オレンジ色の魂

ノベルバユーザー225269

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「サーシャ、サーシャ。サーシャ!」「っ!」
 名前を呼ばれて目を開けるとそこには死んだはずの母がいた。
「え、お母さん?」「何当たり前のこと言ってるのよ」
 当たり前の事って、だって母は死んだはず。ふと自分の手を見るといつも見ている手より小さかった。
「お、お母さん、私って何歳?」「何言ってるの?五歳でしょう。あと二カ月もすれば六歳になるけど」
 ということは母が倒れる前。母が元気だったころだ。

「ほら早く行きましょう」「どこに?」「もう今日はどうしちゃったの?お母さんの友達に会うって言ったでしょう?」「え、あぁ、うん、そうだったね」
 私は母の手を握り、町へと出かけて行った。夢のはずなのにその手のぬくもりを感じた。母の匂いもする。
「ほらサーシャ、ここよ」
 母が連れて行った場所は小さな雑貨屋だった。
「いらっしゃい」
 現れたのは茶色の長い髪をゆるく巻いている女性だった。母に負けず劣らずの美女だった。
「久しぶりねリリア」「えぇ、最後に会ったのはサーシャが三歳の時だったかしら?」「そうよ。久しぶりね、サーシャ。私のこと分かる?」
 私は全然わからなくて首を横に振った。


「ふふ、そうよね。私はフレイアよ」「さぁフレイア、今日はどうしたの?」「あぁごめんなさいね。そこの椅子にかけて頂戴」
 フレイアはふふふとほほ笑んだ。その笑みに私は既視感を覚えた。 あのほほ笑み方は、そう考えているときにまた私の意識は遠のいていった。







「サーシャ!」
 目を開けると、そこにはロジャーの顔があった。
「…ロジャー様?」
 普通に声を出したはずなのにその声はひどくかすれていた。
「サーシャ!無理をしないで、君は一週間も目を覚まさなかったんだ」
 一週間も。
「ロジャー様、私は今何歳ですか?」「十七だよ。あと数か月で十八になるよ」
 あぁここは夢の世界じゃないんだ。現実の世界なんだ。

「姉様は」「もう落ち着いたよ」「なあ良かったです」
 ひどく疲れている私は、そうつぶやくと傍にあった水の入ったコップに手を伸ばした。するとロジャーはそのコップを先にとり、私の体を起こし口元にそれを押し付けた。
「ゆっくり飲んで。そう」
 こくこく、と私は水を飲むと礼を言って再びベットに身を沈めた。
「きっと心労がたたったんです。すぐによくなりますから気にしないでください」「サーシャ…僕は君の夫なんだ。もちろん今まで良い夫じゃなかったことは十分理解している。だけどこんな時くらい頼ってほしい」「…ロジャー様は優しんですね」「サーシャ」「でもその優しさは時に人を傷つけ苦しめるんです。…どうぞ姉様のもとへ行ってください」
 私はもうロジャーを否定することしかできなった。あんなに恋い焦がれたロジャー。でももう遅いのよ。何もかも遅すぎた。
「サーシャ頼むから聞いてくれ!」
 ロジャーは頭を床に向けたまま、苦しそうにそう叫んだ。
「ロジャー様…?」「僕は…僕は君にひどいことをいっぱいしてきた。僕らを別れさせて不幸にさせたのは君のせいだとそう思っていた。いやそう思わないとやっていけなかった。敬愛する父たちを疑うことはできなった」「…ロジャー様、私もういいんです」「え?」「もう言い訳も謝罪も何もいらないんです。もう放っておいてください」
 ロジャーは長い沈黙の後、ぽつりとつぶやいた。


「君は僕のことを好きなんだろう?」
 私はそれに答えることなく、ただほほ笑んでいた。もうロジャーを好きなのかどうかも分からなくなってしまった。
「サーシャ、君は僕のことを好きなんだろう?それなのにどうしてそんなことを言う?」「ロジャー様こそどうしてそんなこと聞かれるんですか?もし私がロジャー様を好いているとして、それが何の理由になりますか?ロジャー様は私を馬鹿にしてるんですか?あなたに恋をしているからあなたに優しくされると嬉しいと思っているんですか?」「そ、それは」「そんなことはもう随分前に消えたわよ!!」
 私はガバッと起き上がった。
「ロジャー様はどこまで私を馬鹿にすれば気が済むの!?」「そんなつもりは」「出て行って!早く出て行って!!」
 私がそう叫ぶと、ロジャー様は私を宥めようと手を伸ばしてきた。私はそれをためらうことなく払った。罪悪感などもう感じなくなった。
「早く出て行って!!」
 ロジャー様は「また来る」と言って部屋から出て行った。 私は手元に会った枕を扉に向かって投げつけた。
「はぁはぁ」
 息が上がってなかなか興奮がおさまらなかった。 壊してしまった。ロジャーとの繋がりを。あれだけ望んだロジャーを私は自らの意志で振り払った。

「あぁぁぁぁぁ!」

 もう何が何だか分からなかった。自分がどうしたいのか、どうすべきなのか。




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