オレンジ色の魂

ノベルバユーザー225269

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 それからロジャーの態度は以前と変わった。早く家に帰って来て私と食事をとりたがった。時には贈り物をすることもあった。去年は祝うことのなかった二年目の結婚記念日も祝った。 私はそれを素直に喜べなかった。ロジャーから送られたドレスも宝石もどれも興味がひかれなかった。
 何のつもりなのだろうか。罪滅ぼし?ご機嫌取り?ロジャーは甘い声で私に話しかけ、私に今日あったことを語る。それを語る相手は姉だったはずだ。

「ねぇサーシャ、明日はどこかに出かけよう」
 私はその提案に首を振った。
「どうして?いい店を知っているんだ。宝石もドレスもそろっている店なんだ。きっと気に入ると思うよ」「…姉様のところに行かなないのですか?」「いいんだよ。ねぇサーシャ行こうよ」
 こんなのロジャーじゃない。私の知っているロジャーは姉を誰よりも愛し、何よりも優先していた。そんなロジャーに私は惹かれたのだ。今のロジャーは別人ではないか。
「どうしたのロジャー様。もう父様のことは気にしなくていいのよ?今まで通り、そう今まで通りにしてくれたらいいんですよ」「サーシャ、僕は」「お願いです。私はこんなこと望んでない。私はあなたの妹のような存在でしょう?そしてあなたが愛しているのは姉様でしょう?ねぇ」「…サーシャ」「お願いもうやめて。中途半端な優しさは欲しくない。お願い、これ以上私を惨めにさせないで!」
 言ってしまった。あれほどまでに望んだロジャーからの優しさを私は拒んでしまった。姉の事ばかりだったロジャーが私を気にかけてくれているのに、それを幸せだとどうしても思えなかった。惨めでしょうがなかった。勘違いしていたロジャーからの態度で表されるその謝罪は私を惨めにするだけだった。

 そんなことがあり、ロジャーはまたいつもの生活に戻った。けれど向こうに泊まることは無くなった。そして時々休みの日になると私を外に連れ出そうとした。 どっちつかずのロジャー。それでももうこれでいいかもしれないと思っている私がいた。ロジャーは優しい人だから事実を知って私に罪の意識があるからそうしているのだと思うようになった。 そう思うようになると、今までのことがバカバカしくなってきた。手に入れたかったものはこんなものじゃない。だけどどこかで譲歩しないといけない。きっと今がその時なのだ。穏やかな日々を送ることが出来るのならそれだけでいいじゃないか。そう考えるようになった。

 しかしそんな穏やかな日々はそう長くは続かない。
「サーシャ様!サマンダ様の容態が!」
 ちょうど姉を見舞いに屋敷に来ていた時に姉は突然発作を起こした。そして三日三晩苦しみようやく落ち着いた。
「サマンダはあともって半年だって」
 母にそう言われた時、ロジャーも隣にいた。ロジャーは姉のもとへ行き震える手で姉の手を握っていた。
「どうしてサマンダが」
 母は泣き崩れた。私は突きつけられた現実に目をそむけたくなった。 姉が死ぬ、現実を帯びなかったそれが急に目の前に現れた。姉はもうすぐ死んでしまう。誰からも愛される美しい姉が。

 その時私は思い出した。あの薬のことを。 あれを使って姉の病気を治してもらえばいいのだ。そう、そうすれば姉は元気になり皆が笑っていられる。そしてロジャーと私は離婚し、二人が結婚すればいい。愛し合う者同士仲睦まじく暮らしてくれればいい。
 自分の部屋にしまっていた木箱の中からあの小瓶を取り出した。


『じゃあこの薬の説明をするね。この薬は君の願いを何でも一つだけ叶えてくれる魔法の薬なんだ』
『何でも一つだけ。だけど、それには対価も必要です。その願いに叶った対価が』
『でもそれはその時にならないと分からないんだ』
『俺の魔力を何年も費やして作ったその薬を飲めば、君は俺のものになるんだよ。そういう魔法をその薬にはかけた。あぁ、でもそれじゃフェアじゃないから、君が死ぬまでに本当の愛を見つけることができたらその魂は貰わないようにちゃんと作ったよ』
『そうだよ。簡単に言えばロジャーからの愛を君が得ればいいんだよ。君はこの薬で何でも一つ願いが叶うんだよ?そしてロジャーからの愛を得れば君は生きている間に何らかの対価を受けるだけでいいんだ。どう?魅惑的じゃない?』

 フレイアの言葉がよみがえってくる。私は対価を支払い、死後この魂をフレイアにささげることになる。ロジャーからの愛は私は受けることが出来ないから。 それが分かっていても私は姉を助けたかった。もう何年も苦しみから解放されない姉をどうにか助けたかった。
 私は小瓶の蓋をあけその中身を一気に飲み干した。
「どうか、どうか姉の病気を治して」
 そう願った瞬間、私の体からすぅっと力が抜けて行った。


「あぁ、やっぱり君は飲んだね。さぁ可愛い愛しい俺のサーシャ。早く俺のところまでおいで。あぁ可哀想なサーシャ。そして愚かなサーシャ。早くおいで」

 遠のく意識の中そんな声が聞こえた気がした。



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