【旧】チート能力を持った高校生の生き残りをかけた長く短い七日間

北きつね

魔物を統べる者

「カエサル殿!!リン様は?」「まだこちらに来られていない。」「そうか、例の件はうまくいきそうなのか?」「マヤ様が、サラナ殿とウーレン殿に話をしてくれている。昨日の段階で、今日の夕方に、視察に来られるという事だ。」「そうか・・・。トリスタン様は?」「何も伝えていない。」「大丈夫なのか?」「解らないが、トリスタン様に伝わると計画が露呈してしまう可能性が高い。」「確か・・・。このまま行くしかないか?」「あぁ頼む。」
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昨日の開国宣言から、各国からの反応がきはじめているらしい。情報の伝達に問題がある世界だけど、神殿の力でかなりそれらの事は解決し始めている。それらの処理をするために、執務室には顔をだす事にしている。
執務室に入ると、イリメリが書類の整理をしていた。
「イリメリだけ?」「私だけじゃ不満なの?」「そんな事はないけど、珍しいなっと思ってね」「ミルは、さっきサラナが来て連れて行ったよ。エミールも一緒に連れて行かれた。」「そう?」「それで、リンは今日は?」
今日の予定がないから、各国から来ている依頼やらの処理をしておこうかと思っていることを伝えた。ドアがノックされて、アデレードとルナとマルティンが入ってきた。
「イリメリ。フェムが探しておったぞ。」「へ?」「なんか、シュトライトがギルド支部設置で相談があると言っていたぞ」「あっそうだ、フェムが学校に行くから、シュトライトの対応をお願いされていたんだった。アデレードあとお願い。」「あぁわかった。早く行ってくれ。焦っていたぞ」
入れ替わりで、イリメリが部屋から出ていった。
「リン。兄様やミヤナック家やウォード家から、国家設立の祝が届いておる。どうする?」「どうするって?」「返礼じゃよ?するんだろう?」「もちろん。ただ、どんなものがいいのかわからないから、アデレードに任せていい?」「あぁわかった。」「倍までは行かないまでも見劣りしないようなものにしておいてね。あと、これからも祝いの品が来たら同じように返しておいてね」「わかった。それで、貰った者はどうする?」「どうしたらいい?」「目録は、あとで届けるが、本体は、裏ギルドの倉庫にそれとわかるように入れておくのがいいと思うぞ」「ん。それでお願い。」「ルナとマルティンも同じ用事なの?」「別々じゃ。妾は祝いの品の件だけじゃったが、偶然一緒になったからな。」「そうだったんだね」
マルティンが何か言いにくそうにしているのがわかったし、ルナが先に話を切り出してくれるようだ
「ハー兄様が、次の宰相になるんだけど、リンにお願いがあるって事なんだけど・・・。」「僕に、守備隊を見ろって言ってきているけど、断ったよ。そんな事は、新婚のファンにさせればいいってね。」「うん。それとは別件みたい。詳細は、この書簡を見てほしいって言っていた」
ルナが書簡を取り出してきた。トリーア王家の正式な書簡の形式になっている。封蝋もしっかりしている。ミヤナック家の家紋も入っている。問題がないのが問題だ。それに、言付けじゃなくて書簡にしたあたり断る事は難しそうだ
文章を読んでみた嫌味なくらい完璧な文章だ。
「リン。ハー兄様はなんだって?」「ローザスもウォード家も言わないだろうからって事だけど、アデレード・ルナ・マルティンの婚姻のときの手続きがあるから、しっかりやるようにって事だよ」「手続き?」「あぁぁぁそうじゃな。忘れておった。リンがトリーア家の貴族だと思っていたから考えていなかった。」「そうだね。いろいろ面倒な事になりそうだね」「どういう事?」
僕が侯爵のままなら良かったんだけど、侯爵で他国の王って事で、侯爵が実質的には名前貸しの状態になっている事もあって、他国の王様に嫁ぐ事になる。ルナとマルティンの場合には、一度実家に帰ってしばらく過ごして、リンが盛大に迎えに行けばいいのだけど、アデレードが少し事情が違ってくる。継承権を剥奪された上に降嫁するからの手続きだったが、それができなくなってしまった。一度、アデレードをトリーア王家に戻して、再度テルメン王家に嫁ぐ事にしないと辻褄が合わなくなってしまう。婚約状態のままでも同じ人物だから問題はないが、前例的には一度婚約を破棄してから婚姻を結ぶほうがいいだろうという事だ。その時にも、リンが盛大に迎えに行く。3名を同時に迎えに行くのではなく別々に盛大にするのは、それで領内にレインを落とすと云った意味がある。知らなかったが、知らなかったで済まされる事ではなかった。
「ルナ。ハーレイにお礼言っておいて!」「了解。」「お礼の書簡は出しておくよ」「うん。わかった」
アデレードとルナが室、右室から出ていった。残されたマルティンが言いにくそうにしている「マルティン気にしなくていいよ、どうしたの?」
もじもじしてかわいい。何この生き物って感じで見ていたが、そうも言っていられない。
「あのですね」「うん。母様からなんですけど・・・。」「うんうん。」「あぁそうだ!これ読んで下さい」
思い出したように、懐から紙を取り出したあんちょこにでもなっているのか、箇条書きにかかれていた。そこには・・・。
1. マルティンの弟が、ウォード家の跡継ぎになるが、マルティンとリン=フリークスを後見人にしたい。2. リン=フリークスに娘ができたときに、ウォード家に輿入れしてほしい。ただし、年齢的に難しいときには、養子縁組でもいい。3. マルティンとの子供を早く作って欲しい。
そんな事が書かれていた。そして、マルティンが行っている、ウォード家への仕送りはもう必要ないからやめなさいという事だ。
「ありがとう。大丈夫だよ。後見人は引き受けよう。それと、娘の話もできた時になるけど考えるよ。それと、マルティンとの子供は僕もほしいからね。大丈夫だよ。」「うん。ありがとう。リン兄様。あと、あと・・・あのですね。」「わかっているよ。僕から後見人としてもらうレインをウォード家に入るようにして、マルティンの分と合わせても十分な分を送ろうね」「いいの?」「いいよ。そうしたいんだろう?」「うん。母様は大丈夫って言っているけど、そんな事ないのはわかるの。」「そうだね。早く復興できるようにしないとならないからね。僕ももちろん協力するよ」「うん!」
やっぱり、マルティンは笑っている方がいい。紙を受け取って、マルティンが執務室を出ていった。
アデレードが戻ってきた。
「リン。いいのか?」「ウォード家の件?」「あぁ」「そうだね・・・。ウォード家だけを優遇しているように見えないようにしないとはならないだろうけど、大丈夫でしょ?」「あぁ跡継ぎの後見人を任せる代わりに融資を引き出したと見る貴族は居るだろうが、真似できるようなものではないからな」「そうなの?」「あぁ後見人は、教育係にもなるからな。家を好きなようにする事ができてしまうからな。そんな事貴族ができるわけ無いからな」「あぁそうか・・・それなら、次々に僕を後見人になんて事にはならないんだね。」「大丈夫だぞ」「それなら、なんの問題もないよ」
ウォード家以外でも支援を望むのなら支援する。具体的に言ってくれるのならやりやすいのだが、プライドの様な者が邪魔するのか遠回しないい方になってしまって全体的にわからなくなってしまっている。それを、アデレードやルナやイリメリが読み解いて支援を出してくれている。ここにある書類の殆どがそういった物だ。
「あぁそうだ。リン。さっき、マヤがもしリンが暇そうにしていたら、地下一階の裏ギルドに来てって言っていたぞ。」「へ?なんだろう?珍しい。」「緊急な事じゃなかったみたいだけどな。気になるようなら顔出してくればよかろう。」「そうだね。一区切り付いたら顔出してみるよ。」「あぁそうしてくれ。それじゃ妾は行くな。トリーアからの使者が引っ切り無しじゃからな。すぐに行き来出来るのも考えものじゃな。」「そうだね。まぁ使い方しだいだろう。今はまだ物珍しいから使いたがっているけど、そのうち落ち着くよ。」「そうじゃな。」「うんうん」「リン。無理するなよ。」「うん。ありがとう。」
アデレードも執務室が出ていって、僕だけになった部屋で、情報を反芻する。悪い情報はない。悪くなりような情報もなかった。いい方向に進んでいる。パーティアックの監視を強めていけば、物事をだいぶ楽に出来るようになりそうだ。向こうも偵察を送り込んでくるだろう。アドラの話しっぷりや”神託”の使い方では、僕達が転生者だって思っても、なかなか動けないだろう。自分たちで確認した過去がある。他の”リン=フリークス”だと思うかもしれないし、神託を疑ってかかるかもしれない。戦争や紛争はしないが、奴らの仲間を捕らえる事はいいだろう。殺さなければいいだけだろうからな。できれば、僕の領地やトリーア王家に入った所を捕まえたいな。何か方法を考えておく必要はありそうだな。
重要となっていた書類も全部処理済みにできたので、呼ばれている地下一階の裏ギルドに行く事にする。裏ギルドに行くのなら、隣の部屋で寝ているであろう。トリスタンも連れて行こう。久しぶりに組手をしてもいいだろう。
裏ギルドに入ると、途中でマヤに念話で連絡した。今から裏ギルドに行くけど、いい?て。了解の意思が帰ってきた。転移で飛ぶのも良かったが、せっかくだから歩いて移動した。「あるじさま。転移しないのですか?」「トリスタンは転移の方がいい?」「う~ん。あるじさまといっしょだからどっちでもいい。」「そうか、それなら今日は歩いていこう。」「うん。」
すれ違う女中や文官達が僕とトリスタンに気がつくと手を止めて、一礼してくる。最初の頃は辞めさせてたが一向に辞める気配もなかったし、どんどん礼の角度が深くなってくるので、もう任せる事にしている。シュトライトには、別に無礼とか思わないから気にしなくていいとだけは伝えてある。
地下一階に入って、ギルドが入っている建物に向かった。表から入ると、サラナとウーレンが立っていた。
「マヤ。リン君が来たよ。」
「リン。遅かったね。転移で来ると思っていたんだけど・・・。」「いや、急ぎじゃないって言っていたし、トリスタンと散歩しながら来たんだよ」「そう・・・こっちに来て・・・。」「なに?」
"僕が知らないドア”が作られていた。
ドアを開けて仲に入ると、そこには転移の魔法陣が作られていた。そして、マヤがいきなり、僕の腕を取って、魔法陣の真ん中に連れて行った
「なっマヤ。」
転移された場所は、僕は見覚えがなかった。「マヤここは?」「ん。いいから、こっちこっち」
僕の腕を引っ張るようにどんどん進んでいく。何かの建物のようだが、こんな壁は僕は作った記憶はないし、知らない様式だ。
ドアがあってそれを開けて出ると、そこは小高い丘の上だ。四方を山脈に囲まれるような状態になっているようだ。その中央に大きな城が立っている。どうもそこを目指しているようだ。
「マヤ。わかったから、引っ張らないでよ。あの城は?」「”魔物を統べる者の居城”だよ。やっと見つけたんだよ。」「見つけた?」「そ、僕が探していたのは、あの城なんだよ。」「そもそも、ここどこ?」「う~ん。イリメリが言うには、マノーラ神殿の真裏とか言っていた。」
どうりで暗いわけだ。ん?そういう事は、球体なんだな。
「そもそも、あの城はどうしたの?」「ん?だから、”魔物を統べる者の居城”だよ。」「だから、誰が居るの?しっかり挨拶しないとダメなんでしょ?ニンフなの?それとも、もっと違う者?魔王とか?」「え?リン?本気で言っているの?」「本気も本気だよ」
マヤが立ち止まって僕の顔をまじまじとみてから、深く息を吐いた。
「トリスタン。リンはどういう人?」「ん?あるじさま?僕のあるじでだんなさんで大切な人で、魔物の王様!!」「あぁぁぁぁぁ僕の事?」
マヤが肯定する。
「リン。表のリン=フリークスの居城は、マノーラ神殿の屋敷でいいけど、魔物達の象徴であるリンも存在するんだからね。」「・・・・ゴメン。」「いいよ。私達ニンフやトリスタンは、リンの裏側を支える。その時に、居城がないと問題でしょ?」「そう・・・なの?」「そうなの!!」「わかった、ゆっくり教えてくれるんでしょ。」「もちろん。」「それならいい。」「あそこで、みんな待っているんだろう?地下一階が静かだったからおかしいなとは思っていたんだよ。」「うん」
マヤに連れられて、城に入る。僕が入った事で息が吹き込まれたかのように、動き出す。入り口から徐々に、光が差し込むように、そして、光と一緒に眷属たちの歓声が響き始める。
そのまままっすぐに玉座にまで伸びている。その片側には、カエサル/ヒューマ/バイエルン/ファントム/レオパルト/レイア/レウス/ワク/ラジャ/ボレアス/アグラオ/カウラ/リアン/シャラト、そして反対側にロルフを先頭に各神殿のニンフ達が並んでいる。マヤが僕を玉座の方にエスコートして、徐々に大きくなる歓声。僕が玉座の前に着いた時には、もう声だけで建物が揺れているような錯覚にもなっていた。
そして、僕はマヤに施されるまま、玉座においてあった王冠を頭にのせ杖を構えた。その瞬間に、眷属の声が一斉に止まった。
『我らが偉大なる主に忠誠を、この身が朽ち果てようとも、我らは"リン=フリークス”様と”魔物を統べる者”と共に!』
眷属が”共に”と一斉唱和して、跪いた。トリスタンもびっくりした雰囲気から、僕とトリスタンだけは聞かされていなかったようだ。
「リン。これで、魔物の主人となったんだよ。」「え?」「魔物?眷属だけじゃなくて?」「うん。知恵ある魔物はヒト族から離れて集落や国の様な物を作っているんだよ。そこからも、随時魔物が謁見に来るようになるよ」「えぇぇぇ」「大丈夫。こっちは、私とニンフで挨拶を受けて、リンに出て欲しい時だけ依頼するよ」「うん。それなら、テルメン王家の仕事もあるからね。誰かに両方の調整してもらわないとダメかな。」「うんうん。こっちはそんなにないと思うけど、何か考えておいてくれると嬉しいよ。」「了解。」
何のことはない。”魔物を統べる者”は自分自身だった。大事になったなとは思うけど嫌な気分ではない。まぁなんとかなるだろうし、なるようにしかならんだろうな

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