好で来たっての。
「ひ、久しぶりだな。」
「う、うん。」
「・・・」
「・・・」
俺も純伶ちゃんも言葉に詰まる。
「そういうの、読むんだ。」
純伶ちゃんが手に持っていたのはラブコメ小説と少女漫画。
「悠くんだって、そういうの読むんだね。」
純伶ちゃんは俺の手元に視線を落としている。
俺はシリーズ物のラノベを3冊と、ハードカバー版のサッカーを題材とした小説を4冊持っている。
「サッカー好きなんだね。」
「サッカー部だしな。そういう純伶ちゃんは?何か部活やってないの?」
「吹奏楽部やってる。」
「丘中だっけ?」
「鷹山大学付属中学。」
「ふ~ん。地元じゃないんだ。」
「だって、勉強つまんないんだもん。」
「ふ~ん。」
とまぁ軽くお互いの情報を開示しあっていたら、
「純伶、行くわよ。」
純伶ちゃんがお母さんに呼ばれた。
「もう行くね。」
「え?あ、ああ。」
「バイバイ、サッカー、頑張ってね。」
俺は、お母さんの下に向かおうとしている純伶ちゃんの手を掴もうと自分の手を持ち上げ、そして下ろした。
ここでも俺は、ヘタレた。
もしここで、ヘタレないでその手を掴み、告白していれば、勝機はあっただろう。
でも俺は、伸ばしかけた自分の手を下ろしてしまった。
こちらを振り返らず、去っていく彼女の後ろ姿を見送った後、本を購入して、祖母の家に向かった。

「ってこともあったな・・・」
「そうなんだ。大変だったね。」
そういいつつ、彼女は自分の左肩をさする。
「まだ痛むか?」
「ううん、もうほとんど痛くないよ。」
彼女の左肩は、ギブスで固定されている。
「ごめんな。俺があれを止めきれず大怪我を負わせた上にキズモノにしちまって。」
「ううん。おかげで悠くんと一緒にいる時間が増えたから。」
彼女はそういって、俺の腕に抱きついてきた。
彼女とのお話は、まだまだ続きます。

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