すばらしき竜生!

白波ハクア

プロローグ

 赤羽クロトは死んだ。 人生これからだという時期……大学生になる一歩手前の時期に暴走トラックに引かれそうになってる少女を助けて短い人生が終わった。

      ◆◇◆

 赤羽クロトは一種の天才と言われる人間だった。いや……天才というのには少し語弊があるだろう。思考も天才の様に一枚上の考えもしていないし、様々な考えを導き出すことも出来ない。
 クロトは脳の側頭葉……つまり記憶力が異常に発達している特殊な体質だった。一度見たものはすべて覚えているし、そのおかげか学力で誰にも負けたことが無くクロト自身も負けず嫌いだった。
 親も親戚もクロトの体質を知ってとても喜んだ。学校のクラスのみんなもクロトの事を「お前は天才だから、将来はすごい所に就職するんだろうな」と言ってきた。常に皆がクロトに期待の視線を浴びせてきた。 クロトも最初は期待に応えよう、頑張って皆にもっと認められようと思って勉強や現代科学、医療関係と色々な事を覚えていった。
 だが高校生の中盤で皆の想いに応えるのは無駄だと思い始めた。何をやっても「天才だから当然だろ。お前ならもっと出来るよ」と周囲から言われるようになった。最初は優しく微笑んで応援してくれた親も厳しい目線を向けてくるようになった「そんな事で満足してるんじゃない。何故もっと先へ進もうとしないんだ」と誰もクロトを認めてくれなかった。
 クロトは段々と周囲の目線が嫌になってきて家出を決意した。とりあえず『クロト』という存在を知らない人が多い所へと歩いた。そんな夜中に道をフラフラと歩いていると不良に絡まれた。そしてボコボコに殴られた、完膚なきまでの大敗北だった。初めて負けの味を知ったクロトは悔しかった、それから本屋に行きすべての格闘技が載ってる本を買って必死に覚えた。
 それからクロトは不良達にリベンジをしに行った。元々考えれば不良は格闘技をほとんど知らない殴る蹴るだけの暴力をしてる者達だ。結果は勝利に終わり、達成感は今までで一番大きいものとなった。
 数日後、格安のアパートを借りて住んでいたが金が無くなってきたので身元を隠してバイトを始めた。その日はバイトの終わる時間が遅くなってアパートまで暗い道をを歩いていたら街灯の奥から人が大勢歩いてきた。顔を覚えていたのでこの前喧嘩した不良だとすぐに分かったので少し身構えると不良達は予想外の行動に出た。自分達を舎弟にしてくれと頭を下げてきたのだ。
 クロトは少しの間、意味が分からず呆けていたが意味を理解していくと同時に面白いと思った。こいつらと一緒にいれば新しい自分を見つけられるのではないかと期待していた。
 それからクロトは不良達と行動を共にするようになった。他の不良グループと喧嘩もしたり、舎弟達がバイトまで来るから叱ったり、ゲームセンターで一日中遊んだり、天才という枠と違う場所に居るのはとても楽しかった。その頃に俺達の不良グループ【竜の心臓ドラゴンハート】も街で一番大きいグループになり生活は充実していた。
――そして事件は起きた。
 クロト達が赤信号で停まっていたら、向かい側の少女に暴走したトラックが突っ込んできた。誰もが急な出来事だったので動けなかったがクロトだけは反射的に動いてしまう。
 少女の元に駆け寄り人が居る所に少女をぶん投げた。その瞬間に息が詰まるような衝撃がクロトを襲っては空中を舞った。舞っている間は全ての時間の経過がスローに感じて、地面を見てみると大量の血と人々の視線がクロトに向いている。共に楽しい時間を送っていた舎弟達が何かを叫んでいるが感覚が麻痺しているのか何も聴こえなかった。先程の少女が気になり投げた場所を見てみると少女もクロトを見ていた。少女はとても泣きそうな顔をしていたが無事であると分かって自然とクロトに微笑みが出た。
「……あぁ………よかった」
 そこで意識は途切れる。 赤羽クロトの人生がそこで終わった瞬間だった。

      ◆◇◆

「おぉクロトよ。死んでしまうとは情けない」
 気がつくと目の前には無駄に光を放っている正直言って怪しい優男が立っている。(ここは? 確か俺は暴走トラックに引かれそうになった少女を助けて死んだはず)
「いやぁ、戸惑っているらしいね、まぁ無理もないか」
 とりあえず状況を把握するために周りを見回すと永遠に白い空間が広がっていた。そして周りにはクロトと優男以外は居ないらしく更に状況が分からなくなる。
「………うん、そろそろ無視しないでくれるかな? 僕泣いちゃうよ? 泣くよ?」「あの……うるさいんで黙っててくれますか? というか誰? あんたが元凶?」
 本気で涙目になっていたので流石に可哀想になってきたクロトは優男について考える事にする。クロト自身、質問をしているが優男が間違いなくこの状況を知っているだろうと思っている。
「ちょ、ちょっと待って。そんなに沢山質問されても答えられないよ。一つずつ答えて……というか黙れって酷くない!?」
 フレンドリーな優男に少しイライラしつつクロトは落ち着かなければ考えられるものも考えられなくなると思い気にしないように心掛けた。
「じゃあまず一つ。あんた誰?」「うん僕はね……君達人類の神だよ!!」「………はい次の質問。あんたが元凶?」「えぇ!? 華麗にスルーかい!? ビックリしたりとか少しはしてみたらどうだい」
 (いや、だっていきなり神とか名乗られても痛い人かと思うじゃん? 実際にそう思ったからスルーしたのに本当にうるさい変人だな。 確かに神々しい光を放っているし、神ってこんな空間に住んでそうな感じするから本当に神なんだろうとは思うけど「えぇ! そうなんですか!?」とかリアクションしたら絶対に調子乗るだろ)
「はぁ……うん。確かに君をこの空間に呼んだのは僕だ。そして君を呼んだ理由は他の神からお願いが来てね」「お願いってなんだよ。もう死んだ奴に何も出来ないだろ?」「そう! それだよ。実は若くして死んだ人を自分の世界に転生させてくれって頼まれたんだよ。その世界は魔物とかが沢山いて、そいつらと戦う世界なんだけど死んだ人達がもっと平和な世界に生まれ変わりたいって言って魔物を狩る人が少なくなっちゃったんだって」「それで俺達に代わりに行って欲しいと?」「そうそう。お願いできるかな?」
 クロトの舎弟の中にはアニメオタクが何人かいて様々なアニメを一緒に観ていた時期があり、異世界転生系のアニメも何回か観ていて行きたいと思ったことはクロトも何度かある。
「……本当ならお願いしたいけど。魔物が出るんだろ? やっぱり危険じゃないのか?」「あぁ心配しないで。完全にこっち側の都合でお願いしてるんだからそれなりの力は与えるようにするよ」
 やっぱりチートは貰えるらしいがクロトは異世界転生のアニメを観てて思っている事があった。(絶対につまらないだろ)
「さぁそうと決まったら能力は何がいい?」
「喧嘩強くてタフなやつでよろしく」
 これがクロトの答えだ。
「……………え?」「ん? なにか問題でも?」「あ、いや。分かったよ………任せて!」
 優男(神)が何に意気込んでいるか知らないが頑張ろうとしているなら良い事だと思いクロトはそこまで気にしなかった。というより急な展開過ぎて少し気にする余裕がクロトには無かった。 正直言って異世界転生はしてみたいとクロト自身思っていたのだ。
「うん、連絡も取ったしもう行けるよ。それじゃあ行ってらっしゃい。後でそっちの神が挨拶に来ると思うよ」「はいよ、いろいろありがとな……行ってきます」
 ふと違和感を感じクロトは自分の体を見てみると体が透明になりかけていた。 神がにこやかに手を振って再度意識が遠のく感覚があり視界が暗転した。

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