オレンジ色の魂

ノベルバユーザー225269

14(終)





 二ヶ月後、姉と母は屋敷に戻ってきた。 姉は体調の悪い私を気遣い、私の部屋で小説を読んでくれた。ロジャーはオレンジの花を持ってきてはそれを活けてくれた。
「ねぇ姉様」「どうしたの、サーシャ」「立場が逆転しちゃったね」
 姉が泣きそうになるのが分かっていながら私はそんな言葉を言う。決して嫌味で言っているわけではない。ただほ、ちょっと前までは私が姉のために本を読み花を摘んできていた。それが今度はそれを受ける側になってしまった。
「ごめんね、姉様」「…何が?」「一緒に花摘みにいけないや」「っサーシャ」
 あぁやっぱり泣かせてしまう。泣いてほしくないのに。笑顔でいてほしいのに。一日一日終わるごとに私の体調もどんどん悪くなっていく。いつかは言葉を話すのも億劫になるだろう。そうなる前に、言いたいことを言っておきたいだけなのに。
「ねぇ姉様、お願いよ」「なぁに、サーシャ」「今度は幸せになって」
 お願いだから、もうすぐ邪魔者はいなくなるから。どうかロジャーと仲良く幸せな夫婦になって。
「二人は私の理想の夫婦よ。きっと誰もがうらやむような夫婦になるわ」「サーシャ、そんなこと言わないで。ロジャーはあなたの夫よ。あなたの夫なのよ」「今はね。大丈夫よ。もうすぐで姉様のものになるから」「やめて、サーシャ。お願いだからそんなこと言わないで。私はロジャーと結婚することよりも、あなたに生きていてほしい!私元気になったのよ?サーシャとこれからいっぱい遊べるって、そう思って、思ってるのに」「あぁ、ごめんなさい、姉様」
 涙を流す姉の頬に触り、その涙を拭う。
「サーシャ、お願いよ。私は誰よりもあなたを失いたくないの。あなたは私の妹であり、友達でもあるのよ?あなたを失ったら私は…」「姉様」「サーシャ」
 私たちは抱き合って泣いた。ただただ抱きしめあって泣いた。 やっぱり私は姉が大好きだ。




「サーシャ、しおりを作ってみたんだ」「その花はあのオレンジの花?」「そうだよ。綺麗だろう?」「えぇ」「この花はサーシャの花だからね」
 ロジャーはしおりを私に手渡すと、私の頬を優しく撫でた。
「ねぇサーシャ、してほしいことはない?」「ないわ。十分満足してるの」「本当に?」「えぇ」「今日はここにいてもいいかい?」「一晩中?」「あぁ。君の傍にいたんだ」「ふふ、姉様が妬かないんだったらいいわよ」
 私とロジャーの関係は、以前よりはよくなったように思う。変な緊張感もなくなった。今は普通に話せるようになった。
「ゆっくりお休み、サーシャ。そして早く元気になって」「ふふ、ありがとう」

 穏やかな日々。こんな日々がずっと続けばいいのに。昔のように今は居心地がいい。変に嫉妬することもなくなった。身を焦がすような熱い熱情もなくなってしまった。だからだろうか、心が荒れることもなく私は日々を楽しく過ごせている。 死期が近まるにつれて、私の周りには必ず誰かが傍にいた。姉の事もあるし母のこともある。もちろんロジャーのことだって。一番びっくりしたのは父も時々顔を覘かせてくることだ。今までの父と違いすぎて戸惑うこともあるけれどそれはそれで良かった。



 そしてあの薬を飲んでから半年が過ぎようとするとき、ついに私の体は限界にたっした。あぁ死ぬのだ、そうわかった時私は迷うことなくロジャーを呼んだ。 初めて見た時よりも男っぽくなったロジャー。期待の騎士として今も注目を浴びている凄い人。私が手を伸ばしても届くはずのない遠い遠い存在の人。それなのに私はその人の隣に三年もいた。辛いことばかりだったけれど、傍にいられたのだからいいではないか。時に思い出したように私のことを気にかけてくれたロジャー。家のために利用された一番の被害者は誰でもロジャーなのではないのかと私は思うようになった。
「サーシャ、サーシャ」「ロジャー様」「駄目だよ、逝くには早すぎるよ」「ロジャー様、私ね、ずっと言っていなかったことがあったの」「うん、何だい?何でも言ってごらん」
 ロジャーは私の手を握りながらそう促す。 私は今まで決して言うことのなかった想いをやっとここで話すことにした。

「ずっと好きでした、ロジャー様」「っ、サーシャ」「ずっと縛り付けてごめんなさい。やっと、やっと解放してあげられる。長い間ごめんなさい」「サーシャ」「お願いよ。私の分まで二人で幸せになって。私がうらやむくらいに幸せになって。あのころのように笑っていて」「サーシャ、僕は」「今まで本当にありがとう…。皆に愛しているって伝えてください」「サーシャ!逝くな!僕は、僕は!」
 私の瞼はゆっくりと閉じられる。
「サーシャ、駄目だ!逝くな!僕だって、君のこと!」
 ロジャーの言葉を聞く前に私の目は閉じられた。






「あぁ、本当に馬鹿な子。自分で幸せを潰してしまうんですもの。あの薬でロジャーに愛してほしいと願えばよかったのに。そうすればロジャーはあなたを誰よりも愛してくれたのに。それが最初は愛ではなくても、それは徐々に愛になって行ったのに。まぁもちろんサマンダの命は天命だからあなたがあの薬を飲んであの願いをしなければ尽きていたでしょうけどね。本当に最後まで自分のことは後回しだったのね。まぁでもそれでこそ私が手に入れたかった魂よ」
 フレイアは空に浮かびながら屋敷を眺めていた。 部屋の中ではロジャーやサマンダたちが泣き崩れている。「戻って来て」「逝かないで」そんなことを言っている。
「無駄無駄、サーシャの魂はもう俺が持っているからね」
 男の恰好になったフレイアは瓶を手に持っていた。そこにはオレンジ色の光を帯びた何かがあった。
「馬鹿で愚かで哀れな子。未来はいくらでも変えられたのに、結局この道を選んでしまった。あぁ、本当に馬鹿で愚かで哀れな子。君は愛されるべき人間だったのにね。でも、安心して。これからは俺が愛してあげるから。ずっと君を手に入れたかったんだ」
 フレイアは瓶をぎゅっと胸に抱くと、赤い口紅がついたその唇を瓶に押し付けた。
「君の体はとりにいけないから、作ってあげるよ。もちろん同じ容姿、体格でね。その中にこの魂を入れてあげる。サーシャ、君の魂はずっと俺のものだよ」
 その言葉を最後にフレイアは姿を消した。






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