すばらしき竜生!

白波ハクア

第47話 シエルの緊張

 その後も順調にロード、シエル、ツバキ、カリムの四人は試合を勝ち進み、ツバキとカリムの二人は決勝が終わって闘技会への参加資格を獲得した。
 両者とも本気を出してないが戦闘スタイルというのは必ず出てくるもので、ロードは少しの仕草だろうがしっかりと観察して対策を練っていた。 余裕をぶっこいて油断して負けましたーではとてつもなくダサいので、少しでも危険だと思った相手に対して入念に対策するのがロードのやりかた。
 ツバキは完全な力押しだ。三回戦目で当たった相手はツバキの二倍以上の身長をしていたが、その相手が振るった大剣での攻撃を二本の指で白刃取りして軽く砕いてしまった。 これに関しては流石は鬼族といえる筋力で当然のことながら相手は戦意喪失。そして、決勝で見せた突撃は地面を砕くほどの脚力だったので素早さも申し分なく、ロードは闘技会で戦うことがより一層楽しみになった。
 次にカリムの戦闘スタイルは一言で表すなら"曲芸士"。ツバキのように規格外の筋力や脚力は持っていないが、それをカバーするように相手を誘導しながら最終的に王手をかけるのが主な流れ。 これの対策としては闘技会の会場ごと吹き飛ばせば問題ないのだが、それをすると王であるエルドを泣かせることになってしまうので自重する。
(そういや今日はエルド達がお忍びで遊びに来るって言ってたが…………ああ、あそこに居るのか)
 竜眼で観客席を探したところ、フードを被って普通の一般人っぽく座っていた。それにしても王と側近が遊びに来ているのだが、事務処理や警備は大丈夫なのかと心配になってしまう。 ハゲの紅茶好きな奴がいないので流石にお留守番しているらしいが、その留守番しているあいつは事務処理に追われているのだろうと思うと可哀想になってくる。 等のエルド達は試合について吟味していて次の試合が待ち遠しいらしく、そわそわしながら座っていた。
 次の試合。それはシエルの決勝戦だ。 今はゲートの近くでスタンバイしているはずだが、こっそり行って王様が見に来てると言ったらどのような反応をするのか。考えただけでも面白い。
「……何かいやーなこと考えてるやろ」
 声に振り返るとそこにはジト目でロードを見ているツバキの姿があった。その後ろにはカリムもいて、その手にはロードがお使いを頼んだジュースが握られていた。
「ツバキ……兄貴にそんなこと言ったらダメだぜ?」
「そんなこと言われてもなぁ、どう考えてもこの顔は何か企んでいるようにしか思えんわ」
「そう見えても実は凄いこと考えてるかもしれねーだろ。あ、兄貴、頼まれてたジュースっす」
「おう、ありがとさん。釣りはいらねーから取っとけ」
 手渡されたジュースを受け取りながら軽く礼を言う。釣りはあげるというのはロードがいつもしていたことなのだが、カリムは引き攣った笑みになる。
「いや、銀貨一枚とジュース一本じゃ割に合わないっすよ。これだけでジュース何本買えると思ってるんすか……」
「ジュースは銅貨三枚。つまり、銀貨一枚とプラスで銅貨一枚あればジュース七本買えるな」
 銀貨は銅貨二十枚分の価値がある。いきなり当然のこと言わせるカリムに疑問の目を向ける。
「それがわかってるなら釣りは貰えないっすよ」
「じゃあ後にお前が買うジュースを奢ってやるってことで取っとけ」
「……うーん、ありがとうございます兄貴」
 これ以上何を言っても無駄だと悟ったカリムは大人しくお釣りを受け取る。それからカリムはロードの隣に、ツバキはその隣に座ってシエルの出番まで待つ。
「のぅ、ロード、次のシエルの相手は……確かピクルスとかいう奴やろ?」
「おう、前にシエルがぶっ飛ばした奴だな」
「結果は見えてるってことっすね」
 シエルは余裕で魔剣祭を勝ち抜き、ピクルスは学院のエースとして十分な戦いを見せている。だが、ピクルスの場合は学生としての範囲なので当然シエルとは天と地の差がある。
「大丈夫だって。今日の試合は少し楽しめるかもしれないぞ?」
 確信しているかのようなロードの言葉に二人は怪訝な顔を隠せない。だが、その言葉の意味はすぐにわかることになる。

『さぁCブロックとDブロックの決勝も終わり、残すはAブロックとBブロックになりました!』
 実況が無駄に高いテンションで挨拶をする。皆は突然入った実況の声でそちらに視線を向けると、何を見たのか固まっていた。 ロードも気になったので実況席を見ると、ああなるほど確かに固まるなと納得出来る人物がそこにいた。
『皆様もお気づきかと思いますが、Bブロックから特別ゲストに来てもらいました! なんと、エルド陛下の側近であるガランドルさんです!』
 チラリとエルド達を見るとざまぁやら言われており、エルド本人は爆笑しているのであいつだけ何かやらかして正体バレたのでしょうがなくゲストとして参加ということになったのだろうとロードは推測した。ガランドルの目元にキラリと光る何かが見えたのでその説は濃厚だ。
『よう。エルド様の側近やってるガランドルだ。後二試合しかやらないらしいけど、楽しみにしてるから生徒達は頑張ってなー』
 本人は軽く言っているつもりなのだが側近の言っていることだ。どのような言葉でも一般人は緊張してしまう。 ということは緊張において豆腐メンタルなお馬鹿ことシエルは今頃凄いことになっているのだろうなぁと楽しみになるロード。
『さぁ挨拶も終えたところで生徒に出てきてもらいましょう! まずは学生のエース、ピクルス・ノイズレンタール君です!』
 杖をギュッと持ちながら緊張した面持ちでゲートから出てくるピクルス。
「あんな杖持ってたか?」
「魔剣祭のために新調したんじゃないっすか? 貴族ってだけに随分と良い杖持ってますね」
「そんなにか?」
 ロードが見た感じではやけに豪華な杖だなという感想しか浮かばない。なので竜眼で性能を見させてもらうことにする。
「魔力消費を軽減、魔法の威力が大幅上昇、か。これが宝の持ち腐れってやつか」
「ですねー、姉さんなら問題なさそうですけど」
 全く持ってその通りだ。
『さて、対する生徒は今年度の新入生なのに圧倒的な体術で相手を薙ぎ倒してきた期待の新星――シエラ・ルミエルだぁ!』
 歓声がなる。シエルは見た目だけは絶世の美女なので男子生徒には結構人気だったりする。観客の中にはシエル目当てで来ている人もいるのではないかと思うほど歓声が凄い。 だが、誰もシエルに声をかけることは出来ない。なぜなら魔剣祭初日からやらかしたロードが常に側にいるので生徒も観客も怖くて近寄れないのだ。
 そのシエルはというと…………
「ものすごく緊張しておる様子やなぁ」
「これ行けるんすかね?」
「……わからん」
 シエルは見るからにカチコチになっており右手と右足が同時に出ていた。所々でコケそうになっていて一発気合を入れ直してやりたい気持ちになってしまう。
『おいシエルコラ。馬鹿たれ。なんでそんなに緊張してんだよ』
『んぎゃぁ!?』
 ロードが念話で話しかけると驚いたように飛び上がり、ロードが座っている席に注目する。
『んぎゃぁってなんだよ』
『いきなり話しかけられたらビックリするでしょうが! ……それで何の用なの?』
『いんや、面白いくらいに緊張してたからほぐしてやろうかなと』
 流石に勝つのは問題ないだろうが、ロードが予想していた試合にはならないと思ったうえでの念話だ。
『やりたいことあったんだろ? それをしないのはつまらないからな』
『……やっぱりロードはわかっていたか。もう大丈夫、ミスはするだろうけど緊張は少し和らいだわ』
 観客席から見えるシエルの顔が良い顔つきになった。これなら大丈夫だ。
「ねぇ、ピクルスさんだっけ? 少し提案したいことがあるんだけど」
 その後、シエルはロードのような笑みを浮かべて爆弾発言をすることになる。

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