オレンジ色の魂

ノベルバユーザー225269

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 私が倒れてから一ヶ月がたったころ、私と姉に体調の変化が見られた。 姉は徐々に元気を取り戻していった。医者によると心臓の病気が治ったらしい。こんなことは普通では考えられない、と誰かが言っていた。療養地では毎日のようにパーティが開かれているらしい。母からの手紙で私への招待もあったが私は行かなかった。いや行けなかった。
「サーシャ様、体調はどうですか?」「今日はいいわ。…外は寒そうね」「はい。今晩から特に冷え込み雪が降るかもしれないと言っていました」「そう、雪。良いわね、昔姉様とロジャー様と雪だるまを作ったことがあったわね」「はい。懐かしいですね」
 ローリエの持ってきた上着を羽織りながら私は起き上がった。
「そうだ、ローリエ」
「はい、何でしょうか」「あなたの家はお医者様はいらっしゃるかしら?」「祖父がやっております」「なら近いうちに私を診てもらうことは可能かしら?」「すぐに連絡をとります」「よろしくね」
 私の体調はあれから一向に良くならず、最近ではずっとベットに寝たきりになっていた。ローリエはそれを心配して何度も医者に診てもらうように言ったが私はそれを断っていた。家のお抱えの医者を使ったらそこから色んな人に私の病状が知れ渡ることになる。私は今心労によるもの療養していることになっている。それが違うとなれば、よからぬことを考える人々がきっといらぬことを父や母、姉やロジャーに吹き込むことだろう。それだけは避けたかった。 ロジャーは三週間ほど、隣国に向かわれる王の護衛をするためにいない。今のうちに病名をはっきりさせておきたかった。そして私の命の期限も。


「初めまして、サーシャ様。孫のローリエがお世話になっております。私はローリエの父方の祖父で医者をやっておりますゴンドと申します」「こちらこそローリエには本当によくしてもらっています。ローリエだけはいつも私の傍にいてくれて本当に助かっております」
 ゴンドは白いひげをたんと蓄えている優しげな風貌の老人だった。
「それはそれは、ありがたい言葉です。では、早速ですが」「はい、よろしくお願いいたします」
 ローリエにゴンドを呼んでもらうように言って三日でゴンドは現れた。 今はゴンドと二人だけ。ゴンドは真剣な目をして私の体を診ていた。 するとゴンドは私の脇腹に目を向けた。

「これは…」
ゴンドはそこを凝視していた。
「どうしましたか?」「あなたは魔女と契約をしたのですか」「え…」「ここに真っ赤なバラの絵が描いてあります」
 ゴンドに言われたところを見ると、確かにそこには小さめの真っ赤なバラが描かれていた。「知らなかった」「私はかつてこれに似たものを二回見てきました。彼らは口をそろえて言いました。魔女と契約したのだと」
 魔女…。フレイアのことか。魔女にも魔法使いにもなれる母に似た不思議なフレイア。「ゴンドさんは魔女や魔法使い、魔法を信じられますか?」「私は医者です。非科学的なことにはとらわれてはこの仕事はやっておられません」「そうですよね」「彼らはこれは対価なのだと言っていました。願いをかなえてもらって対価のだと。それから半年持たずに二人とも死んでいきました」
 私はそのバラの絵を触った。
「なら私も半年以内に死んでしまうのですね」「っ!」「私は姉の病気を治してもらうことを願いました」「サーシャ、様」「その結果姉は元気になりました。これからは何だってできる健康な体を手に入れたのです」「あなたはそのために自分の身をささげたのですか?」「…私は姉や夫の幸せを奪ってきたのです。もうその罪の重さに耐えられなかったんです。結局自分が楽になりたかったんです。その対価がこれなら、納得できます」「あなたは…」
 ゴンドは何かを言おうとしたが、結局その口を閉ざしてしまった。
「ゴンドさん、このことは誰にも話さないでください。ローリエにも」「しかし」「この家にはそんなお伽噺みたいなことを言う人間は姉だけでいいんです。夢見がちな愛らしいサマンダだけが許されるんです。ゴンドさんはただ原因不明だそう言ってくださればいいんです」「まさかそのために私を呼んだのですか?」「ごめんなさい。私は本当は誰にもこのことを話すつもりはなかったんです。でもゴンドさんがこのバラのことを見つけたから話したまでです。他の誰かが見てもこれが魔女との契約だとは思いません。私が徐々に衰弱していっても謎の病気として扱われるだけです。だからこのことは誰にも話さず、原因不明だ、それだけを言ってくださればいいんです。どうかお願いします」
 頭を下げる私を見て、ゴンドはふぅと息をついた。
「治る見込みがないと思って治療しないのは私の意に反します。後日薬を持ってきます」「ゴンドさん」「だから生きる希望を見失わないでほしい」
 私はその言葉に、頷くことをしなかった。けれどゴンドはほほ笑んで「私はあなたを見捨てたりしません」そう言った。 私は「ありがとうございます」と小さな声で伝えた。



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