オレンジ色の魂
9
フレイアと会ってから数日は特に変わったことは無かった。ロジャーは変わらず姉のもとへ行き、そのあとに家に帰ってくる。 そして私も性懲りもなく姉に会いに行く。憎い憎いと思いながらやはり姉は姉。大好きなことに変わりはなかった。
「サーシャ、よく来てくれたわね」「姉様、体調はどう?」「最近は発作が起きることも少なくなったわ」「それなら良かった」
私は持ってきた花を姉に渡した。いつもと変わらない笑みを浮かべて、姉はそれを受け取る。けれど姉の顔は前よりも青白く、体も細くなっていた。
「ねぇサーシャ」「なぁに、姉様」「グレイス家の庭にはあのオレンジの花は咲いたかしら」「オレンジの花?」
あぁ、そういえば何年も前にロジャーが私にくれた花はそんな色だった気がする。
「えぇ咲いているわ。どうして?」「ここには咲いていないの。私のあの花が大好きなの」「そうだったの?」「えぇ、だってあの花はサーシャの花だもの」「私の?」
姉はそれはそれは嬉しそうに頷いた。
「そう。ロジャーがあなたにあげたあの花は、あなたにぴったりの花だったもの。温かくて優しくて健気でそしてどこか儚げで。あの花を見るたびに、サーシャのことを大好きだって実感するの」「姉様」「私ね元気になったらサーシャと花を摘みに行きたいの。グレイス家の庭でもいいわ。ここの庭でもいい。森に行けたらもっといいわね。あなたと二人で花を摘んで、花飾りを作りたい。もちろん私が作った花飾りはサーシャにあげるわ。その代りにサーシャが作ったものは私に頂戴ね?一生の宝物にするんだから。…ってどうしたの、サーシャ?何を泣いているの?」
私はぽろぽろと涙を流していた。姉は元気になったら私と花を摘みに行きたいと言った。それが出来たらどれだけいいだろう。そんな誰でもいつでもできそうなことを姉はもうしたくてもできないのだ。
それなのに私は姉を憎み恨み、嫉妬した。ロジャーを私に頂戴に思っていた。何でも持っている姉は健康な体だけは手に入れることが出来なかった。懸命に生きようとし、その糧でもあったロジャーを私は奪ってしまった。
「姉様、姉様」
私は姉の首に腕を回し泣いた。こんな私を今でも大好きだと言ってくれる優しい姉様。
「サーシャったらどうしたの?何だか私まで涙が出てくるじゃない」
そうして私たちは二人抱き合い涙を流した。
「今日サマンダと一緒に泣いたんだって?」
帰ってきた早々ロジャーは私にそう尋ねた。
「はい」「サマンダ人前で泣くなんて珍しいことなんだ。何を話したのか聞いてもいいかい?」
久しぶりにロジャーは私に対して甘い声を出した。昔に戻ったようだった。
「…元気になったら私と花を摘みに行きたいって。そして花飾りを作って交換しようって。…それだけです」「そう、そうか」
ロジャーは顔を歪めていた。これは涙を流す前兆だなと私は思った。だから私はロジャーに抱き付いた。
「さ、サーシャ?」「泣きたいときは泣いていいんですよ」
そう言うとロジャーは私に抱き付いて声もなく泣いた。
「ロジャー様、ロジャー様は姉様のことを今も愛しているんでしょう?」「……」
真っ赤な目を私に向け、ロジャーはどういったらいいのか迷っているようだった。
「ずっとずっと愛しているのでしょう?私がここに来るずっと前から」「…あぁ」「それなのにあなたは私と結婚することになってしまった。…それはあなたにとっても姉様にとってもそして私にとっても予想外の出来事だった。どれほど私がこの結婚を拒もうともうそれは止めることが出来ないような状態にあの時はあった」「え…」「だから結婚後も愛し合うロジャー様達を私は見て見ぬふりをしました。私のせいで二人の幸せな未来を壊してしまったから」「ま、待ってくれサーシャ」
ロジャーはどこか焦ったような表情をしていた。
「どうなさいました?」「ぼ、僕はあなたのお父様からあなたが僕のことを好きだからこの結婚を進めると言われた。確かにサマンダの体調はあのころ悪くレイド様もお倒れになった時期と重なったけれどそれだけでは婚約破棄にまでは至らなかった。そんな時サーシャが僕とサマンダの婚約破棄をすすめ、そして妻になりたがっているとレイド様から聞かされた」
本当に父はいったい何がしたいのだろうか。そんな嘘をついてまでどうして私たちを結婚させたかったのか。愛のない結婚ほど馬鹿げたことはないだろうに。
「これだけは言わせていただきます。私は姉様とロジャー様を別れさせようと思ったことは一度もありません」
確かに何度も嫉妬した。姉を羨んだ。ロジャーの婚約者という立場を欲したこともある。けれど二人の幸せを引き裂いてまでそんな立場になりたいだなんて考えたこともなかった。
「そんな、じゃあレイド様が言っていたことは」「全て嘘です。…ねぇロジャー様、私があんなにも愛し合っているあなたたちを見てそんなことをすると本気で思っていたんですか?そんなにひどい女だとずっと思っていたんですか?」「そ、それは」
私のことを妹のようだと、言われた時よりもそのことが私の胸に突き刺さる。長いこと一緒にいて私のことをそんな風に思っていたのだろうか。二人の仲を引き裂いた悪女だと。
「す、すまないサーシャ。僕は」
私は伸びてきた手を振り払い、ロジャーと間をとった。 この時私は初めてロジャーから与えられる行為を拒否した。 ロジャーの目はこれでもかと開かれ、真っ青な顔をしていた。今にも倒れてしまいそうだった。
「いいえ、いいんです。今更どうなることでもありません」
私はそう言うとロジャーの前から立ち去った。
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