オレンジ色の魂

ノベルバユーザー225269

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 そして両家の親と本人たちの相談の上で、二人の結婚は半年後に決まった。 日に日に迫ってくる二人の結婚。私は二人を祝福できるのだろうか。結婚したら二人はここで暮らすことになる。今まで以上に幸せそうな二人を間近で見ることになる。それに結婚したらそういう関係ももつことになる。もしかしたら二人の間に子供が出来るかもしれない。そうなった時私はその子供を愛せるのだろうか。姪か甥、二人の子ならどっちでも可愛いのだろう。その時私は叔母としてその子に憎しみを向けることは無いだろうか。
「ねぇサーシャ、もし私たちに子供ができたらね、女の子ならリリスって名前を付けようと思っているの」「え…、リリスって」「そう、サーシャのお母様の名前よ」「どうして?」
 思わず尋ねると姉はさも当たり前のように答えた。
「だって可愛い妹のお母様の名前だもの。私サーシャに会えて本当にうれしいの。つまらなかった毎日にお日様がさしたの。だからそんなサーシャを生んでくれたお母様であるリリスって名前をもらおうと思うの」
 もちろんロジャーも了承しているわよ、と姉は続ける。 私はそう言われてただほほ笑むしかなかった。そして部屋に帰って一人泣いた。
 どうして私はあんなに優しい姉を恨まないと憎まないといけないのだろう。姉もロジャーも良い人で、私のことを大切に思ってくれている。それなのに私はロジャーの愛が欲しくて、愛が欲しくて。
「何で、何で、何でよ!」
 姉が意地の悪い人だったら、私のことを嫌っていたらこんな風に思わなかったのに。どうして、あんなに良い人なの。
「……サーシャ様」「っ!」
 私に声をかけてきたのは、私付のメイドのローリエだった。
「…何」「これをお使いください」
 そう言って差し出してきたのは濡れタオルだった。これで腫れた瞼を治せということだろう。私はお礼を言ってそれを瞼の上に置いた。
「……ローリエは」「はい」
 私は二人の間に流れる沈黙が嫌で、ローリエに話しかけた。
「私のこと馬鹿だって思う?」「思いません」「何がって聞かないの?」「…聞かなくても分かります」
 滅多に表情を変えないローリエの眉が少し寄っているのが分かる。それは怒りの表情なのか戸惑いの表情なのかはたまた何か違う感情なのかは私には判断できなかった。 ローリエは私がここに来てからずっと傍にいてくれているのに、私にはその表情を見分けることはできない。それは私が姉たち以外に目を向けていなかったことが原因なのだろう。
「私はずっとサーシャ様のことを傍で見てきました。だからロジャー様に恋をされたことはすぐに分かりました」「ふふ、やっぱりそうか。誰にも気づかれないように気を付けてたんだけどな」「…きっと私以外は誰も気づかれていないと思います。サーシャ様は周りに誰かいるときは、サマンダ様の良い妹であろうとされていますから」
 ローリエの言葉に、止まっていた涙がまたあふれてきた。
「私はサーシャ様以上に誰かのことを想って行動される方を知りません。サーシャ様は誰のことも傷つけまいと自分の心を押しこめ、人の幸せを願っておられます。そんな方をどうして馬鹿だと言えましょうか」
 私は濡れタオルと取ると、ローリエに抱き付いた。
「っありがとう。そう言ってくれてありがとう」
 決してほめられるために自分の行動を節しているのではない。けれど誰かに、お前はよくやっていると言われたかった。 こんなに苦しい思いをしているのに誰も気づいてくれていないと悲しくなった。でも、ちゃんと見てくれている人はいた。 それが嬉しくて私は泣いた。それをローリエは咎めることもせず、抱きしめ返してくれた。




 着々と結婚式の準備が進む中、姉の体調は思わしくなかった。日に日にその体力は奪われていった。
「姉様、何か欲しいものない?」「…そうね、本を読んで頂戴」「本?」「そう。そこにある本。…ロジャーから貰ったんだけど、この状態だと読むことが出来ないから」「…分かった」
 私は姉のベットに腰かけ、その小説をぺらっとめくった。
「『かの有名なユーデリッヒ侯爵には、それはそれは大切にしている女性がいました。その女性の名はヴィア。』」
 私は姉が望めばその小説を何時間でも読んだ。 そのため一冊読み終えるには三日あれば事足りた。だから私は家の書庫で良い本を探して姉に読んで聞かせた。 けれど当たり前のことだが、姉の体調がよくなることは無かった。薬は多少は効果があるようだったが、それも一時しのぎにしか過ぎなかった。





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