オレンジ色の魂

ノベルバユーザー225269

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 大好きな姉と大好きなロジャー。二人の幸せを願えたらどれだけよかっただろう。二人を見るたびに、その仲が壊れてしまえと思う自分が嫌だった。二人が仲睦まじくしていればいるほど私はその気持ちに駆られた。 姉は私はここに来た当初から母と同様よくしてくれた。初めて会ったその日から姉は姉だった。いつもと変わらない笑みを浮かべ「よく来たわね、サーシャ。私の可愛い妹」そう言ったのは今でも覚えている。 家に馴染めるか不安だった私を姉は温かく迎えてくれた。母の違う妹など姉にとっては憎むべき存在であってもおかしくないのに、幼かった私をその細い腕で受け止めてくれた。 そんな姉をどうして私は憎んでしまうのだろう。ロジャーのことなんて諦めてしまえばいいのに。そうよ、あきらめればいいのよ。 そうやって何度もあきらめようとした。けれど思い浮かぶロジャーのほほ笑み。それがいつも姉に向けられていると分かっているけれどその笑顔が好きだった。

 二人が婚約して半年以上たったころ、私はロジャーと二人きりで話す機会があった。その時ロジャーの口から出てくるのは姉のことばかりだった。
「ロジャー様は姉様のことが大好きなのね」
 嫌味ではなく、本心がぽろっと口に出た。それ聞いたロジャーは大きく頷いた。
「僕はサマンダに会ったあの日から恋をしているんだ。だから今、とても幸せなんだ」
 俗にいう一目ぼれをロジャーはしたのだった。それは私がこの家に来るよりもずっと前のことらしい。
「サーシャもサマンダのこと好きだろう?」
 私は迷うことなく首を縦に振った。すると、頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「僕はね最初不安だったんだ」「不安?」「そう。サマンダとサーシャが仲良くなれるかって。もしサーシャが性格が悪い子だったらどうしようって思ってたんだ。まぁ杞憂に終わったけどね。サーシャがこの家に来てからサマンダはずっと元気になったし笑顔も増えた。…ありがとう、サーシャ」 私はその時無性に泣きそうになった。礼を言われるようなことはしていないし、心の中では酷いことを思っている自分が恥ずかしかった。「サマンダも僕もサーシャが大好きだよ」
 その言葉が妹として、という意味でも嬉しかった。初めて好きな人から「大好きだ」と言われたのだ。
「私も、姉様とロジャー様が大好きです。…これからも幸せでいてほしいと思っています」
 本音と嘘を交えつつ私は言う。人は嘘だけの話は信じないけれど、真実と嘘が織り交ぜられた言葉は信じる。それが分かっているから私は嘘と分からない嘘をついた。



 姉はロジャーの妻となるべく、辛い体に鞭打って様々なことを経験し始めた。例えば、貴族の方々への手紙の書き方、公の場でのマナー等々。本来ならすでに習得していなければならないことを姉は十五歳になってようやく始めた。
 そしてそれが板につき始めたころ、父が倒れた。 ここ数年父は休むことなく働き続けた。宰相の一人でもある父は国のために汗水たらして働いていた。そしてそのたまりにたまった疲労が父を襲った。幸い命に別状はなく、二週間休暇をとったのち父は仕事に復帰した。 そんなこともあり父は家督をロジャーに本格的に引き継がせようと考えた。けれどまだロジャーは十九、家督を継ぐにはいささか早すぎた。しかしまた今回のようなことが起きるまえに手を打たなければならない。そして父は決めた。姉とロジャーを結婚させることに。
 本当ならサマンダの体調を気遣いながらも、早ければ十七で結婚させたいと父たちは言っていた。サマンダの命の期限も迫ってきているから。 結婚が決まった姉はとても嬉しそうだった。頬をピンクに染めて、いつもよりも愛らしさが増していた。両親や周りの人たちは二人を祝福した。




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