すばらしき竜生!

白波ハクア

第23話 課題と別れ

 村の中心の広場では、六人の子供と二人の男女が対峙し、周りには円を作るように観客の村人が集まっていた。
 シエルがようやく起きたので、子供達の課題の成果を見ようと呼びかけたら、関係の無い村人達も観戦しに来てしまった。
「え〜、これより特訓の成果を見たいと思う。男子は俺が、女子はシエルが課題を出した。 男子組のクリア条件は前にも言った通り、俺のレベル一状態と一分間打ち合いを出来たら課題クリアだ」
 ロードの課題は聞いただけでは難しく感じるだろうが、本当はどうやってもクリア出来る課題になっている。 なぜなら、周囲には子供達の親もいるので、痛めつける事は出来ない。それ故に子供達が倒れる事はなく、ずっと打ち合いが出来る。後は子供達のやる気があるか無いかだけだった。
「女子組は今覚えている魔法をアレンジして打ち出せたら課題クリアよ。無理をして制御出来ない魔法は、魔力暴走しやすいから無茶は厳禁よ」
 本当に難しいのはシエルの課題だった。 一般的に教えられている魔法を放つだけでも最初は脳に負担が掛かるというのに、それをアレンジして放つなど知識が完全でないと普通は難しい。
 それでも子供達はそれぞれが本気を出して頑張ろうと、男子組は自分に合う武器を、女子組はシエルが作った杖を持って構える。
「じゃあ男子は好きなタイミングでかかって来い」「女子は時間をかけてもいいから私に魔法を撃ってね」
 ロードはコインを指で弾く。コインが地面に付いた瞬間に課題開始だ。
「手加減は無いだ」「手加減は無しよ」
―――チャリン
 男子組が四人掛かりで一斉に襲いかかる。タフな二人がロードの正面に立ち、残りの素早い二人が周囲を走り回る。
 少年が背後から、木刀を構えて切り掛かる。ロードは難なく木刀で防ぐが、次の二人の攻撃が左右から襲いかかる。 なんとかその場でジャンプしながら空中で見を捻り、三人を蹴り飛ばす。子供達はよろめいて少しだけ距離を取る。
「役割分担はしっかり出来てるな、村長の教えもちゃんと吸収している。攻撃のタイミングも完璧だ」「そんな……無傷なんて」
 冷静に状況を把握するロードに対して、男子組は今の攻撃が当たらなかった事に驚愕していた。 試験が始まる前日に対ロード用に作戦を練って、この戦術が生み出された。そして、先程の一撃は何度も村長と練習した。それなのにロードは避けた。
 ロードは確かにレベル一で戦っている。先程の蹴りを本気で放ったらよろめくだけでは済まされず、子供達は一瞬で肉塊になっていた。それに、本当に本気ならば開始と同時に試合は子供達の細切れで終わっていた。
 今のロードは攻撃や反応速度の何もかもが衰えている状態だ。それなのに連携攻撃を避けられたのは、ただの村長とロードの戦い方の違いだった。
 剣主体の村長だったならば、鍔迫り合いの時に左右から攻撃が来たら片方は対処出来ても、もう片方の攻撃は受ける事になってしまう。
 その分、ロードは空中戦で蹴り技主体の戦闘スタイルだ。真横からの攻撃など跳んでしまえば問題無く、お返しの追撃も簡単に出来てしまう。
「さぁ、まだ時間はあるぜ? どんどん打ち込んでこい」

        ◆◇◆

 コインが地面に付いた瞬間に女子二人は詠唱に入った。二人はこれ程までに無い集中力で魔力を練っていく。
 魔法はほとんどの場合、魔力の構築が必要になってくる。下級魔法くらいならすぐに出来るのだが、二人が放とうとしているのは中級魔法だ。上位の魔法になるにつれてそれなりに時間が掛かる。
 もちろん、シエルは下級魔法しか教えていないので中級魔法を放つという事は、下級魔法を自分なりにアレンジして放つという事になる。 だから普通の中級魔法よりも時間は掛かるが、少女がそれを放てた時点で課題はクリアとなる。
 気長に待っていると、一人の魔力構築が完成したようで杖に魔法陣が浮き上がってきた。
(見た感じ炎属性ね。さて、水魔法の準備っと……)
『―――灼熱よ、我が槍となりて敵を穿て"焔の飛槍ファイアランサー"!』
 杖から撃ちだされた直径二㎝の棒が、一直線にシエルの頭目掛けて跳ぶ。
 下級魔法に"火球ファイアボール"という、小さな球を放つ魔法がある。それを自細くして貫通力を高めた魔法が"焔の飛槍ファイアランサー"だ。もちろん中級魔法である。
 まだ小さい子供が中級魔法を放った事に周囲の村人達は歓声を上げた。少女の親は感動で泣いてしまっている。
 だが、村人は同時にシエルを心配していた。中級魔法になると魔法の殺傷力が格段に高くなる。 その中級魔法が拳銃を上げているだけのシエルに放たれるのだ。そんなの心配するに決まっている。
 そんな村人の心配をよそに、弟子の成長を嬉しく思っているシエルは、魔弾を1発撃ちだす。 魔弾は精確に"焔の飛槍ファイアランサー"とぶつかり、どちらも次には消滅した。
 これが普通と言うように簡単に中級魔法を消滅させたシエルに、村人は呆然としていた。
「さっきの魔法は"火球"からアレンジしやすいから使いやすい魔法なの。だけど、頭や心臓に当たると確実に普通の人は死ぬから、使うのは注意が必要よ」「は、はい」「うん……じゃあ合格!」「あ、ありがとうございます!」
 シエルは村人のそんな気持ちに気づかずに先程の魔法を解説して、合格を出した。 少女は喜んでお礼を言い、見守っていた親に駆け寄って褒められている。
「……さてと、残りの1人は―――ッ! これは―――!」

        ◆◇◆

 絶え間なく木刀がぶつかる音が鳴り響く。 男子四人は既に満身創痍となっていた。いくら切りかかろうともロードには隙が無く、木刀で攻撃を流され蹴り飛ばされる。
「―――はい、一分経過。ご苦労さん」
 試合をしている時でも時間を数えていたロードは、一分間が経ち終了の合図を出した。本当はまだやっていたかったロードなのだが、子供達の方が満身創痍だったので、仕方なく終わりにする。
 もう限界らしく、倒れ込んで起き上がれなくなっていた。しょうがないので白竜の指輪に魔力を込めて回復してあげると、ノロノロと起き上がってきた。
「まだ体力面で鍛えるところがあるが、とりあえず一分間の打ち合いは達成だ。全員課題クリアおめでとう」
 周囲から頑張った男子達に拍手が送られる。四人は喜びの声をあげながら、ハイタッチをしている。
「……さてと、あちらさんはどうなっているのか―――おい、マジかよ」
 女子二人の方を見てみると、ロードも驚愕の光景が広がっていた。シエルを見ると、本人も驚いているようだった。
 そうなるのは仕方が無い。 なぜなら一人の少女が放とうとしているのは―――超級魔法なのだから。
 やがて少女は言葉を紡ぎだす。
『―――私は望む。全ての者に幸運が舞い降りる事を。全ての者に癒やしが舞い降りる事を。 ―――故に我は望む。汝らに幸あれと。 "広範囲完全回復パーフェクトヒール"』
 少女から光の奔流が空に流れ出す。それは少女から生えた翼にも見える。 奔流は上空に数秒だけ留まると、雨のように降り出した。
「―――うわっ! なんだこれ!」
 声がした方に振り返ると、男が驚いて自分の体を見ていた。その体は綺麗な肌・・・・をしていた。その男を知っている村人なら、それが異常だとすぐに理解出来ることだろう。
 ロードも覚えている。あの男の体には幾つもの古傷があった筈だ。それが一切無くなっている。
 その原因は"広範囲完全回復パーフェクトヒール"だ。 この超級魔法の回復魔法は、その名の通り範囲内にいる者の負傷している部分を完全に回復するという魔法なのだ。
「お、おお! 腰が軽くなりましたぞ!」
 結構な年をいっていた村長も腰痛が治ったらしく、驚いて腰を曲げたり、ジャンプしていた。
 その光の奔流も終わりを迎える。徐々に光が弱くなっていき、完全に光が消えた。 全員が超級魔法を発動した少女を見ると、少女はふらふらしたあとパタリと倒れ込んだ。
 少女の親は少女を抱えて家に運ぶ。他の村人達は突然の出来事に一瞬呆けていたが、段々と事態を把握し始めて動き出す。
「ロード、さっきのってやっぱり………」「間違いない、超級魔法だ。どうやら俺達は凄い才能を発掘したらしいな」

        ◆◇◆

 少女が倒れてから数時間後、ようやく落ち着いた村長、ロードとシエルの二人が宿の酒場に集まっていた。
 ロード達は少女が倒れてから、この後どうしようかと村長に聞いてみたところ「一度部屋に戻っていてください。後で夜にそちらに伺いますので」と言われたので、部屋でくつろいでいた。
 二人して風呂にあがり終わった時にタイミング良く村長から呼び出しがあり、ロードとシエルは宿の酒場に向かった。
 そして、村長達で話し合った事を聞いていたのだが………。
「お願いします!」「――無理」
 村長はロードに土下座をしていた。
 話の内容は、超級魔法を発動した少女が、いつ魔力を暴走させるか分からないのでロード達に力の使い方を教えてくれないか、という事だった。 それだけなら良いのだが、ロードは明日にでも村を出て竜王国に行きたいと思っていた。それはシエルにも言っていたし了承済みだ。 なので、手伝ってあげたい気持ちはあるのだが、その申し出を拒否した。
「俺達は明日に村を出るから教えられないんだ。教えてあげる時間が無い」「なんと……それは急ですな。お見送りも考えなくては」「うーん、なら連れてってあげれば?」「は?」
 そんな事を言い始めたのはシエルだ。ロードは反射的に、何いってんのコイツ、頭逝ってる? と思ってしまった。
「それはダメだろ。何より一番は子供の気持ちが大切だ」「ロードが気持ちが大切って言うとかありえないわぁ」「あんだとコラ」
「それでは、親と子の了承が得られれば良いのですか?」「ん、ああ、そうだな。それなら文句は言えないな」「私は別にどっちでも良いけどね、人数が増えれば旅も楽しいんじゃない?」「………分かりました。ではまた明日に」
 そこで見せた村長の何かを考えている顔に、ロードは嫌な予感がしたが特に気にしないでその場は解散になった。
 〜翌日〜
「………どうしてこうなった」
 ロードの目の前には、気合を入れて荷物を持っている6人の子供が立っていた。 そこから超級魔法を発動した少女が一歩前に出てくる。
「ロードお兄ちゃん。今日からよろしくお願いします!」「お、おう……?」
 眩しく感じる笑顔にそう言うしかなかったロードだが、どう考えてもおかしいと思っていた。確かに、親と子の了承を得られれば仕方が無く同行を許可すると言った。
 しかし、子供達全員が来るとは予想外過ぎて内心頭を抱える。 隣に立っているシエルはニヤニヤしていた。どうやら全員来るのは予想済みだったらしい。ロードはそんなシエルを見て「嘘だろ……」と呟いた。
「おい、親諸君? あんたらはそれで良いのか?」
 ダメ元で本当なのか聞いてみたが、答えは全員の頷きで返ってきた。
「ロードさん。うちの子を頼みます」「こんな辺境の村に子供達を置いておくのも可愛そうだと思ってたので……」「この子には一般的な家事は出来るように教えときました」
 親達が一斉にお辞儀をする。それにならって子供達も同じくお辞儀をして、ロードは尚更断りづらくなった。
「……連れて行くのに条件がある。 一つ、俺とシエルの言うとこは守れ。 二つ、最低限の生活は自分達でやってもらう。 三つ、勝手に死ぬのは絶対に許さねぇ。 これが約束出来る奴は名前を教えろ。仲間として認めてやる」
「あら、お優しい事ですわねツンデレロードさん?」「うるせぇぞシエル」「――あいだッ!」
 グリグリと横腹を捻ってくるシエルに、強めのデコピンで黙らせる。
「……それで? どうするんだ?」
「――ガイです! お願いします!」「ビストルです! お願いします!」「ライドです! お願いします!」「キイトラです! お願いします!」「あ、アリルです。よろしくお願いします!」「ウルです。お願いします!」
 こうして新しく六人が仲間に加わった。
「子供達は俺達が責任を持って預かる」「こいつはキツい口調だけど仲間には優しいから心配しないでね」
「ロード殿、これを」
 代表として村長が袋を渡してくる。中身を見てみると、銀貨が四枚と銅貨が二十枚入っていた。村にとっては相当な大金だ。
「貰っていいのか?」「これが皆の気持ちと受け取ってくれれば幸いです」「ありがとう。お返しにこれやるよ」
 虚空から黒い一枚の薄い物を村長に渡す。
「……これは?」「本当に信用できる商人が来たら売り渡せ。少しの金になる筈だ」
 その後、少しの金になるだけではなく大金として返ってくるのだが、それはロードの知らぬ事である。
「それでは馬車を用意しましたので、どうぞこちらに………」「そんな物まで用意してくれたのか?」「ちょうど備蓄品が少なくなってきましたので護衛も兼ねてですよ」「わかったよ、任せろ」
 そうして連れられた場所には、アニメでもよく見られるザ馬車と言える物があった。馬は栗色の毛で見た感じガタイが良く、長時間走れそうだった。
(ドラ○エ8とかってこんな馬車だったなぁ。………馬が白毛だったら完璧だったのにな)
「ロード様ですね? 今回、馬車を操縦しますロランと申します。どうぞよろしくお願いします」「あぁ、よろしく。旅の安全は保証してやるから気を楽にしててくれ」
 ロランはガチガチに固まりながら、それでも流暢に自己紹介をしてくれた。村を救ってくれた恩人を前にして緊張しているようだった。
 子供達とシエルが乗り込んだのを確認してから、ロードも馬車に乗り込みながら村長と別れを告げる。
「それじゃあ行ってくる」「行ってらっしゃいませ。子供達を頼みます」「任された」
 馬車はゆっくり発進する。 そこでロードは村長にフルネームを教えていなかったのを思い出し、言っておいたほうが礼儀だろうと思い馬車から顔を出す。
「そういえば村長に俺のフルネーム教えてなかったな! 俺はロード・ヴァン・アデルだ。また来るぜ!」
「……アデル? はて、どこかで聞いたことが……それに、あの時の黒い竜の姿……―――あ!」
 ロードの正体に気づいた時には馬車は加速して遥か遠くに行ってしまっていた。
「………ありがとうございます黒竜様」
 村長はロード達が乗った馬車が完全に見えなくなるまで深いお辞儀をしていた。

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