すばらしき竜生!

白波ハクア

第40話 信用

「むかーしむかし、あるところに一体の竜が産まれました」「――ちょっと待って!」「……なんだよ」
 ロードの過去を教えて、とお願いされたので折角最初から教えてあげようかと思っていたのにすぐさま止められた。 自分から聞いてきたのに止めるとは何事だ。しっかりと最後まで静かに聞いてて貰いたいとロードは思う。
「なにか、違う気がするの……」「違うって、お前は俺の過去を知りたいんだろ?」「そうなんだけど、それじゃないっていうか………うーん、何なんだろう……もう分かんない!」「……えぇ?」
 ロードはちゃんと分かっていた。シエルが聞きたいことは、この世界ではないもっと過去の……赤羽クロトだった時の話を聞きたいのだろうと。
 だが、まさか異世界から転生してきたと思っていないらしく、シエルはただの勘で違和感を感じている。 シエルはそういう違和感を感じるのが得意で、ロードもそれに関しては天才だと思っている。
「……お前が聞きたいのは、なんでカリムと知り合いなんだ? って事だろ?」
 このままではいつまで経っても話は終わらないので、さっさと風呂に入って寝たいロードは助け舟を出してあげるとハッとした表情でシエルが顔を上げる。
「それよ!」
(……ちょろいなコイツ)
 勘は人一倍に強いのだが、分からない程度のすり替えを行えばそれに乗ってしまうのがお馬鹿なシエルの悪いところだ。
「あいつとはただの先輩後輩の関係だよ。……あ、言っとくけど俺が先輩だからな?」
 本当は『ヘッド』と『舎弟』の関係なのだが、そこまで違いは無いだろう。
「よし、これで話は終わりだな。それじゃ俺は風呂に……」
 風呂に入ってくると言おうとしたところで、立ち上がるロードの服の裾を掴まれた。
「……まだあるのか?」「うん、多分私が聞きたいのはそれだけじゃないの」
 珍しく食い下がって来るシエル。 ここはキツメに言わないと終わらせてくれないだろうと思い、深いため息をつく。
「教えなかったから何だ?」「え?」「もし、教えたとしてもお前の中で何かが変わるのか? どうなんだ?」「わ、私は……」
 何をそんなに悩む必要があるのかロードには分からない。シエルに対してはあえて"竜眼"を使わないように心掛けているので尚更だ。
「私は、ロードから信用されていないのかって……心配でっ……」
(いやいや、どういう事だっつうの。なぜそこで信用が出てくるのかさっぱり分からん)
 考えすぎて頭が痛くなってきた。なんで一日でこんなに案件が立て込んでやってくるのか、知らないところでそういう呪いでも掛けられているのか。
「……じゃあシエルは俺の事を信用してくれてないんだな」「……………え?」
 シエルは言われた意味が分からずに呆けた顔のままロードを見つめる。
「だってそうだろ? 俺が何も話さないからシエルは俺の信用があるのか心配になっている。……だったら逆に何も自分の事を話してくれないシエルは、俺の事を信用してくれてないってなるだろ?」「……わ……たし、は……そんな事、無い!」
 今すぐにでも泣きそうな顔で迫られるが、軽く引き剥がす。 そして、なるべく優しく諭すようにゆっくりとシエルの目を見て話す。
「俺はシエルの事をこの世で一番信用してるよ。……それこそ、命をかけた戦いの時に背中を任せられるくらいにな」
 自分で言ってて恥ずかしいが無理矢理ポーカーフェイスで押し切る。
「俺が話さないのはその必要が無いからだ。――もちろんシエルが俺の事を信用してくれているのは分かっている。そうでなきゃ一緒の家で共に暮らしてくれないよな」「……ロード………」
 恥ずかしすぎて自分でも何を言いたいのか分からなくなってきた。もうポーカーフェイスなんかを頑張っている場合ではない。 どうしてこうなったと自分を見ているであろう神に問い詰めたいところだ。
「俺も……多分シエルも言えない事情を抱えているんだ。この世界の色んな人がそういうのを抱えて生きている。……そして、知らなくても別に交流は出来るんだ。俺達もそれで良いんじゃねぇか?」
 そう、別に無理して聞く必要も無いし話す必要も無い。確かにお互いを知っている方がより一層絆は深まるだろうが、2人はそれ以上に深まっている。 話し合わなくても目だけでお互いのやりたい事を分かるくらいになっている二人なんて、この世に探しても指で数えられるくらいだ。
「だけど約束させてくれ。俺の秘密は時が来たら必ず言おう。だから……それまで待っててくれるか?」「――うん! ……ひぐっ……うぅ、うわぁあああん!」「なぜ泣く!?」
 シエルは限界だったらしく返事をしてから泣いてしまった。よほど我慢させてしまったなと反省してしまう。
 どれだけ強気に振舞っていても、普通とは違う異常な強さを持っていても中身は十八の少女なのだ。それをいつの間にか忘れてしまっていた。
 だから泣き止むまで側にいてあげなくては信用している仲間として申し訳ない。
「……ごめんねロード。私は自分の過去を一切話そうとしなくて……それなのにロードの過去を聞こうって、自分で自分を追い詰めて………自分勝手で、ごめんね」
 ようやく落ち着いたシエルは、今までの行いを思い出して申し訳無く思っているらしく、暗い表情のまま何度も謝ってきた。 ロードは嘆息しながらもシエルを抱き寄せる。
「気にすんなよ。昔にいた奴らに比べたら、お前の我儘なんて可愛すぎるくらいだぜ」
 そう、過去に出会った奴らはシエルよりもヤバかった。そのうち犯罪でも起こすんじゃないかと他人なのに心配になってしまうほどにヤバい奴らが居るのだ。
「可愛くないくせに自分を可愛いと主張して擦り寄ってくる奴が居たりな。挙句にそいつはストーカーまでしやがった。真っ暗な狭い夜道に巨体が追いかけて来るんだぜ? ……あれはマジで怖かったな」

 あれはクロトが舎弟の学校の文化祭に遊びに行った時。 舎弟自らが作った学校の地図を貰い、彷徨っていたクロトだったのだが、地図のクオリティが悪すぎて何も分からなくなって体育館の裏で休もうかと思っていた。
 そしたら、先着で大柄の男達がたむろって居たので様子を伺っていると、何やら誰かを囲んで口々に暴言を言っていた。 そこに関してはどうでも良かったのだが、休憩するにはうるさい音量だったのでとりあえず全員をぶん殴って静かにさせた。
 そして、囲まれていた女性というのが巨体のお世辞でも決して可愛いと言えない女性だった。大柄の男に囲まれていたのでそこまで目立たなかったが、近くで見るとクロトでも「……おぉう」と何も言えなくなってしまった。
 それから巨体の女性はクロトに一目惚れしたらしく、文化祭中にずっとクロトを追っかけて非常に疲れて、鬱憤は地図を描いた舎弟を殴る事で解消された。
 更には夜道を歩いている時に偶然出くわしてしまい、追いかけられる事態にもなった。数日間は巨体の女性恐怖症に陥ったクロトだった。
 なんとか勇気を振り絞って「俺には好きな人が居るんだ!」と嘘を言うと、女性は号泣しながら走り去ってしまった。その後、女性が現れることは無くなり、心の底から安心した出来事になっている。

「……ふふっ、ロードにも怖い事があるのね」「普通にいっぱいあるぞ。最近では……シエルの料理がトラウマにランクインした」「――うぐっ、私だって練習すればいつかは……」「その練習でダークマターが生まれるからやめてくれ」「なによもう……」
 シエルも機嫌を取り直してくれて、一見落着と思った時に一気に眠気がロードを襲う。時計を見ると深夜の四時に針が来てしまっていた。
「それじゃあ俺は風呂に入ってくるからお前は――」「ねぇロード、今日は一緒に寝ていい?」
 いや、ダメだろとツッコミたかったが、この雰囲気で断れるはずがない。
「……はぁ、俺の部屋で待っててくれ。眠かったら先に寝てて良いぞ」「分かったわ!」
(俺もシエルには甘いな。………さて、さっきから覗き見してる奴らは満足したかねぇ)
 家から随分と遠い場所から反応が二人。 そして、部屋の外から一人の反応。
 どちらも見事な隠蔽だが、竜眼持ちのロードに掛かればバレバレだった。 そう考えるとあの時の仮面の男の隠蔽は見事だったと思える。だからって二度と会いたくはないロードなのだが。
「いってらっしゃーい」
 シエルの声を後に自分の部屋を出るロード。
「私を一番信用してる………うふふっ、嬉しい事言ってくれるわよねぇロードったら……」
 少しの間、シエルはロードが言ってくれた言葉を何度も噛みしめるのだった。

        ◆◇◆

 暗く静かな廊下を歩いて自室に向かう。 中に入ると先に布団に入っていたマイが寝ぼけ眼で顔を出してくる。
「シエル様は大丈夫だったです?」「……えぇ、ロード様が説得して落ち着いたみたいね」
 マイの質問にアイは安心したように頷く。
 今日のシエルはアイから見てもおかしかった。ずっとそわそわしていて落ち着いている様子はなく、チラチラとロードを見ていたので何かあったのだろうと分かった。
 だからといってアイ達が何を言っても意味が無いので見守るしかできなかった。
 大人しく寝てロードに任せようと思ったアイ達なのだが、やはり気になってしまったので盗み見してしまった。
(なんでロード様達はお付き合いしないのかしら……)
 ロード達の会話を聞いてると、なんで気軽にこんな会話が出来るんだと疑問に思う事がある。 メイドとして雇ってもらって何ヶ月か経っているのだが、未だに二人の関係が分からない。
「とりあえず一見落着と見て大丈夫でしょう」「良かったのですー。それじゃあおやすみなさい」「はい、おやすみ」
 マイは再び布団に潜り込んで数秒後には寝息が聞こえてくる。
(私達のご主人様達は様々な意味で前途多難ですね)

        ◆◇◆


「この距離でバレるとか……兄貴って化物っすか」「何を驚いておる。あやつが規格外なのは分かっていた事だろうに……」
 竜王国で街の全てを見晴らせると有名な観光スポットの丘にカリムとツバキは居た。 ツバキはシエルに助言をしてしまったので結果が気になり、覗き見しようと丘に向かっているところでカリムと偶然出会った。
 一人で覗き見も寂しいと思っていたツバキはちょうど良いとカリムを拉致して丘に辿り着くと、ロード達は部屋に入って話し合おうとしているところだった。
 ツバキとカリムはどちらも"遠見"と"読唇術"を習得しているので内容については十分に理解出来たのだが、結果は2人して同じ事を思う。
「なんであやつらは付き合わないのかのぅ……もしやすでに付き合ってるのか?」「それは無いだろう。兄貴って引くくらいの唐変木なのは分かってる。付き合ってはいないだろ」「……シエラも難儀じゃのう」
 友の厳しい恋を思って可哀想になるツバキ。 ツバキの目にはクッションを抱いて悶えているシエルの姿が映っていた。

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