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異世界から召喚する方法は「ガチャ」らしいですよ。

ノベルバユーザー225229

第10話 暴食の幹部にセオリーは通じないみたいですよ。

「グ! 見つけたグ!」
「美味そうな匂いだキ!」
「お前ら、どうやってここに入り込んだグ!」
 別の次元から幽閉されていたシャンテを救い出すことに成功し、元の次元に戻ってきた二人であったが、二人は忘れていた。 今二人がいる場所が、敵地のど真ん中であるという事を。
 ――こいつらさっきのゴブリンだな。
「ち、完全に油断してた。まだここは奴らの縄張りだった」
「どうするの? 今の状態じゃ召喚術使えないよ」
 今の状態というのは、召喚ポイントがないから、という事だろう。 この世界で召喚術を使う場合、召喚ポイントが必要で、それは魔法師ギルドで購入するはずである。 当然拓海が所持しているはずもなく、この場においてシャンテは全くの役立たずである。 そうなると敵が二人いるのに対し、拓海は一人で戦わなければならないのだが、
「お兄さん! 僕の力を使って!」
 拓海の耳に聞きなれたシルフの声が届き、白いオーブが目の前に顕現する。既に使い慣れた風のオーブだ。 その風のオーブが拓海の周りを包むように大量に発生し、力を使えと言わんばかりに主張してくる。
 ――サンキューなシルフ。
「それじゃ行くぜ! 烈風切断ウィンドスラッシャー!」
 既に使い慣れたイメージ通りの風の精霊術の行使に、一瞬のタイムラグもない。 巨大な鎌鼬かまいたちが目の前のゴブリンに襲い掛かる。目の前のゴブリンが地球のRPGに出てくるザコモンスターならこれで真っ二つに切断できる。……はずだった。 拓海の放った烈風切断は二人のゴブリンに到達する、その瞬間にそよ風となって肌を撫でただけだった。
「避けられた? それじゃこれならどうだ! 世界切断ワールドエンド! これなら逃げられないだろ!」
 先ほどの巨大な鎌鼬を縦横無尽に張り巡らせ、網の目の様な形状で不可避の術にする。
 ――これなら避けられないだろ!
 網目状の鎌鼬が二匹のゴブリンを襲う。 観念したのか、ゴブリンは避ける仕草すらせず、ただ茫然と立ち尽くしているのが分かる。 拓海の目が勝利を確信した。
「お兄さんイケるよ!」
 シルフもまた勝利を確信した。 しかしまたしてもゴブリンを切り刻む前に、鎌鼬はそよ風となって肌を撫でるだけであった。
「「なん……で?」」
 二人の口から同じ意味を持つ言葉が漏れる。いや、正確には同じ意味ではない。 拓海の発した言葉は、なぜゴブリンに攻撃が届かないのかであり、シルフの言葉は
「魔力が……」
 なぜ魔力が途中から消えたのか、である。 目の前で発生したことの意味が理解できず、呆然と口を開いてシルフが呟く。
「シルフ、魔力がどうした?」
 拓海が呆然としていたシルフに気付き、話しかける。 どうやら拓海はまだ、魔力が消えたことに気付いていない様であった。
「今、お兄さんが使った精霊術が、魔力ごと消えたんだ。なぜだかわからないけど……」
 シルフの言葉の意味が分からず、首を傾げる拓海であったが、その答えは対峙するゴブリンからもたらされた。
「キ! なかなか美味な魔力だったキ」
「俺たちにとって魔力の類は食料の一つだグ!」
 二匹のゴブリンが口元に垂れる涎を拭いながら、拓海にそう告げる。
「こいつら俺の精霊術を食ったのか! だから奴らに術が通じなかったってことか!」
 どうやら二匹のゴブリンは魔力を餌として摂取可能のようである。
「お兄さんマズイよ!」
 ゴブリンの言葉を聞いたシルフが拓海の前に顕現し、焦った様子で話しかけてくる。その焦り方は尋常ではないことが拓海にも分かった。 拓海が眉根を寄せて目の前のシルフに視線を移すと、シルフがゴブリンの方に振り向いて油断なく見つめると、静かに語りかけてきた。
「魔力を食べるなんて普通は出来ない。出来るとしたら上級悪魔か大罪王ぐらいだよ」
 そのの言葉を聞き、シルフがなぜ焦っているのかをようやく理解した拓海である。
「ってことはこいつら大罪王なのか?」
 仮に大罪王だとしたら分が悪いにも程がある。拓海はまだ精霊術を使えるようになってからまだ一日も経っていない。 加えてシャンテは召喚術が使えない。このままでは十中八九負ける。 拓海が額に汗を浮かべ、目の前の二匹からどう逃れようかを考えだした時、
「グ! 俺たちは大罪王様ではないグ!」
「キ! 大罪王様は貴様たちごときの手に負える方々ではないキ! 俺たちは暴食の大罪王様の配下、デネブ=カイトスと」
「同じくバテン=カイトスだグ!」
 そのゴブリン達から、自分たちは大罪王ではないと告げられる。
「なるほど、それなら方法はあるかもしれないぜ」
 ゴブリン達からもたらされた情報を整理し、どう切り抜けるかを拓海が閃き、ゴブリン達の方を向いているシルフに話しかける。
「本当に?」
「あぁ。こういう場合の勝ちパターンって言うのが俺の世界にはあるんだよ! ここから使う術は全て全力で行くぜ!」
 そう言うと拓海は自分の考えを実行すべく、これから使う精霊術のために風のオーブをかき集めてイメージを集中する。
「シャンテは下がってて! 行くぜ散弾突風ウインドバレット
 シャンテに被害が及ばない様に指示を出し、拓海が精霊術を行使する。使ったのは、風を生み出してそれをぶつけるだけという単純な術である。先ほどの烈風切断ウィンドスラッシャー世界切断ワールドエンドの時のような鎌鼬かまいたちによる斬撃は付与していない。 単純な突風である。それを散弾の様に細かくして圧力を集中させ、マシンガンの様に放つ。単発ではなく連続で放つことにより相手に攻撃の隙を与えない。 その拓海の猛攻でポケットから預かったカード形式の方位磁石が転げ落ち、シャンテの足元に転がる。
「キ! 無駄だキ!」
「俺たちの腹の中に消えるだけだグ!」
 しかしやはりというべきか、拓海の放った精霊術は魔力ごと喰われてしまい、全てそよ風となって二匹の肌を撫でるだけであった。
「お兄さんダメだよ! やっぱり全然ダメージを与えられないよ!」
 シルフが泣き言を訴えながら拓海の顔を覗き込むが、拓海は不敵な笑みを口に浮かべながら「大丈夫だ」と言い、同じ術を何度も二匹に向けて放ち続ける。
「グ! 何故無駄だと言っているのにやり続ける?」
「キ! 人間のやることは不可解なことが多いキ!」
 バテンとデネブの会話を聞いてもなお術を放ち続ける拓海に、シャンテがとうとう待ちきれずに口をはさむ。
「ねぇ、タクミ! どうして無駄なことをするの?」
 シャンテの言葉も当然である。どんなに強力な精霊術と言えども、魔力ごと無効化されているのだから無意味なことである。 シャンテが足元の方位磁石を拾い上げて拓海の元に駆け寄る。シャンテの言葉を聞いて術を中断し、二匹から若干の距離を保ちながら拓海が口を開く。
「いいか! こういう風に敵の魔力を食うやつにはセオリーがあってな、満腹になった腹に、ずっと食い物を入れ続けたら?」
「そっか!」
「食えなくなった魔力は腹を突き破る。結果自滅する! ってことだ」
 拓海の作戦は、敵の腹が満腹になるまで魔力を食わせ、更にそこに魔力を注入することによる自滅であった。 アニメの世界では昔から、こういう類の敵を相手にする場合、このようなことがセオリーになっている。その事を拓海は忘れていなかったのである。
「キ! そういう事か!」
「グ! 人間のくせに考えたな。だが無駄グ!」
 拓海とシャンテの会話が聞こえたのだろう。いや、声をひそめて話していたわけではないから聞こえていたと表現した方が良いかも知れない。 そして拓海のアイディアを「無駄」と、そう言い返した。拓海がそのことに眉根を寄せ、謎を解こうと考えを巡らすが、その答えはまたしても目の前の敵からもたらされた。
「俺たちにとって貴様らの使う魔力は微々たるものグ」
「世界中の人間が一斉に魔法を注ぎ込んでも、俺たちの腹は殆ど膨れないキ。食べるというよりも舐めると表現した方が分かりやすいキ?」
「貴様らが使う魔法には人間特有の『味』があるグ。それを俺たちが舐めることによって本来の威力が無くなるグ」
「証拠にお前が最初に放った術は切断する魔力を俺たちが舐めたキ! それでそよ風という形に変化したんだキ」
 バテンとデネブが言っているのはつまり、攻撃するはずの魔法から魔力を舐めとり、その攻撃属性を失わせるという事だ。 このことを理解した拓海の額に脂汗が滲み、雫となって頬を伝う。
「ヤベエ。完全に見込み違いだ。どうしよう?」
 拓海がシャンテの方に振り返って焦りを濃くした表情で問いかける。
「え? 他の作戦は無いの?」
「お兄さん格好悪い」
 シャンテとシルフが順に拓海の事を非難する。
「お別れの挨拶は終わったキ?」
「じゃあ、まずは男の方から……死ぬグ!」
 二匹の手から同時に魔術が放たれる。いや、術という表現は正しくない。二匹がとった行動はただ魔力を解放しただけだ。 ただそれだけ、属性も何もない魔力の解放だけで、拓海の身体は後方に吹き飛ばされ、壁に衝突し、その意識を奪ったのである。
「タクミ!」「お兄さん!」
 シャンテとシルフが同時に叫び、拓海の元へと駆け寄っていき、上半身を抱き起こす。
「良かった。気を失っているだけみたい」
 どうやら死んでいるわけではなく、気絶しているだけの様である。 そのことに安堵するシャンテであるが、危機が去ったわけでないのは明白である。しかし、今シャンテの頭の中には、拓海が無事であるということでいっぱいであった。 それゆえに今まで気付かなかった。
「キ! 今度はそっちの嬢ちゃんの番だキ!」
「グ! メンカルが手を出さない様にと言っていたから手は出さなかったが、グ」
「もう容赦はしないキ」
「覚悟するグ!」
 二匹のゴブリンがシャンテに攻撃を仕掛けようと、魔力が放出されたその事を
「あれ? この方位磁石って……召喚ポイントがチャージされてる」
 ではなく、拓海のポケットから転がり落ちたカード形式の方位磁石に、召喚ポイントがチャージされていたことに、である。
 ――召喚術、使える! お願い!
「来て!」
 その方位磁石から召喚ポイントを自分のカードに移行し、願いを込めて天にかざす。チャージされた召喚ポイントがカードから光となって放射され、洞窟の内部を眩い光が駆け抜ける。
「グ!」
「キ!」
 その光にたまらずバテンとデネブが目を瞑る。 徐々に光が収縮し、シャンテが召喚したものが明らかになる。自分で召喚したものをその両手に握り、それが何なのかを確認していた。
「これは……剣? 二本の剣?」
 シャンテがそう呟くと二振りの剣は手から離れて宙に浮き、淡く光り出した。それはまるで「自分達を使え」と、そう言っているように見えた。
 ――どうやって使ったら良いの?
 シャンテがその二本の剣を見つめ、呆然としていると
「驚かせやがって、グ」
「ケガだけじゃ済まさないぞ、キ」
 バテンとデネブが怒りよりも興味深々といった様子でシャンテを睨み、凶悪な笑みを浮かべてシャンテに近づいて来る。
「嫌あぁ!」
 シャンテが悲鳴と同時に、二匹にそれ以上近寄るなという意味で両手を前に突き出した時、異変が起きた。 召喚した剣がバテンとデネブ目掛けて飛翔したのだ。まるで意思を持っているように。 二匹の肌を浅く切り裂き、再び宙に停止する。

「グ!」
「キ!」
 突然の反撃に驚いたバテンとデネブは、その表情から笑みを消して怒りの炎を目にたぎらせてシャンテに襲い掛かってくる。 シャンテが両腕で顔を覆うように防御姿勢をとる。
「キ!」
「グ!」
 今度は二匹の後方から剣が肌を浅く切り裂き、シャンテの目の前に浮いて再び停止する。
 ――これ、ひょっとして私の意思で操ることが出来る?
「それなら!」
 考えたのは一瞬、行動に移したのは刹那。
「いっけえええぇぇ!」
 シャンテが気合と共に叫ぶと、二本の剣がバテンとデネブに二条の光となって飛翔する。
※ ※ ※ ※
「……さん。お兄さん!」
 ……ん? 何だ? 声が聞こえる。最近聞いた声だ。俺は今何してるんだ? 確か昨日、異世界に召喚されて、巨大なハエと戦って、その時に風の精霊と出会って……
「もう! いい加減目を覚ましてよ!」
「え!」
 微睡んでいる意識に衝撃を与えられ、飛び跳ねる様に覚醒させ、拓海が目を開ける。
「やっと起きた」
「ここは……って、別次元……だよな?」
「そうだよ。お兄さんは敵の攻撃を受けて気絶したの。それでその後、お姉さんが神器『コルネフォロス』と『ベテルギウス』を召喚して戦ってるところだよ。ほら!」
 そう言うとシルフは拓海の意識だけを別次元から戻し、シャンテが戦っている様子を見せる。
「あれが……神器? とシャンテ?」
 拓海の目の前に飛び込んできたのは、二本の剣を縦横無尽に飛翔させて二匹のゴブリン――バテンとデネブを圧倒しているシャンテの姿だった。
「お姉さんが頑張っている間にあいつらを倒す方法を考えないと」
 シャンテの戦いに見入っている拓海に、シルフが討伐方法を考えようと告げる。 その言葉を聞いた拓海が首を傾げて口を開く。
「え? 今のままでも勝てるんじゃないの?」
 拓海の言う通り、戦いはシャンテが優勢に見える。このままいけば恐らく勝てるのではないか、という拓海の判断は次に続くシルフの言葉で却下されてしまう。
「あの神器の力を全部発揮出来ていない……と言うより、あのお姉さんじゃ発揮出来ないんだよ。今のところは神器に宿る魔力で攻撃してるけど、あの二匹の事だから飛ばしてる魔力を食べられた場合、攻撃出来なくなる。そうなったらあのお姉さんも危険だよ!」
「ってことは早く戻らないとダメじゃん!」
 シルフの言葉を聞き、ただの一時しのぎであることを理解したのか、拓海がシルフの肩を掴んで揺さぶりながら声を上げる。
「だからそう言ってるじゃん!」
「じゃ早くここから戻してくれよ!」
 拓海が更に声を荒げてシルフに訴える。
「お兄さん落ち着いて! 何の手も考えないで戻っても仕方ないでしょ! あいつらに通じる攻撃方法を考えないと!」
 しかしシルフは今のままでは先ほどの二の舞だと告げ、作戦を練ることを拓海に提案する。
「まぁ、確かにそれはそうだけど……」
 しぶしぶと言った感じではあるが、その意見には拓海も賛成の様だ。何せ自分の立てた作戦が、真っ向から打ち破られたのだ。 今回は気絶程度で済んだが、次はそうなるとは限らない。
「でも、どうやったらあいつらに攻撃が通じるかって、今シャンテがやってるような物理攻撃じゃダメなの?」
 拓海の提案は至極まともである。 現在シャンテが二匹を圧倒している方法はと言えば、神器とは言え剣を飛翔させる、物理的な攻撃だからだ。 バテンとデネブは魔力を食べて無効化させることは出来るようだが、直接攻撃はその限りではないようだ。 それならば直接攻撃で二匹を倒せばよいのではないか、と提案しているのである。
「それはさすがに無理だよ。さっきお兄さんが気絶してた時なんだけど、お姉さんにも何回か危険な場面があってね。大罪王の幹部って言うだけあって、身体能力……と言うよりも防御力がすごく高いんだ。だから悪いけどお兄さんの腕力じゃ、傷をつけることも出来ないと思うんだ」
 拓海の力では奴らにダメージを与えられないとシルフが申し訳なさそうに呟く。 シルフの発言にちょっと肩を落とすが、それも仕方がないと諦め、次の方法を考える。
「あのさ、前に魔法連携スペルコネクトについて話したじゃない? それも結局は俺のイメージ通りになるのかな?」
「それはもちろんそうなるけど……でも奴らには魔力を使った攻撃は通じないよ」
 拓海の質問に答えるシルフだが、魔法連携であっても通じないと難色を示す。
「物理攻撃なら大丈夫だけど魔法は無理。でも今の俺の力じゃ物理攻撃ではダメージを与えられない、か」
 俗に言う「詰み」の状態である。 しかし、その状況下でも拓海の思考は加速し続けた。
「出来る……かも知れない……」
 拓海がポツリと呟き、顔を上げてシルフを見つめる。
「え?」
 拓海の呟きを完全に聞き取れなかったのか、シルフが疑問の声を上げる。
「多分……だけど、出来る。いや、分からないけどやってみる価値はあると思う」
 声をもう一段階大きくしてシルフの瞳をまっすぐ見つめる。
「でも、もしそれが無駄だったらどうするの?」
「それはその時考える! それにあまり考えてる時間も無い! シャンテが押され始めてる」
 拓海の言葉を聞き、戦闘中のシャンテに視線を移すと、拓海の言う通り飛翔していた神器から速度が徐々に遅くなっていくのが分かる。 恐らく神器を操っているシャンテの魔力を食っているのだろう。
「シルフ! 元の次元に戻せ!」
 拓海の有無を言わせない迫力に、シルフが拓海の意識を別次元から元の次元に戻す。
「戻ったぁ!」
 拓海が叫ぶのと、剣が力を失って地面に落ちるのはほぼ同時だった。 剣は拓海の倒れていたすぐそばに音を立てて落下した。 その二本の剣を拓海が拾い上げ、祈る様に目を閉じてイメージを集中する。 洞窟内のオーブをかき集め、拓海が自分のイメージしたものを徐々に形成させ、
術式武装強化スペルエンハンス・アーマメント!」
 イメージした精霊術を叫び、力を二本の剣に集中させる。
「グ?」
「キ?」
「タクミ!」
 シャンテを追い詰めていたバテンとデネブが拓海を振り返り、シャンテが顔を上げて名前を呼ぶ。
「テメエら……覚悟は良いか!」
 裂帛の気合と同時に大地を蹴り、二本の剣を交差させてバテンとデネブに肉薄し、同時に交差した二本の剣を開く。それをデネブが横に跳んで躱し、バテンが左腕で防御する。
「グ! 貴様の力では俺たちに通じないグ」
 拓海の攻撃を防御したバテンが言うように、拓海の攻撃は奴らには通じない。
「バテン! 腕が!」
 それが拓海の力のみで行った物理攻撃の場合だったならの話である。 拓海の攻撃は防御したバテンの左腕を切り落としたのだ。 さらにデネブに避けられた左手で握る剣で、バテンに追い打ちをかける。
「グ!」
 地面に紫色の血液がしたたり落ち、バテンが拓海の攻撃を後方に跳んで回避する。
「グ? どういうことだ?」
「キ! 奴の力では俺たちに傷一つ負わせられないはずだキ」
 思わぬ拓海の攻撃にバテンとデネブは驚きを隠せない。バテンが切り落とされた左腕を押さえながら拓海を睨む。
「無事か?」
 拓海が油断なく二匹に視線を移したままシャンテに問いかける。
「うん! ……あれ?」
 拓海の問いかけに頷き、続けて下半身の力が抜けてその場に座り込む。
「無理するな。負担掛けてばっかりだったからな。ここは俺に任せとけ!」
 そう言うと未だ理解が出来ない、といった様子の二匹に向かって跳躍・・し、10メートルはあるだろう距離を一瞬で詰め、再び両手に握る二本の神器「コルネフォロス」と「ベテルギウス」による攻撃を開始する。
 拓海の使ったのは風と火、そして光の精霊術。それも敵に向けて使用するのではなく、自分に使用したのだ。 火の精霊術で体温を上げて細胞を活性化させることで腕力を無理矢理に上昇させ、風の精霊術により敏捷速度を上昇させる。 更に二本の神器で攻撃した場所に光の精霊術を使用してダメージを増加させる。如何に魔力を食べる敵であっても、物理的に攻撃した場所へ使えば効果があるだろうと、拓海はそう考えたのだ。 果たしてその考えは功を奏し、効果は絶大だったようである。 拓海の剣道で鍛えた技が、精霊術の補助効果でバテンとデネブを迎え撃つ。剣が肉を切り裂き、拳が壁を砕き、剣と爪が打ち合わさる音が洞窟内に響く。 精霊術師と言えども魔法使いの一人である。しかし拓海の放つ攻撃は、魔法使いというにはあまりに白兵戦に過ぎた。 もちろん精霊術による補助効果もあるが、両手に握る二本の剣を自在に操り、眼前の敵の腕、肩、腹、脚を深く、鋭く抉っていく。 拓海の攻撃は余さずバテンとデネブの体力を削り、初めは拮抗していた力の差が、徐々に開いていく。 当然拓海も無傷というわけではなく、二匹の爪に背中と肩を抉られ、腹に殴打を受けるが、火の精霊術による細胞活性化の影響で、痛みを伴う事は無かった。
「グッガアアアアァァ!」「キイイイイィィイイ!」
 拓海の双剣による斬撃がバテンの頭部を、刺突がデネブの心臓を深く抉り、バテンとデネブの断末魔の叫びが洞窟内に響き渡る。 二匹の叫びが洞窟内に溶けるように消えてから数秒、重い荷物を落としたような音が拓海の耳朶を捉える。 同時に拓海の身体が重力に従って地面に崩れ落ちる。
「タクミ!」
 シャンテが叫んで拓海に駆け寄り、上半身を抱き起す。
「はは、痛ってえぇ。さすがに格好つけ過ぎたかなぁ」
 どうやら命に別状はないようである。そのことを確認したシャンテが笑顔を浮かべて口を開く。
「本当よもう! もし死んじゃったらどうするの?」
 拓海を抱き上げてシャンテが苦言を呈すが、その瞳にはうっすらと涙が浮かんで見える。
「いや、それはゴメン。ただ、証明したかったんだよ」
 シャンテの涙に滲む瞳をまっすぐに見つめ、拓海がそう話しかける。
「証明?」
 拓海の言っていることが理解できず、シャンテが首を傾げて拓海に問いかける。
「あぁ……『シャンテ=ゼーベック』が召喚した異世界の精霊術師は、スゲー奴なんだっていう証明をしたかったんだよ」
 拓海の発言に他意はない。単純に恰好を付けたかっただけなのだろう。しかし拓海の言葉を聞いたシャンテは、その時自分の中で霧のような何かが晴れていくような感覚を自覚した。 それは今まで、「才能がない」「頑張っても無駄だ」と言われ続けてきたシャンテを解放する、まさしく「魔法」の言葉であった。
「あ……あり、ありがとう」
 嗚咽混じりに拓海に俺を言うシャンテに、拓海はどうしたら良いかわからないといった表情である。
「えっと……とりあえず、今はここから抜け出そうぜ! 学園でムサが待ってるし」
 ちょっと卑怯ではあるが、自分たちの息子(という事になっている)ムサフィを持ち出し、シャンテが完全に泣き出してしまう前に、この場を去ろうと拓海が提案する。
「うん! 歩ける?」
 そう言うと腕を引いて立ち上がらせ、心配そうな表情を向けて来る。
「あぁ。少しは体力が回復した。歩くぐらいなら問題なさそうだ」
 強がりである。しかし、こんな時ぐらいは強がっても問題はないはずだろう。二人が洞窟から脱出する為、出口に向かって歩き出そうとした時、何気なくシャンテが発言する。
「でもタクミって強いんだね? 私を攫った人もやっつけてくれたんでしょ?」
「は? さっきのバテンとデネブの事じゃなくてか?」
 この時拓海は重大なことを思い出した。気絶していながらもわずかに残った記憶。 先ほど倒したバテン=カイトスとデネブ=カイトスは何と言っていただろうか。二匹のゴブリンは確かもう一人の名前を言っていた気がする。
「え? ううん。私を攫ったのは」
 拓海の質問に答えようと口を開いたシャンテだが
「私でございます」
 二人の正面から答えはもたらされた。
「申し遅れました。私は暴食の大罪王『ムスカ』様の右腕、メンカルでございます」
 メンカルと名乗った男は、タキシードを纏ってシルクハットを被っており、まるで紳士のような外見だった。 冷たく凍った声で名乗ったメンカルは、その口を再び開いて二人にひとこと言った。
「では、死んで下さい」

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