すばらしき竜生!

白波ハクア

第16話 決闘と遊び

 村の広場には村人全員がアランとロードを囲んでいた。シエルに告白して撃沈したアランが、ロードに喧嘩を吹っ掛けて突然始まった決闘だ。
「勝ち負けは降参か戦闘不能で決まる。殺すのは禁止。 俺はハンデとして絶対に本気を出さない、手足を使わない、1歩も動かない、技能スキルを使わない。もし使った場合は負けが確定する。本当に使っていないかはシエルが確認する。 お前は持てる手段を全て使う、武器は自由、別に俺を殺してもいい、これでいいか?」「……え? お、おう。そっちこそそんなに制限掛けて大丈夫なのか? 負けてから「本気を出せばあんな奴」とか、言うんじゃねぇぞ」「むしろこのぐらいしないと、お前をうっかり殺しちゃいそうだからな。いいハンデだと思うぜ?」
 他から見ればロードの圧倒的不利な場面だ。村長は、あり得ないハンデにロードの事が心配になってしまう。
「シエラさん、本当に大丈夫なのでしょうか?」「ん、大丈夫よ。あんだけ制限掛けとけば、ロードでも間違って殺す事は無いから」「は? ……いえ、そちらの心配では無く、もしロードさんが負けてしまったら………」「――プッ……アハハハ! 面白い事言うわね、ロードが負ける? そんなの世界が滅ぶくらいあり得ないわよ」
 村長が心配してシエルに問いかけるが、返答は大笑いで帰ってきた。思わぬ返答に村長は呆けてしまう。 シエルはロードが負けるなどと一切思ってなく、微かに鼻歌を歌いながら建物の屋根に軽々と跳んで観戦を始める。
 観客の村人達は、どちらが勝つか賭けをしている。現在、勝つと予想されているのは圧倒的にアランが多かった。
 アランは入念に身体を伸ばし、剣を片手に持つ。アランの剣は派手な装飾は無いが切れ味は十分ある村で一番の出来だ。 対してロードは何もしていない。ただ目を瞑っている。なぜなら準備運動しても、一歩も動けないし手足も使えないので意味が無いのだ。
「双方、準備はよろしいですか?」
 進行役の村人が二人の間に立つ。
「大丈夫だ」「………同じく」「勝敗は先程ロード殿が言った通り、降参か戦闘不能で決まります。 それでは―――始め!!」
 アランにとっては本気の、ロードにとっては暇つぶしの戦いが始まる。
「――ウォオオオ!」
 仕掛けたのは当然アランだ。気合十分に駆け出してロードに斬りかかる。 ロードは一切動かない。
(構えも取らないなんて余裕のつもりか? だが、相手は攻撃の手段が無い筈だ。一体どうやって勝つつもりなんだ!?)
(………やっべぇ、どうやって勝とう)
 アランが剣を振り下ろすがロードは半身で避ける。 余裕を持ってハンデをあげたが、技能スキルを使わないという制限は痛かったかもしれない。"硬化"も使えないので避けるしか無い。……別に使わなくても傷は付かないと思うが、少しは痛いと思うのであえて避ける。
("竜眼"で睨めば恐怖で腰を抜かすだろうけど、一応あれも技能スキルだし。使ってもバレないけど、俺のプライドが許さねぇ………よし)
 初撃を躱されたアランは剣の軽さを活かして更に追撃する。ロードが1歩も動けないのをいい事に剣を左右に振り回す。
「オラァ! どうした、避けるしか出来ねぇのか!?」「……そりゃあ、一歩も動けないんだから避けるしか出来ないわな」「――ブフッ、クククッ」
 二人の言葉のやり取りに白髪の吸血鬼が笑いを堪えきれずに吹き出した。足をバタバタさせて楽しんでいるようだ。 なんかムカついたロードは、全ての村人に視認出来ない驚異的な速度で"収納"から小石を取り出し、シエルに投げつける。 振り向かずに投擲された小石は見事にシエルの眉間に当たり、「――アイタ!?」という声と共に、シエルが屋根から転げ落ちる。しかし、村人達は決闘に夢中で、誰も屋根から落ちたシエルの事など気付かなかった。 シエルは、若干涙目になりながら赤くなった額をさすって、再度屋根に跳んで静かに座る。
「おら、どうした! さっきから頭を狙ってねぇぞ。お前の剣で人を殺すのが怖いか? 心配すんな、お前の鈍い剣じゃ一生俺を殺せねぇよ!」「―――なんだとこの野郎! やってやらぁ!」
 飽きてきたロードは、さっさと終わらす為に挑発で頭に攻撃を促す。一切攻撃が当たらずにイライラが募っていたアランは挑発に乗ってしまう。 十分に溜めた渾身の一撃はロードの顔面に真っ直ぐに向かっていく。観客の村人から小さな悲鳴が出る。
――ガッ。
「「「「「………え?」」」」」
 誰もがアランの剣が、ロードの頭を切り裂く未来を予想した。だが、結果として全員の予想を裏切ることになる。そして、1番事態を受け入れられてないのはアラン本人だった。
「なん………だよ……それ。………そんなんありかよ!」「うるへぇうるせぇ現実をひろ現実を見ろ
 剣は頭を切り裂く事はなく、ロードの歯で挟まれてピタリと止まっていた。どう考えても普通の人がやる事ではない行動にアランは驚愕で止まる。
 片手剣での攻撃とはいえアランは筋骨隆々の青年であり、パワーもあり剣を降る速度も速かった。それが、いとも簡単に歯て止められたのだ。
「………フンッ!」
 ロードが小さく気合を入れて歯に力を入れると、剣にヒビが入り軽快な音と共に砕け散る。それは、アランの心が崩れさる音でもあり、その場に崩れてへたり込む。
「おい、終わりか?」「……………」「―――チッ」
「勝者、ロードさん!」
 進行役がコールをするが、歓声など起きはしない。皆、呆然としてアランを見つめるのみだ。 ロードは後ろを向いて帰ろうとする。
―――パチパチ
 そんな音が上からした。シエルだけは普通を保っており、勝者に対する拍手を送る。 その音に我に帰ったのか、村長も遅れて拍手をし、次々と拍手が大きくなる。 シエルは屋根を蹴り、ロードの隣に降り立つ。
「相変わらず容赦無いわねぇ。あの人……立ち直れないかもよ?」「……そんなの知らねぇよ」「………内心焦ってたでしょ」「は? なんでそう思うんだよ」「どうしようって顔してた」「………見え見えか」
 隠しても無駄だと思い、シエルには正直に違う意味で苦戦していた事を認める。
「……で、どうだった? アラン……だっけ、強かった?」「毎日鍛えれば力量は村長ぐらいには強くなるだろうな。……心は脆すぎだ、剣を折られたら次は拳で掛かって来て欲しかった。総合評価は微妙って所だな」
 攻撃手段が無かったので、すぐに歯で噛み砕こうと思い。それでも掛かってきたら本当にどうしようと思っていたが、その心配は杞憂だった。
「お前だったら、どうした?」「うーん、魔法を使うわね。魔法と技能スキルは違う物だし。………もしかして知らなかった?」「俺は攻撃系の魔法を覚えてないんだよ」「そうなの? 私も強いのは覚えてないけど、後で教えてあげようか」「……………はぁ、頼む」「フフッ♪ 了解よ♪」
 ロードの初めての頼みに、シエルは一瞬驚くがすぐに笑顔を浮かべる。ロードは無意識にシエルに対して少しだけ心を開いており、彼女になら教えを乞うても良いと思う事が出来ていた。 シエルは、少しでも心を開いてくれた事に嬉しくなり、ロードの隣に並ぶ。
「………なんだよ」「んー? 何でもなーい」「………あ、そう。じゃあ宿にもど――」
「「「「ロードさん!!」」」」「……今度は何」
「「シエラお姉ちゃん!」」「え、私!?」
 二人が振り向くと先日助けた子供達が、真剣な顔でこちらに向かって走ってきた。ロードに向かってきているのは少年四人で、シエルに向かってきているのは少女二人だ。 後ろでは子供の親が、何を言い出すのかハラハラして見守っている。
「「「「「「自分達に稽古をして下さい」」」」」」
「「………マジですか」」

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