オレンジ色の魂

ノベルバユーザー225269

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 それからゴンドは屋敷に週一回の割合で屋敷を訪ねてくるようになった。そのたびに色々な薬を置いていくのだが、どれを飲んでも体調がよくなることは無かった。
「サーシャ様、レイド様がお見えです」「父様が?」「はい」「分かったわ。通してちょうだい」
 滅多に顔を見せることのない父が珍しく私の部屋に訪れた。 最後に見た時より幾分老け込んだ父がそこにはいた。白髪も増え、皺も深く刻まれていた。
「どうなさったんですか、父様」「サマンダが治ったと思ったら次はお前が倒れるとはな。それで医者は何と言っている」「原因不明だと」「はっ、原因不明だと?」「はい」「馬鹿馬鹿しい。かかりつけの医者にお前を診せることにする」
 そう言って部屋から出て行こうとする父を私はとめた。
「父様、誰が診ようと結果は変わりませんわ」「何」「私はもう長くありません」「…」「だからお願いがあるのです」「…何だ」
 私は一つ深く息を吸い込んだ。
「姉様をこの屋敷にお戻しください」「何を言っている」「先ほども申しましたように、私はもう長くはありません。夫であるロジャー様の後妻にはどうか姉様を」「サーシャ!!」
 久しぶりに父に名前を呼ばれた。この人は私の名前をちゃんと憶えていたのか。

「軽々しく死を口にするな!」「けれど父様私は」「黙れ!お前は、お前は」
 父は私のもとまで大股で歩いてくると、私の肩をがっと掴んだ。
「お前は生きねばならんのだ!リリスのためにも!!」「おかあ、さん?」「そうだ。私は約束したのだ。お前を誰よりも幸せな人生を送らせると、リリスと約束したんだ」「どうして」
 私は驚愕の目で父を見た。
「だからロジャーと結婚させたのに。それがお前の幸せだと、そう思って。それなのに、それなのに…私は、私は」「父様」「私のしたことは間違っていたのだろう?」「父様」「現に誰も幸せになっていないじゃないか。サマンダもロジャーもお前も…。誰も笑っていない。こんなはずじゃなかったんだ。こんなはずじゃ…」「父様」
 私は気が付けば父を抱きしめていた。父はこんな人だっただろうか。誰よりも人に厳しく自分に厳しい父だったのではないか? 私を家のための道具としか見ていなかったのではないのか?

「許してくれ。こんな思いをさせるためにロジャーと結婚させたんじゃない。お前をこんなに風にするために結婚させたんじゃない。ただ幸せになってほしかっただけなんだ」
 父は泣きながら私に許しを乞うた。震える父の背中を私はゆっくり撫でた。
「もういいんです。もう気にしないでください。幸せになれなかったのは父様のせいだけじゃない。私にも悪いところがあって、ロジャー様にもあって、姉様にもあった。いろんな人の悪いところが重なってこうなったんです。父様が一人で気に病むようなことはないんです」「サーシャ、サーシャ、すまない。すまない」「いいんです。父様、私は残り少ない時間を姉様と母様とロジャー様とそして父様と過ごしたいわ」「…けれどそれじゃあ」
 顔を上げた父の目は真っ赤だった。思わず私は笑みがこぼれた。
「父様ってこんなに泣き虫だったの?」「そ、そんなことは今はいいんだ。それよりもそんなことをしたら」「私は最期くらいは笑って死にたいんです。辛い過去は捨てて、楽しいことだけを覚えて死んでいきたいんです。どうか、お願いします。姉様と母様をこちらに戻してください。そして前のように暮らしましょう?」
 父はしばらく考え込んだ末に、頷いた。
「ありがとう父様」「…お前はリリスにそっくりだよ」
 父がポツリとそんなことを呟いた。けれど私はそれを聞かぬふりをした。






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