オレンジ色の魂
2
それから私たちは本当の家族のように過ごした。父のこと何だかよく分からないもやもやした気持ちがあったからあまり関わってこなかったが、母や姉のことは結構好きだった。
この頃の私は姉のことを妬むことも憎むことも考えもしなかった。けれど時が進むに連れて私はある一人の青年に恋をした。名前をロジャーという。十六歳という若さで騎士となり王宮で働いている貴族の青年だった。容姿も整っており才能もあるロジャーは多くの女性の注目の的であった。少し垂れ目の青い目が私は好きだった。けれどその目はいつも私を通り越してある人物を見ている。
「サマンダ!」
ロジャーは姉の名前を呼びながら私の横を歩いて行く。彼が通って行ったあとの甘い香りが好きだった。私がロジャーを呼び止めようと後ろを振り向いたときロジャーと姉が抱き合っていた。 いつも体調を崩さないようにと外に出ない姉はロジャーが家に来るときだけは外に出て待っている。どこからどう見ても二人は相思相愛だった。 二人は従兄妹同士で私がここに来る前からの仲だった。最初は優しいお兄さんという認識だった。けれど徐々にその心は変わった。私の周りに同世代の男の子がいなかったから、ロジャーに恋をしたのかもしれない。最初はそんな始まりだったかもしれない。だけど、今では姉とロジャーが一緒にいるのが嫌だと嫉妬するまでになった。
私は姉とロジャーが一緒にいるとき、決まって花を持って姉の部屋を訪ねた。いつもは姉の部屋に行っても花は持っていかない。けれどロジャーがいるときは必ず持っていった。ロジャーに良く思われたかったからだ。他にもお菓子を焼けば、ロジャーに持っていった。 周りから見れば微笑ましい光景だったのかもしれないが、私はロジャーの心を手に入れたくて必死だった。
けれどそのかい虚しく姉とロジャーは婚約した。私が十二歳、ロジャーが十七歳、姉が十四歳の時だった。 周りはいつまで生きられるか分からない子と結婚させるのはいかがなものか、とその婚約に反対する者もいた。けれど両家の両親は納得していた。 母は言っていた。「私の姉の子と、私の子供が結婚することが私の夢なの」と。母の長年の夢はあと一歩で叶うところまできた。父も二人なら上手くやれるだろうと、その婚約を誇りに思っていた。 ロジャーも反対する人間に対してこう話していた。「好きな人の傍にいたいと思うのは当たり前ではないですか?たとえ傍にいられる時間が決まっていようと、僕がサマンダを想う気持ちが薄らぐことはありません」と。 しかし私は二人の婚約を喜ぶことはできなかった。ましてや父のように二人のことを誇りに思うこと何てできなかった。どうして、どうして、そんな気持ちでいっぱいだった。 ロジャーの言葉を聞いてもやはりどうして、それが消えなかった。
 そうこうしているうちに姉と婚約したロジャーが婿養子となることが決定した。もともとグレイス家には男子がおらず家督を継ぐ者がいなかった。またロジャーの家であるトールキス家にはロジャーを含め三人の男子がいた。そのためロジャーは父の跡を継ぐべく婿養子となることが決まった。
そして父の後を継ぐためにロジャーは私と同じ家で暮らすようになった。ロジャーは王宮から帰るとすぐに姉のもとに行き、変わったことはなかった、今日はどんなことをしていたんだ、と話をしていた。それは二人だけの空間だった。私が入り込める隙はなかった。 姉の体調が良いときは、二人は庭に出て、そこで何をするでもなくのんびりと過ごしていた。すると決まって姉は私を見つけ、私を二人の中にいれてくれた。
「サーシャがいつも持ってきてくれる花はあそこからとってきているの?」「そうよ。今はあそこに咲いている赤い花がおすすめよ」「ん、どれだい?」「あれよ、あれ」
私がその赤い花が咲いている場所を指さすとロジャーは「ちょっと待っててね」と言ってその場所へと歩いて行った。そしてすぐにその赤い花を右手に持って帰ってきた。
「ほらサマンダ、君に」「まぁありがとう。嬉しいわ」
ロジャーは採って来たばかりの花を姉に渡した。その花を受け取った姉は頬を赤らめていた。 私から見てもお似合いの二人、そう実感するたびに私の胸は痛んだ。
「あとこれはサーシャに」「え?」
ロジャーに左手に握っていたのはオレンジ色の花だった。
「あ、ありがとう」
ロジャーから何かもらうのは初めてで私はその花をぎゅっと握った。
「良かったわねサーシャ。…サーシャにはオレンジが似合うわね」
姉は私とその花を見比べてふわりとほほ笑んだ。そんなことを言われたのは初めてで私は「そう?」と首を傾げた。 するとロジャーも「そうだろう?僕もそう思ってその花にしたんだ」と言った。 その日から私の好きな色はオレンジになった。単純と思われるかもしれないが大切な姉と好きなロジャーがそう言ったからだ。
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